「久しぶりに外に出れるんだ…。」
「もう自由なのか…?」
シャリアの後に続いて歩いている数人がふらつきながらも力強く地下道を進んでいる。
・・・アルもそうだけど、みんなずっと人質として生活していたから…、でもこれからは彼らも自由になるのね。・・・
先頭を歩くシャリアは時々振り返って彼らが付いてこれているか注意していた。
彼らは衰弱気味ではあるが大切な人に1秒でも早く会いたいという思いがその足を前に進ませていた。
「みんな、あと少しで私達の仲間がいる場所に………」
シャリアの言葉を遮るように地響きと何かが崩れる音が聞こえた。
「なんだ!?今のは…地震!?」
「ここも崩れちゃうんじゃないのか!?」
突然の事態に一団は軽いパニックになっていた。
「みんな!落ち着いて!大丈夫だから、あと少しなので進みましょう。」
いち早く冷静さを取り戻したシャリアがなんとか場を治めて再び進み出した。
・・・今の衝撃は……、あの2人は大丈夫かしら…。・・・
シャリアは不安を胸に抱きながらも勇輝とカナを信じて歩く。
「そういえば、あなたはなぜケーネ王女を誘拐したんですか?2年間もそのままというのも引っかかります。」
勇輝はマスターの両手を縛っている縄を引っ張りながら歩いている途中に振り返って尋ねた。
「別に大した理由はないさ…政争や獣人の国との交渉で上手く利用できないかと考えたのだが、いい使い所が無くてな。」
マスターは諦めの表情を浮かべながら自嘲するように話した。
「そんな目的で…!あなたは最低な人です!」
勇輝の横を歩いていたカナが怒りを露わにしてマスターに詰め寄ろうとする。
「カナさん、よしましょう。この人は然るべきところで裁かれます。」
勇輝が手を伸ばして制止させる。
「勇輝さん…でも……、分かりました。」
カナは少し納得いかないようだったが引き下がってくれた。
・・・ああは言ったものの僕だってコイツは気に入らなくて仕方がない。…けど、僕らが私的に何かをやっても虚しいだけだ。カナさんにそんなことをさせるなんてもってのほかだ。コイツは罪を償わなければならない。・・・
「それから…先日獣人の国の使節の野営地に刺客を送りましたね?目的を話してください。」
勇輝が再び尋問する。
「グレアムが俺の元にいるはずのケーネ王女にこっぴどく言い負かされたと聞いてな。そいつの正体を探ると同時に交渉を頓挫させようと思ったのさ。失敗しても、プライドを傷つけられたグレアムが仕返しに放ったということにすればサビーナ家の失脚も狙えるしな。まさか、ここまで辿られるとは思ってもみなかったよ。」
応急処置された足を引きずらながら次々と話をする。
・・・やけにペラペラ話すなコイツ…。シャリアさんの襲撃はそういうことだったのか、失敗しても政争の駒にされる予定だったとはな…。つくづく外道なヤツ。・・・
「そうですか。では教えてあげます。この人がケーネ王女としてグレアム王子と交渉した方ですよ。」
勇輝がカナを指差しながらマスターにあからさまに話した。
「ほぅ、えらく似てると思ったが、やっぱり影武者か…。獣人の国もなかなか策を講じているようだな。」
マスターはそこまで驚くような様子を見せずにカナを一瞥して歩き始める。
薄暗い地下道の先にあの時シャリアたちと別れた分岐点の空間が見えてきた。
そしてさらに近づくと勇輝は複数人の人間がいることに気づいた。
人がいることに気づいた勇輝はすぐに魔力レーダーを使用したが、地下道という狭い空間で広域展開すると、戻ってくる魔力がごちゃごちゃで少し気分が悪くなった。
なんとか周りにはバレないように抑えたが、流石にキツかったので異次元から水を少しだけ取り出して飲んだ。
「勇輝さん?喉が渇いたんですか?」
急に水を取り出して少しだけ飲んでまたすぐに収納した勇輝にカナが不思議そうに聞いてきた。
「あ…ああ、ちょっとだけ水が飲みたくなったんですよ。カナさんは大丈夫ですか?」
「いえ、大丈夫です。あれ?なんか物音がしますね。……っ!シャリアさんたちと別れたところに何人かいるようです!」
誤魔化すようにカナに聞き返したが、断られた。その直後に前を向いたカナが耳をピンと立てて気配を察知した。
「ええ、どうやらそのようですね。敵か、味方か……。」
勇輝はさっきと同じ失敗をしないように前方だけに絞った指向性レーダーを出力低めで使用した。
まだ乱反射か何かで違和感があるがある程度様子はわかった。
「カナさん、判りました。数は10人くらい……これは…シャリアさんもいますね。」
ちょっと出てきた吐き気を堪えてカナに報告する。
「良かった…。味方でしたね。勇輝さん、先を急ぎましょう!」
「そうですね。」
・・・おかしい、レーダーの反応にはレイルさんがいない…。レーダーの出力が低いからか?何もないといいんだが……。・・・
勇輝は若干の不安を抱きながらも進んだ。
「勇輝さん!あれっ!シャリアさんですよ!」
「向こうもなんとかなったみたいですね。」
ある程度人が判別できる距離まで近づくとカナが早速シャリアの姿を見つけた。
「なっ……、アイツは…裏切ったのか…。」
マスターもシャリアの姿を見て状況を理解したようで、驚いていた。
「なかなか手強かったですよ、彼女は…。あそこにいるということは人質もなんとかできたということですね。一応、彼女を止めますけど多少は痛い目にあわされるかもしれないですね。」
勇輝がそう言うとマスターの顔が青くなった。
それだけのことをしてきたのだから報復を恐れるのは当然だ。
そのまま数分歩き続けてやっとシャリアたちと合流した。
「シャリアさん、早かったですね。……彼らが人質ですか。随分と弱ってますね。」
「ええ、でも彼らはここまで歩けただけまだマシよ。奥には残り半分くらいは残ってる。」
勇輝とシャリアが言葉を交わす。
「シャリアさん、レイルさんはどうしたんですか?」
カナが勇輝の後ろから出てきて質問した。
「ああ、彼は…動けなかった人たちと一緒に残ってる。………ちょっと怪我をしてるけど、無事よ。アルも…王女も無事。」
途中で少し間が空いたがシャリアが状況を教えてくれた。
「そうでしたか。安心しました。これからどうするんですか?」
「私の仲間に彼らを見せてもう自由になったということを教えてあげないと…。それから………マスターは…」
シャリアがそう言っている時に勇輝とカナが魔法で出した氷が砕かれた。
「ーっ!カナさん!下がって!」
勇輝が氷の近くにいたカナを引っ張ってシャリアたちの方に寄る。
大小の氷の破片の散らばる奥には20人ばかりの男女が短剣や弓、ヤリといった様々な武器を持って構えていた。
彼らは闘志を燃やしているが、シャリア同様に殆どがかなり若かった。
先頭に立っている杖を持った少女が魔法で氷を破壊したようだ。
一触即発の場にシャリアが進み出て彼らと向き合った。
「みんな!もういいのよ!私たちはもう…マスターに従わなくていいの!」
「何を言っているんだ、俺たちには人質が…」
後ろにいる男が諦めの感情を交えて呟いているのをシャリアが遮る。
「人質も解放したわ。これでもう心残りはないでしょ!」
シャリアはそう言って後ろにいる解放した人質たちを指差した。
「あ…あれは……!」「あの子は!」
集団がざわつき始めて動揺している。
・・・あとはもう1つの確固たる証明だな。彼らが全員来たら守りきれる自信はないけど、やるか。・・・
「皆さん!こっちを見てください!これが誰かわかりますか?」
勇輝が注目を集めて縄を強く引っ張るとマスターがバランスを崩して勇輝の前に転んだ。
「あなた達の大切な人を酷い目に遭わせた張本人です。つまり、あなた達を縛り付ける人質もいなければ命令をするマスターももういないんです。武器を収めてください。私たちは助けに来たのです。」
マスターの顔がわかるように少し強引にマスターを引っ張り上げて彼らに見せる。
「ほら、言ったでしょ。あなた達はもう戦わなくていいのよ。」
シャリアが勇輝の横に立ち、そう言うと彼らは武器を握っていた手を解いて武器を落とした。
「兄ちゃん!」
見たところ7歳かそこらの男の子が集団の前にいた少年に駆け寄っていった。
「お前っ……大丈夫だったか…?」
「うん!あの人たちが出してくれたんだよ!」
「そうか…良かった…良かったなぁ……。」
少年は目に涙を浮かべながら男の子の頭を撫でた。
・・・やっぱりこうでなくちゃな。・・・
勇輝がさらに前に進み出て、ざわついている集団に声を上げる。
「ここにいない人たちもみんな無事です!マスターはもう、あなたたちに命令することはできません。なんなら今すぐに迎えに行ってあげてみてはどうでしょうか。さあ、まずは再開と自由な喜びを分かち合ってください。」
勇輝がそう言い終えると何人かが、解放された人たちの中に飛び込んで各々の家族や大切な人と抱き合った。
それを見た残りの者も次々と自分の愛する人を探しにやって来た。
「とりあえずは一件落着ですかね。」
再開と自由を喜ぶ声や大切な人を探す声に溢れている中勇輝がシャリアとカナに向けて肩の力が抜けたように呟く。
「ええ、でもこれだけの人がいっぺんに外に出ても、どうやって暮らしていけばいいのか…。」
シャリアは少し下を向いて不安そうに言った。
・・・確かに、今までマスターに従わされる生活しか知らない人が多いし、何より人質だった人はかなり弱っている。さて、どうしたもんかなぁ……。・・・
勇輝が黙って考え込んでいるところにカナが2人の間に入って来た。
「あの……それならノースさんに頼んでノシヨで暮らせるようにしてあげるのはどうですか?」
カナの発言に勇輝とシャリアは一瞬固まったがすぐに思考を回復させて提案の内容を理解した。
「そんなことできるの?」
「確かに…ノシヨとしてもケーネ王女が戻ってくるところに一緒に行かせたらいいかも……、というかケーネ王女に頼んだら早くないですか?」
勇輝が自分の発言で王女の存在を思い出して提案する。
「そんなこと引き受けてくれるかしら…。」
シャリアはまだ、心配なようだ。
「とにかく頼むだけでもやってみましょう。それではレイルさんと王女様のところに行きましょう!」
3人は地下牢の方向へと向かおうとした時に勇輝が持っている縄のことを思い出した。
「忘れてた…、あなたはどうしますか?…といってもここで1人になったら多分皆に無茶苦茶にされると思いますけど。」
半ば放心気味のマスターに勇輝が面倒そうに声をかける。
「頼む…付いて行かせてくれ…。」
マスターはか細く、今にも消えそうな声だ懇願する。
「仕方ないですね。じゃあシャリアさん、これお任せします。」
「わかったわ。」
勇輝はマスターにつないでいる縄をシャリアに手渡した。
「ヒイッ!」
縄を受け取ったシャリアがマスターを見て少し微笑むとマスターは怯え出した。
・・・まあ、僕も見てるから大したことはしないだろうけど、今のは結構怖かったな。・・・
そうして勇輝とカナ、シャリアに加えて血の気が完全に引いたマスターは地下牢への道を進んで行った。