人質の解放も無事に終わってシャリアと合流できた勇輝とカナはマスターを引っ張っりながら地下牢に向かっていた。
「本当にレイルさんは大丈夫なんですか?」
「ええ、腕に矢を受けたけど応急処置も自分でやってたわ。」
あまりに道中が暇なので勇輝は合流した時と同じような質問をした。
シャリアが持っている縄に繋がれているマスターは終始だんまりを決め込んでいる。
恐らくは極力目立たないようにしているのだろう。
「そういえばシャリアさんはこの後はどうするんですか?」
カナが突然口を開いた。
「……そうね、特に考えてないわ。アルの面倒も見ないといけないし…ノースや王女の慈悲を願うしかないわね。」
シャリアは少し考え込んでからそう答えた。
「なら、私達と一緒に旅をしませんか?私達もあてがあるわけではないですし、何よりきっと楽しいですよ!」
「えっ!?……でも…私には…」
シャリアはいきなりの提案に言葉を詰まらせていたが、勇輝が割って入った。
「カナさん、残念ですけどそれは難しいです。」
「えっ、どうしてですか?」
カナが意外そうに尋ねる。
「彼女の弟はまだ幼いですし、私達の旅に付いて行くことは厳しいでしょう。」
「でも…シャリアさんだっていますし…」
「一番は……守りきれる自信がありません。今回の件でよく分かりました。今までなんとかやってこれましたけど、私は…弱い。」
カナの言葉を遮ってそう言い放つと勇輝は俯いた。
「そんな…そんなことないですよ!だって…私を十分守ってくれたじゃないですか!」
カナが声をあげて勇輝の言葉を否定してくれているが、勇輝にはそれが余計に辛かった。
「なんかあったの?地下に入る前とはちょっと違うようだけど。」
シャリアがなだめるように声のトーンを和らげて聞いてきた。
「私達がマスターと対峙した時、私は青髪の青年と戦いました。」
「それって……!まさかアイツがいたなんて…。」
シャリアが驚きの声を上げた。
「シャリアさん、ご存知なんですか?」
「私達の中で一番の強者よ。年長者でもあったからいろいろと世話にもなったわ。そいつと戦ったのね…。」
「はい、最初は剣で戦って圧倒されました。そのあと銃に切り替えてなんとか勝ちました。でも、今考えてみたら、私が銃に切り替える余裕も与えずに倒せていたはずなんですよ。」
「手加減か……アイツがやりそうなことね。」
「私はそのおかげで今ここにいます。彼だって…大事な人がいたはずなのに。そして、初めて…人を……」
ー殺したー その言葉を言うことができなかった。
「勇輝さん…。」
「そうだったのね…。私はもう初めてのことはいつだったか忘れてしまった。けど、彼らのことは全て覚えているわ。……マスターの政敵やその護衛、最後にどんな顔をして何を言っていたか…。」
シャリアの眼は真剣そのものだった。
多くの人を手に掛けてきたからこそその言葉には不思議な重みがあった。
「そして、その度に誓うの…この人が生きるはずだった分まで生きてやるって。幸せになってやるって。間違っているかもしれない…でも決して彼らを殺して良かったとは思っていない!」
最後に語気を強めて言い放ったシャリアは息を吸って落ち着くと、勇輝に優しい目を向けた。
その目は先程とは打って変わって慈しみがこもっている。
「だから、あなたも自分のした事を否定しないで。でないと彼の思いも無かったことになってしまう。あなたはあなたの正義を貫いただけ。」
その声はいつものように少しトゲのあるようなものではなく、優しいものだった。
・・・全く、年下2人に慰められるとか防大のみんなが知ったら笑い者だな。何やってるんだか……でも、人を殺すことを何にも気に留めないなんて防大どころか自衛隊でもそうそう無理だろうな。……ミサイルとかならともかく直接自分の手でやるのだから。なら…少しは頼ってもいいのかな?少なくともシャリアさんは年下だけど経験は僕よりも圧倒的に上だ。・・・
「そうですね、少しは落ち着きました。ありがとうございます。でも、やっぱり一緒に旅をするのは私がもっと強くならないとだめですね。」
少し気分が晴れた勇輝とその一行は地下牢への道を進む。
「けっこう適当に掘られてますね。マスターのところとは違って。」
勇輝が地下牢に近づくにつれて雑な造りになっていくトンネルを見回しながら呟いた。
「レイルも同じこと言ってたわ。まあその程度の扱いってことよ。"だれかさん"にとってはね?」
シャリアが少しドスをきかせて後ろを向くとマスターがビクッと震えた。
・・・見ててなかなか滑稽だな。僕らにとっては短い時間しか見ていないけどシャリアさんたちにとっては積年の怨みがあるから笑い事ではないかな。・・・
そしてついに地下牢に到着した。
扉を開けると開け放たれた檻が並んでいる光景が広がっていた。
「よお、あんたらも無事に終わったみたいだな。大きな揺れがあったから心配したぞ。おっ?その真っ青の奴がマスターか?……って、やっぱりコイツはカイゼル公じゃねーか!」
レイルが左腕を押さえながらやって来てマスターを見ると驚愕した。
「やっぱりそうでしたか。となると政治的にもちょっと面倒ですかね?」
「いや、これだけの事をしでかしてたんだ。証拠もたんまりあるし、言い逃れもできんだろう。獣人の国との外交問題もあるしな。」
やれやれと呆れているレイルの言葉を聞いて勇輝がレイルに声をかける。
「あの、ケーネ王女と話がしたいのですが。」
「ああ、分かった。こっちだ。」
なんか案内されているようだが、道は一本しかないので案内の体をなしていないと心の中でツッコミながら奥へと進んだ。
すると人質だったと思しき小さな子供達に囲まれている獣人の女性がいた。
「本当に…そっくりだ…。」
心の中でもそう思い、口から飛び出した勇輝の言葉にその女性は気づいてこちらを向いた。
「王女様、こちらは今回の件で協力してくれた方々です。」
レイルがいつのまにか王女の側について紹介をしていた。
「あら、そうだったのね。私がケーネ第二王女、国王ゾディアス・エルンの次女、です。今はこんな格好で申し訳ありません。」
子供達に囲まれたまま、王女が立ち上がると名乗った。
「そんなことありません、お会いできて光栄です。私は冒険者をしている永遠勇輝というものです。こちらは…」
「同じく冒険者のカナです!」
勇輝が跪きながら自己紹介をしてカナの方も紹介しようとしたらカナがいきなり前に出て名乗った。
「ちょっと!カナさん!」
「構いませんよ。大して気にしませんから。それより…あなたが私の影武者さん?」
勇輝が慌てて止めようとするが王女が許した。
「は、はい!畏れ多くも私が影武者を勤めさせていただいております。」
カナが緊張からなのか上ずった声で答えた。
「確かにこれなら分からないわね。こんな偶然があるなんてね。」
「2人並んで見ると本当にどっちが本物か簡単には見分けられそうにないな。」
王女とレイルが気楽に話しているのを見て勇輝も口を開いた。
「あの!実はケーネ王女にお願い事があるんです!」
「あら、どうしたんですか?」
「今回の件で解放された人質とマスターの命令に従わされていた人達をノシヨで預かっていただけませんか?」
「なっ!?マジか?」
勇輝の発言にレイルが驚くが、ケーネ王女は黙って俯きながら考えていた。
「そうですか。私も彼らとここで過ごしました。できるのならば支援はしてあげたいです。しかし、私は2年も国を離れていましたので…。父上に頼んではみますが、完全な保証はできない事を承知してください。」
「もちろんです!お心遣い感謝します。」
勇輝が頭を下げるとケーネ王女は、ニッコリと微笑んでいた。
「大丈夫ですよ。父上は私のおねだりには甘かったですから。」
・・・あれ?案外大したことなさそう。なんか僕だけ必死になってた感じか?まあ、いいや。・・・
「そういえば、カナさんでしたね?」
「はい!」
「ちょっと頼みがあるのだけどいいかしら?」
「はい、お構いなく。」
王女がカナの方を向いて呼びかける。
「ああ、そんなにかしこまらなくていいわよ。あなたにはここの人たちも手当てをしてほしいの。ここには衰弱とかであまり動けない人もいるから回復魔法で少しでも治してあげて。」
「わかりました!全力で頑張ります!」
カナは二つ返事で了承すると張り切って治療に乗り出した。
その後はしばらく皆で雑談やらをしていたが、思ったよりカナの練度が上がっていたようで予想より早く終わったので、全員を引き連れて外へと向かった。
狭い階段を長い列を作って登って行くと太陽の光が差し込んできた。
後ろの人達が感嘆の声を上げている。
・・・もうすぐだ、いろいろあったがもう少しで終わりだな。・・・
そう思いながら入り口をくぐり抜ける。
すると目の前に見慣れた人影があった。
「あれ?ノースさん、どうしてこんな所に?」
「それはこちらの台詞と言わせてもらいますよ。貴族の居住エリアで何をしていたんですか?」
ノースは数人の兵士とともに変装をして勇輝らを待ち構えていた。
勇輝はともかくシャリアを見られたらまずい。
「おい、どうしたんだ?後ろがつっかえてるぞ……ノースッ!?お前がなんでここにっ?」
後ろの人をかき分けてレイルが出てくるとすぐにノースと鉢合わせて勇輝とほとんど同じ反応をした。
「はあ、レイルまで…どういうことか説明してくださいよ。」
ノースがため息をついてジリジリと詰め寄る。
「ちょっと、あんた達さっさと退きなさいよ。……あっ…。」
固まっているレイルの後ろからさらにシャリアが出てきて彼女も状況を理解したがすでに手遅れだった。
勇輝は大きくため息をつき、レイルは額に手を当てている。
「お前っ!脱走したはずなのに…なんでレイル達と一緒にいる!」
兵士たちがシャリアに隠し持っていた短剣を抜いて構える。
「くっ…。」
シャリアは武器はとらないが身構えていた。
「レイルさん、どうかしたんですか?後ろがつかえていますよ。」
なんとさらに後ろからケーネ王女まで出てきた。
ノース達を除いて全員がフリーズした。
「カナさん!どうしてレイル達がこの女と一緒にいるんですかっ!?教えてください!」
「はい?私はこっちですよ。」
ノースがあろうかとかケーネ王女に向かって問いかけたら勇輝の後ろにいたカナがひょっこり出てきた。
「えっ?カナさんが…2人……?」
ノースが混乱しだした所にケーネ王女が口を開いた。
「私はケーネ第二王女です。あなたはノシヨの家臣ですね。お話をしましょうか。」
「ええぇぇーーっ!!」
ノースがおかしな声で叫び、兵士は動揺してキョロキョロしていた。
勇輝とレイルはやっちゃったなと天を仰いだ。
兵士1「えっ?ケーネ第二王女ってマジ?」
兵士2「ノースさん聞いたことない声出してるけど、やばくない?」
兵士3「下手したらオレたちの方が逆賊になるんじゃ…」
「「ヤバイ……」」