士官候補生の異世界漂流   作:サイレントグラス

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お久しぶりです。またまたかなり間が空きましたが、とりあえずこれとちょっとした短編で今年最後の投稿とするつもりです。
今回はちょっとボリューミーです。(中身があるとは言っていない)
次の章にそろそろ進めないとグダるのでちょっと早足になりますが、引き続きよろしくお願いします。


喧騒の合間に

ノースたちが交渉に赴いてからは野営地も少し落ち着いていた。

警備のため兵士が交代で巡回などをしているが、保護された者たちも大人しくしているため、平和そのものであった。

「今回もまた慌ただしかったですね。結局アトライアの街ではギルドに寄った以外はゆっくりできませんでしたし……。」

勇輝がため息混じりに隣にいるカナに語りかける。

「そうでしたね、宿を取るはずがなんだかんだでみんな野営地に泊まる羽目になっちゃいました。……そうだっ!それなら今からちょっと街に行きませんか?」

カナが手を合わせて元気な声で提案してきた。

「うーん…大丈夫ですかね……、私たちだけいいんでしょうか?」

勇輝は今交渉に臨んでいるノースやここを警備していたり、保護した者の面倒を見ている兵士たちに申し訳なく感じていた。

「やっぱり申し訳ないですよ。私たちも何か手伝えることを……」

「行って来いよ!せっかく嬢ちゃんが誘ってるんだぜ!」

「えっ!?れ…レイルさん!?脅かさないでくださいよ。」

提案を断って何か協力をしようと言っている途中にいきなり背後から背中を強く叩かれて勇輝は前に大きくよろけた。

その声と慌てて振り向いて見た顔で相手がレイルだと分かって肩の力を抜く。

「悪い悪い、ちょいと聞いてたけどいらん遠慮をしていたもんだからな。アンタらも十分頑張ったよ。こっちは大丈夫だから遠慮せずに楽しんでこい!カナもけっこう窮屈だったろう?もっと甘えとけ。」

「うぅ……///」

レイルの言葉にカナは下を向いて顔を赤く染めた。

レイルはそれを見てさらにニヤけると踵を返して怪我をしていない手を振りながら歩いて行った。

「ああまで言ってもらっては断れませんね。そ…それじゃあ、行きますか。」

「は…はいっ!」

バツが悪そうに頭をかきながら勇輝がカナに顔を向けて話すとカナも顔を上げて少し上ずった声で返事をした。

そして2人は野営地を後にして街へと出かけて行った。

 

 

もう何度も見た豪華な部屋、何度も合わせたしかめっ面……ノースたち交渉団はアトライア城内の会議室で交渉のテーブルについていた。

しかし、今回は以前よりも自信と余裕のオーラを滲ませている。

対するアトライア側は「また来たのか、ご苦労なことで」と言いたげな顔を向けて座っている。

「それで、今回はどうしたんですか?開戦はあくまでも第一王子の指示ですからどうしようもないですよ。」

外交官(アトライア)がため息を吐き、呆れ顔を向けて口を開いた。

「いえ、今回はまず抗議したいことがありまして……。」

「おや……抗議とおっしゃいましたか?いったい何のことですか?」

ノースが落ち着いて切り出すと外交官は不思議そうな顔をして反応した。

「単刀直入に申しますと、先日そちらからの刺客に私達の野営地が襲撃を受けました。目的は第ニ王女、そして我々だったようですね。」

「なっ……なんだって…?どうしてそうだと言い切れるんだ!?」

外交官の表情が一変し、ノースに言葉を返すとともに部下と思われる人に何かを耳打ちすると彼は足早に部屋から出て行った。

「詳細をお話しさせていただくと、深夜に我々の野営地に刺客が侵入しました。その者は我々の方で捕縛しましたが、自供によりアトライア側によるものだと判明しました。」

「馬鹿な!そんなことがっ!………知らないぞ…。」

外交官がテーブルを叩いて小さく呟いていると外交官の部下が走って戻って来て外交官に耳打ちで話した。

「今確認をしたが、そのような事実はないとのことだ。ただの夜盗のでまかせだったのではないのか?」

部下の情報を聞いて顔の汗を拭い少し落ち着きを取り戻した外交官はノースに再び言葉を投げかける。

「おや、そうですか。おかしいですね、その刺客を送り込んだのはそちらの重臣だった筈なのですが、把握されてないのですか?」

ノースは緊張を表に出さないように口角を少し上げて新たな揺さぶりをかける。

「なんだとっ!?一体何の根拠があってそのようなことを言うのだ!」

ノースの客観的に見て煽りに近い言葉を受けて外交官は語気を強めて言い放つ。

「そうですか…本当にご存知なかったんですね。ではお教えします。今回、刺客を送り込んだのは………カイゼル公です!」

「か…カイゼル公っ!!……だと…。」

ノースの言葉に外交官は驚愕の表情を見せてしばらく固まっていた。

それに反比例するように汗が流れ落ちている。

「刺客が自供した情報からカイゼル公の指示によるものだと断定し、さらなる襲撃を未然に防ぐため調査をしたところ彼の私兵と戦闘になりましたが……、その結果カイゼル公を拘束することになりました。……なお彼はあっさり自供しておりこの件は明確な国際問題と捉えることができます。……たとえカイゼル公の独断によるものだとしても。」

さらに詳細を話すと外交官の顔はみるみる青ざめてきた。

「こ、この件は我々の立場では判断が困難なため……第一王子をお招きする…。」

やっと口を開いた外交官は交渉する者として降伏にも等しい判断を下した。

「そうでしたか、それではお待ちしていますね。」

ノースは余裕たっぷりに答えると外交官が部屋を出ていくのを見送った。

 

 

しばらく待つと外交官がまたやって来た。

「もうすぐ第一王子が入られる。くれぐれも失礼のないように。私にとったような態度は絶対にしないでくれ。」

「判りましたよ、さっきは申し訳ありませんでした。」

先程の交渉の時と打って変わり、必死な様子で懇願して来た外交官にノースはあっけに取られて不憫に思い謝った。

その後外交官が退出して会議室に分厚いマントを羽織って気怠そうに入ってきたグレアム第一王子をノースがジト目で睨む。

グレアムが入ってきた際立ち上がったノース達はグレアムが座った後に席に着いた。

「さて、どうやら大事になっているようだが、カイゼルのやつがなんだって?」

グレアムはどこか他人事のように尋ねてきたが、カイゼル公に対する言い方に敵意に近いものがあったのをノースは見逃さなかった。

「ええ、先日我々に刺客を送り込んで襲撃を行ったのですが、その後紆余曲折あってカイゼル公を拘束することとなりました。」

外交官の話を大して聞いていなかったようだったのでノースはもう一度説明した。

「ふーん、いい気味だな。」

「この事はご存知でしたか?また、関与はありましたか?」

「知らん、どうせアイツが勝手にやった事だろう。」

相変わらずの態度であったが、嘘でなければグレアムが知らないという事はカイゼル公の完全な独断によるものという事になる。

「判りました。しかし、カイゼル公の独自の行動だとしてもそちらの重臣である方がそのような事をしたというのは大きな問題となります。もちろん最終的には陛下にもその責任が発生します。」

「あっ?なんだと?どうしてそうなるんだ!」

ノースの話を頬杖をついて聞いていたグレアムは突然怒りを露わに語気を強めた。

「たとえ、彼の独断でも家臣の起こした事の責任は国家元首にも及びます。今は陛下がこの国の代表なのでしょう?決して他人事では無いのです!」

ノースも一歩も引かないため部屋の中の空気が張り詰めている。

「しかし……、この問題をなかった事にする方法もございます。」

「ほう、言ってみろ。」

対抗姿勢から急に口調を和らげ、新たな方法を提示する。

「陛下が一言、開戦を取り止めると言っていただけたら我々もこの件はなかった事に致します。それなら全てが丸く収まります。」

「なっ……だが…、他は無いのか?」

「ええ、我々はどうしても戦争を避けたいのです。そちらも少なくない被害を被りますよ。それでも、引かないとおっしゃるのならこの件を公表して問題にすることも辞さないですよ。そうしたら現体制への反対派も生まれることでしょう。それは良くないと思いますが、いかがでしょうか。」

ここぞとばかりにノースは畳み掛けてグレアムを追い詰める。

あくまでグレアムは交渉スキルをはじめとする政治手腕は未熟であるからこそノースは有利に運んでいる。

交渉相手がグレアムになった時点で勝ちは決まったようなものだったのだ。

「クソッ!なんなんだよ!イラつくなぁ!」

グレアムが机をバンバン叩きながら悪態をつくのをノースは表情一つ変えず見つめている。

「陛下、まだ話には続きがあります。きっと陛下にも良いものとないますよ。」

ノースはしっかりとグレアムの目を捉えて自分のペースに引き込む。

「開戦を中止していただけたら今回拘束したカイゼル公をそちらに引き渡します。そのあとはご自由にどうぞ。確かカイゼル公はサビーナ家とは政敵なんですよね。今回の全ての責任を彼に押し付けて失脚させればかなり国内の地盤固めができるのでは?襲撃以外にも彼の悪事を握っていますよ。」

「それは本当か!?それは良い案ではないか!」

ノースの提案にグレアムは思い切り食い付き、あまりの勢いの良さにノースは思わずニヤリと笑った。

「それでしたら中止していただけますか?」

「ああ!もちろんだ。」

グレアムは二つ返事で開戦の中止を決定した。

「それでは今回の事件は全てカイゼル公の独断によるもので、それをグレアム王子が見事に阻止した………ということでよろしいですね。」

ノースはわざとらしく悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

「ああ……そうだな。カイゼルをオレが成敗した。」

グレアムは最初に不思議そうな顔をしたが、その意味を理解するとワルい顔をしてつぶやいた。

「それでは今後は是非獣人の国とも友好に。」

「いいだろう……だが、ケーネ王女は諦めないぞ!」

ノースがスッと立ち上がって手を出すとグレアムもまた立ち上がってノースの手を握った。

それを見てノースの後ろにいた交渉団はガッツポーズをしたりそれぞれの嬉しさを表現していた。

「獣人にもなかなか面白いやつもいるもんだな。」

「有難いお言葉です。これから一旦戻ってカイゼル公を引き渡しますので準備をお願いします。」

「いいだろう。……おいっ!だれか来い!」

グレアムが家来を呼んで指示を送るのを見届けて、交渉団は部屋を後にした。

 

 

「いやー、楽しかったですね。」

「はい!耳と尻尾を隠さないといけないのは面倒でしたけど、それ以外は良かったです。」

勇輝とカナは短い時間だったが、アトライアの街を散策し、既に街を出て野営地に向け帰路に着いていた。

勇輝は新たに食料の備蓄と前回必要だと感じた枕を確保していた。

・・・よし、これくらい用意しておけばいいだろう。資金的にはまだまだ余裕もあるし。・・・

「あれっ?勇輝さん、なんか野営地の方が騒がしいですよ。」

カナが帽子を取って耳をピンと立てて勇輝に言った。

「何かあったんでしょうか?ちょっと急ぎましょうか。」

「はい!」

荷物を全て異次元空間に収納しているので身軽だった2人は野営地に向けて走り出した。

 

 

「あっ、あの馬車……ノースさん帰ってきてますね。」

「本当ですね。騒がしいのも関係してるんでしょうか。」

2人が野営地に近づくと次第に様子が分かってきた。

兵士たちがせっせと展開していた天幕などを撤収しては馬車に積み込んでいる。

「あの…ちょっといいですか?」

「ハイっ!何でありますか?」

勇輝は近くにいた兵士に話を聞くことにした。

「ちょっと今の状況を教えてください。」

「ああ、ノースさんが遂に交渉を成立させたのであります!交渉団はカイゼル公を先方に引き渡すためにもう一度アトライア城に向かい、引き渡しが終われば我々はノシヨに帰還することになったのであります!今はそのための作業をしております!」

「それはすごいじゃないですか!……でも、保護した人たちはどうするんですか?どう考えても馬車が足りませんよ。」

兵士から話を聞いて2人は喜んだのもつかの間、保護した者のことを思い出した。

「そちらはこれから交渉団が先方にカイゼル公を引き渡す際に手配をしてもらうとのことであります!小規模のキャラバン並の規模になってしまいますが、友好の証明としてアトライアの兵士の護衛もつくとのことです!」

兵士は常に大声ではっきりと話してくれたのですぐに理解できた。

・・・こりゃ大成功じゃないか。ノースさんもなかなかやるもんですね。これで僕らも依頼完了ということか。・・・

「ありがとうございます。私も何か手伝いましょうか。」

「な…なら私も手伝います!」

勇輝ご手伝いを願い出るとカナも一緒に手を挙げた。

「感謝します!それでは詰所にいるレイルさんのところへ向かえば手伝えると思うのであります!」

勇輝とカナは小走りでレイルがいるという詰所へと向かった。

 

「おう、もう戻ったのか。」

「ええ、おかげさまで楽しめました。ありがとうございます。」

詰所に着くとすぐにレイルを見つけて言葉を交わす。

「どうやら忙しいようなので私たちも何か手伝おうと思ったもので。」

勇輝がそう言うとカナもうんうんと頷く。

「そうか、それなら助かる。それじゃあアンタの魔法の…あの……便利なヤツで大きな荷物を片付けてもらえねーか?」

・・・ああ、異次元空間のやつか。確かに明確な名前がないから呼びにくいよな。なんか名前でも考えておくか?ゲ○トオブバ○ロン…いや、違うな。やっぱり後でにしよう。・・・

「分かりました。お安い御用ですよ。それじゃあカナさんも一緒に来てください。」

「はい!分かりました。」

結局勇輝の異次元空間に残りの物資や荷物を全て放り込むことになったので野営地はかなりサッパリとした。

 

「いやー、結構な量を入れたので疲れましたね。これでもけっこう楽できたとは思いますけど。」

「そうですね。皆さんとひたすら異次元の門に物を運び込むだけでしたからね。そういえば皆さん門の中に入ったらすごく驚いてましたね。」

「それはそうでしょうね。珍しいものがたくさん入ってますからね。」

勇輝達は一通りの作業を終えて軽食を食べていた。

勇輝とカナの手にはアトライアの街で買ったサンドイッチのような料理がある。

「うん、けっこうおいしいな。……ノースさん達早く戻って来ないでしょうかねぇ。ちょっと退屈です。」

サンドイッチもどきをかじり勇輝がぽつりと呟く。

「このまま戻って依頼が終わったら私たちどうしましょうか。結局私に関することは何も分かりませんでしたね…。」

カナも同じように呟いたが、それは不安を含むものでどこか儚げな雰囲気を漂わせている。

「大丈夫ですよ、きっと何か手掛かりが見つかりますよ。まだ始まったばかりじゃないですか。」

勇輝はカナの前に立つと安心させるために優しく諭すように語りかける。

「そ…そうですね…、本当にケーネ王女とはただのそっくりさんだったんでしょうか…。それとも何か関係が……。」

「それは分かりません。けど、今回はカナさんのおかげでノシヨの危機を救って獣人と人間の友好を築くきっかけを作れたようなものです。それは誇ってもいいと思います。」

「私なんて…結局勇輝さんに助けられてばかりですよ。」

カナは耳を伏せて下を向いて卑下の言葉を漏らした。

その肩は若干震えていた。

・・・マズイな、こんな時どうすればいいんだ?どうにかしてあげたいけど、自分も同じような事があった時には誰もいなかったから分からない……。何かないか?・・・

次第にカナの嗚咽が聞こえてきたが、勇輝は何も声をかけられずにただ佇んでいるだけだった。




どうも、今回もまたかなり遅くなっちゃいましたね。
しかもいつもより長いくせに中途半端なところで区切ることになる体たらく…
そろそろ展開を変えたい…けどしっかり区切りをつけさせたいという葛藤に苛まれています。
あと短編(短いとは限らない)もあげる予定なので気楽に読んでください。
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