短編は完成しないわ、大幅に遅れるわの散々な失態ですが、それでも読んでいただけると嬉しいです。そろそろ新章かな?
ノースたちの乗る馬車が戻ってきたのは日が傾き始めるかどうかという時間だった。
交渉団だけでなく、アトライア側の兵士達の馬車も5台後に続いている。
・・・向こうの兵士が協力してくれるのか。交渉がよほど上手くいったんだな。・・・
勇輝は適当な切り株に座って彼らがやってくるのを眺めていた。
その側にはうっすら涙を残して眠っているカナもいた。
・・・どうしようかなぁ、そろそろ起こしてあげるか。出発もだけど、夕食も早めに食べた方がいいだろうし。・・・
「カナさん、起きてください。ノースさん達が戻りましたよ。」
「んん……あっ……いつのまにか寝てしまいました…。見苦しかったですよね……?」
カナは少し唸った後すぐに起き上がり目を擦ると弱々しく尋ねた。
「いえ、そんなことはないですよ。私も少し思うことがあったものですから。」
「思うところ……ですか?」
勇輝の含みのある言葉にカナは首を傾げる。
「さっきまでカナさんのことについて考えていたんです。」
「私のこと…?」
「はい、カナさんが言っていた『結局助けられてばかり』ということについて…さっきは何も言えませんでした。けど、私だってカナさんにも他の人にもたくさん助けられてます。そしてカナさんもたくさんの人を助けています。」
「えっ…?でも、私は…」
「私はほんのかすり傷程度しか治せません。誰かを労ってあげることも…。でもっ!カナさんはそれができます!はじめは人見知りが強かったカナさんも今では見ず知らずのたくさんの人を魔法で助けれるようになりました。」
「う…それは…」
「ここにいるたくさんの人たちだって、カナさんにも助けられているんですよ。………だから自分のことを悲観しないで。」
最後の言葉は特に感情が込められていた。
それはカナだけでなく過去の自分にも向けられている。
「そ…そうですね。私が間違って…」「いや、そうじゃないっ!」
勇輝はカナの言葉を強く遮ってカナはきょとんとしている。
「間違ってなんかいません。ただ…それだけじゃないと、そう言いたかっただけなんです。その負の面もカナさんの一部なんですから…。」
勇輝の声は次第に力を失いつつ最後は絞り出すように言い放った。
それはかつての勇輝がずっと求めていた、誰かにかけて欲しかった言葉であり、頭ごなしの否定ではなく、理解の伴わない楽観の強要でもない…ささやかな肯定だった。
・・・僕だって誰かに肯定されたかった。でも自分の悲しさを誰かに伝えると皆マイナス思考だと、暗いことを考えるなとそれだけだった。否定の言葉だけ…そして誰にも打ち明けることをしなくなって……自分も同じ状況にいたからこそ分かる。ただ認めて欲しかったんだ。カナさんも僕と同じだ。・・・
「勇輝さん…、私…。」
「カナさんは今のままでもいいんです。無理に変わったりしなくていいんですよ。」
勇輝はそう言うと後ろを向いて俯いた。
・・・そう、ただ変わることを求めるんじゃない。変われないから苦しんでるんだ。今のままでいいんだと、悪いことじゃないんだと…それだけでも・・・
「っ!?か…カナさん!?」
「そのままじっとしていて…ください。」
勇輝は背後からカナに突然抱きつかれて驚いて振り向こうとしたが、カナに止められて、大人しくすることにした。
身長差はそこまでなく、背中全体にほのかな温もりを伝えているが、特に一部分に柔らかい感触に包まれている。
耳元近くで囁くようなカナの言葉に勇輝は動く気は起きなくなった。
「勇輝さん、やっぱり私は勇輝さんに助けられてばっかりです。でも、今度は悲観じゃないですよ。嬉しいんです。勇輝さんの言葉で私は救われたと思います。」
「そう…ですか。私もそう言ってもらえて嬉しいです。私も…昔同じような考え方で悩んでいましたから。」
「勇輝さんが?そう言われるとノシヨにいた時のあのことも……。同じだったんですね。」
「カナさん…、もういい…ですか?」
「ごっ…ごめんなさい!すぐに離れます!」
そう言い慌ててカナが離れた後の背中は少し寂しかった。
勇輝が振り向くとカナは紅くなった顔をうつむきがちに横に向けて両手の指をツンツンと合わせている。
・・・久しぶりに見るな、こういうカナさんを。なんかこっちまで恥ずかしくなってきた。・・・
なぜか勇輝も顔が熱くなりだしてカナのことを直視できなくなった。
「も…もうそろそろ私たちも出発の準備をした方がいいですねー……。」
「そ…そうですね。」
2人揃って気まずくなり、そそくさと馬車へと向かった。
ノース達が戻ってからは素早く事が運んだ。
すでに粗方の物は撤収していて出発の準備も整っていたので、各々の割り当てられた馬車に乗り込んで次々と出発した。
列の先頭にと最後尾、そして中央の王女と交渉団の乗る馬車の前後にノシヨとアトライアの兵士が乗る馬車が配置されている。
「へぇ、コヨースカで暮らしていたのね。そこでは獣人はどれくらい住んでらっしゃるの?」
「正確には判りませんけど…少なくは無いと思います。それに、耳とかを隠して生活していますけど街には獣人の事も配慮してある店などもたくさんありました。」
「そうなんですね。街では一応の関係が保たれているみたいで安心しました。これからもっと友好を深めてノシヨのように獣人と人間が共に仲良く暮らせるようになって欲しいですね。ーーー」
勇輝とカナはケーネ第二王女の希望で同じ馬車に乗っていた。
先程からカナと色々な話をしているが、やはりそっくりすぎて判別がつきにくいので、服装でかろうじて見分けている。
・・・まるで双子を見てるようだな。カナがいつものローブじゃなくて往路で着ていたドレスだったら分かんなかったかも………いや、大きな違いがあるじゃないか!・・・
勇輝は失礼ながら王女のとある部分を見て決定的な違いを発見してしまった。
「勇輝さん?私のドレスに何か付いているのですか?」
「アッイエ、何もありません。」
カナとの話で盛り上がっていた王女が突然勇輝の方を向いて尋ねたので少し目を逸らしてカタコトっぽい返答になってしまった。
・・・胸元を見比べていたなんて言えるわけ無いじゃないか…。王女殿は大変"高貴"なスタイルでいらっしゃる…。・・・
王女と同席ということでドリル服装で座っている勇輝は少し窮屈だった。
服装の物理的な窮屈さに加えてお世辞にも広いとは言えない馬車に男女1:2であり、少々居づらいのもあった。
しかし、それを表に出すほど勇輝の表情筋は無いので、振る舞いだけ気をつければなんとかなる。
「そういえば勇輝さんとカナさんはどのように会ったのですか?」
「えっ?あ…ああ、私がコヨースカのギルドで手頃な依頼をさがしていた時にカナさんから声を掛けられてパーティーを組むことになったんです。」
「まぁ!意外ね。最初はカナさんが声を掛けたなんて。素敵じゃない。」
王女が手を合わせて嬉しそうにカナを見ると、当の本人は顔を赤らめて下に向けている。
・・・控えめに言って可愛いな…。・・・
勇輝と王女はそんなカナを見て楽しんでいた。
そんなこんなで雑談に花を咲かせてしばらく過ごしていると最初の休止地点に到着したようで馬車が停止した。
「あら、今日はここで夜を過ごすみたいね。こんなに綺麗な夜空を見たのは久しぶりよ。なんたって監禁されていたんですもの…ふふっ。」
「そうですか。それにしても王女様はとても気丈なんですね。長い間監禁されていらっしゃったのに他の子供達のことを気に掛けたりされて、とても素晴らしいです。」
馬車から顔を出して空を見上げていた王女に勇輝はそう言うと王女は勇輝の方に振り向いてにこやかな表情から真剣な顔になった。
「私ももちろん辛かったわ。でもね…あんなに小さな子たちまで辛い目に遭っているんだもの。嘆くことは簡単だけど王女としてそれはできなかったし、何より1人の人としてあの子たちを助けてあげたかったのよ。それだけよ。」
そう言い切った王女は立派な王族たる覇気を纏う第二王女の姿を見せていた。
・・・すごい…。強いと少しちがう、王族としての誇りと優しさの織り成す力とでもいうのかな。やっぱりあの王様の娘なんだな。・・・
「さぁ、あなた達もみんなを手伝ってあげて。お話とても楽しかったわ。ありがとう。」
「い…いえ、王女様とお話を出来て光栄です!」
「こちらこそありがとうございます。身に余る幸せです。」
「全く、そんなに畏まらなくていいのよ。まあいいわ、行って来なさい。」
王女の言葉に勇輝とカナはお辞儀をすると馬車を降りて野営と食事の準備の手伝いに参加した。
救出した人質に加えてアトライアからの兵士も混じってかなり賑やかな野営になり、食事ももはや宴会の様相を見せていた。
最初はノシヨの兵士とアトライアの兵士の間は微妙な距離感があったが、酒の力も手伝っていつの間にやらすっかり馴染んでいた。
中には肩を組んで陽気に歌ったり騒いでる者もいた。
王女もその場に居たが、その様子を見て心の底から嬉しがっているように見えた。
「これからお互い仲良くできるんですかね?」
カナが勇輝の隣でパンを手に話しかけてきた。
「どうでしょうね。でも、これまでよりはきっと良くなるんじゃないですかね。それぞれの代表者の頑張りにかかってます。」
勇輝もパンをかじりながら考えを述べる。
「あっ」
「どうしたんですか?カナさん。」
カナが突然声を上げたので勇輝はパンを食べる手を止めた。
「そういえば、元々の発端の1つはグレアム王子がケーネ王女に結婚を申し込んだことですよね?つまり、あの王子が王女様に惚れたってことですよね。」
「そうですね。………ああっ!そういう事ですか。」
勇輝はカナが言いたいことを理解して納得した。
・・・国のトップである王族が獣人に惚れてこんな行動を起こしたんだ、本当に見下したりしてるんならそんなことになるはずがない。彼らも獣人の事が心から嫌いなわけじゃないんだ。それなら分かり合える余地は大いにあるじゃないか。・・・
「確かにこの事に双方の人々が気がついたら考えも変化しますね。人間の国のトップが獣人に恋したんですから。」
「そう考えるとロマンチック…なんですかね?」
「国同士を巻き込んでやられると困りますけどね…。」
勇輝が苦笑するとカナもクスクスと笑った。
「ゆ…勇輝さんはど…どんな風にすす…好かれたいですかっ!?」
「へっ?」
薄暗いかがり火の明かりでもわかるくらいに顔を赤くして発言したカナに勇輝は素っ頓狂な声を上げて思わずパンを落っことした。
それは別に鈍感なわけではない勇輝には十分すぎるほどの衝撃を与える一言だった。
前書きでも書きましたが、本当に遅くなって申し訳ありません。
次回くらいで、この章も終わりにしたいですね。(自分でもあまり信用できないですが…)
とりあえずスローペースは変わりませんが、続けていきます。