お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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狭霧麻耶の名前が「摩耶」になっているところが多々ありますがすべて誤表記です。正しくは「麻耶」。これからは間違えないように努力します。


11. ぎゃく隣さんのアドバイス

それから数日。いざ麻耶と関わろうとするとなかなかうまくいかず、むしろ以前より接しづらくなっていた。蘭子から聞いた話を意識してしまい、無駄に気を使ってしまうのが主たる要因だ。麻耶から送られてくるメールの返信も無駄に内容を考えすぎてかえってそっけないようなものになってしまう。そんなある日、優介は心理学の講義を受けながら今後どうするべきかを考えていた。

 

「どうしたもんかね……」

 

講義を行っている先生に聞こえない程度の声でつぶやく。すると、机の上の携帯が振動する。筆箱の陰に携帯をおき、ペンをもった手の指をつかって操作する。こうすることで黒板側からみるとノートを取っているように見える。といっても先生によってはすぐばれるのだが、この講義は大教室なのですぐにはばれないだろう。画面を見ると、ラインの通知が来ていた。送信者は悠里。ちょうど今、優介の後ろの席で講義を受けている。「何のようだ」と振り向いて問いかけたが悠里は黒板のほうを見ている。意図的にスルーしているようだ。仕方ないのでメッセージを確認する。

 

『そのセリフ講義始まってからもう7回目だよ』

「え、まじで?」

 

思わず声に出てしまった。それも大きめに。周りの学生がいっせいにこちらを見る。先生もしゃべるのをやめ、訝しげに視線を向ける。

 

「どうかしましたか?」

「い、いやあすいません。まさかオペラント条件付けにそんな歴史があったとは知らなくて。パブロフってすごいっすね」

「そうですか。勉強熱心なことで。ですがパブロフが提唱したのはレスポンデント条件付けですよ」

 

適当な言い訳をしたらもっと恥ずかしい思いをする羽目になってしまった。

「すいませーん」と言いながら縮こまる。後の悠里が笑いをこらえている。

 

『なにわろてんねん。お前のせいだろうが』

 

メッセージの後に熊が怒っているスタンプをつける。すぐに既読がつきメッセージが帰ってくる。

 

『桜井がずっと沈んでるからでしょ』

 

なんと返したものか。迷っていると続けてメッセージが来る。

 

『狭霧さんとなにかあったの?』

 

別に麻耶本人と何かあったわけではない。だからといって蘭子から聞かされた話を勝手にしゃべれるわけも無い。再び返信に戸惑う。

すると後ろから頭をつつかれる。

 

「いって!」

 

再び注目の的になるが今度は黙っていることにした。しばらくすると講義は再開される。

 

『お前な、ボールペンはやめろ』

『じゃあ次はコンパスで』

『殺傷力増してんじゃねーか!』

『よかった。いつもの桜井だ』

 

いつもの自分がどういった感じなのか自分ではわからないが、悠里のメッセージにどこかほっとした。

 

『なんで麻耶の話になる?』

 

すっとぼけてみる。

 

『桜井に他に悩むことがあるとは思えないけど?』

『失礼極まりないな!』

 

だが、効果がなかった。

 

『それで?なにがあったの?』

 

その問いに対して返信を打っては消し、打っては消しを5回ほど繰り返す。

そしてひとつ思いついたことを言葉にしてみる。少しためらったが意を決してメッセージを送信する。

 

『麻耶とデートするにはどうしたらいいだろうか?』

 

麻耶の世界を変えるということの意味はよくわからないが、仮にあの部屋をひとつの世界だとすればそこから連れ出せれば何か変わるかもしれない。

 

「はあ!?」

 

世界を変えるなんてことを言っても理解されないだろうと思って少しふざけてみたが、かえってよくなかったようだ。先ほどの優介同様、悠里も周囲の視線を浴びる。

 

「どうかしましたか?」

「す、すみません。ダンスセラピーでこんなにも救われた人がいるんだと知って驚きまして……」

「そもそもこの講義の主題はカウンセリングの理論についてなのですが……」

 

条件付けもダンスセラピーもなんら関係が無かった。先生はあきれた様子で講義を続ける。悠里は「すみません」といって縮こまる。今度は優介が笑いをこらえる。すぐに携帯が振動する。

 

『なにわろてんねん。桜井のせいでしょうが』

 

後にウサギが熊を蹴り飛ばしているスタンプがついてくる。

 

『おっしゃるとおりで』

 

素直に謝っておく。

 

『で?デートがなんだって?下着マニアさん?』

『それはもういいだろ!デートとかじゃなくて、外に出す方法が知りたいんです!調子乗ってすみませんでした!』

『情緒不安定?』

『もういいです。ありがとうございました』

 

あきらめて講義に意識を戻すことにした。が、5分もしないうちに再び携帯が振動する。

 

『狭霧さんの場合だといきなり遠くへ!とかは嫌がるかもね』

『ほうほう。するとどこがいいんだ?』

 

期待に胸を膨らませ画面を眺めるが、ここにきてまさかの既読スルー。仕方なくメッセージを送る。

 

『おーい。悠里さん?』

『後は自分で考えれば?』

『ここにきて急に突き放してきたな!ライオンか何かか?崖から落とされたのか俺は?』

『そこまでお人好しじゃないから』

『どういう意味だよ』

『自分で考えれば?』

 

その後何度かメッセージを送ってみたが、もはや既読すらつかなくなった。講義後も悠里はさっさと教室を出て行ってしまった。

 

「なんなんだよいったい」

「なにがなんなんだよなんだ?」

「うわあ!」

 

急に隣から声がしたのでびっくりして椅子から転げ落ちる。

 

「なにしてんだよ。新しいボケか?ツッコミ待ち?」

「……隆盛か、おどかすなよ。いつからいたんだ?」

 

講義が始まっても姿が見えなかったのでてっきりサボりかと思っていた

 

「途中から。優介がオペラント条件付けについて語ってたとこかな」

「別に語ってたわけじゃ……え?ひょっとしてそれからずっと隣に?」

「お前、いつか暗殺されるぞ」

 

へらへらした表情でおそろしい予言をされてしまった。とりあえず反論をこころみる。

 

「本当に隣にいたか?物音すらしなかったぞ?」

「本当だって。天草と楽しげにラインしてる姿をばっちり激写したぜ?」

 

そう言って携帯の画面を見せてくる。確かに先ほどの優介がばっちり写っている。

 

「お前、将来はスパイでもやる気か?暗殺されるぞ」

「洗練されたスパイを殺すときはもっと派手にやってほしいもんだな」

 

相変わらずくだらない話では右にでるものはいない。それでいて真剣に話したことはこの前を含めても数回しかないからたちが悪い。別に是が非でも知りたいわけではないのだが。

 

「それで?なにを話してたんだ?」

「別に。なんでもないよ」

「狭霧ちゃんのことだろうけどな」

「ちょ、おま!」

「にちゃんねらーか?」

「ちげーよ!なんでみんなそんな簡単に人の心見透かしてくんの?心理学ってそういうのじゃないと思ってたのは俺だけか!?」

「自白乙です優介パイセン」

 

どうやらカマをかけられたらしい。ひょっとしたら悠里もそうだったのかもしれない。ばれてしまった以上仕方ないので隆盛にラインの画面を見せる。

 

「ふむふむ。あーなるほど。完全に理解したわ」

「それ、理解してない時の台詞だぞ」

「ジョークだって。それで?なにが不満なんだよ。ちゃんとアドバイスくれてんじゃん」

「いや、その後が問題なんだよ!これじゃあ数字だけ教えられて式を習ってないようなもんだろ!」

「そこまでお人好しじゃないんだろ。そういってるじゃん本人も」

「だからそれがなんなんだよってこと」

「それに対する答えはひとつ! 『自分で考えれば?』」

 

 

悠里の口調を真似したのだろうが全く似ていない。

それに考えろといわれてもどう考えればいいのやら。しかし隆盛はかばんを持ち上げ、「じゃあ俺次の講義いくわー」と言い残して行ってしまった。仕方ないので優介もかばんに筆箱とレジュメをしまい教室を後にする。

 

「まあ確かにヒントはくれたんだし感謝するべきだな……」

 

 

 

 

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