お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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12.持つべきものは先輩

 

その日の講義をすべて終えた優介はまっすぐ帰宅……ではなく近くの本屋へと寄り道することにした。隆盛から「カラオケ行こうぜー」と誘われたがなんだか気分が乗らず断った。この程度で機嫌を悪くする相手でないことは知っているので特に気にすることも無い。

 

『ひいらぎ書店』。この学生街では唯一の本屋で、柊という老夫婦が経営している。とはいっても大抵の本は購買で取り寄せしたり図書館で借りたりできるのでここに来るのはよっぽどの読書家だろう。かくいう優介自身も最近まで来たことはなかった。なぜ最近になって足を運んだかというと、講義のレポートに使いたい本がどうしても手に入らなかったからだ。

がらがらと古くなった扉を開け、店内に入る。本屋特有のにおいと奥のレジにいる柊夫婦が出迎えてくれる。店内には本棚が5つ配置されていて、上から下までぎっしり本が並んでいる。柊夫婦に挨拶してから店内を歩く。古い本屋なだけあって本の並びは統一性がない。料理本が並んでいると思えば間に文庫本が挟まってたりもする。この中から目当ての本を探すのは骨が折れる作業で前回も見つけるのに30分はかかった。

 

 

「まあ、あるって確証もないけどな……」

 

目当ての本は図書館にも購買にもなかったので、ここで見つからなければ遠出することになる。それもいいのだが出来れば近場で済ませたいと思うのはごく普通の思考といえる。

 

 

探し始めてから30分。目当ての本は一向に見つかる気配が無い。仕方ないのでレジで聞いてみたところ「たしか一番奥の棚にあった気がするよ」と親切に教えてもらった。なぜ最初から聞かなかったのかと少し後悔したが、あることがわかっただけよしとしよう。

教えて貰った棚の前に立ち、指で背表紙をなぞりながらそれを探す。

 

「あ、あった」

 

ついに見つけたその本を棚から引き出そうとしたとき、優介とは別の手がその本に触れる。必然的に二本の手も触れ合う。まるで少女漫画のテンプレだ。

 

「あ、すみません」

 

手の主が謝ってくる。

 

「いえ、こちらこそ……って望先輩?」

「あ、桜井君じゃん」

 

そこにいたのは望だった。今日はジャージではなく私服だ。身長は悠里より高くて隆盛より少し低い。

 

「きぐーだね。桜井君もここ良く来るの?」

「あ、はい。最近になってから。静かで良いですよねこの店」

「お、わかってるねー」

 

望はいつも通り気さくだ。どこか隆盛にも似ているような気がするので優介も楽に接することができる。流石に隆盛の様な扱いはできないが。

 

「今日は部活じゃないんですか?」

「休むことも練習の一環なのだぜ☆」

「そ、そうですか。お疲れ様です」

 

そこで一端会話が途切れる。優介はさっきの本を棚から取り眺める。

 

「桜井君もその本探してたんだ」

 

本のタイトルは『月末のバルコニー』。作者の名前は矢桐マサ。このまえ蘭子から聞いた麻耶のデビュー作だ。麻耶の事を少しでも知りたくてこれを探していた。「やぎりまさ」は「さぎりまや」のアナグラム。森ヒキ子といい安直なネーミングだと思い少しにやける。

 

「知り合いに教えてもらいまして」

「その知り合いさん良いセンスしてるね」

「望先輩はどこでこの本を?」

「中学の時友達に借りて読んだことがあって。ゼミで好きな本のレビューを書くことになったから久しぶりに読んでみようと思ってさ」

 

望が中学の時ということはちょうど作品が世に出てすぐだ。やはり人気があったということが伺える。

 

「それじゃあ、どうぞ」

 

手に取った本を望に渡す。

 

「え、でも桜井君も読みたかったんでしょ?悪いって」

「ゼミで使うならそっちが優先ですよ。俺は他を探します」

 

そういって立ち去ろうとすると望に呼び止められる。

 

「まった。それなら使い終わったら桜井君に貸してあげるよ。譲ってくれたお礼にさ」

「え、いいんですか?」

「いいって。だってこの本購買にも図書館にもなかったし、他探すの面倒でしょ?」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

会計を終えて店の外に出ると望が携帯を取り出す。

 

「読み終わったら連絡したいからライン交換しとこうか」

「あ、はい」

 

優介も携帯を取り出し、ラインを交換する。コードを読み取ると「☆のぞみ☆」と名前が表示され同時にプロフィールの画像もでてきた。タップして表示してみると、プリクラの画像だった。写っているのはノリノリでポーズを決める望と、恥ずかしそうにピースしている悠里だった。なんとなくその画像を眺める。

 

「おやおや、そんなに見とれるほど天草が可愛いかい?」

「え!?い、いや、別にそう言う意味で見てたわけじゃ……」

「照れない照れない!いいんだよ自分のスマホの画面なんだから盛大に見ても!視線で犯してしまえ!」

「ぶっ!何言ってんですか!」

 

望そういうことをいうキャラだとは知らなかった。本当に隆盛と気が合いそうだ。

 

「てか、悠里もよくこの画像使うの許してくれましたね……」

「まあ、無許可だけどね」

「サラッと言っても俺は聞き逃しませんよ!いいのか!?これは許されるのか!?」

「まあ、桜井君に見られるなんてあの子は思ってもいないだろうから、ばれたら怒られるかも♪」

 

その割に望特に悪びれる様子もない。しかし、知らぬが仏、悠里には言わないでおこう。

 

「それじゃあまたね、桜井君!」

「あ、はい。さよなら」

 

望は鼻歌を歌いながら去っていく。優介も今日はもう帰ることにした。

 

***

 

時刻は午後8時。

帰ってからはゲームをしたり漫画を読んだりしてみたが、麻耶のことがちらついて集中できない。やはり部屋からつれ出すというのはやはり難しいだろうか。麻耶が外に出るのは食べ物を買う時ぐらいなものだし、それじゃあ蘭子のいう麻耶の世界は変わらないだろう。

 

「どうしたもんかね……」

 

今日一日で何回言ったかわからないセリフを口にする。部屋からつれだすのにもなにか理由が必要だ。それが優介には思いつかない。だが、悠里に言っても隆盛に言っても満足な答えは得られないだろう。隆盛はああ見えてあまり人の内面に深入りしないタイプだし、悠里は講義の後にラインを送ってもあまり良い答えは返ってこなかった。

どうしようか考えているとラインの通知が来た。画面を確認すると望からだった。「しくよろー」というメッセージに人気アニメキャラのスタンプがついてきた。優介も「こちらこそ」と返す。

 

「そうだ、先輩に聞いてみるか」

 

そう思い麻耶の名前は出さずに望に相談を持ちかけてみた。最後の一文を送信すると急に画面が電話の呼び出し画面に変わった。望からだ。少し驚いたが電話に出る。

 

「もしもし」

「このなんじゃく者!」

 

耳をつんざくような大きな声が響く。

 

「なんでしょっぱなから怒ってるんですか……」

「この浮気者!」

「会話してくださいよ!一方的に罵倒とかサディスティックすぎるでしょ!」

「桜井君がヘタれすぎだからだよー」

「どういうことですか……」

「女の子を誘うのに理由なんていらないの。行きたいから行こう!でいいのさー」

「ちなみに先輩がそう誘われたらどうしますか?」

「そんな適当な人とは出かけたくないね」

「でしょうね!なんで言ったし!」

 

既に望に相談したことを後悔し始めている。

 

「まあ、私が言いたいのは気負いすぎだってこと。その子と仲が悪いわけじゃないんでしょ?」

「それは……」

 

特に喧嘩したり仲が悪くなったりしたわけではないが、ここ最近はメールの返事が無愛想なものになっている。はたして麻耶はどう思っているのだろうか。今週はまだ一度も麻耶に会っていない。それが一番の壁になっているのだ。

 

「最近、あまり話せて無くて」

「ホントにヘタれだね」

「さーせん」

「じゃあこれが話すきっかけになるじゃん。やったね!」

「ポジティブすぎるだろ!」

 

だが、望と話しているうちに少し迷いが晴れてきた。なんというか、人を元気にする力がある。バスケ部でキャプテンが務まるのもこういったところがあるからだろうか。

 

「とりあえずありがとうございます。後は自分で頑張ってみます」

「それはよかった。ところでさ一つ聞きたいんだけど」

「なんですか?」

「その子は桜井君にとってなんなの?」

「何って……友達ですよ」

 

なぜか少し言い淀んでしまった。

 

「そっか。じゃあ天草も頑張らないとだね」

 

望の声は小さすぎて優介には聞き取れなかった。聞き返してみたがすぐに通話を切られてしまった。

 

「なんだったんだろ。まあいいか」

 

携帯をベッドに投げてこの後どうするかを考えることにした。

 

 

 

 

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