「ほら、できたぞ」
スーパーで買い物を終え、一緒に優介の部屋に戻ってから何が食べたいか聞いたところチャーハンをリクエストされたので、実家から送られてきたマーラージャンを使ったマーラーチャーハンを作ることにした。優介の作るマーラーチャーハンは普通のチャーハンに食べやすいサイズに切ってレンジで温めた木綿豆腐を乗せ、その上にマーラージャンを乗せる。いろいろ試した結果これが一番作りやすいし食べやすい。
「おー。美味しそうだね」
チャーハンをテーブルに置くと麻耶が目を輝かせる。
「マーラージャンの乗った豆腐とチャーハンをちょうどいい比率で食べるのがコツだ」
少し得意げになりつつ自分もテーブルにつく。いただきますをして食べ始める。久しぶりに作ったがやはり美味しい。
「そういえば、執筆の調子はどうだ?」
黙々と食べていても暇なので適当な話題を振る。
「うーん。明日ぐらいには最新話投稿できるかな」
「それは楽しみだな。前回の終わりかたは結構気になってたんだよ」
「えへへ、楽しみにしててよ。きっと驚くから」
「それは期待に胸がふくらむな」
やはり作者本人と話せるというのはすごく楽しいものだ。でもそれと同時に少し悲しくもなる。目の前で一緒に食事しているこの少女は、自分なんかとは住む世界が違う本物の天才なのだとひしひしと実感する。
「ねえ、優介はあのあとどうなると思う?」
「そうだなー、俺の予想だと主人公の仲間のうちの一人が実は魂の片割れでその記憶を取り戻す、とかかなー」
「えっ」
麻耶が驚いたような声を出す。ひょっとして言い当ててしまったのだろうか。いやしかしいくらなんでもそんな偶然があるだろうか。
「す」
「す?」
「すごいよ優介!それ3話くらい後にやる展開なのに!」
「え、ええ!?」
どうやら言い当てたどころか麻耶の思い描くプロットを先読みしてしまっていたらしい。麻耶はとても驚いているが一番驚いているのは優介自身だった。
「どうして?どうしてわかったの!?」
麻耶は目を輝かせてこちらへ詰め寄ってくる。それにドキッとしてそっぽを向きながら答える。
「今までの展開からそうじゃないかなって。それと……」
「それと?」
「……」
優介は言葉に詰まる。展開を読めたもっとも大きな要因は麻耶から受け取った没小説のパターンにあるのだが、それには麻耶の過去が大きく影響している。果たしてそれを素直に答えてもいいのだろうか。
「勘、かな」
「勘かー。すごいなー優介は」
麻耶は感心したようにうんうんとうなずく。
「ところで麻耶さん……」
「ん?」
「すごく……近いんですけど」
麻耶も無意識だっただろうが二人の距離はものすごく詰まっている。優介がそっぽを向いている顔を元に戻せばキスだってできそうなほどに。
「ご、ごめん!」
麻耶は急いで飛び退く。てっきり「キスしたいの?」なんてからかわれるとばかり思っていたのでその反応は意外だった。それでもまだ優介の心臓はバクバク鳴っている。
「あだっ!」
飛び退いていく途中で麻耶の頭が後ろのテレビ台の角にぶつかる。
「なにやってんだよ……」
「あ、あはは……」
麻耶は力なく笑う。
「どうした?なんか変だぞ?」
「べ、別にー。ちょっとびっくりしただけだよー」
音の出ない口笛をふく麻耶は顔が赤くなっているように見える。ひょっとして恥ずかしかったのだろうか。部屋に落ちてる下着を拾われるほうがよっぽど恥ずかしいと思うのだがそれはきのせいなんだろうか。
「麻耶もそういう反応するんだな」
「そりゃあボクだって女の子だし……」
その言葉に少しドキッとする。
しかし、よく考えたら麻耶の人生で男子と密接な距wb離になるなんてことはなかったのかもしれない。それどころか両親の死や親戚たちのこともあって満足に友人関係を築けていたかもわからない。
「さ、さて、チャーハンが冷めちまうぞ。食べよ食べよ」
麻耶を促して自分もチャーハンを口にするが先ほどの麻耶の言葉やしぐさをで頭がいっぱいで味なんてわからなくなっていた。
***
食事も終わり、暇になったので優介はゲームでもしないかと提案してみた。すると麻耶はすぐにやりたいと言ってきた。
「ボク、ゲームって始めてやるんだよねー」
「そうなのか?」
最近はスマホやパソコンの普及によって男女問わずに結構気軽にゲームをするものだと思っていたが、麻耶は違ったようだ。ひょっとして部屋のパソコンは小説とメール以外には使っていないのだろうか。なんというか勿体ない。そう思いながらもディスクをゲーム機に入れる。チョイスしたのは所謂「格ゲー」だ。隆盛が置きっぱなしにしているもので、いつも優介はコテンパンにされている。
「えっと、とりあえず操作法がこれに書いてるから読んでくれ」
麻耶に説明書を渡す。とはいっても最初はレバガチャになるだろうが、みんなが通る道だろう。麻耶は5分くらい説明書を読んでいたが、すぐに頭に?が浮かんでいた。
「ま、まあ実際にやってみるか」
「そうだね。最初から本気でいいよ!」
お手柔らかにと言わないところを見るに負けず嫌いだったりするのだろうか。そう思いつつもキャラクターを選択してゲームをスタートする。
「うーん、こうかな?あれ、こっちかな」
思った通り麻耶はめちゃくちゃな操作をしている。自分が初めてこのゲームをやった時の事を思い出す。隆盛はそれを見ても全く手加減せずにボコボコにしてきたが流石に優介にはそれはできそうにない。
「しばらく練習にするか」
「えー、いいよ、本気でやろうよ~」
やはり負けず嫌いだった。とはいってもこのままだと一方的なゲーム運びになってしまう。だが優介だってこれでも心理学専攻だ。ここはひとつ勉強の成果を見せてやろう。
「そっか、じゃあこのゲームはやめとくか」
「え?」
「いや、だってこのままやってもワンサイドゲームだし意味ないだろ」
そう言ってゲーム機のスイッチを切ろうとする。
「ま、まった~!」
麻耶が必死に腕をひっぱってくる。思惑通りだ。
「わかった、練習するからさ、もうちょっとやろうよ~」
「そうか?ならやるか」
「うん!」
麻耶がこんなに食い下がって優介がマウントをとるのはいつもとは逆の立ち位置だ。それが面白くて優介はにやけてしまう。麻耶はそれには気付かずに必死に画面をみてキャラを操作している。これだけ集中できるなら上達が早そうだ。
***
「おりゃあ!」
「なっ、バカな!」
だからといってこんなに早いとは思ってもみなかった。ゲーム開始からわずか10分で麻耶は優介と互角以上のプレイを見せていた。
「やった~ボク勝ちだ~!」
既に戦績は五分。今の一戦は麻耶のキャラの投げ技が綺麗にきまり優介の負けとなった。
「お前……本当にゲーム始めてなんだよな?」
「そうだよ?いやーこのゲーム面白いね。次はどのキャラ使おうかなー」
これはいつか隆盛と戦わせてみたいものだ。そう思いながら優介もキャラ選択を始める。
「ねえ、優介」
画面を見たまま麻耶が話しかけてくる。
「んー?」
「ボク、優介の書いた小説読んでみたいな」
「え?」
驚いて麻耶の方を向いたがむこうはまだ画面を見たままだ。
「絶対面白いと思うんだ。優介ならできると思う」
「な、何急に変なこと言ってんだよ。別に俺は……」
「まあ、別に無理強いはしないよ。でも……」
そこで麻耶はやっとこちら見た。
「ボクは勝手に期待してる」
その瞳は初めて会った時のように幻想的で目を話すことができなかった。