お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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20.好きだったから

夏というのは夜も暑いものだ。優介の地元北海道と唯一違うところがここで、北海道は夏でも夜は冷え込む。そういった意味ではやはり関東に来て良かったかなと思ったりもする。そんな夜に、優介は近所の公園のベンチに座っていた。見上げた空には星がちりばめられている。夏の大三角形を指でなぞっていると目的の人物はやってきた。

 

「こんなところに呼び出して、告白でもしてくれるのか?」

 

相変わらずのあほくさい冗談。それが優介が知っている現在の隆盛だ。

 

「部屋に呼んでもこないからだろ」

 

ゆっくりとベンチから腰を上げる。

 

「貞操の危機を感じてな」

「ツッコまないからな」

「あらあら、職務放棄ですか優介パイセン」

 

いちいちツッコミを入れていては隆盛のペースになってしまう。

 

「俺が何の話をしたくて呼んだかはわかってるよな?」

「さあ?なんだろうな?」

「おい」

「冗談だよ。わかってるからそんな怖い顔すんなって」

 

隆盛は両手をあげて降参のポーズをとる。

 

「望のことだろ?」

 

意外にもあっさりとその名前を口にした事に少し驚いた。

 

「そうだよ」

「大体はあの後本人から聞いたんだろ?」

「なんで知ってる」

「あいつ、ああ見えても結構メンタル弱いからな。誰かに言うと思った」

「さすが、元彼はよく理解してるんだな」

「それで、その上何を聞くことがあるんだよ?」

 

優介が気になったことはただ一つ。だがそれを聞いて、はたして納得できる答えが返ってくるのだろうか。

 

「なんで、望先輩と付き合うことにしたんだ?」

 

望の才能に押しつぶされ、なおかつ中学でも活躍する望の姿を見ていながら、何故付き合うことにしたのか。普通なら目をそらして、関わりたくもないと思うのではないだろうか。

 

「なんだ、そんなことか」

「そんなことって……」

「好きだったからだよ」

「え?」

「好きだったから告白されてOKして、そんで付き合った。普通の話だろ?」

 

確かに言っていることは普通そのものなのだが隆盛の場合は状況が全く違う。優介には何が何だか分からなかった。

 

「えっと?」

「昔から家が近くてよく遊んでた。だからそのうち好きになった。それだけだって」

「でも、前に言ってたのは」

「才能に嫉妬するのと、その人を好きになるのは無関係だろ?」

「そう……なのか?」

「少なくとも俺はそう思ってたさ」

 

理屈では分かる気もする。だが気持ちとしてそれで納得できるものなのだろうか。

 

「当然、納得なんてできなかったさ。だから、進路選択を利用して逃げたんだ」

「……」

「結局、二つある自分の気持ちの内、嫉妬が勝ったってことさ」

 

隆盛の表情はいつもと同じ。まるでもう心の底からどうでもいいことを話しているかのようだ。

 

「それで?優介は俺にどうしろと?」

「望先輩と会って話をしてくれ」

「いやだよ。いまさら何を話せっていうんだよ?」

「このままでいいのか?」

「聞いてるのは俺だろ」

「『バスケ部は瀕死の重傷だ』」

「は?」

「悠里が言ってた。望先輩、まったく集中できなくて大会前なのにお通夜モードらしいぞ。あーあ、誰のせいなんだか」

 

少し隆盛に似たような言い方をしたのはもちろんわざとだ。

 

「随分と回りくどい言い方だな」

「本人の罪悪感に働きかけようと思って」

「でもそれは俺が自分のせいだって自覚してた場合の話だろ?」

「まあ」

「俺が無自覚な奴だったらどうするつもりだったんだよ」

「無自覚なの?」

「それは……どうだろうな」

 

隆盛は苦笑いする。だがここで表情を変えるのは負けと同義だ。

 

「わかったよ。会うだけな」

「約束だぞ」

「わかったって」

 

話がひと段落したところで優介は手に持っていたメロンソーダの缶を投げた。綺麗な放物線を描いた缶は隆盛の手元に吸い込まれていく。

 

「一杯やろうぜ」

「ソフドリかよ。酒をよこせ」

「無茶言うなって」

 

二人でベンチに座って缶を開ける。

 

「なあ優介」

「なに?」

「お前、なんか俺に隠してるだろ」

「隆盛じゃないんだから、そんなこと……」

 

そこでハッとした。急いで携帯で日付を確認する。

 

「おい、優介?」

「悪い!先帰る!」

 

そう告げるとベンチから立ち上がり走って公園を後にする。後に残された隆盛が何か叫んでいたが優介の耳には届かなかった。真っ暗な学生街をまるで獲物を追うライオンのように駆け抜ける。

 

「すっかり忘れてた~!」

 

今日は「まじっく文庫」の雑誌の発売日。優介が応募した賞の結果が載っている雑誌だ。隆盛たちのことですっかり忘れていた自分を呪いつつ、コンビニへと走る。

 

「イラッシャッセー」

 

やる気のない店員の声に気もとめず、雑誌コーナーへ。素早く雑誌をもってレジへ。そして会計。この短い動作がとてつもなく長い重労働に感じた。コンビニをでてさらに走ってハイツ諏訪部を目指す。その間脳裏には走馬灯のようにこれまでの事がよぎって行く。始まりは春に一人の少女と出会ったこと。ひきこもりで、半生活破綻者のような生活をしていて、とても無邪気に笑って。そんな彼女に影響されて、この1カ月一心不乱に小説を書いた。19年間の人生の中で、こんなに一生懸命になったのは初めてだった。そして、背中を押してくれた少女もいた。夜食を作ってくれて、部屋を片付けてくれて、無愛想な顔で応援してくれて。そんな彼女と約束して、この一カ月頑張ってきた。だから、その時間を絶対に無駄にしたくない。

 

 

勢いよく扉を開け自室へ駆け込む。息を切らしながらも鍵をかけ、靴を脱ぐ。水を一杯飲もうとしたがそれはやめて雑誌を開き、ページをめくる。その手が震えていることなんて全く気にならなかった。1ページ、また1ページとめくっていく中、優介の中にはいくつかの想いがあった。

 

麻耶の期待に答えるために

 

悠里との約束を守るために

 

そして何より自分のために

 

「……」

 

大きく息をすって、結果発表のページをめくる。

 

吸い込んだ息をゆっくりと吐いた優介は乾いた笑みをうかべていた。

 

 

「はは……」

 

中学でテニスを辞めた時、とくに残念だとか悲しいとかは思わなかった。それは以前悠里に言ったように本気になれなかったからだ。でも、今度は違う。だから、そのページを見た時、自分の感情が大きく揺れ動くのを感じた。

 

何度見ても雑誌のどこにも、優介の名前は無かった。落選した、ということだ。決して広き門では無いのは分かっていた。それでも、自分なら出来るんじゃないかと思っていた。麻耶や悠里の言葉で自信もあった。

 

 

「だっさ……」

 

それでも、優介の名前は無かった。

 

 

 

 

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