お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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23. 初心忘れるべからず

7月25日。天気は晴れ。そんな夏真っ盛りの午前中に、優介は学生街を出て繁華街の方へ来ていた。よく待ち合わせに使われる白いオブジェの前で、相手を待っていた。とはいっても来る保証はない。誘いのラインには既読こそついたものの返信は一切ない。だが、確信はあった。絶対に来る。そういう奴なのだ。

 

「夜の公園の次は繁華街か。よっぽど俺にお熱なんだな」

 

そんなくだらない冗談を後ろから投げかけてくるのはたった一人しかいない。

 

「毎回毎回よくもそんなに冗談が思いつくよな」

「そんなに褒めるなよ」

「褒めてねえよ!」

 

隆盛とのこのやりとりも随分懐かしいような気がする。

 

「そんで?今日のデートコースはどちらですかね?」

「ついてくれば分かるよ」

 

そう言って隆盛の少し前を歩きだす。隆盛もついてくる。

 

「そういえばさ」

 

だまって歩くのもなんなので隆盛に会話のボールを投げる。

 

「ん?」

「さっきのオブジェのとこ、去年のクリスマスを思い出すよな」

「あー。そういやそうだな」

 

去年のクリスマス。悠里と隆盛と三人で遊びに行こうと約束した時も、待ち合わせの場所はあのオブジェのところだった。

 

「あの時お前、わざわざ悠里に予定変更伝えにあそこまで来てくれたんだよな」

 

あの日、隆盛は急用があってこれなくなってしまったのだった。

 

「まあ、天草に謝るためにな」

「結局あの時の用事ってなんだったんだ?」

「さあね、なんだろう」

「なんだよそれ、言えない用事だったのか?」

 

とはいっても、別にそこまで気になっているわけでもない。単純な会話のキャッチボールでしかない。

 

「ほら、ついたぞ」

 

目的地についたので足を止める。

 

「ここって、ゲーセン?」

「ああ、一年のころよく来たろ?」

「あーそういやそうだな。俺が強すぎて優介が『もうあんたとゲームなんかしないんだからねっ!』ってグレて行かなくなったんだっけ」

「記憶を捏造するな!お前が全ゲーム制覇して『つまんねえな……俺を本気にさせるゲームはここにも無いのか……』とか言ってたんだろ!」

「そんな中二テイストだったか?」

「ごめん、少し盛ったわ」

「だよなー」

 

そんな会話を交わしながら自動ドアをくぐり、ゲームセンターへと入って行く。店内は様々なゲーム台が所せましと並んでおり、ゲームの音、熱狂する客の声にあふれていた。実を言うと優介はこの騒がしさが苦手だった。だから、1年の時最初に隆盛に誘われた時はあまり気乗りはしなかった。だがそれは優介が今までゲームにそこまで集中できていなかっただけで一度ゲームに集中すると周りの音はそこまで気にならなかった。隆盛に至っては対戦相手の優介の声すら聞こえていなかったのを今も憶えている。

 

「んで?どれやんの?」

「とりあえず、最初はあれかな」

 

本当は目当てのものがあるのだが、まずは肩慣らしがしたかったので適当にガンシューティングを指さす。昔流行っていた、スパイという設定の主人公が敵のアジトで襲いくるCPUを撃つというゲームで、スパイなのにすでにスパイできてないという謎なところが人気の理由だった。

 

「ガンシューか、いいね」

 

隆盛も乗り気なようで財布から小銭を出す。横からちらりと見ると小銭入れには大量の100円玉が入っていた。以前「よくそんなに100円玉持ってるな」と聞いたら「100円じゃないとゲームできないだろ。おつりとかで50円渡された時の怒りは半端ないぞ」などと言われたので、それからしばらく隆盛に小銭を渡すときはなるべく100円玉にしていたのを思い出してつい笑ってしまう。

 

「なんだよ?このガンシューってコメディ系だっけ?」

「コメディで頭撃ち抜かれたらCPUのおっさん達が不憫でしかたないね!」

「ゾンビのほうは女かもしれんぞ」

「そういう問題じゃねえ!」

 

バカらしいやり取りをしながら二人は100円玉を入れる。

 

「で、モードは?」

 

このゲームには1人用のサバイバルモードと2人用協力のツインモードと2人対戦用のバトルモードが設定されており、昔遊んでいたころはツインモードを選んでいた……というよりは隆盛が強すぎて選択肢がそれしかなかった。

 

「バトルモードで」

 

だが、優介のまさかの選択に隆盛はわずかに驚きを見せる。

 

「お前、チャレンジャーだな」

「人間はいつだってチャレンジャーなのだよ」

「は?なんだそれ」

 

「お前の真似だよ!」と背中をたたいてやろうかとも思ったが、それよりも大事なことがあるのでそちらを優先する。

 

「なあ隆盛、賭けをしないか?」

「急になんだよ?」

 

隆盛の疑問も最もだ。普段なら優介は勝負しようとか賭けをしようなんて絶対に言わないのだから。

 

「いいぜ。内容は?」

 

だからなのか、隆盛は乗ってきた。その反応に内心にやりとしながら用意していた内容を提示する。

 

「今日のゲームで俺が一つでも勝ったら明日、俺の言うことをなんでも聞いてもらう」

 

隆盛は間の抜けた表情で一時停止する。こんな顔も今まで見たことがない。ひょっとしたら望は見たことがあるのかもしれないが。

 

「悪い、ちょっと待ってくれ」

 

そういって隆盛はゲーム台の陰に移動する。それと同時に優介の携帯が振動する。画面には『手島隆盛』と表示されている。これはどういうことだろうか。よくわからないままとりあえず通話ボタンを押す。

 

「もしもし?」

「あ、俺だけど。今お前とめっちゃ似た人と間違ってゲーセン入っちゃってさ。まだオブジェのとこにいる?」

「いや、それが俺だよ!どんだけまわりくどいボケかましてんだ!」

 

勢いよく電話を切る。すると台の陰にいた隆盛がゆっくりと出てくる。

 

「これは……宇宙人の仕業か?」

「それはもういいっつの!」

「で、なんだっけ?今日俺が負けたら明日言うことを聞けと?」

「そうだ」

「俺は一敗でもしたら負けで明日一日拘束されるって、すげえ横暴だな。それじゃあ俺が勝ったら何してくれるんだ?」

 

その返答はごくごく普通だ。誰だってそう言うだろう。だから、特に捻ることもなく普通のことを言うことにした。

 

「俺が負けたら、一週間言うこと聞くってのでどう?」

「なにこれ、エロ同人?男同士で?」

「どうすんの?乗る?降りる?」

 

隆盛の冗談は無視して返答を急かす。

 

「わかったよ。どうせ優介が俺に勝つなんてあり得ないしな。さて、一週間だとゲームソフト何本買ってもらえるかね」

 

恐ろしいことを言っているが、今更引くわけにもいかない。

 

「決まりだな」

 

平常心を装ってはみるが、ものすごく不安になってきた。だが、それくらいがちょうどいいのかもしれない。

 

「てか、何をそこまで必死に……」

 

『バトルモード、設定が完了しました』

 

隆盛の言葉を遮るように操作を進め、コントローラーを手に取る。

 

「お、おい!そりゃないだろ!」

 

あわててコントローラーを手に取る隆盛を尻目に、仁義なき戦いは始まる。

 

 

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