お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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24. 負けられない戦い

仁義なき戦いなのだから無論手加減なんてはなから期待していない。自分の実力で、隆盛に挑んで勝つ。そもそも賭けの内容は圧倒的にこちらが有利だ。なにせ一回でも勝てばいいのだから。1年前に比べれば優介も大分上達している。いくら隆盛が強くても付け入る隙は必ずある。それが優介の算段だった。

 

『YOUR LOSE!』

 

だが画面に表示されるのは敗戦通知ばかり。ガンシューティングも音ゲーも格ゲーもメダルゲーも、とにかく対戦できるゲームを片っ端からやってみるが隆盛には一分の隙もない。ただただ100円玉が減っていく。気付いた時には小銭入れには17円しか入っていなかった。少しためらったが財布から1000円札を取り出し、両替機に入れる。すぐにジャラジャラと音を立てて100円玉が出てくる。これで4回目の両替。つまりは既に3000円以上溶かしている事になる。

 

「お前、金大丈夫か?」

 

隆盛は自販で買ったメロンソーダを飲み終え、缶をゴミ箱へ放る。

 

「別に、大丈夫だって」

「大丈夫な奴がそんな渋い顔で両替するか?」

「うぐっ」

「バイトもしてない学生が無駄遣いすんなって」

 

正論なので何も言い返せない。だが、やめるわけにもいかない。何としてでも勝たなきゃならない。それが伝わったのか隆盛は「やれやれ」と呟くと、ある方向を指差す。

 

「俺も今月は他に金使う用事あるし、次で最後な。あれなら最後にちょうどいいだろ?」

 

差された方を見ると、そこには見知ったゲーム台があった。

 

「そうだな、俺もあれが本命だった」

 

「ビクトリーイレブン」。優介と隆盛が今までで一番プレイしたサッカーゲームで、唯一何度か隆盛から勝利をもぎ取った事があるゲームでもある。今年の春から各地のゲームセンターで導入され、話題になっていた。それを聞いたからこそ、ここで勝負を挑んだ。

 

「そんじゃ決まりだな」

 

隆盛は100円玉を入れる。優介もそれに続き、二人はモニターの前の椅子に座る。

 

「チームどうすっかなー」

 

隆盛は早速チーム選びを始めている。ビクイレにはJリーグのチームから外国のクラブチーム、各国の代表チームまで全てが収録されている。ゲームセンターの機体は専用のデータカードを使うとオリジナルチームを使えたりもするのだが、二人ともカードを持っていない。

 

「じゃあ、俺はこれ」

 

特に何の迷いもなくフランス代表を選択する。それを見て隆盛は苦笑する。

 

「お前、容赦ねーな」

「今までのゲーム内容からして、それブーメランだろ」

「まー確かに。んじゃあ俺はこれ」

 

隆盛が選んだのはヨーロッパのクラブチーム。とはいっても有名どころではなく、あまり目立たないチーム。優介もチーム名は知っていたがどんな選手がいたかまったく憶えていない。憶えていないということは選手個人のステータスもそれほど高くは無いはず。世界でもトップクラスの実力を持つフランス代表に対して、なぜそんなチームを選択したのか。

 

「よくわかんないけど、画面進めてもいい?」

「おう。久しぶりだなこの感じ。ワクワクする」

「どこの戦闘民族だお前は……」

 

ツッコミをいれつつも画面を進め、選手の配置を決定する。

 

「それじゃあ、いくよ」

「いつでもこいやあ」

 

隆盛の言葉を合図にスタートボタンが押され、キックオフ。最初にボールを持っているのはフランス代表、優介の選んだチームだ。取りあえず中盤でボールをキープしながらラインを上げて攻めていく。やはり世界最高峰、ボール運びがとてもスムーズだ。あっという間にゴール前へと攻め込んでいく。そしてクロスが上がりヘディングで合わせる。あっという間に1点を入れた。

 

「っしゃあ!」

 

思わず声が大きくなってしまう。「どうだ」と言わんばかりに隆盛の方を見ると、どういうわけかその表情は余裕そのものだった。

 

「悪い、いったんフォーメーションいじるわ」

 

そう言って隆盛はメニュー画面を開く。十秒程度で操作は終わり、隆盛のチームのボールで試合が再開する。

 

「は、はあ!?」

 

だがその瞬間優介は絶句する。それもそのはず、センターサークル付近、つまりはフォワードのポジションにいる選手が5人もいる。つまるところ5トップ。そういう陣系があるのは知っていたがまさかここでそんな事をするなんて全くの予想外だった。

 

「これ、ミスったの?もっかいメニュー開く?」

「いいや、俺は大真面目さ」

 

よくわからないがこんな陣系ならボールを取れればディフェンスはすぐ崩せる。そう思いディフェンダーを操作してプレスをかける。が、すぐにパスが出されかわされてしまう。

 

「あ、くそ!」

 

ボールはサイドを走る選手にわたり、それに対応しようとしても上手くいかない。結果シュートを決められてしまい、同点になってしまった。

 

「お前、何したの?」

 

これはゲームの不具合だろうか。そう思いながらも隆盛に疑問を投げかける。

 

「別に不具合とかではないってだけ言っとくよ」

「なんだよそれ……くそ、もう一点もやらないからな!」

 

と、大口をたたいたもののその後2回もゴールを決められ、3対1で前半は終了してしまった。

 

「な、なんでだ……」

 

後半までのロード時間、優介はがっくりとうなだれる。このままだと大量のゲームソフトを買わされる羽目になってしまう。それどころか賭けをした意味すら危うくなる。

 

「なんでか分かんないか?」

 

隆盛がコントローラーのボタンをさわりながら問いかけてくる。

 

「わからん」

「お前、なんでフランス代表選んだんだ?」

「それは……勝ちたいからだよ」

「つまりは強いと名高いからだろ?」

「まあ、そうだな」

「でもお前、フランス代表がどういう戦法で強いか知ってるか?」

「それは……」

 

知らない。サッカーの試合を見ていても、そのチームがどんな戦法を得意としているかなんて気にして見たことが無い。

 

「フランス代表は全体的にバランスがとれた良いチームだけど、一番のウリは中盤以降のディフェンスの堅さ。しっかり守ってカウンターで点を取るチームなんだよ。だからこそ、それに対抗するにはディフェンスを崩すしかない。特にサイドバックを崩せればなおよしだ。」

「だから5トップなのか……」

「スポーツ見てると、やっぱり個人の突出した技術とかに焦点があたりがちだけどさ、それが機能するのはやっぱり周りの選手や監督、もっというとサポーターや家族なんかの環境全てが整ってればこそなんだよ。人一人で出来ることなんてたかが知れてるんだ。だからこそ理解しあえる仲間と目標に向かう。それって人生そのものの本質なんだと思う」

 

確かに、優介はただ強いというだけで詳しく知りもしないチームを選んだ。それではただ個人技が上手い選手の集まりであってチームでは無い。互いが互いを理解し合っているからこそテレビで見るような連携が生まれている。ふと、優介は麻耶の事を考えていた。麻耶の近くにも彼女を理解し、一緒に何かができる人がいれば良かったのではないか。もしそうだったら、麻耶の人生は今とは違ったかもしれない。そして優介はそれにを『なりかけていた』のではないか。だとしたら……。

 

「お、ロード終わったわ。後半後半」

「なあ、隆盛」

「んー?」

「ありがとな」

「はあ?なにがだよ?」

「たくさん情報アドくれて。後半は俺が貰う」

 

照れくさくて誤魔化すことにした。

 

「いいって、このまま圧勝なんて最終戦にしちゃ味気なさすぎるからな。全力の相手を倒してこそだろ」

「ホントに戦闘民族かなんかなのか……?」

 

後半は隆盛のアドバイスもあり、優介は3対3と追いつくことに成功した。隆盛もそれに焦りを感じたのかなかなか追加点を入れることができないようだった。そのまま後半も終了間際になっていた。こうなるとやはり実力の高いフランス代表が優勢で、今も相手陣へと攻め込んでいる。だが、隆盛のチームも全員で守りに入っており、なかなか崩せない。

 

「くそ……このままだと引き分けだな」

 

隆盛が引き分けを狙うことは無いだろうが、結果として引き分けになってしまうと賭けは隆盛の勝ちになってしまう。なんとかでフェンスをかいくぐり、無理やりシュート体勢に入る。

 

「おーいまてよ!」

「はやく次のゲームやろーぜ!」

 

その瞬間、小学生ぐらいの男子が二人、こちらへ走ってきた。そのうちの一人が誤って隆盛の背中にぶつかってしまう。

 

「ぬおっ!」

「あ、ごめんなさい!」

 

男子は謝るとすぐに走り去っていく。その間にシュートは決まってしまった。そしてそのまま試合終了。4対3でフランス代表、優介の勝ちになった。

 

 

 

 

「なんか、釈然としないんだけど」

 

ゲーム後、外のコンビニで買ったコロッケを食べながら優介はぼやく。

 

「なんだよ、せっかく俺から勝利を勝ち取ったんだからもっと喜べよ」

「だって、思わぬアクシデントだったろ。むしろ隆盛はあれを負けにカウントするのか?」

「どんな形であれ負けは負け。アクシデントも俺の勝負運が無かっただけだって」

 

それはそうかもしれないが、アクシデントによる勝利で賭けを成立させるのはなんだか罪悪感がある。

 

「わかったよ。それじゃあ明日言うこと聞く代わりに優介にも一つ聞いてもらおうか」

「それならまあ……」

「小説、俺にも読ませてくれよ」

「え?」

 

意外な発言に目を丸くする。なぜ隆盛がそれを知っているのだろう。優介が小説を書いたのを知っているのは悠里と蘭子だけのはずだ。

 

「レポート書くからって理由だけで何週間も部屋に来るなって、そんな大学生がいるわけないだろうよ」

「気付いてたのか?」

「まあな。邪魔しちゃ悪いだろうと思って黙ってたけどな」

「お気づかいどうも」

「礼より現物を見せてほしいもんだな」

「わかったよ。今度遊びに来た時にな」

「あ、それと」

「まだなんかあんのか?」

「狭霧ちゃんとのこともちゃんとしとけよ?」

 

悠里にしても隆盛にしても、本当によく見ているものだ。それとも優介の感情はそこまでわかりやすいものだろうか。隆盛の言葉に優介は笑う。

 

「なに笑ってんだよ。せっかく真面目に心配してんのに」

「いいや、別に。でも、隆盛に言われなくても、ちゃんとするよ」

 

ちゃんとする。麻耶にしっかりと自分の気持ちを伝える。それが、麻耶の世界にもう一度踏み込むための優介のけじめだ。

 

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