お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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25. 2つの想い

「うわー、結構降ってるな」

 

翌日、7月26日は生憎の雨模様となった。天気予報によると今日明日はずっと雨が続くらしい。そんな日になぜ優介が出かけようとしているかというと、今日から悠里の大会が始まるからだ。初日である今日は隣町の総合体育館で関東予選Aブロックの試合が行われることになっていて、深奥大学バスケ部もAブロックに配属されている。

一度外に出た後、部屋に戻って傘を取ってくる。再度部屋から出た時、ちょうど蘭子が管理人室から出てくるところだった。

 

「あ、おはようございます大家さん」

「おはようございます桜井君。お出かけですか?」

「はい。今日は悠里の部活の大会があるんで隣町まで」

「そうですか。それじゃあ私もここから応援しています」

「ありがとうございます。悠里に伝えておきます」

 

悠里は出場選手なので優介より先に現地へ向かっている。だから優介は一人でバスに乗り隣町へと向かった。土曜日でも車内は込み合っている。吊革につかまりなんとか体勢を保ちながら携帯を起動し、大会のホームページで試合の時間を再確認する。深奥大学の最初の試合は10時半からなのでこのバスでちょうどいい。わざわざ目覚ましを二つもセットした甲斐があったというものだ。

 

「次は、……町です」

 

客の中の誰かが降車ボタンを押す。優介の位置からは押せなかったのでありがたいと思いつつ財布から小銭を取り出す。

 

「えーっと体育館は……」

 

バスを降り、携帯のマップ機能で位置を確認しながら体育館へ向かう。10分くらい歩くと、大会運営のスタッフの様な人たちが誘導しているのが見えた。

 

「観客の方はこちらの入り口から入場してください」

 

手で示された方を見ると入口が二つあり、観客は左で関係者は右から入るようだ。優介もそれに従い入場する。途中で記念にパンフレットを買っておいた。パンフレットには大会の歴史や今年の出場校のデータなんかが載っている。深奥大学のページを見ると、かなり高い評価がされていた。やはり望の存在が大きいのだろうか。

 

「ってあれ?ここどこだ?」

 

パンフレットに集中しすぎていたせいか迷ってしまったようだ。辺りを見渡してみるが案内表示もなにもない。あたふたしていると後ろから肩をたたかれる。

 

「おわあ!」

「きゃあ!」

 

大きな声を出してしまうと、同時に悲鳴も聞こえた。振り向くとそこにいたのはよく知った人物だった。

 

「なんだ悠里か、びっくりした」

「それはこっちのセリフだって!」

 

ウォーミングアップで走っていたのか、悠里は額から汗を流している。

 

「てか、ホントに見に来たんだね」

「迷惑だったか?」

「ううん。そんなことないよ。むしろ嬉しい。頑張ろうって思えるから」

 

嬉しそうな悠里の気分を壊したくは無いのだが、遠慮がちに質問する。

 

「望先輩は大丈夫か?」

 

すると悠里は少し困った顔をする。

 

「キャプテン、やっぱり練習に集中できなくて今日はベンチスタートなの」

 

想像以上にひどい状況らしい。隆盛が望を豆腐メンタルと言ったのも間違いではなかったようだ。

 

「でも、途中で出る可能性はあるんだよな?」

「そうだね。やっぱりキャプテンがいるかいないかで結構違うから」

「なら、案外大丈夫かもしんないぞ」

「どうゆうこと?」

 

その質問には答えずに、パンフレットを開いて悠里に向ける。

 

「なあ、どの席が一番見やすい?」

「え?うーんとここかな」

「ここか。わかった。それじゃあ俺、行くよ。頑張ってな」

「あ、まって桜井!」

 

歩きだしたところを悠里に引き留められる。

 

「なに?」

「えっと……その……」

「ん?」

「今日、大会が終わったら話があるから」

「話?なんだよ?」

「終わったらって言ってるでしょ!桜井のバカ!」

「その怒りは理不尽じゃないか……?」

「いいから!あ、もう行かないと!それじゃ約束ね!」

 

そう言って悠里は走って行く。

 

「話ってなんだろ?まあ、いいか」

 

本人が大会の後だと言っているのだから今は気にしても仕方ないだろう。優介も観客席へと歩き出す。

 

「しまった!悠里に観客席の場所聞いてなかった!」

 

その後10分間、優介は体育館をさまようのだった。

 

 

 

 

 

***

 

なんとか観客席にたどり着いた時にはすでに深奥大学の試合が始まっていた。汗をぬぐいながら開いている席に座る。得点表を見るとどうやら深奥大学バスケ部がリードしているようだ。とはいっても優介はバスケに詳しいわけではない。せいぜいダブルドリブルが反則だとかスリーポイントが決まると3点取れるとかそれくらいの知識しかない。だからこの点差が圧倒的なのか僅差なのかわからない。分からないが選手の中から悠里を探すことには困らなかった。

ちょうど今パスを受けた悠里が敵陣へとドリブルで切り込んでいく。

 

「すごく速いドリブルだな……」

 

そういえば今まで悠里がバスケをしている姿をほとんど見たことが無い。鍋をしたあの日に体キャンでシュートをしているのを見たくらいだ。だからこそ、コートを駆ける悠里の姿は輝いて見えた。優介の視線は悠里にくぎ付けになる。バスケをする彼女の姿は他の誰よりも一生懸命で、あの時「一緒に頑張ろうと」かわした約束をしっかり守ってくれているんだと思った。

 

「俺は約束、守れてないな……」

 

言いだしっぺの優介は落選してしまったのだから。それでも今日、こうして頑張る悠里を見て、あることを決心できた。

そうこうしていると、ボールが相手チームへと移っていた。予選とはいえどの選手も俊敏な動きを見せている。ドリブルで切り込んだ選手を起点に何本かパスがつながる。その軌道に目を奪われているとあっとうまにゴールが決まってしまった。

 

「まあ、でもまだ点差あるしな……」

 

そう思っていたのもつかの間、相手チームのペースになってしまい立て続けに点が入ってしまう。得点表をみると、とうとう逆転されてしまったようだ。

 

「みんなー!切り替えていこー!」

 

悠里の声にチームメンバーたちは大きな声で返事をするが、肩で息をしていたりと疲労が目に見える。そんな中、選手の一人が足を抱えて倒れていた。どうやら負傷してしまったようだ。すぐにベンチから控えの選手が走ってきてその選手をベンチへと連れて行く。この分だと選手交代は必然だろう。すると、急に周りがざわめきだす。

 

「おい、深奥の次の選手……」

「まじかよ、ベンチにいるから調子悪いのかと思ってたぜ……」

「あれが、去年全国で活躍した……」

「高坂望……」

 

交代選手はなんと望だった。周りの反応からするにやはり望はかなり有名な選手の様だ。コートに入ってきた望に悠里が駆け寄り、何か話しかけている。

 

「よーしみんな!攻めてくよ!」

 

望がチームを鼓舞すると、チームメンバーたちの表情に活気が戻ってきた。悠里が言っていたようにいるかいないかでかなりの違いがあるようだ。それに望自信も優介が思っていたより格段に元気に見える。そんな中、試合が再開される。深奥の選手たちが細かくパスをつないで再び敵陣へと攻め込む。

 

「キャプテン!」

 

そして悠里から望へとパスが回る。すると、相手の選手が2人がかりで望にプレッシャーをかけるが、望はそれをすらりとかわす。

 

「うわーなんだよあの動き!」

「高坂半端ねーって!」

「あんなフェイント出来ねーだろ普通!」

 

再び周囲がざわめく。確かに今のプレイは素人目にみても半端じゃない。そして望はそのままシュートをうつ。綺麗な弧を描いたそのシュートはすらりとゴール……すると思われたがリングに当たり外れてしまう。それを見た相手チームの選手はほっと胸をなでおろしている。

 

「おい、高坂が外したぞ」

「あいつが公式戦でシュート外すなんて滅多にないだろ」

「これは相手にとってはチャンスだな」

 

どうやら今のシュート失敗は望にしては珍しいらしい。やはりメンタル的な問題だろうか。

 

「いや、でもロボットじゃないんだから毎回決めるってのもおかしいだろ……」

 

と思っていたがその後望はことごとくシュートを外してしまっていた。もちろん望以外の選手もシュートを狙ってはいるのだが、相手のディフェンスが堅く突破できないため、望に回すしかないという状況だった。

そこで笛が鳴る。パンフレットの最初のページによるとバスケは10分間の競技を4回やるらしく、その間に短い休憩のインターバルと長い休憩のハーフタイムがあるらしい。今はちょうどハーフタイムのようだ。

ハーフタイムは10分程度の様なので優介は飲み物を買い入口近くのに自販機へと向かった。

自販機には先客がいた。その人物は小銭入れをジャラジャラと鳴らしながら200円を自販機にいれる。それを見て思わず笑ってしまう。

 

「やっぱり50円も必要だろ?」

「全くだ。今度からは財布を二つ持ち歩くことにするよ」

 

その人物、隆盛はスポーツドリンクのボタンを押しながらそう答える。

 

「来てたんだな」

 

その言葉に隆盛は呆れた顔でこちらを見る。

 

「お前が言ったんだろ」

「口約束だったからドタキャンもあり得るかなと思ってさ」

「流石に一度乗った賭けの内容を無かったことにはしねーって」

 

昨日のゲームセンターでの賭けに勝った優介が隆盛に命じたのは今日ここに来ることだった。そして隆盛はここに来た。それで何かが変わる確証は無いが、変わるはずだと優介は思っていた。

 

「それで、試合を見た感想は?」

「嫌なことを思い出しまくって吐きそうだ」

「望先輩とのことか」

「性格悪いぞお前」

「お互いさまだろ?」

 

その返しに隆盛は大きな声で笑う。優介もそれにつられてしまう。

 

「俺さ、初めて会った時、優介って凄くつまらないやつだなって思ったんだ」

「急に罵倒!?」

「まあ聞けって」

 

隆盛はスポーツドリンクを一口飲むと話を続ける。

 

「口を開けば普通普通って、一度きりの人生を最初から投げてるんだなって思って内心むかついてた」

「おい」

「でもそれってさ、どこか俺に似てたからなんだよ。バスケをやめた時、サッカーをやめた時、俺もそれが普通だと思った。才能のある奴には勝てないんだから諦めても普通だって言い訳してた。そんな自分と優介を勝手に重ねていらついてたんだ」

「そんなにいらついてたのによく俺と友達になろうとか思ったな」

「類は友を呼ぶってやつ?」

「そんな類にはなりたくないね!」

 

「冗談だって」と隆盛はオーバーに両手を上げる。

 

「でも、今の優介は違う。もう見ててつまらないとは思わない。それはきっと天草や望、そして狭霧ちゃんと会ったからなんだろうな」

「それは……」

「さて、そろそろ試合再開だな。俺先に行ってるわ」

 

ペットボトルをくるくると投げながら隆盛は行ってしまう。優介が飲み物を買って観客席に戻った時にはもう隆盛の場所は分からなくなっていた。

そして試合は再開される。深奥のメンバーに変更は無い。やはり望を起点に得点していこうという作戦なのだろう。実際望が入ってからは深奥の方がボールを持っている時間が長い。だが、やはり相手から点を取ることができない。どうやら最初にみた点差は僅差だったようだ。

 

「あ、あぶない!」

 

隣の観客の言うとおり、深奥の選手と相手の選手がぶつかってしまう。それを見た審判がフリースローを指示する。深奥にとっては願ったりかなったりだ。ここでシュートが決まれば試合の流れを掴める。そんな中、ボールを持ったのは望だった。

 

「高坂のフリースローか。これは決まるだろ」

「いやいや、でもあいつ今日は調子悪そうだし、外すかもしれねーぞ」

 

またも周囲がざわつく。それほどにこのフリースローは重要だということだろう。

笛が鳴る。選手たちが固唾をのんで見守る中、望がシュートする。大きなな弧を描いたそのボールはリングにあたりはねる。「入った!」と誰もが思ったその瞬間、ボールはリングの外へと落ちて行った。外れてしまったのだ。周りから残念そうな声と嬉しそうな声が聞こえる。望本人もがっくりとしている。

 

「切り替え切り替え!」

 

悠里がみんなを元気づける。こうして見ると悠里はチームでも望と同じくらい頼りにされているのがわかる。得点表の横にある電光掲示板によると試合時間はあまり残されていない。選手たちもそれが分かっているからこそ気を引き締めながらプレイしている。

 

「望先輩、お願いします!」

 

再びボールが望にわたる。だが受け取った望はというと全く集中できていないようだった。このままだと確実にボールを取られてしまう。

もしここで失敗したら望は立ち直れるだろうか。

隆盛はこの状況をどう思っているのだろか。

このまま試合が終わってしまったら2人はどうなってしまうのだろうか。

そんなネガティヴな思考が頭をめぐり、つい視線を足元に落としそうになったその時、

 

「なにやってんだ望!」

 

観客の声援の中からひと際大きな声が体育館に響いた。それに驚いた観客の声が一瞬やむ。優介がその方向を見ると口に手をあてて叫ぶ隆盛の姿があった。

 

「まだ試合は終わってねーぞ!俺に見せてくれよ、楽しいバスケを!」

 

望は目を見開いて隆盛の方を見る。たった一瞬のことだったが二人にはそれだけで十分だった。すぐに相手のディフェンスがプレスしにくる。だが望は最初に見せた以上のフェイントでそれをかわす。そしてシュート体勢に入る。望と隆盛の想いを乗せたボールはゴールネットの中をすらりと抜けた。

 

 

 

 

 

***

その日の夕方。今日行われる全ての試合が終わり、観客も選手も帰り始めていた。優介もその波に乗り体育館を出る。天気予報通りまだ雨は降り続いている。深奥バスケ部は望の活躍のおかげで見事全国大会への切符を手にした。

ふと、隆盛と望が自販機の前で話しているのが見えた。

 

「隆盛、来てたんだね」

「おせっかいな親友がうるさくてな」

「試合見てどうだった?」

「ああ、良い試合だったな」

「でも私、ミスばっかりだったし、恥ずかしいとこ見せちゃったね」

「何言ってんだバカ」

「……え?」

「試合見てて思ったよ。やっぱりお前は凄いなって、俺なんかとは全然違うんだなって」

「隆盛、それは……」

「良いんだよこれで。俺の本心がそう思ってるんだ」

 

何か引っかかっていたものがとれたように隆盛は話す。

 

「そして、やっぱり俺はバスケが好きだ。そんで……」

 

望を真っすぐ見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「バスケをしているお前が好きだ」

 

隆盛のその表情は今までで一番柔らかなもので、きっと望にしか見せない顔なのだろう。

 

「隆盛……」

「俺さ、スポーツカウンセラーになりたいんだ」

「スポーツカウンセラー?」

「そう。スポーツをしている人の中には俺みたいに周りの重圧でつぶれる人もたくさんいる。でもそれって凄くもったいないんだって身を持って分かった。だから俺はそういう人を支ええて行きたいんだ」

「……そっか。そんなこと考えてたんだね」

「……はは。やっぱ笑えるか?」

「ううん。凄く素敵な夢だと思う。……私、応援するよ!」

 

 

望のその表情もまた、今までで一番穏やかなもので、きっと隆盛にしか見せない顔なのだろう。

 

「キャプテン。よかった……」

 

いつの間にか隣にいた悠里が二人を見ながら呟く。

 

「悠里もおつかれ。そして全国出場おめでとう」

「うん。ありがとう。全国でも頑張ってくる」

「そう言えば話ってなんだ?」

「えっ!?そ、それはその……」

 

悠里は顔を真っ赤にしてあたふたしていたがすぐに何かを決心したようにこちらを見る。

 

「桜井、私ね……」

 

悠里が話を切り出したちょうどそのとき、優介の携帯が鳴った。

 

「あ、ごめん!」

「う、ううん。出ていいよ」

「悪いな」

 

携帯を見ると表示されている電話番号には見覚えが無かった。警戒しつつも通話ボタンを押す。

 

「もしもし?」

「あ、桜井君?私です、諏訪部蘭子です!」

「大家さん?どうかしたんですか?」

「それが、麻耶ちゃんが……」

「麻耶が?」

「麻耶ちゃんがいなくなっちゃったんです!」

 

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