お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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32. 祭りとメイドとお隣さん

今年の深奥祭は晴天だ。毎年この日は空模様が怪しいが、今年はその心配も無さそうだ。

広場では焼きそばにホットドック、唐揚げに焼きおにぎりなど、たくさんの香りがテントから匂ってくる。

そんな中、優介は約束の場所で麻耶を待っていた。麻耶の希望により今日は文芸部のシフトの時間まで麻耶と学祭をまわることになっている。女子と学祭をまわるなんて自分とは無縁のことだと思っていたが、いざそうなるとそわそわしてしまう。

だが、このそわそわは麻耶とまわるからという理由だけではない。先ほどから周りの視線が痛いのだ。

 

「これ、なんの罰ゲームなんだよ……」

 

視線を向けられる理由は優介の格好にある。今の優介の姿を一言で言うならトラだ。愛美に命じられるまま着せられたトラの着ぐるみ。全員が着ぐるみを来ている教室ならまだしもさすがに一人でこんな恰好でつっ立っていれば注目の的になってもおかしくない。

 

「あ、いたいた。おーい優介~!」

 

後ろから掛けられた声に反応して後ろを向く。そこに立っていた麻耶をみて少し驚く。今日の麻耶はいつも着ないようなふりふりの服を着ている。それに少しドキッしてしまう。だが、ぶしつけに見るのも良くなと思い視線をそらす。

 

「おはよう麻耶。というか、よく俺だって分かったな」

「文芸部は着ぐるみ着るって隆盛が言ってたから」

「あいつ、それでさっさと出て行ったのか……」

「あはは、でもその着ぐるみ可愛いね。ボクも後で借りようかな」

「やめとけ……セルフ公開処刑だぞこれは……」

「とりあえず、行こうか」

 

そう言って麻耶は優介の手を握る。とはいっても着ぐるみの手なのだが、それでも優介はびっくりしてしまう。

 

「お、お前!急にどうした!?」

「だって、着ぐるみだと歩きづらいでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

 

ただでさえ着ぐるみで目立っているというのに麻耶と手をつないだりしたら周りからもの凄い視線を向けられそうだ。

 

「けど?」

 

麻耶は心から不思議そうに尋ねてくる。

 

「なんでもありません……」

「ならよし♪」

 

麻耶は優介の手を強く握り歩き出す。

 

「ねえねえ、何食べる?焼きそば?それともたこ焼き?ああでもたいやきもいいなあ」

 

麻耶はテンションマックスのようだ。そんな様子を見ていると、もうすぐ麻耶がいなくなるという現実を忘れてしまいそうになる。

 

「ねえ優介、聞いてる?」

「聞いてるよ。取りあえず歩きながら食べられるものがいいんじゃないか?」

「じゃあ、たこ焼きにしよう!」

 

麻耶に手を引かれたこ焼き屋にたどり着く。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「たこ焼き8個入りを二つお願いします!」

「おい、俺まだ何も言ってないぞ……」

「多かった?」

「いや、食べられるけど」

「じゃあきまりね!」

「たこ焼き8個入り二つで800円なりますが……カップルにはおまけしてるんで700円になります」

 

どうやらこの店員からは優介たちはカップルに見えているようだ。手をつないで歩いているのだから当然と言えば当然だが。

 

「というか、俺この格好じゃ財布出せないじゃん!」

 

財布はポケットの中だ。

 

「あ、いいよ。ボクが払っとくから後で返して」

 

麻耶は財布から1000円札を取り出し会計を済ます。

 

「毎度あり~それとお幸せに~」

 

店員全員が生温かい視線を向けてくるので逃げるように退散した。

 

「う~ん。このたこ焼き美味しい~」

 

麻耶は早速用器を開け、たこ焼きを頬張り始める。優介もなんとか用器を持ち、つまようじを使ってたこ焼きを口に運ぶ。

 

「おお、確かに美味いな」

「次はなにがいいかな~」

 

麻耶は既に次の店を探し始めているようだ。

 

***

 

それから、焼きそばを食べたいやきを食べりんご飴を食べ、とにかく食べ続けた。どれも大学生が作ったものにしてはかなりの出来だった。問題は、優介の胃袋がそろそろ限界を告げているということだ。

 

 

「あ~結構食べたね」

 

ベンチに座りながら麻耶が呟く。

 

「結構っていうか、かなりだろ!俺はもう既に満腹だよ!」

「えーボクはまだ8分目だよ?まだ行けるって」

「普通は8分目でやめとくんだけどね!」

 

そんなやり取りをしていると、一人の学生が近づいてきた。

 

「すみません。学祭実行委員なんですけど、ホームページに載せる写真撮影に協力していただけないでしょうか?」

 

そういってこちらにカメラを向けてくる。

 

「写真?いいね、お願いします!」

 

優介としては着ぐるみのまま写真を撮られるなんて公開処刑でしかないのだが、麻耶は撮られる気満々らしい。

 

「ありがとうございます。それじゃあ彼氏さん、もっと近づいてください」

「いや、俺は彼氏じゃ……」

「またまた~。照れ屋な彼氏さんですね~」

「ほら優介、もっと笑ってよ!」

 

麻耶がぐいぐい近づいてくる。髪の毛からシャンプーのいいにおい香ってくる。

 

「お、おいあんまり近づくなって」

「はい、チーズ」

「え、ちょ、ちょっと!」

 

優介の抵抗も空しくシャッターの音が鳴る。

 

「ありがとうございます。引き続き深奥祭を楽しんでいってくださいね~」

 

実行委員は手を振って去っていく。

 

「さて、次はどのお店に行く?」

「も、もう食えないって!」

「じゃあ、校舎の中にいこっか。たしか喫茶店とかあるらしいよ!」

「俺の話聞いてた!?」

「さあさあ、れっつらごー!」

 

思えば、いつも麻耶はこんな感じだった。破天荒で、常識外れで。でも、そんな麻耶に振り回されることは嫌じゃなかった。むしろ、普通で平凡だった今までに比べれば楽しさにあふれていた。そんな日々が、もうすぐ無くなってしまう。

 

「優介?どうかしたの?」

 

でも、麻耶はこの学祭を最高の思い出にしたいと言っていた。それに答えるためには、優介自身も最高に楽しむだけだ。

 

「なんでもない。それで?喫茶店に行くのか?」

「うん!」

 

麻耶の笑顔はいつもにまして輝いて見えた。

 

 

***

 

「それで、ここがその喫茶店か」

「そうみたいだね」

 

優介たちの目の前にあるのは文芸部が使っているタイプの小さな教室。だが、入口には派手な装飾とポップな文字で『メイド喫茶 しなもん』と書かれている。

 

「……帰るか」

「ええ!なんでさ!さっきたいやき屋の人がここのコーヒーすごく美味しいって言ってたんだよ!」

「なんでじゃねえ!メイド喫茶だぞ?恥ずかしいだろ!」

「ボクは気にしないよ!」

「俺が気にするんだよ!」

 

女子と二人で、しかも着ぐるみをきてメイド喫茶に入るなんて罰ゲームの極みではないだろうか。だが、そんな優介と麻耶を見た周りからざわざわと声がする。

 

「なにあれ、痴話喧嘩?」

「ちっ、リア充爆発しろ……」

「というかなんで片方は着ぐるみ着てるの?」

 

このままでは完全に見せ物だ。早急にこの場から退散しなくては、そう思った矢先、麻耶が扉を開けてしまった。

 

「お、おい麻耶!」

「おかえりなさいませご主人さ……」

 

出迎えたのは当然だがメイド服を着た女子。しかし問題は服装ではなくその女子が優介たちの良く知る人物だったということ。

 

「……悠里?」

「さ、桜井!?なななんでここに!?」

「こっちのセリフだ!この前の時といいお前実はコスプレ趣味なのか!?」

「桜井だって着ぐるみ着てるじゃない!人の事言えないでしょ!」

「うぐっ」

 

正論で返され言葉に詰まる。

 

「お前らがコスプレイヤーなのは分かったから入り口で騒ぐのはやめてくれ。他の人が入ってこられないだろ」

 

声をかけてきたのは何故かウェイターの格好をした隆盛だった。

 

「え?お前何その格好」

「ブーメランだなってツッコミ待ち?」

「ちがうわ!純粋な疑問なんだよ!」

 

なぜ悠里がメイドで隆盛がウェイターの格好をしているのか。それがどうしてもわからなかった。

 

「お前、パンフレット読んだか?ここが何部の模擬店か書いてるだろ」

 

そういえば麻耶に振り回されていてパンフレットを読んでいる暇なんて無かった。だが、そこまで言われればパンフレットを見なくても理解できた。

 

「なるほど、ここは」

「そう、ここは我が女子バスケットボール部と男子バスケットボール部の合同喫茶店なんだよ!」

 

意気揚々と話しかけてきたのは悠里と同じくメイド服を纏った望だった。店内をよく見ると確かに大会の応援に行った時に見たことがある女子がメイド、そして長身で見るからに運動部っぽい男子がウェイターの格好をしていた。

 

「そういうことだ」

「いや、だとしてもバスケ部じゃない隆盛がなんでいるんだ?確か適当に回るとか言って無かったか?」

「回り始めて5分で望に捕まったんだよ」

「隆盛がいれば女の子のお客さんが増えると思って!」

 

流石、モトカノはモトカレの使い方が上手いといったところだろうか。

 

「さて、大体状況がつかめたところで、お席にご案内します。ミスタータイガー」

「誰がミスタータイガーだ!」

 

と言っても隆盛の言うとおりどう見てもミスタータイガーなのだが。

 

「しかし愛美もいいセンスしてるよね~。私はいいと思うよ桜井君!」

「え?望先輩って吉岡先輩と知り合いなんですか?」

「うん。ゼミが同じなんだ」

 

世間というのは意外と狭いものだ。そう思いながら案内された席に座る。麻耶はというと、さっそくメニュー票を見ている。

 

「ねえねえ何にする?オムライス?やっぱりオムライスだよね?」

 

向かいに座っている麻耶が身を乗り出してくる。

 

「ちょ、落ち着け!お前さっきコーヒーが美味いって言ってただろ!」

「え~でもメイド喫茶だよ?別名オムライスの里だよ?」

「勝手に命名するな!ちゃんとパンケーキとかもあるだろ!」

「あ、すみませーん。オムライス二つで~」

「おい!俺は何も言ってないぞ!」

 

しかし既に注文を取りに来たメイドはいなくなってしまっていた。なんというスピードだろうか。

 

「相変わらず中睦まじいことで」

 

入れ替わりに隆盛がお冷を持ってくる。

 

「本当に中睦まじかったら勝手に人の分注文しないだろ!」

「いやいや、ここのオムライス凄く美味いぞ。なんせ望が作ってるからな」

「あの人料理出来るのか……」

 

普段の態度からしててっきり出来ない人だと思い込んでいた。

 

「それを知ってるってことは隆盛はもう食べたの?」

 

麻耶の問いに隆盛は首を横に振る。

 

「食べてないよ。でも昔はよく食べてたから、そこからの推測」

「急にのろけ話か?」

「絶賛のろけ中の優介パイセンには敵わないって」

 

何か言い返してやろうとしたが、隆盛は他のテーブルに注文を取りに行ってしまった。

 

「えへへ、楽しいね優介」

 

麻耶が笑いかけてくる。

 

「まあ、確かに。俺もだけどやっぱり学祭ともなるとみんなテンション上がってるよな」

 

あの隆盛でさえいつもより浮ついている。これが祭りのテンションというやつなのだろう。

 

「最後に、たくさん思い出ができそうだよ」

 

最後。その言葉に優介は返せる言葉が無かった。

 

「お待たせしました。オムライスです。ご、ご主人様」

 

そんな沈黙を破ってくれたのはオムライスを運んできた悠里だった。

 

「お、おう。ありがとう」

 

さっきは勢いで話せていたが落ち着いてみるとこの前の告白の事を思い出してどうも

ぎこちなくなってしまう。

 

「と、当店ではメイドがご主人様のオムライスにケチャップでお絵かきをするサービスを行っていますがどうなされますか?」

「え、いいねそれ!お願いします!」

「か、かしこまりました」

「狭霧ちゃんのは私が書いてあげよう!なんでも言いたまえよ!」

 

いつからいたのか、望がケチャップをもって立っていた。

 

「え、何でもいいの?じゃあピカチュウがいい!」

「かしこまり!」

「さ、桜井はどうする?」

 

遠慮がちに悠里が聞いてくる。これだと何をリクエストしても恥ずかしい。

 

「え、えっと。思いつかないからメイドさんにお任せします」

「か、かしこまりました」

 

悠里はケチャップのふたをあけ、オムライスの上を走らせる。すぐに、オムライスの上に綺麗なハートマークが描かれた。

 

「……えっと」

「ち、違うの!ちょっと間違ったの!」

「ここまで完成度高いのにそれは無理あるだろ……」

「間違ったって言ってるでしょ!桜井のバカ!」

 

自暴自棄になったのか悠里はハートマークをかき消すように乱雑にケチャップをかける。

 

「お、おい!流石にかけすぎだろ!」

 

優介の制止も空しくオムライスは真っ赤に染まった。

 

「し、知らない!」

 

悠里は顔を真っ赤にして立ち去って行った。

 

「さ、食べよっか」

「食ったら血圧が上がりそうだけどな……」

 

そんなことを言いながらもスプーンを口に運ぶ。ケチャップの味の中にほんのりオムライスの味がする。本来比率が逆なのだが、食べられなくは無さそうだ。

 

***

 

「ふうー。美味しかった~。ごちそうさまです」

「ごちそうさまです……」

「どしたの優介?なんか辛そうだよ?」

「辛いんだよ!ただでさえ腹いっぱいのところにケチャップ特盛りのオムライスだぞ!?」

「あはは、今日の優介はいつもに増して面白いね」

「こんだけ食べて笑ってられるお前の方が面白いわ!」

 

重い体をなんとか動かし、会計へと向かう。とはいっても麻耶が立て替えるわけだが。

そんな時、一人のメイドが困った顔で望の方へ走って行った。

 

「望せんぱ……じゃなくてメイド長!大変です!」

「どうした!このメイド長になんでも言ってくれ!」

 

どうやらこの場では望はメイド長らしい。

 

「休憩に行った二人が戻ってきません!」

「何い!?あのバカップル、どこ行ったああ!」

「おそらく学祭を堪能しに行きました!」

 

なんとサボりが発生したようだ。これからお昼時だと言うのに人手不足は痛いだろう。

 

「むむむ……これからの時間が一番混むのに二人もいないなんて……」

 

望は眉間にしわをよせて考え込んでいる。

 

「要は二人補充すればいいんだろ?」

「そうだけど、人手に関してはカツカツなんだよ。隆盛分身してくれるの?」

「忍者か俺は。そうじゃなくてほら、そこに二人いるだろ」

 

なんだか隆盛がこちらを指差しているように見えるが、優介は気付かないふりをして退散しようと試みる。

 

「おーい、ミスタータイガー!助けてくれえ!」

 

だが、望によってその試みは失敗に終わったのだった。

 

 

 

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