お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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33.優介の気持ち

「今日の俺、傍から見るとただのコスプレイヤーだな……」

 

そうぼやきつつもトイレで着替えを終え、教室へ戻る。ウェイターの格好んなんて始めてするがこれは似合っているのだろうか。

 

「着替えました~」

 

教室に入ると望が駆け寄ってくる。

 

「おお!意外とかっこいいぞ桜井君!」

「意外なんですか……」

「まあ、隆盛の方がかっこいいからね」

 

これがモトカノフィルターだろうか。まあ実際優介も自分が似合っているとは思っていない訳だが。

 

「まあそれはともかく、早速仕事してもらっていいかな?」

「あ、はい。料理を運べばいいんですよね?」

「うん。流石にいきなり注文取れとは言わないよ」

 

一応その辺は考えてくれているらしい。

 

「そう言えば麻耶は?遅くないですか?」

「桜井君分かってないねー、女の子の着替えは時間かかるんだよ」

 

そういえば以前体キャンで悠里を待った時は2時間かかっていた。あの時はシャワーやメイクも含まれていたが。

そんなことを考えていると教室の扉が開いた。麻耶が戻ってきたらしい。

 

「……!」

「おお!」

 

歓喜の声を上げる望とは裏腹に優介は言葉を失っていた。それくらい、メイド服を着た麻耶に目を奪われていたからだ。周りの男性客も同様に言葉を失っているのが見て取れた。

 

「えへへ……どうかな優介?」

「えっと……」

「凄い!めちゃくちゃ可愛いよ狭霧ちゃん!」

 

何故か望が答える。だが麻耶はそれでは満足していないようで優介の方を見つめている。優介の言葉を待っているのだ。

 

「あ、ああ。凄く似合ってるよ」

 

なんとか声を絞り出す。それを聞くと麻耶は上機嫌で鼻歌を歌いだした。

 

「それじゃあさっきも言ったけど二人には料理と飲み物を運んでもらうよ。たぶん一番忙しいのは12時から1時くらいまでだからそれまでお願いね」

「かしこまりました、メイド長!」

 

どうやら麻耶はノリノリのようだ。優介もとりあえず返事をして仕事に移ることにした。

 

「本当にヘタレだよな優介パイセンは」

 

オムライスの皿をお盆に載せているとお冷を出し終えてお盆を戻しに来た隆盛が唐突に話しかけてきた。

 

「な、なにがだよ」

「女の子がメイド服着て『どうかな?』なんて上目遣いで言ってるんだから感想は『抱きしめたい』とか『ご主人様プレイしたい』とかだろ」

「実際に俺がそう言ったらどうなると思う?」

「まあ、間違いなくセクハラ変態タイガー呼ばわりされて残りの学生生活は灰色だろうな」

「だろうね!じゃあなんで言ったし!」

「周りはそうでも狭霧ちゃんは意外と受け入れてくれるかもよ?」

 

確かに、下着が落ちている部屋を男子に掃除させるくらいなのだからそれはあり得るかもしれない。思わずご奉仕してくれる麻耶を想像してしまう。

 

「ま、妄想するのもいいけど取りあえずそのオムライス3番のテーブルに運んでくれよ」

「お前が言ったんだろ!変に俺を刺激するな!」

 

文句を言いながらも一応仕事はこなす。3番テーブルに向かいオムライスをテーブルに置く。

 

「お待たせしました。オムライスになります」

 

自分でも凄く棒読みだと思うくらいのぎこちなさで定型文を唱える。

 

「ふふ、そんなに緊張しなくていいですよ桜井君」

「え?」

 

何故か名前を呼ばれたので客の方に目を向ける。そこに座っていたのはなんと蘭子だった。いつもと髪型や服装の雰囲気が違うので全然わからなかった。

 

「大家さん……なんか凄く久しぶりですね」

「そうですね。天草さんや手島君とは会っていたんですが桜井君とはタイミングが合わなくて会ってませんでしたね」

 

蘭子と最後に会ったのは夏休みに麻耶の看病をしていた時だ。それ以来は蘭子が福岡に行ったり優介が執筆で学校と自室を行き来するだけの生活を送っていたりで2カ月ぶりくらいだろうか。おそらく髪型も麻耶と一緒にイメチェンしたのだろう。

 

「というかいつからいました?」

「桜井君と麻耶ちゃんが着替えに出て行ったあとですかね」

 

どうやら入れ違えになっていたようだ。

 

「あれ、蘭ねえ!蘭ねえだ!」

 

別のテーブルで仕事をしていた麻耶が蘭子の存在に気付きまるで飼い犬のように一直線に駆け寄ってくる。

 

「こんにちは、麻耶ちゃん。メイド服、とても似合ってますよ」

「でしょでしょ!ねえねえ後で一緒に写真撮ろうよ!」

「あら、それはいいですね。是非」

 

良く考えてみると蘭子と麻耶が会話しているところなんてほとんど見たことがなかった。それは以前の麻耶が蘭子でさえ他の大人同様避けていたからだ。でも、今の二人は心から楽しそうに話している。まるで本当の親子のようだ。

 

「狭霧ちゃーん!こっちおねがーい!」

 

厨房スペースから望の声がする。

 

「かしこまり!それじゃあ蘭ねえ、ゆっくりしていってね!」

 

そう言い残して麻耶はまるで嵐のようなスピードで去って行った。

 

「なんというか、ああいうやつですよね、麻耶は」

「そうですね。昔から元気な子でしたから」

「あれは既に元気という枠をはみ出しているような気もしますけどね」

「そうかもしれませんね」

 

蘭子はほほ笑む。それを見ると優介も自然と笑えた。

 

「桜井君。ありがとう。そしてごめんなさい」

「え?」

「桜井君のおかげで麻耶ちゃんの世界は確かに変わりました。私も以前のようにあの子と話せて、心から嬉しいです」

「いえ、そんな……」

 

優介はあくまできっかけでしかない。本当に変わったのは麻耶自身がそう願ったからに他ならないのだ。

 

「それなのに、そんな君に引っ越しの事を隠していて本当にすみません」

「大家さんが言わなかったのは麻耶がそう望んだからですよね?」

「……はい。『優介には自分で言うから』と」

「なら、俺は別に怒りませんよ」

「本当にありがとうございます」

「オムライス、なにか書きましょうか?」

 

照れくさくなって適当な話題を振る。

 

「いえ、ケチャップあまり好きじゃないんですよ」

「なんでオムライス注文したんですか……」

「おーい桜井君!4番テーブルにコーヒー運んで~!」

 

再び望の声がする。

 

「それじゃあ、俺は行きますね。ごゆっくり」

「いえ、忙しい時間なのに引き留めてすみません。頑張ってくださいね」

 

蘭子はひらひらと手を振る。それに応えるように手を振り、優介は仕事に戻った。

 

***

 

優介たちが助っ人に入って1時間。ピークも過ぎ客足はだいぶ落ち着いてきた。店内にはゆったりとした時間が流れている。

 

「つ、つかれた……」

 

へなへなと空いた椅子に座りこむ。1時間不休で店内を歩き回ったのがそうとう堪えているようだ。

 

「おつかれ、桜井君。もう上がっていいよ。本当にありがとう!」

「はい……」

「桜井、大丈夫?」

 

ちょうど手が空いたのかテーブルを拭いていた悠里が心配そうに聞いてくる。

 

「大丈夫……だよきっと」

「何で他人事みたいに言ってるのよ……」

「しょうがないなあ。それじゃあ桜井君にご褒美をあげよう!」

 

望が高らかに宣言する。あの忙しい中ずっと料理していたのにこの元気はどこから来るのだろう。流石バスケ部キャプテン、恐るべし。

 

「ご褒美って?」

「一時間くらい、天草を好きにしていいよ」

「へ!?ちょ、ちょっとキャプテン!」

 

悠里が慌てふためく。

 

「エッチな意味じゃないよ?」

「それは当り前です!そもそも私、まだ仕事が……」

「でも天草一度も休憩入ってないし、このままだと私がパワハラメイド長になっちゃうから、休憩してきていいよ」

「で、でも桜井は狭霧さんと回ってた訳だし……」

「そこは上手く言っとくからさ、チャンスは有効活用しないとだよ?」

 

なにやら小声でささやく望。小声すぎて優介にはまったく聞こえなかった。

 

「で、でも……」

「ええい!このなんじゃく者め!ならお前はクビだ!さっさと出て行けえ!」

 

先程パワハラを否定していたメイド長の姿はそこには無く、優介と悠里は教室から追い出されてしまった。

 

 

「明らかなパワハラだったな」

「……うん」

「まあ、取りあえず1時間は店に入れてくれないだろうし適当にうろつくか」

「……いいの?狭霧さんは?」

「後で謝っとくよ」

 

いつまでも入口に立っていても仕方ない。1時間くらいなら校舎内を回っていればすぐに経過するだろう。そう思い歩きだした矢先、悠里に腕をつかまれる。

 

「なに?脱臼させようとしてんの?」

「違うわ!そうじゃなくて、この格好のまま校内を歩くのはちょっと……」

 

確かに、メイド服で公衆の面前を歩くのはかなり勇気のいる行為だ。着ぐるみでそれを味わった優介にはそれがよくわかる。

 

「でも、着替えあるのか?」

「……教室のロッカーの中」

 

だが、教室は今さっき追い出されたところだ。

 

「俺もウェイターの格好してるし、痛み分けってことで」

「ウェイターはまだいいでしょ!私メイド服だよ?恥ずかしいって!」

「似合ってるしいいんじゃないか?」

「え……?」

 

ついうっかりそんなことを口走ってしまい猛烈に公開する。今の発言を悠里はどう受け取っただろうか。

 

「わ、私はご主人様プレイとかしないから!勝手に妄想しないで!」

 

どうやらさっきの隆盛との会話を聞かれていたようだ。

 

「そういう意図で言ったんじゃないって!妄想もしてないから!」

 

なんとか弁解してみると、悠里は何を思ったか真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。

 

「し、してもいいよ」

「は!?」

「私と付き合うんだったらしてもいい……」

 

悠里のトンデモ発言に優介の思考は停止する。ただ体温が無制限に上がり続けるのを感じるだけだった。

 

「じ」

「じ?」

「冗談だから!ちょっと言ってみただけだから!」

 

そんなに必死に否定されると逆に冗談じゃないことが分かってしまうのだが、悠里にはそんなことを考える余裕はないようだ。最も優介にも余裕なんて微塵もない。悠里が話すたび動くたびにあの時の告白が脳裏をよぎる。

あの時、悠里は優介の気持ちは分かっていると言った。優介も自分の気持ちが麻耶に向かっていたことはなんとなく自覚していた。

でも、悠里は考えてほしいと言った。自分と付き合う未来も考えてほしいと。麻耶がいなくなった後の人生を想像することはできない。でも、悠里と付き合う未来なら想像できるのではないか。

 

「ちょ、ちょっと桜井?聞いてる?」

「え?あ、ああ、き、聞いてたよ」

「そ、そう?ならいいけど、なんか顔赤いよ?」

「さ、さっきケチャップまみれのオムライスを食べたからじゃないか?」

 

動揺して訳のわからない言い訳をしてしまう。

 

「なにそれ、関係ないじゃん」

 

そう微笑む悠里にドキッとしてしまう。

 

「さ、さて。どっか回ろうぜ」

「う、うん。そうだね」

 

服装についてなんら解決してはいないのだが、二人ともそんな事は忘れてしまっていた。

それだけ互いを意識しているのだから。

 

 

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