お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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34. 二人きりの時間

大は小を兼ねるという言葉の通り、敷地が大きい深奥大学の学祭はスケールが周辺の大学とは違う。先ほど麻耶と回った広場のみならず、校舎の中もかなりの模擬店が設置されている。視聴覚室では学生の作った映画が上映されているし、多目的ホールでは音楽サークルがライブをしている。他にも書道体験や脱出ゲームなど多種多様だ。

 

「やっぱり凄い規模だよな。去年よりグレードアップしてるし」

「そっか、桜井は去年も参加したんだっけ」

「え?悠里は参加して無かったのか?」

「うん。バイトで」

 

そういえば去年は学祭で悠里を見た記憶が無い。なんとなく去年も参加しているものだと思っていた。

 

「それなのに望先輩に言われるまでずっとメイドしてたのか」

「まあ、接客はバイトでしてたから、役に立てると思って」

「今年はバイト休めて良かったな」

「え!?う、うんそうだね、ホント偶然シフトが空いててよかった~!」

「なんでそんな棒読みなんだ?」

「う、うっさい!察してよ、桜井のバカ!」

 

優介が学祭で麻耶と回るということが、悠里には予想できていたのだろう。だから、自分も学祭に参加して一枚噛みたかったのだ。それは優介の事を想っていると同時に麻耶の事も友人として大切に思っているから、二人の邪魔をしたくないという気持ちと優介と一緒にいたいという相反する気持ちへの折り合いなのだろう。

 

「……」

「……」

 

何となく気まずい感じになってしまう。

 

「すみません、文芸部の人ですよね?」

 

二人がどぎまぎしていると、前からやってきた男子高校生が声をかけてきた。

 

「え、そうだけど……なんで分かったんだ?」

「さっき、メイド喫茶でトラの着ぐるみ着てたからです。文芸部のブースの人みんな着ぐるみ着てたし」

「やっぱりあれ、目立つんだな……」

 

とは言っても今現在も結構目立つ格好をしているのだが。

 

「あ、それでですね。これ、読んだんですけど凄く面白かったです!」

 

男子高校生は鞄から冊子を取り出す。よく見なくても、それが何か分かった。それは優介の作品だったから。

 

「登場人物が個性的で、とくにヒロインがすごく良かったです!」

「あ、ありがとう。それ書いたの俺なんだ」

「え!そうなんですか!作者さんと喋れるなんて、感激です!握手してください!」

 

作品を絶賛され、さらに握手なんてなんだか照れくさいが、のばされた手をしっかり握る。

 

「それじゃあ、頑張ってください!来年も絶対買いに来ます!」

 

男子高校生はぶんぶんと手を振り走って行った。

 

「どう?読者から生の声を貰った感想は?」

「やばいな。倒れそうなくらい嬉しい」

 

悠里の問いに、素直な喜びを示す。感想は貰えるとしてもSNS上だと思っていたので、目の前で貰えたことに感激していた。

 

「麻耶も、こんな気持ちだったんだろうな」

 

麻耶も、初めて自分の小説に感想を貰った時、似たような気持だったんだろう。スケール的には麻耶の数十分の一かもしれないが、初めて麻耶と同じものを見れた気がする。

 

「また狭霧さんだ」

 

悠里が少し不機嫌そうに口をとがらせる。そういえばデート中に他の女の事を言うのはタブーだと漫画で読んだことがある。最もこれがデートかと言われれば微妙なところなのだが。

 

「ご、ごめん。そう言えば2階の教室で写真部が浅漬けを売ってるって隆盛が言ってたぞ、行くか?」

 

ものすごく露骨だが、話題を変えようと試みる。

 

「桜井、お腹いっぱいなんじゃなかったの?」

「うぐっ」

「別に無理に普通にしなくていいよ。私もそんなの無理だから」

 

 

そうは言われてもこの状況で意識するなと言う方が難しい。

何か話題にできるものはないかと周りを見渡すと、なにかの看板を持った男子と目があった。こちらを認識した瞬間男子は駆け寄ってきた。

 

「そこのお二人さん!お化け屋敷どうですか!今ならカップル割で一人500円のところ二人で800円ですよ!」

「いや、俺たちはカップルじゃ……」

 

似たような言い訳を午前中にもした気がする。この学祭は全ての店にカップル割を設定するように強いられているのだろうか。

 

「ほらほら照れないで照れないで!」

「いや、照れてるわけじゃなくて……」

 

悠里も反論する。

 

「あ―いいですね、初々しい。だったら二人の仲を深めるって意味でももってこいでしょ!びっくりして抱きついたり暗がりであんなことやこんなことしたり!」

「軽いセクハラだな……」

「お願いしますよ~。お化け屋敷って人気あるようであんまり人来ないんですよ~。俺を助けると思って~」

 

なんとも暑苦しい客引きだが、そこまで言われるとあまり邪険にもできない。悠里に視線で尋ねると、『仕方ないね』と苦笑いを返してきた。

 

「……わかりました。行きます」

「おお!ありがとうございます!やさしい彼氏さんでよかったですね、メイドの彼女さん!」

「いや、だから私たちは!」

「お客様2名様ごあんな~い!」

 

祭りのテンションは末恐ろしいと感じる二人だった。

 

* **

 

「人が来ないっていうから粗末なものかと思ったけど……」

「これは……逆だな……」

 

お化け屋敷になっている教室の入り口には本物の血にしか見えないペンキで『究極の恐怖をあなたに!空前絶後のお化け屋敷!』と書かれた看板と不気味な装飾がなされている。とても軽い気持ちで入れるような雰囲気ではない。

 

「や、やっぱり浅漬けにしないか?」

 

情けないとは思いつつも撤退を提案してみる。

 

「で、でももうお金払っちゃったし……」

 

今更『やっぱりいいです』とは言いにくい。

 

「それじゃあ、いってらっしゃーい!」

 

後ろから背中を押されて教室内に押し込まれる。こうなったら覚悟を決めて進むしかない。そう思い進もうとすると悠里後ろからに手を引っ張られる。

 

「やっぱり脱臼狙い?」

「ね、狙わないわよそんなの!」

「じゃあ、どうした?」

「そ、その……暗いから、はぐれないように……手、つないでいい?」

 

今日だけで何回悠里にドキドキさせられているのか。今まではこんなに意識したりはしなかったのに、あの告白が優介の気持ちを大きく動かしていることは明白だった。

 

「そ、そうだな。はぐれたら困るもんな」

「うん……」

 

悠里の手をゆっくりと握り返す。すべすべして、温かい。その感触にまた心臓が跳ね上がる。

 

「リ~ア~じゅ~う~ば~く~は~つ~」

 

だが、その甘酸っぱいドキドキは突然陰から出てきた骸骨によってスリリングなドキドキへと塗りかえられた。

 

「「ぎ」」

「リ~ア~じゅ~う~」

「「ぎゃあああああああああああああああああ!」」

 

血の気が引くのを感じるのと同時に二人は走り出した。

 

「なにあの骸骨!質感とかリアルすぎるだろ!」

「か、感想とかいいから!」

 

ツッコミを入れる悠里の足を何かがつかんだ。悠里が機械のようにぎこちない動きで下を見ると貞子のような恰好をして恐ろしいメイクをした女子がにやりと笑った。

 

「きゃ、きゃああああああああああ!」

「ちょ、悠里!そのまま暴れたら転ぶ……」

 

貞子が足を離す前に逃げようとした悠里が転んだ先には幸か不幸か優介が居たわけで、二人は騒がしい音を立てながら通路に倒れこんだ。

 

「いてて……ん?」

 

悠里の下敷きになった優介の手のひらには何か柔らかい感触があった。

 

「ひゃっ!」

 

手を動かしてみると悠里が声を上げる。そこでやっと優介は自分が何をつかんでいる、というか揉んでいるか理解した。

 

「い、いや、これは不可抗力で……」

「桜井の……バカ~!」

 

お化け屋敷内にバチンときれいな音が鳴り響いた。

 

***

 

「ひどい目にあったな……」

 

お化け屋敷をなんとかクリアし、校内に設置されているベンチに持たれながらうめき声をあげる優介の頬はまだひりひりした痛みが残っている。

 

「そ、それはこっちの台詞だし!」

 

隣に座る悠里は顔を真っ赤にして涙目になっている。そんな可愛い仕草をされるとさっきの柔らかな感触を思い出してしまう。

 

「ちょっと!変な想像しないで!」

「し、してない!してないから!」

「ウソだ!顔が緩んでるし!桜井の変態!」

 

悠里の罵倒と同時に携帯の着信音が鳴る。いつもならこういう時に鳴るのは優介の携帯なのだが、今日は違った。

 

「あ、私?」

 

着信に気づいた悠里が電話に出る。

 

「もしもし?」

『天草をそんな子に育てた覚えはないよ!』

 

スピーカーにしているわけでもないのにその声ははっきりと優介まで聞こえていた。

 

「きゃ、キャプテン?どうかしたんですか?」

『どうかしたじゃないよ!いつまでたっても戻ってこないから敏腕メイド長はげきおこなんだよ!』

「え、そんなに時間経ってましたか?」

 

携帯の待ち受けを開くと時刻は3時過ぎ。悠里と休憩に入ったのが1時だったから2時間も油を売っていたことになる。

 

『あと5分以内に戻ってこなかったらバスケ部のツイッターで天草のメイド姿を拡散するからね!』

「ちょ、いつの間に写真撮ったんですか!もしもしキャプテン!?」

 

そこで望の声はしなくなった。一方的に電話を切られた悠里は勢いよく立ち上がる。

 

「桜井!早く戻るよ!」

「え?あ、ああそうだな」

「ほら早く!全速前進!」

「わかったから、引っ張るなって!」

 

* **

 

「何か言い訳はあるかな?」

 

店に戻った矢先、優介と悠里はなぜか正座させられていた。その前で望が腕を組んで仁王立ちしている。

 

「いや、そもそもキャプテンが店から追い出し……」

「ええい!言い訳するな!」

「めちゃくちゃだな」

「めちゃくちゃだね」

 

望の後ろで麻耶と隆盛が呆れている。

 

「全く、最近の若者はメリハリってもんがろくに無い!」

「あの、望先輩はなんでそんなに怒ってるんですか?」

「桜井君がヘタレだからだよ!」

「お、俺!?」

「そうだよ!2時間も二人きりにしてあげたのに!」

「いったい俺に何を期待してたんですか……」

「言ってもいいのか!」

「ちょ、ちょっとキャプテン!こんなところで言わないで!」

 

悠里の視線が麻耶に向くのを見てようやく優介は理解できた。望は悠里が告白したのを知っていて、それでこんなまわりくどいお膳立てをしていたのだ。

 

「桜井君!いつ答えるの!?」

「ええと……」

「そこは『今でしょ!』でしょ!」

「それ、もう化石レベルのネタですよ……」

「いいから、はっきりしてよ!」

 

望の発言はふざけているように聞こえるが眼は真剣だ。それだけ悠里のことを心配しているのだろう。優介だってここまで言われてははっきりさせるしかない。

 

「わかりました!」

「おお!」

「後夜祭までには!」

 

望は「ズコー」と古臭い反応を示すが、優介にはこれが限界だ。

 

「まあまあ望、お説教はその辺にしといてやれよ。そろそろ閉店準備しないとだろ?」

 

見かねた隆盛がフォローを入れてくれる。周りで気まずそうに見ていたバスケ部員たちも、「さ、さて片づけるか!」とか「フライパンたりないなー」などと言いながら作業を始めた。

 

「もう閉めるんですか?」

「うん。あまりに盛況でもう食材がないからね!」

 

さっきまでのげきおこメイド長は既におらず、望は片づけの指示を始めた。

 

「ねえ、優介」

 

片づけようとテーブルクロスをたたみ始めると麻耶が話しかけてきた。

 

「なんだよ?」

「ううん。なんでもない」

「え?それってどういう……」

 

良く分からないまま麻耶は別のテーブルを片付けに行ってしまった。

 

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