お隣さんは引きこもり!?   作:たけぽん

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9. 才能

「あー飲みすぎた……」

「いや、全部ソフトドリンクだっただろ!あからさまな嘘言うな!」

 

鍋を食べ終わり、片付けをした後面々は解散し隆盛は優介の部屋のベッドで横になっていた。どうやら調子にのって食べ過ぎてしまったようだ。

 

「だいたい食べすぎなんだよ。俺結局しめのうどんくらいしか満足に食べれなかったぞ」

「まあまあ、ちゃんとその分金も払っただろ?」

 

そう言いながら隆盛はリモコンでテレビをつける。適当にチャンネルを変えていると、っ去年やっていた人気アニメの劇場版が放送されていた。確かこの作品の原作小説はかなりの人気だったはずだ。

 

「狭霧ちゃんの作品もこんな風に映像化したらもっと人気出るんだろうなー」

「まあ、本人にその気がないなら仕方ないけどな」

「でもさー、もったいないよな。だって鍋をするシーンを書くためにわざわざ自分で鍋するなんてさ」

 

さっき読んだ最新話は、主人公が異世界の食材で鍋をするシーンだった。キャラクターたちの会話の雰囲気にはどこか先ほどの優介たちの面影があった。とはいってもそれで作風が崩れる訳でもなく、とてもおもしろい出来だった。

再び隆盛がチャンネルを変える。画面にはサッカーの試合が映る。

 

「さっきはフォローしてくれたみたいで悪いな」

「フォローっていうか、そもそもなんで嘘ついたんだ?サッカーやってたって前は言ってたじゃん」

 

すると隆盛はテレビを消し、上半身を起こしてこちらを向く。いつものへらへらした表情を崩さずに答えてくる。

 

「嘘は言ってないさ。言ったろ?たいしたことはしてなかったって」

「いや、中高サッカーやってたのは普通にたいしたことだろ」

 

「いや、たいしたことなかったさ。結局才能には勝てないって現実を見せられた」

 

そう言う隆盛の表情は変わらない。まるでもうどうでもいいことだと言っているように。

 

「俺さ、小学校の時は別のスポーツやってたんだ。仲の良かった友達と一緒に」

「……」

「始めてからすぐに俺たちは試合に出られるくらいに上達した。それこそスポンジが水を吸収するようにぐんぐんと」

 

「でも、俺にはすぐに限界が来た」

「……!」

「4年生くらいの時かな、自分でもこれ以上は上手くなれないって悟った。なのに友達の方はどんどん先に行っちゃって。それが悔しくて、俺はチームを辞めた」

「だから、中学校からはサッカーを?」

 

隆盛はわざとらしく肩をすくめる。

 

「そうだよ。サッカーなら、他の事ならいけるんじゃないかと思ってさ。でもそれって結局ただの逃避だったんだよ。あの時チームから逃げた時点で終わってたんだ。何をやってもその時の事がちらついて結局中途半端になった。だからサッカーも辞めた」

 

それを聞いて優介は悠里に話したことを思い出した。自分がテニスを辞めたのは夢中になれなかったからだと。だが、隆盛の様にどんなに夢中になって打ち込んでも、それでも辞めてしまう人もいる。でもそれはけして恥ずべきことじゃない。真剣に向き合おうともしなかった自分に比べたらよっぽど立派なことだ。

 

「なあ、もしかしてそのスポーツって」

「なんでもいいだろ。あんまり古傷いじるなよ。お兄さん泣いちゃうよ?」

 

隆盛がかぶせてくる。

 

「唐突に年上感だしてくるなって……」

 

だが、これ以上は話したくないのだろうしその話はやめることにした。

 

「そんなことよりぃ。お前さっき天草の事名前で呼んでたよな?買い出しに行ってる間になにがあったんだよ?」

「ひゃっ!?」

 

唐突な話題転換に変な声を出してしまう。あまり悠里を呼ばないようにと気を使っていたがどうやらどこかでうっかり言ってしまったようだ。

 

「い、いや、それはだな!」

「それは?」

「ゆ、悠里がそう呼べって。摩耶とかだけ名前で呼ぶのは不公平だって」

「あージェラシーか」

「そ、そうなのか?」

「てか、狭霧ちゃんとかって?他にも名前で呼ぶほど親しい子がいるのか?初耳だぞ?」

「妙な勘ぐりするなって。悠里の先輩だよ。ほら、学科交流会で司会やってた人」

 

「年上好きだったのかー」くらい言ってくると思ったが、隆盛は「ほーん」とあまり関心が無いような反応を示した。

 

「あ、そうだそういえば気になったんだけどさ」

「え、今の話題終わり?自分から振っておいて?」

 

話題の鮮度が落ちるのは随分と速いものだ。だが今の話を続けても別に面白くもない。むしろ恥ずかしくなるだけだ。

 

「お前、狭霧ちゃんがヒキ子先生だって言われた時あんまり驚いてなかったよな。ひょっとして知ってた?」

「いや、知らなかったけど。やっぱりかとは思った」

「というと?」

 

優介は少し悩んだが、結局棚から摩耶の書いた小説を取り出し隆盛に見せる。隆盛は取りあえず受け取ってパラパラとページをめくる。

 

「これ、狭霧ちゃんが?」

「そう。これのほかに後9冊貰った」

「俺に見せても良かったの?」

「本人も没だから好きにしろって言ってたし良いかなって」

「え、これとそのほかの奴も全部没なの?」

 

隆盛は優介と似たようリアクションをとる。やはり誰が聞いてもこの量の没は普通じゃないのだろう。

 

「でも、これだけ読んでも狭霧ちゃんがヒキ子先生だって思うか?」

「何言ってんだよ。全部似たような雰囲気とキャラの書き方してるじゃないか」

「え?」

「へ?」

 

どうやら隆盛にはあまりピンと来ていないらしい。

 

「どのへんが?」

「だから、たとえばこの主人公がヒロインを助けるシーン。異世界放浪記にも似たような描写があっただろ?」

「え?どこ?」

「いや、ヒロインが魔物の赤ん坊を引き取るシーンだよ」

 

隆盛は携帯を取り出し、小説と交互に見る。おそらく投稿サイトと身比べているのだろう。

 

「あー言われてみれば確かに似てるかも。このヒロインがこっちの主人公と似たような感じがする」

「そう。他の作品もそういうところがあってさ。全然違う作品なのにどことなく似てるんだよ。まるで……」

 

言いかけてハッとした。そう、これらの類似点はまるで狭霧摩耶という個人の世界が今あるもの以上のものを必要としていないことを表しているようだった。もしかしたらこれは『これ以上必要ない』という言葉に繋がっているのかもしれない。

 

「どうした、優介?」

「え?い、いや、なんでもないよ」

「そうか?にしても良く気付いたなー。もしかしたら優介も作家の才能あるんじゃね?」

「いや、それはないだろ。小説なんて読む専門だったし」

 

それに対し隆盛は少し真剣な面持ちで話す。

 

「でも、それってやってみなきゃわかんないだろ」

「……!」

 

やってみなきゃわからない。隆盛のその言葉には説得力があった。それはやってみて挫折した彼だからこそ言えるのだろう。確かに、今まで未知の領域に踏み込んだことなんて一度もなかった。漫画家やスポーツ選手にあこがれてはいてもそれを目指そうとはしなかった。せいぜいテニスをかじった程度。最初から無理だと決めつけていたが、それは早計ではないだろうか。

 

「まあ、そんな難しい顔すんなって。ちょっと思ったから言っただけだし」

「あ、ああ。そうだよな」

 

どうにも最近は難しく考えすぎる。それもこれも摩耶に会ってから。普通に生きると決めたはずがこの数日の出来事は少し奇抜だ。まるで物語の様に。

 

 

隆盛が帰ったあと、優介はパソコンを開き投稿サイトで森ヒキ子の小説につけられた評価を見てみた。

 

『キャラが魅力的!早く続きが読みたい!』

『これは天才。書籍化求む』

『神。ヒキ子神まじ神様』

 

肯定的な意見が数多く寄せられている。だが、作者からの返信は一切なし。何故だかそれが引っかかる。優介の知る摩耶は明るく人当たりもいい。今日の隆盛達への対応もとても楽しそうだった。つまり、狭霧摩耶は人と関わることが嫌いでは無い。それなのに読者に対して一切返信しないのは相手の素性が知れないからだろうか。

 

「あーやめやめ。そんなの本人じゃないとわからないだろ」

 

あきらめてパソコンを閉じる。これ以上は考えてもわからない。優介は寝ることにした。

 

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