ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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窓際の出会い

時を操るポケモン ディアルガ

空間を操るポケモン パルキア

 

2匹のポケモンを世界征服の為に利用しようとしたギンガ団の事件は一人のトレーナーの手によって解決に導かれたかに見えた。だが、復活を遂げた伝説のポケモンの力は絶大であった。時と空間の歪みは次元の壁を超え、世界を渡り、摩訶不思議な道となった。

 

そして結びついた2つの世界。

 

一つはポケモンが草むらから飛び出し、いたるところに潜む世界。ポケモン界

もう一つは機械文明の発達により世界から不思議が駆逐されていく世界。地球界。

 

決して交わることのなかった世界が繋がってしまった。

 

2つの世界を繋ぐゲートが産まれ、その間で数多くの交流が繰り返された。人々は友好的な関係を築くべく、地道な努力を重ねた。そして、長い時間の果てに人々は相互不可侵の条約のもと平和を維持していた。

 

地球界の文明をポケモン界へ、ポケモン界の産物を地球界へ。

物流は栄え、人々の行き来は増加し、文化的交流が進んだ。

 

地球界では野球やサッカーに並ぶ勢いでポケモンバトルが繰り広げられ、プロリーグでトレーナーが(しのぎ)を削っていた。

ポケモン界では地球の技術により、空路や海路の開発が進み、各地方への交通・通信の手段が飛躍的な進歩を遂げた。

 

2つの世界は過度な干渉はせず、それぞれの世界の景観を保ったまま穏やかに交流を続けていた。

 

そんな地球界の島国、日本。

 

「おーいっ!!タクミ!そっち行ったぞ!」

「任せて!ほいっ!」

「ナイスキャッチ!!チェンジだチェンジ!」

 

ベッドタウンの住宅街の中。隙間を縫うように作られた小さな公園。そこで子供達が野球をしていた。

 

ポケモンの所持が許可されない10歳未満の子供たちにとって野球とサッカーは人気を2分するスポーツである。子供たちは2つのチームに分かれ、ゴムボールとプラスチックのバットで遊んでいた。

 

「タクミ!かっとばせー!!」

「よーっし、来い!!」

 

タクミと呼ばれた少年はバッターボックスの手前で豪快に素振りをする。

彼の髪は黒、瞳の色も黒。本名は斎藤 拓海。産まれは地球界の日本、神奈川。

テレビの中のプロ野球選手を真似たフォームで構えるタクミ。そして、ピッチャーが投げたボールに目掛けてタクミは全力でバットを振り切った。

確かな手応え。だが、ゴムボールはバットの当たり方が悪かったのか、盛大なファールボールとなって明後日の方向に飛んでいった。

 

「あっちゃぁ……」

 

もう少しでホームランかという打球だっただけにタクミは残念そうに顔をしかませる。

だが、タクミが打球の行方を追っていくうちにその表情が変化していった。

 

「あっ!やばい!」

 

タクミの顔から血の気が引いていた。

彼だけでなく、周りにいた少年達の顔色も一気に青ざめる。

打球の先には一軒の家があった。赤い屋根に白い壁のこじんまりとした家だ。最近、この場所に新しく建った家だった。

 

「入るな入るな入るな!!」

「やばいって!入るな~」

 

少年達の念は虚しく、打球はその家の敷地内へと飛び込んでしまった。

 

「あぁあ……あそこ入っちゃったよ……」

「前にガラスにぶつけてあの家の人にこっぴどく怒られたよな……」

「だから、ここで野球するのやめようって言ったじゃん」

「だって、他にいい場所ないし」

 

そんな少年達を横目にタクミは悲しそうにその小さな家の生垣を見つめていた。

あのゴムボールはタクミの持ち物であった。赤と白の色でモンスターボールの柄がプリントされたゴムボール。高価な物ではないが、母に買ってもらった大事なボールだ。このままというわけにはいかない。そしてなにより、あのボールを打ったのは自分だった。

 

「僕が取ってくるよ」

「えっ!大丈夫かよ?」

「うん、ちょっと行ってすぐ帰ってくる」

 

タクミはバットを放り投げてその家の生垣へと向かって走った。背中に友人達の期待と不安の視線を感じながら、タクミはどうしようかを考える。

表に回って庭に入れてもらうか、それともこの生垣を抜けてこっそりボールを回収するか。

 

タクミはこの家の人にひどく怒られたことを思い出した。大きな男の人に凶悪な形相で怒鳴られたのはまだ記憶に新しい。多くの少年がそうであるように、タクミもまた大人の野太い声に対して大きな恐怖を持っていた。

 

また叱られたくはない。

 

タクミは意を決して生垣の前で膝をついた。狭い隙間だが、もうすぐ小学2年生になるタクミの身体なら通り抜けることなど余裕であった。タクミは足で生垣の小枝をへし折って隙間を大きく広げ、その場所に頭を突っ込んだ。

葉を茂らせた生垣に阻まれて太陽の光が隠れる。木のトンネルをタクミは進んでいく。

 

「いてっ……ってて……」

 

タクミの頰に鋭い葉っぱが切り傷を作る。ひりつく傷を手の甲で拭い、それでもタクミは進んでいく。そして、木のトンネルは唐突に終わりを告げた。

急劇に視界が広がる。そこは広く明るい庭だった。綺麗に刈りそろえられた芝生が広がり、花壇には色とりどりの花が咲いている。タクミは生垣を抜けて立ち上がった。

 

周囲を見渡す。

 

その庭には不思議なほどに音が無かった。

人の息づかいは聞こえず、生活の雑音もない。いつもなら尽きることのない子供達の遊ぶ声もこの時ばかりは息を潜めていた。

まるで別の世界に迷い込んでしまったような感覚。タクミはその静けさが怖くなっていた。

 

タクミは左右に視線を走らせてボールを探す。

だが、自分のゴムボールはどこにも落ちていなかった。

 

「どうしよ……」

 

花壇の裏を覗き込み、生垣の下を見渡す。だが、やはり見つからない。

 

こうしてグズグズしている間にこの家の人に見つかるかもしれない。

また怒鳴られることを想像し、タクミは半ば泣きそうになりながら、もう一度庭を見渡した。

 

その時だった。

 

「このボール、探してるの?」

 

タクミは驚いて声のした方を振り返った。

 

「あ……」

 

そこには1人の女の子がいた。

家の窓を開け、可愛いらしいパジャマを着た女の子がモンスターボール柄のゴムボールを両手で持ってタクミに差し出していた。

肩で切り揃えられた色素の薄い赤髪が風に揺れ、アーモンド型の大きな瞳が優しい笑顔を浮かべていた。

だが、パジャマからのぞく肩や差し出された指はやせ細り、どこか儚げな印象を与えていた。

 

タクミはその女の子の姿に言葉を失っていた。

 

音の無かった世界に自分の心臓の音だけが妙に高鳴って聴こえていた。

世界が止まったような錯覚。それは少女の言葉で打ち破られた。

 

「これ、君の?」

 

タクミの時間が動き出す。

 

「あ、うん……ありがとう」

「いいえ。どういたしまして」

 

タクミはその女の子に引き寄せられるように近づいていった。

少年が少女に手を伸ばし、少女も少年に向けて手を差し出した。

2人の手が触れあい、ボールが手渡される。

 

その少女は嬉しそうに笑う。少年も気恥ずかしそうに笑った。

 

「あなた、ポケモン好き?」

 

少女はタクミにそう尋ねた。

 

「うん。大好き!」

 

タクミはゴムボールを本物のモンスターボールのように構える。

 

「君はポケモン好き?」

「うん。私もポケモン大好き」

「へへ、おそろいだね」

「うん、おそろい」

 

タクミは鼻の下を擦りながら満面の笑みを浮かべた。

少女もまた花が綻ぶように笑っていた。

 

タクミはズボンで掌を拭き、少女に向けて差し出した。

 

「僕、さいとう たくみ。君は?」

 

少女は一瞬躊躇うような仕草を見せる。

だが、すぐに笑顔を取り戻して少年の手をとった。

 

「……アキ……みこと アキって言うの」

 

風が吹く。

 

どこからか甘い香りが運ばれてくる。新たな旅立ちを告げる季節がすぐそこまで迫ってきていた。

 

これは夢を追い求めた少年少女の物語。

 

時に傷つき、時に打ちのめされ、地面に這い蹲ってなお、夢へと進み続けた者達の長い長い旅の物語。

 




さて、新たな物語の開幕です。

とはいえ、しばらく旅になんか出ません。ええ、そりゃもうしばらく旅になんか行きません。
これから主人公の最初のポケモンの話をして、主人公とヒロインの話をして、そっからようやく旅立つんで長い目で見守ってやってください。

ちなみにシリアス多めな予定です。
一部シリアルになりそうな気もしますが、よろしくお願いします。
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