ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて 作:からんBit
翌朝、タクミは朝の冷え込みとテントから差し込む薄明りで目を覚ました。
早朝の爽やかな空気が寝袋の隙間から入り込み、二度寝を誘発する睡魔が追い払われる。
しかし、代わりに訪れたのは『もうしばらく布団の中でぬくぬくしてようぜ』と囁く怠惰の悪魔であった。
「……キバ、キバキバ!!」
だが、そんな悪魔も目を覚ましたキバゴには敵わなかった。
キバゴは寝袋の奥底から飛び出して、寝ぐせのついたタクミの頭をぺちぺちと叩いた。
「キバ!キバキバ!!」
「……キバゴ……お腹減ったの?」
「キバァ!!」
そんなキバゴの声にフシギダネも起きだし、前足で大きく伸びをした。
そして、こちらも同じように“ツルのむち”で御飯を催促してくる。
「ダネフッシ」
「キバキバァ」
「わかったわかった。起きるよ……ふあぁああ」
気合をいれて寝袋から這いだし、タクミはポケモンフーズの缶へと手を伸ばした。
靴を履き、外に出ると東の空にはオレンジ色をした朝日が山の隙間から顔をのぞかせていた。
その太陽に向かって目を細め、タクミも大きく伸びをする。
「……おはよ」
「あっ、おはよう」
声をかけてきたのはマカナであった。
彼女は寝間着のまま、岩に腰かけてポケモン達と一緒に朝日を見ていた。
「もう起きてたんだ。早いね」
「……ん……寝てられなかった」
マカナの隣ではベトベターとヒドイデが既に御飯を頬張っている。
タクミと同じでポケモンに起こされた口なのであろう。
「……いつもはもっと寝てるのに……」
マカナはそう言って自分のポケモンの頭を撫でる。
時計を見ればまだ6時前。タクミのキバゴもこんなに朝早くから御飯を食べることはない。
ポケモン界にきて生活リズムが変わったのか、それとも昨日の晩御飯が早かったせいだろうか。
どちらにせよ、夜明けと共に行動を開始するのが旅の基本なのでこの時間に起こしてくれるのはありがたかった。
「ケロッ!ケロケロッ!!」
「わかったわかった。朝飯にすっぞ。って、みんなもう起きてたのか。おはようさん」
ミネジュンもケロマツに急かされてテントから起きだしてくる。
こうしてポケモンキャンプ2日目の朝が始まりを告げたのだった。
3人は朝食を取り、テントを片付けてオーキド博士の研究所の前に集合した。
「さて、諸君。今日から本格的なポケモンキャンプが始まる。まずはホロキャスターのマップを開いてみてくれ」
オーキド博士に言われるがままにマップを開くと昨日はなかったマップが追加されていた。それはオーキド研究所の敷地を細かく示した地図であった。
その地図の中にはいくつか赤い丸で囲われた場所が点在している。
本日は森の中でスタンプラリーを行うと聞いていたが、おそらくこれがスタンプラリーのチェックポイントなのだろう。
ただ、そのマップを見てタクミは少し不安を覚えていた。
マップに点在する赤い丸はその一つ一つがあまりにも距離が離れており、その間には複数の山が連なっている。しかも、チェックポイント同士の間には道らしい道がまるでない。チェックポイントはオーキド研究所の敷地の全域に散らばっており、これを全て回るのに、一日では事足りるとはとてもじゃないが思えなかった。
「そこに示された赤い丸のところがチェックポイントじゃ。そして、ここで重要なことが一つ。どのチェックポイントから回るかは君たちの自由じゃ」
タクミはその言葉に顔をあげた。
「近くのチェックポイントから順に回るのもよし、遠くにある場所から先に済ませるのもよし、歩きやすい道を選んでルートを決めるのもまたよしじゃ。君たちが行う『地方旅』では自由に町を巡って旅をすることになる。これはその予行演習じゃ」
オーキド博士の言葉にタクミは改めて、マップへと目を向けた。
つまり、この敷地が『地方全体』を示していて、チェックポイントはさながら『ジム』や『コンテスト会場』といったところなのだろう。
「一日では回ることができんじゃろう。どこでキャンプを張るのか、一日でどれ程進めるのかを考えるのも大事なことじゃぞ。チェックポイントは全部で16か所用意した。君たちはその中の8つを回ってきてもらう。もちろん、全部回ってもかまわんぞ。制限時間は4日間。明々後日の日暮れまでじゃ。早々に戻ってきてもよいし、制限時間一杯まで野山を駆けまわってもかまわん。ちなみに、紫で区切られた場所は野生のポケモン達がいるエリアじゃ。その中では自由にポケモンを捕まえてよいぞ」
マップに表示された紫の場所は野山や川、岩場や洞窟などより取りみどり。
このスタンプラリーにはまさに『地方旅』でやれることが全て詰め込まれていた。
タクミはこの『ポケモンキャンプ』が『地方旅』の縮小版と言われる意味を本格的に理解していた。
どこに行くのかは自由。グループを作って移動するのも一人で出発するのも自由。何時出発するのかも何時帰ってくるのかも自由。新米トレーナー達は『地方旅』で培われるといわれる『自主性』を発揮することを既に求められていた。
「さて、わかったかのう?それでは最後に一言」
オーキド博士は大きく咳ばらいをしてトレーナーになったばかりの新人達を大きく見渡した。
「ポケモンは君たちの良き相棒にして、良き友となるじゃろう。この『ポケモンキャンプ』でそのことを少しでも感じて欲しい。では、これより『ポケモンキャンプスタンプラリー』を開催する!各々、自由に出発してくれたまえ!!」
オーキド博士がそう宣言し、引率している教師が後を引き継いで細かい注意事項なんかを述べていく。
スタンプラリー中のトレーナー同士のバトルは本日は禁止。明日以降は双方の同意があればバトルをしてもかまわないとのことであった。
説明が終わり、トレーナー達が三々五々に散っていく。
「ミネジュン……って、もう聞いてないか」
ミネジュンは既にマップを眺めて、紫色のエリアにいかにして素早く到達するかを考えているようだった。
ポケモンをケロマツしか持っていない彼からしてみれば、もっと沢山のポケモンをゲットすることを望んでいるのだろう。
タクミはミネジュンの方はしばらく放置することにして、もう一人の旅の道連れの方へと顔を向けた。
「…………」
このポケモンキャンプでなんだかんだ一緒に過ごしてきた江口 マカナ。
彼女は相変わらずの無表情のまま、どこか遠くの山を見ていた。
どこに向かうのか考えているようにも見えるし、逆に何も考えていないように見える。
一人で行きたいのか、それとも他の人と一緒に巡りたいのかさえわからない。
だが、そんな彼女に一言も声をかけずに出発してしまうほどタクミは薄情ではなかった。
「マカナちゃん。誰かと一緒に回る約束とかしてる?良かったら僕らと一緒に行かない?」
「……え」
「オーキド博士も言ってたじゃん。旅は道連れ世は情け。嫌じゃなかったら一緒にどう?」
「…………いいの?」
「うん。ミネジュンは?」
「全然おっけー!」
即答と同時に親指を立てるミネジュン。
だが、ミネジュンはすぐポケモン「そんなことより」と言ってホロキャスターに表示された地図を見せつけてきた。
「早くルート決めて出発しようぜ!俺もケロマツももう待ちきれないんだ!!」
「はいはい」
「とりあえずまず俺はここ!この森エリアと洞窟エリアに行きたい!明日からトレーナー同士のバトルができるんだから今日中に絶対に野生ポケモンのエリアに行っておきたい!俺はこれだけは譲れないからな!!」
「わかってるって。マカナちゃんはどこか行っておきたいとこある?」
「…………私は……別に……」
マカナはそう言ったが、タクミとミネジュンは再度問いかける。
「いいの?なんでも言っていいんよ」
「そうそう、俺も『絶対行きたい』って言ったけど、野生のエリアならどこでもいいし、反対側の岩場とか川岸に行きたいなら別に……」
「……いや……そうじゃなくて」
マカナはそう言ってわずかに視線を落とした。
顔色が変わらないので判別しにくいのだが、どうやら少し照れているようだった。
「……そうじゃなくて……その……私も……洞窟と森に……行きたい……」
そう言ったマカナの頬はわずかに上気していた。
「……その……【どくタイプ】……す、好きだから……その……ビードルとか……ズバットか……ゴースとかいそうなとこ……行きたい……だから……その……」
普段の彼女からすると随分と長く喋った。
そして、マカナは自分が注目されていることに気が付いたのかより深く顔を下げる。
「…………だから……そこでいい」
そんなマカナを見てタクミは笑みを深める。
最初に会った時は少し怖い印象を覚える程に感情の起伏のなかったマカナ。
だが、こうして話してみれば単なる恥ずかしがり屋な女の子である。
「そういうことなら問題ないね」
「ああ!やっぱり行くしかないな!タクミはいいのか?」
「僕もそれでいいよ。でも、今はどっちかというと新しいポケモンよりもフシギダネのことをもう少し知りたいんだよね」
タクミはそう言ってフシギダネの入ったモンスターボールの表面を指でなぞる。
「そっか、そのフシギダネ足が悪いんだっけ?」
「そうなんだよ。それに少し斜にかまえてるとこあるし。一筋縄じゃいかなそうでさ」
ミネジュンやマカナが今連れているポケモン達は既にゲットしてから時間が経っており、随分と慣れている様子が傍からも伺えた。
それに対してフシギダネとタクミはまだ出会ったばかり。
タクミはフシギダネのことをもっとよく知りたいと思っていた。
好きな食べ物や、嫌いな食べ物。普段の生活の中でどういった時間が一番好きで、どういったことが許せないのか。
ポケモントレーナーとなったからには、自分の手持ちのポケモンのことは全て理解していたいとタクミは思っていた。
「それじゃあどういうルートで行く?できれば山道は避けたいけど……あっ、このエリアって結構遠いね。一日で両方行けるかな?」
「…………チェックポイントを無視すれば行けそう」
「でもさ、洞窟と森の間にチェックポイントが一つあるんだよな!そこ後から行くとなると遠回りになっちまうし、ここは寄っておきたい。3日間で回ることを考えると初日に一つはクリアしておきたいし」
「うーん……でも、森のエリアから行くと山を1つ越えなきゃならないね。ここを直進してこっちの谷を通ってもいいけど、ちょっと迂回路になるし。あっ、そういえばエリアにどれぐらい滞在する?目当てのポケモンをゲットするまでいたいよね?ということはやっぱり初日に回れるのはどっちか一つに絞った方が……」
三人は地図に赤いラインを引いては消し、スタンプラリーのルートを考えていく。
こうして仲間達と進む道を考え、意見を出し合ってすり合わせていく。
そうした時間も旅の醍醐味。
タクミ達はしばらくの議論の末、初日に洞窟エリアとチェックポイントを一つ回り、その後は川伝いに移動していく方針とした。日が暮れれば川の近くでキャンプが張れるし、翌日は他のチェックポイントを巡りつつ森のエリアの方にも行くことができる。
タクミ達はホロキャスターの地図を頼りにさっそく山の峠を目指して山に入っていった。
オーキド博士の敷地内にある山は木々の間隔が広く、下草も少ない歩きやすい山であった。
道なき道をいくことから、かなり大変な道のりを想定していたタクミ達にとって、それは嬉しい誤算であった。
先頭を行くミネジュンが首だけで振り返りながら、声をかけてきた。
「思っていた以上に進めそうだな。これなら、エリアで長いこと過ごせるかも」
「……うん……歩きやすい」
わずかな斜面を歩きながら、タクミはふと足元を見下ろした。
「多分、ポケモン達の通り道なんだよ。ほら、あそこに足跡がある」
「……ほんとだ……」
「ほへぇ、何の足跡だこれ?」
タクミ達は足を止め、地面につけられた足跡を眺める。
「……なんか……犬みたい……」
「ってことはヘルガーとか?グラエナとかか?」
「いや、違うと思う」
タクミは周囲の落ち葉を払いつつ、足跡の深さを確かめた。
「この足跡は4足じゃなくて、2足歩行だし……けっこう重いポケモンだと思う。大きさからして熊みたいなのかな……ゴロンダとかリングマ……ツンベアーはこんな森の中にいないだろうし……キテルグマも違うかな……」
「えっ?どうしてそう思うんだ?」
「キテルグマの足跡には爪がないってがないのもあるけど、キテルグマは腕の力が発達してるから周囲の木をなぎ倒したりすることが多いんだ。けど、これまでの道のりでそんな木は一本もなかったでしょ?だよね?」
タクミがマカナにそう尋ねると、アローラにゆかりのある彼女は小さく頷いた。
「……アローラだと……木がなぎ倒されとるとこには近寄らない……キテルグマがいるから……」
「へぇ……って、ゴロンダとかリングマって結構狂暴なポケモンなんじゃないのか!?そんな道使ってて大丈夫か?」
「大丈夫じゃない?」
タクミはあっけらかんとそう言ってのけた。
「ゴロンダは自分より弱そうな相手に喧嘩はしないし、リングマも縄張りのきのみとかに手を出さなきゃそうそう襲ってこないよ。それに、この辺りにいるのはオーキド研究所のポケモンだし」
「なるほどなぁ……」
関心したように頷くミネジュン。
「しっかし、タクミって、本当にこういうの詳しいな」
「そんなことないよ」
「いやいや、そんなことあるって。俺足跡見ただけでそこまで考えつかねぇもん。いやぁ、本当にタクミと一緒にポケモンキャンプ来れて良かったよ!!」
ミネジュンに肩を思いっきり叩かれ、タクミは痛みに顔をしかめた。
「……なんでそんなに知ってるの?」
「え?あぁ……ポケモンの図鑑とか、雑誌とか、そういうのよく読んでたからかな」
誰と一緒に読んでいたかは決して言わないタクミであった。
タクミ達はまた山道を歩きだす。
子供の持つ底なしの体力で山道をハイペースで歩き、峠を越えてなお進む。
タクミ達はポケモンの足跡と地図を頼りにしながら、できるだけ緩やかな斜面を歩いて行く。
決して最短ではないが、体力を温存しながらの登山。
タクミ達が洞窟エリアにたどり着いた時、まだ日は頂点には達していなかった。
「ついたぁあ!!」
ミネジュンが洞窟の入り口を見つけて声を上げた。
タクミ達の目の前には巨大な洞窟が口を開けていた。
洞窟の周囲は木枠で補強がされており、中には一定間隔で電球が赤い光を放っていた。
赤い光は洞窟内の環境を暗闇に保ちながらも視界を確保できる光なのだとタクミは聞いたことがあった。
どうやらここは人工の洞窟であるようだ。
「もうここは野生のポケモンのいるエリアなんだよな!ゲットしてもいんだよな!!よっしゃあぁ!出てこいケロマツ!!」
ミネジュンは返事を待たずにケロマツをモンスターボールから呼び出した。
「ケロケロ!!」
「なぁなぁ!もう自由行動でいいか!?」
ミネジュンは今すぐにでも洞窟内に駆け込みたいようであった。
「いいけど、他の場所には行かないでよ。それと、今10時だから、12時になったら一度戻ってきて。お昼ご飯を食べてながら午後の予定を決めるって感じでどう?マカナちゃんもそれでいい?」
彼女は小さく頷きながらも、既にモンスターボールを構えていた。
声には出さないが、彼女もまたポケモンをゲットしたくてうずうずしているようだった。
「それじゃ、いってらっしゃい」
「おっしゃあぁああ!待ってろよぉ!俺のポケモン!!!」
「ケロケロ!!」
「………………」
声を張り上げて洞窟に突撃していくミネジュンと無言でその後ろを走っていくマカナ。
なんだかんだで息の合ってきた二人を見送り、タクミは自分のモンスターボールを掴んだ。
「出てきて、フシギダネ!」
「ダネ」
ボールから出てきたフシギダネは周囲を見渡した。
タクミの他には誰もおらず、目の前には洞窟が口を開けている。
「フシギダネ、そこの洞窟に探検に行くんだけど。一緒に行かない?」
「ダネダ……」
タクミはフシギダネとできるだけ一緒に過ごす時間を伸ばすために共に歩こうと思ったのだ。
もちろん、歩くペースはフシギダネに合わせるるもりだった。
「ダネ……」
だが、フシギダネはそも場から一歩も動こうとしなかった。
「フシギダネ、どうしたの?」
「ダネ……」
フシギダネは“ツルのむち”を伸ばしてタクミの腰についているもう一つのモンスターボールをつついた。
「キバァ!!」
キバゴがモンスターボールの中から飛び出てくる。なぜか両腕を掲げて体操のフィニッシュのようなポーズを取っての登場だった。
「キバ?」
「ダネダ……ダネ……」
そしてフシギダネはキバゴに“ツルのむち”を使って洞窟を示した。
その仕草にタクミはフシギダネが何を考えたのかを理解した。
つまり『洞窟を探検するならキバゴを連れてけ、俺じゃ役立たずだ』と言いたいのだろう。
タクミは「バカだなぁ」と呟いて、フシギダネの隣に膝を折った。
「フシギダネ……僕は君のペースに合わせて歩いてもいいんだよ?」
「……ダネ……」
不貞腐れたように顔を背けるフシギダネ。
そして、フシギダネは“ツルのむち”でタクミとキバゴを洞窟へと押しやろうとしてくる。
「まったく……」
タクミはフシギダネの前足の下に手を入れて、フシギダネを抱きかかえた。
フシギダネの体重は7kg弱。大きめのスイカと同じくらいの重量だ。
10歳の身体には少し重いが、持って運べない大きさではなかった。
「フシギダネ、僕は昨日言ったよね」
「ダネ?」
「僕は、一緒に世界を見に行こうって言ったんだ」
タクミはフシギダネを担ぎ上げ、背中のリュックと首の間に乗せて体を安定させた。
フシギダネの頭がタクミの帽子の上に乗る。
「フシギダネ……君も新しい世界を見たかったんじゃないの?だったら、こんなとこで『待ってる』なんて言わないの」
「キバキバッ!!」
キバゴも同意するように何度もうなずく。
タクミは手を伸ばして頭の上のフシギダネの頬を撫でる。
「それに……」
「ダネ?」
「ポケモンがトレーナーに指示を出そうなんて生意気だぞ」
タクミはそう言って笑う。
フシギダネは驚いたように目を開き、すぐポケモン小さく笑いだした。
「ダネ」
「そうそう、せっかくの冒険なんだ。笑っていこうよ」
「ダネ!!」
タクミの言葉がフシギダネに届いたのか、フシギダネは“ツルのむち”を伸ばしてタクミの腰と肩に巻きつけた。
フシギダネの体重が首だけじゃなく身体全体に分散されたおかげで体感するフシギダネの重量が軽くなる。
「ありがと、フシギダネ」
「ダネフッシ」
タクミは荷物を背負いなおし、洞窟へと歩き出した。
笑顔を取り戻したフシギダネと元気いっぱいのキバゴを連れて洞窟の中へと入っていく。
日の光の下から暗闇の中への一歩。
薄暗い洞窟の中ではタクミの表情を伺うことはできない。
だが、洞窟内の赤い光が作り出す帽子の影の下で彼の顔からは笑顔が消えていた。
タクミの頭の中にはケンイチさんの言葉が蘇っていた。
『フシギダネは進化するんだ』
『進化してフシギバナになったら、それこそ身体を動かすことだけで一苦労になってしまう。そんなポケモンを君は育てていけるのかい?』
進化したらこうして運んであげることもできなくなる。
足の動かないポケモンと一緒に旅をし、育てることの難しさをタクミは早くも実感しつつあった。
タクミの胸に渦巻く不安。
そんな時だった。
「キバ」
「ダネ」
キバゴがタクミの足を軽く叩き、フシギダネの“ツルのむち”の先がタクミの手に巻き付いた。
「え……」
二人はそれ以上何も言わない。
ただ、二人がタクミを励ましてくれていることだけはわかる。
そんなポケモン達の気遣いがタクミの笑顔を取り戻す。
『せっかくの冒険なんだ。笑っていこう』
タクミが直前に放った言葉が早くもタクミの元へと投げ返される。
「ありがとね……って、あっ!今、あそこで何か動かなかった!!」
「ダネダ!ダネダネ!!」
「キバ?」
フシギダネが同意するように“ツルのむち”を伸ばす。
キバゴは気づかなかったのか、首を傾げていた。
タクミ達の旅はまだまだ始まったばかり。
それは、ここから何処へだって歩いて行けるということでもあった。