ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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リベンジマッチは同じ場所で

ポケモンキャンプ5日目

 

スタンプラリーの最終日であり、今日の日没が期限である。

 

オーキド博士の敷地の中を歩き回る多くの子供達がこの4日間を濃密な時間を過ごしていた。

ポケモンを捕まえ、トレーナーと出会ってバトルし、悔し涙をぬぐいながら握手をかわす。

 

たった一日の中にいくつもの出会いと別れがある。

 

それは地球の上に立っているだけでは決して味わうことのできない冒険であった。

 

そんな中、地球の友人達とスタンプラリーを巡っていたハルキ。

地球界の友人グループと一緒に行動していたハルキは既にスタンプは8つ集め、いくつかポケモンもゲットした。ただ、ハルキの表情はまだ満足していない。彼の目当てはゴース。あちこち探し回ったが、目的のゴースだけがまだ捕まえることができていなかった。

 

「っていうか本当にここにゴースいるのかな?」

 

ハルキ達は最初に訪れた洞窟エリアに戻り、その中で目をこらしてゴースの存在を探していた。

 

「あのアローラの子が持ってたし、いるんでしょ?」

「もしかしたら最初から持ってただけなんじゃね?どんだけ探してもいないんだけど」

「他の子たちもゴースなんて一度も見なかったってさ。昼も夜も見かけたって話ないし。やっぱりいないんじゃない?」

「そうかな……」

 

ハルキは諦めきれずに洞窟を何度も往復するが、やはりゴースの煙の欠片すら見つけることができなかった。

 

【ゴーストタイプ】に分類されるゴース。その身体のほとんどはガスで構成されており、薄暗い洞窟の中ではその姿はすぐに闇の中に紛れてしまう。ゴースというポケモンの性格を把握し、探すべき場所を見極められれば捕まえるのはむしろ簡単であるのだが、そんなことがトレーナーになりたてのハルキ達にできるはずもなかった。

 

マカナがこの洞窟でゴースをゲットすることができたのは【どくタイプ】のポケモンに対する知識の深さがなせる技であった。

 

「ゴースゴスゴス……」

 

ゴースは自分の姿を探す新人トレーナー達を洞窟の天井付近から見下ろしてクスクスと笑っていた。

 

「ゴス?」

 

そんなゴース達は何かに気づいたかのように洞窟の入り口へと一斉に目を向けた。

新たなトレーナーの気配。空気中の流れを敏感に読み取るゴースはその雰囲気を感じ取り、静かに笑いながら姿を消していく。

 

「ゴース……ゴスゴス……」

 

霞んでいくゴースの身体。その中でゴースの目だけが『面白いことになりそうだ』と笑っていた。

 

ハルキ達は少し休憩しようと、洞窟の外へと向かった。

 

「ハルキ、いい加減諦めようぜ。これなら、ブリーダーからタマゴ貰った方が早いって」

「そうかもね。でも、俺はポケモンは自分の目で見極めたいんだよ……あの子がいればなぁ……」

 

ハルキはゴースを捕まえていた異国の女の子のことを思い返す。

 

あの場で彼女やタクミと一緒に行動できたならば、この洞窟でゴースのいた場所を教えてもらえたかもしれない。そうすればもっと手早く事は済んだし、余った時間でポケモンの特訓だってできたかもしれない。

 

「……ほんと、なんで怒りだしたんだろ……」

 

洞窟の中にハルキの声が反響する。

 

「何の話?」

「ほら、この洞窟で出会った奴がいたじゃん。あのフシギダネを連れてたタクミって奴」

「ああ、あの弱いポケモンを連れてる?」

「そうそう……」

「しょうがねぇよ。人って本当のことを言われると怒り出すって本当だね」

「ははは、なるほど」

 

そんな話をしていたハルキ達。

 

その時、彼等の先頭を歩いていた一人が洞窟の出口付近で立ち止まった。

 

「ん?どうした?なんかポケモンでもいた?」

「あ……いや……えと……ほら、あそこ」

 

彼は洞窟の外を指さした。

 

まだ日も高い、洞窟の外。

そこはスタンプラリーの初日にタクミとハルキがバトルをした場所だった。

 

そして、そのバトルをした時と全く同じ場所に、同じ人物が立っていた。

 

「……あ」

「……やぁ……ハルキ君」

 

そこにタクミが立っていた。

タクミの後ろにはミネジュンとマカナが控えており、その三人の誰もが真剣な目で真正面を見据えていた。

 

そんな彼等を前にしてハルキ達の足が止まった。

 

ハルキの友人達の足が止まったのは、タクミの姿がそこにあったからだった。彼等からしてみればタクミの印象はよくない。彼等はタクミのことを『突然キレる危ない奴』としか認識していなかった。

 

ただ、その中で一人だけ例外がいた。

 

ハルキだけがゾクリと肌が粟立つ感覚に足を止めたのだった。

 

タクミ達の表情は驚くほどに自然体だった。笑うでも、怒るでもなく、ただ悠然と構えている。

だが、彼等三人の目は真っすぐにハルキへと据えられていた。

 

その視線に含まれているのは敵意でも悪意でもない。

 

それは『標的』として狙いを定めた視線だった。

 

自然と掌に汗をにじませるハルキ。

そんな彼にタクミはリラックスした態度のままで声をかける。

 

「ハルキ君……この間はゴメンね……僕も怒りすぎた……喧嘩みたいなポケモンバトルもしちゃったし。ほんとゴメン」

 

タクミはそう言って腰を45度に曲げて頭を下げた。

 

「え、あ、うん……いや、僕もなんか、ごめんね……」

「うん……それでさ。ハルキ君……」

 

タクミが一歩足を前に出す。

ハルキの友人達がそれに気圧されたかのように足を引いた。

 

ハルキとタクミの間にはもう誰もいない。

 

ハルキはこの時、自分がどういう状況にいるのかに気が付いた。

 

これは俗にいう、『目と目が合ったポケモントレーナー』という状況なのだ。

 

そして、それを物語るかのようにタクミの身体から闘気が吹きあがった。

 

「もう一度……ポケモンバトルをしない?」

 

タクミの目の奥に光る強い輝き。

自分を真っすぐ見据えて逸らすことを許さない視線。

ハルキの目はタクミの視線に吸い込まれ、動かなくなった。

 

「今度は喧嘩じゃない。僕と僕のポケモン達が全力で相手をする」

「ははは……前は全力じゃなかったんだ?」

「……全力だったさ。でも、一昨日の全力と、今日の全力は違うんだ」

「え?特訓でもしてたの?」

「……まぁね」

「へぇ……って、怖い怖い!顔が怖いって!ねぇ、怒ってんの?もっと笑顔でバトルしようぜ」

 

ハルキが場を和ませようとなんとか愛想笑いを繰り返すが、タクミの表情は変わらない。

そして、タクミは静かに言った。

 

「怒ってないよ。ただね……ちょっと真剣なんだ……だからさ……」

 

タクミが自分のモンスターボールを取り出し、握りこぶし大にまで巨大化させた。

 

「だから……ハルキ君も真剣(マジ)に相手してよ」

 

そう言ったタクミの声には一切の甘えが消えていた。

彼の顔には10歳とは思えない程の強い決意が浮かんでいた。

 

『バトルして、絶対に勝つ』という覚悟。

 

遊びや練習などでは決してない。自分の持ちうる全てを叩きつけてやるという強い意志が迸っていた。

 

それを前にしてハルキの顔から笑顔が消えた。

 

ハルキは今まで何度もポケモンバトルをしてきた。

 

地球界で初めてヒトカゲをもらった時から兄と繰り返しバトルをしてきた。毎日バトルフィールドに出かけては色んな人とバトルしてきた。このスタンプラリーの間にも何度もバトルをした。

 

だが、ここまで本気で挑まれたことは一度もなかった。

 

地球界のバトルフィールドにいる人達は自分を『新人』としか見てくれず、手加減されていた。

『ポケモンキャンプ』に参加した他の人達もとにかくバトルがしてみたいと挑んでくるばかりで、『勝ちたい』と本気で思っている相手はいなかった。

 

「…………」

 

けど、目の前にいるタクミは違う。

 

彼から『絶対に負けたくない』という気持ちが空気を介して伝わってくる。彼は本気の本気で自分に勝ちに来ている。

 

ハルキは自分の足が僅かに震えるのを感じた。

 

たった10年の人生の中で、避けることのできない真っ向勝負など一度も経験したことがない。腹の奥が冷え込むような震えが走っていた。ただ、それと同時に胸の奥から1つの熱が沸き起こってくるのも感じていた。

 

『俺が負けるわけないじゃないか』

 

それは、成功体験に基づく自信。

 

俺のヒトカゲは“かえんほうしゃ”をもう覚えている。“りゅうのいぶき”だって使える。

 

同世代とのバトルで負けたことなど一度もない。

 

「いいけど……負けないと思うよ」

 

ハルキはそう言ってタクミに向けて力強く足を踏み出した。

大地を踏みしめた右足は既に震えてはいなかった。

 

「やってくれるんだね」

「もちろんさ!だって俺は……ポケモントレーナーだからな!!」

 

ハルキもモンスターボールを取り出して手の中に握り込む。

 

「ルールはどうする!?」

「使用ポケモンは2体!交代有り!!」

「OK!!それじゃあ!!やろう!!」

 

2人のトレーナーは同時にモンスターボールを投げ込んだ。

 

「まずはお前だ!!キバゴ!!」

「頼むよ!シェルダー!!」

 

フィールドに降り立つキバゴとシェルダー。

 

だが、そのキバゴの姿を見てハルキは目を丸くした。

 

「えっ!どうしたのそのキバゴの……キバ」

 

タクミのキバゴは全身に多数の擦り傷を負っていた。その鱗はところどころがひび割れ、薄汚れ、図鑑のキバゴとは似ても似つかない色合いになっていた。

 

ただ、問題はそこではない。

 

『キバゴ』というポケモンのトレードマークでもある、口元のキバが両方とも根元から折れていたのだった。

 

「君と別れてから色々あってさ。もう、あの時の僕と同じと思わないでよ!!」

「キバァアア!!」

 

キバゴが威嚇するように吠える。左右のキバが折れているにも関わらず、その声の張りは以前よりも数倍に増していた。地面に叩きつけられた両足はより力強く、体幹部の太さがわずかに増している。

 

だが、ハルキはその微細な変化には気づけなかった。

 

「……なんだ……やっぱり弱いじゃん」

 

ハルキは口の中だけでそう呟く。

 

普通のキバゴのキバは簡単には折れたりしない。

この数日間でタクミが何をしてきたのかはわからないが、あのキバゴはスタンプラリーの行程でキバが折れる程度のポケモンでしかない。

 

それに対して、ハルキのシェルダーは沢山いたシェルダーの中から豊富なワザが使えるシェルダーを選び抜いてゲットした。

 

このシェルダーが【ドラゴンタイプ】であるキバゴに負けるはずがなかった。

 

「シェルダー!先手必勝!!“つららばり”」

「シェル!!」

 

二枚貝のような姿をしたシェルダーの貝の隙間から鋭く尖った氷塊が無数に打ち出された。フィールド一杯に放たれた“つららばり”は回避など絶対にできない物量でキバゴへと襲い掛かる。

 

シェルダーの持つ特性【スキルリンク】

 

物量を主とする攻撃の量を極限まで引き出す特性だった。

 

しかも“つららばり”は【こおりタイプ】

【ドラゴンタイプ】であるキバゴとの相性は最悪だった。

 

シェルダーの“つららばり”がフィールド一杯に弾幕を張り、ハルキは勝利を確信する。

あのキバゴがこれを受け切れるはずがないと思っていた。

 

「………………」

 

迫りくる“つららばり”。

 

それを目の前にしてキバゴとタクミはこのポケモンキャンプのことを思い出していた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「……とりあえず……遠距離ワザがない……そこはなんとかした方がいいと思う……」

 

特訓を始めた最初の夜。ランプの明かりで食事を取りながら、マカナがそう切り出した。

初日はとにもかくにもバトルの経験値をあげることを考えて、3人で代わる代わるバトルしていたのだが、明日も同じことを続けるつもりは彼等にはなかった。

 

ポケモンに合わせた新たな戦術を組み立てるために、彼等は知恵を出し合っていた。

 

「遠距離ワザ?」

「……うん」

 

マカナが言うにはタクミの手持ちには遠距離で牽制として放てるワザがないのは問題じゃないかという話だった。

キバゴは完全に近接ワザしかない。フシギダネの“ツルのムチ”は中距離から近距離よりのワザ。“やどりぎのタネ”も決定打としては弱い。

 

それにハルキのヒトカゲとのバトルを想定するなら、“かえんほうしゃ”や“りゅうのいぶき”で遠距離からネチネチ攻撃されたら手も足もでなくなってしまうのは目に見えていた。

 

それがマカナの意見であった。

 

タクミは隣にいるキバゴ達に目を向ける。

食事をすっかり食べ終えたキバゴはフシギダネの背で“ツルのムチ”で模様を作って遊んでいた。

 

「キバゴ、どう思う?」

 

タクミがそう尋ねると、キバゴは話を聞いていたらしく少し首を傾げて目を閉じた。

そして、キバゴはおもむろに立ち上がって両腕を振り回しだした。

 

「……キバッ!キバッ!キバァ!!キバァアアア!」

 

シャドーボクシングのような動きをしてみせるキバゴ。

キバゴの言わんとしていることを理解して、タクミは呆れたようにため息をを吐いた。

 

「わかったわかった。お前は格闘戦がしたいんだな」

「キバキバッ」

 

気持ちが通じたことが嬉しかったのか、キバゴは飛びはねるようにしてタクミの膝に飛び乗ってきた。

 

「キバァ!!」

 

膝の上でもシャドーボクシングを続けるキバゴ。

そのスパーリングの相手をするかのようにキバゴの目の前にフシギダネの“ツルのムチ”が差し出された。

 

「キバッ!キバッ!キバッ!!」

「……ダネダ……」

 

じゃれるような2人の動きに微笑ましい気持ちになる一同であったが、問題が解決したわけではない。

 

「……でも、遠距離対策か……」

「確かに問題だよな」

 

ミネジュンも「う~ん」とうなり声をあげた。

 

「ミネジュンも必要だと思う?」

「うん。キバゴは動きが直線的だから狙い易いとは俺も思ってた。フシギダネに至っては完全に(まと)だし」

「……まぁ、そうなんだよね……」

 

バトルの為に他のポケモンを新しくゲットすれば多ければ話は別なのだろうが、今回はキバゴとフシギダネで勝たなければ意味がない。

 

タクミは膝の上で腕を前に突き出し続けるキバゴを見下ろす。

 

ボクシングのような遊びを行う2人を見て、タクミはふと思い付いたことを口走った。

 

「……じゃあさ……こんな作戦はどうかな?」

 

その作戦を告げた時の2人の顔は本当に見ものであった。

 

2人の顔には『こいつバカじゃねぇの?』という言葉が遠慮会釈なしに張り付いていた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

タクミは目の前の“つららばり”を前に、ニヤリと唇の端で笑ってみせた。

 

「……キバゴ!!特訓の成果を見せるよ!!」

「キバァ!!」

 

キバゴが両腕を勢いよく振り下ろし、ツメを構えた。その爪先から紫色のオーラが迸る。キバゴの腕から噴き出た力の奔流はキバゴの手を包み、腕まで広がり、紫炎のように揺らめく。

 

「いくよ!!“ダブルチョップ”」

「キバァ!」

 

キバゴが腕を交差させて頭上に振り上げる。そして、迫りくる“つららばり”に向けて一気に振り下ろした。

 

「キバァアアアアアアア!」

 

気合の裂帛と同時に放たれる“ダブルチョップ”。

 

それを見てもハルキの表情は揺るがない。

以前バトルした時に使っていた“ひっかく”ではなく、より強力なワザを身に着けてきたことには少し驚いたが、所詮は【ドラゴンタイプ】のワザ。“つららばり”を受けて終わりだ。

 

そう思っていた。

 

だが、次の瞬間、ハルキの表情が一変した。

 

ガラスが割れるような音が鳴り響く。

キバゴが腕を振り切った衝撃が風となって吹き抜けた。

その風の中に混じるのは細かく砕けた氷の欠片。

 

キバゴが振り下ろした“ダブルチョップ”が無数の“つらら”を完全に弾き飛ばしていた。

 

「キバァアアアアアアア!!」

 

例えタイプ相性が悪くとも、細く小さい氷の棘でしかない“つらら”など、キバゴの全身の駆動を一点に集めた攻撃ならば容易に打ち砕ける。

 

タクミが提案した『キバゴの遠距離対策』とは何の捻りもない、作戦と呼べるかどうかも怪しい代物だった。

 

その名も『正面突破』

 

「なっ!!そんなっ!?嘘だろ!!」

 

氷の弾幕をたった一発の攻撃で弾き飛ばしたキバゴを前にハルキの表情に焦りが生じた。

タクミの後ろで見ていたマカナとミネジュンがガッツポーズを取る。

 

「行ける!行けるぞタクミィ!!」

 

ミネジュンの声援に後押しされ、キバゴが再び“ダブルチョップ”を構えた。

 

「シェルダー!何やってんだよ!!撃て撃て撃てぇ!“つららばり”だぁ!!」

「シェ、シェル!!」

 

シェルダーが次々と“つららばり”を撃つも、キバゴの行動は変わらない。

 

「キバゴ!右側は弾幕が薄い!!そこを狙え!!」

「キバァ!!」

 

タクミの指示が飛び、キバゴは両腕に“ダブルチョップ”のオーラを纏いながら弾幕に向けて突進していく。

 

「キバキバキバキバァ!!!!」

 

迫りくる攻撃を的確に払い落としながら、シェルダーに向けて突っ込んでいくキバゴ。

 

一見するとキバゴのポテンシャルに任せた強引な行動にしか見えないかもしれない。

だが、ここまで至るのはそう簡単なことではなかった。

迫りくる攻撃の中から自分に当たるものだけを的確に弾き飛ばして走り抜けるなど、一朝一夕でできる芸当ではない。

 

タクミはこの無茶な特訓に付き合ってもらった友人2人に心の中で感謝した。

 

最初はケロマツの“あわ”の弾幕から始めた。

それから、ディグダの“どろかけ”やベトベターの“ヘドロこうげき”で慣れさせた。

 

あまりに激しい特訓にキバゴの自慢のキバが砕けるようなハプニングもあった。

 

無茶な特訓のせいで3日目の夕方にはキバゴも立っているのがやっとのレベルだった。それでも諦めずに夜通し特訓を続けた。キバゴの全身の傷だらけの鱗と折れたキバはいくつもの攻撃に身を晒し続けてできた結果だった。

 

「キバゴ!!押しきれぇえええ!!」

「キバァアアアア」

 

キバゴの“ダブルチョップ”が氷の刃を砕いていく。

氷の粒が雪のように太陽の光を反射して、キバゴの周囲で煌いた。

 

「シェルダー撃て撃て撃て!!“つららばり”だ!“つららばり”だよ!!」

「シェル!シェル!シェル!!」

 

シェルダーとの距離が近づき、弾幕の密度があがってくる。

だが、それこそタクミが待ち望んだ瞬間だった。

 

「キバゴ!!そこだ!飛べぇ!!」

「キバァ!!」

 

キバゴが“ダブルチョップ”を頭上に振り上げながら、勢いよく飛び上がった。

 

「シェルダー!上だ!!上っ!」

「シェ……シェル!」

 

シェルダーが上に向けてワザを放とうとするも、二枚貝のような姿のシェルダーはそう簡単に頭上を向くことができない。

 

『シェルダーの真上は攻撃の死角なんだよ。ポケモンって変わった姿しているのもいるから、時々こんな感じで攻撃ができない場所があるんだね』

『へぇ……この本面白いね……あっ、でもキリンリキは逆に死角になる場所がほとんどないのか』

 

そんな話をしたのは、アキが入院している時だった気がする。

 

「いっけぇええええええ!!」

「キバァァアアアアアア!!」

 

キバゴが重力に従い落下する。

その両腕に纏うのは最大火力まで増幅した紫色の炎。

キバゴは身体をひねり、勢いをつけ、自分の体重を全て乗せきった一撃をシェルダーの頭上から叩きつけた。

 

地響きを起こしそうなほどの重低音が鳴る。

 

あまりの衝撃に土煙が舞い上がり、ポケモン達の姿を覆い隠す。

そして、その土煙の中からキバゴがバク転を決めながら飛び出してきた。

 

空中で2回転程したキバゴは体操選手さながらの着地を決め、両腕をクロスさせてポーズを決めた。

 

「キバッ……」

 

『決まったゼッ!』というドヤ顔を見せつけるキバゴ。

その腕には再び“ダブルチョップ”のエネルギーを纏っており、決して油断しているわけではなかった。

 

その後ろ姿を見ながら、タクミは両拳を強く握りしめた。

 

タクミのキバゴは本当に弱いのかもしれない。

遠距離ワザが嫌いな性格はきっといつか困ることになるのかもしれない。

 

実際、キバゴは特訓の過程で何度も膝をついた。

それはタクミの方が先に諦めそうになるほどだった。

 

それでも、キバゴは一度だって自分から特訓をやめたりはしなかった。

 

意地っ張りで、頑固で粘り強くて、決して諦めようとしないこんなキバゴ。

だからこそ、勝ち取れるものもあるのだ。

 

「シェルダー!シェルダー!!あぁ、ちくしょう、ダメかぁ……」

 

土煙の中から目を回して気絶しているシェルダーの姿が現れる。

 

「いっっよっしゃぁ!!」

「キバァァア!!」

 

キバゴと手を打ち合わせるタクミ。

 

1VS1のバトルでの初勝利のハイタッチ。

それはキバゴが“ダブルチョップ”を纏っていたこともあり、ものすごく痛かった。

 

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