ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて 作:からんBit
ポケモンキャンプ6日目
長かったようで短かった『ポケモンキャンプ』も明日で終わり。
キャンプを終えて一晩熟睡した子供達。本日は終日自由時間ではあるが、その為には乗り越えなければいけない課題があった。
朝食をとった子供達はシャワーを浴びた上で大広間にて『作文』に取り掛かっていた。こういった行事の後に必ず書かされる国語の課題である。
400字詰め原稿用紙を三枚以上という少ないようで多い分量。誰しもが面倒がっていたが、その作文が終われば残り一日を自由に過ごせるとあれば、筆も早くなるというものだった。要領の良い人達はキャンプの間の既に作文を仕上げており、研究所内に残っている面子は昼前には4分の1以下になっていた。
「うぐぐぐぐぐぐ……」
その中でも特に悪戦苦闘しているのがミネジュンであった。
3枚目の原稿用紙に一文字でも書かれていればそれでOKが降りるのだが、ミネジュンは600文字から先に文が続かない。タクミが1000文字で作文を終了した時には既にミネジュンは全てを諦めるかのように鉛筆を放りだしていた。
「だぁもう!書けねぇよ!!」
「ミネジュン、もうちょっとなんだから頑張りなよ」
「って、言われてもさ!何書けばいいんだよ!!ずぅうううっとタクミと一緒に特訓してただけなんだぞ!!」
「だから、その特訓の内容を細かくかいて、僕のポケモンがどう成長したかってことを書けば2枚分ぐらい終わるよ」
「それはタクミが国語の成績良いからだろ!俺はこういうの苦手なの!!」
「でも、書かなきゃ終わんないよ。とりあえず一段落分消したら?今のラストが綺麗にまとめ過ぎててそこから新しく書くのは無理だって。ちょっと戻ってそこから話を足して。で、今のまとめ部分を繋げればいいんだよ」
「あぁ、もう!!結局、書き直しじゃねぇかよ!!」
「しょうがないって」
「しかも今時手書きなんてよぉ、パソコンだったら簡単なのに……」
「引用もコピーも簡単すぎてサボる人が多いからしょうがいないよ」
「ちくしょう!!」
ミネジュンは苛立ちをぶつけるように原稿用紙を投げ捨て、新しい原稿用紙をもらいにすっ飛んでいった。
「ミネジュンはほんとポケモン以外は全然だよなぁ」
そんなことを呟きながら、タクミはミネジュンが投げ捨てた原稿用紙の行方を追った。
あれに追加で文章を書き加えていくのだから、あの原稿用紙が無いと困るはずだった。
タクミが机の間を覗き込もうとすると、すぐ目の前に褐色肌の細い両足が見えた。
「……飛んできた」
目線を上げると、いつも以上に表情のないマカナが出迎えてくれた。目元が充血しており、今にも瞼が閉じられそうなぐらいに細められている。どうやら昼寝の最中だったらしい。彼女の手には丸められた原稿用紙が乗っていた。間違いなくミネジュンのものだった。
「……起こされた」
「ごめんごめん。っていうか、寝てたの?」
「……うん……朝早かったから……作文仕上げて……二度寝……」
それは二度寝と言っていいものなのだろうか?
タクミはそう思ったが、割とどうでもよい疑問なので黙っておいた。
タクミは彼女から原稿用紙を受け取り、丁寧に押し広げてミネジュンの机の上に置いておく。これ以上タクミに手伝えることはない。後はミネジュンの頑張り次第である。
「さてと、マカナは作文終わったんだ」
「……うん……楽勝」
片手でVサインをするマカナであったが、表情がほとんど変わらないこともあり、どうもチグハグな印象が拭えない。
「……タクミは……時間かかったね」
「ははは、作文は得意な方ではあるんだけど……今回は色々とね……」
「……そう」
マカナは何かを察したように押し黙り、それ以上追及してくることはなかった。
なにせ、今回のキャンプでは『書きたいこと』と『書けないこと』そして、『書いておかなきゃならないこと』が織り交ざっていた。その中からなんとか文をひり出し、自分の中で理屈をつけて、文章として起承転結をまとめなければならなかったのだから、なかなか難しかった。
「おりゃぁあああああああ」
後ろからミネジュンの気合の声を聞きながら、タクミは原稿用紙をホッチキスで止めて回収担当の先生に渡して、マカナと一緒に大広間を後にした。
研究所の外では子供達の多くが自分のポケモン達と好きなように過ごしていた。
ゼニガメと水遊びに興じたり、フシギダネと一緒に昼寝したり、ヒトカゲと一緒にケンタロスに追い回されたり。
ただ、その数は全体の半分ぐらいだ。残りのここにいない人達は再び山に入って野生のポケモンとバトルしたり、他のトレーナー達と切磋琢磨していることだろう。
タクミも本当なら後者のような過ごし方をしたいのだが、さすがに今日はやめておくことにした。
このキャンプの間にキバゴにもフシギダネにも無理をさせ過ぎた。今日はしっかり休ませてあげないと、体調に差し支える。
「マカナ、僕はキバゴとフシギダネに水浴びさせようと思うんだけど、マカナはどうする?」
「……行く……私も……水浴びさせたい」
「うん」
タクミとマカナは2人して研究所の裏手に回り、ポケモン達の水飲み場へとやってきた。
そこにある水道を借り、ホースを繋げば簡易シャワーのできあがりだ。
「さぁ、出てきて!!」
「……みんなも」
タクミがキバゴとフシギダネを呼び出し、マカナもベトベター、ヒドイデ、ニドラン、ゴースのモンスターボールを放り投げた。
マカナのポケモンはいいとして、やはりタクミのキバゴとフシギダネは万全とは言い難い状態だった。
キバゴの身体は相変わらずの傷だらけのボロボロ。根元から折れてしまったキバは今日の朝にポロリと落ちてしまった。
つまり、今のキバゴは『キバ無し』である。
マカナ曰く『……じゃあ、【キバゴ】じゃない……【ゴ】だ』と言っていたが、タクミは変わらずキバゴと呼んでいる。
フシギダネの方もいつもに比べて背中の植物の張りがない。水分不足の植物のようにタネの表面が萎びているようだった。
タクミは彼等に向けてホースを上に向け、シャワーのように上から水を振りまいた。
【みずタイプ】であるヒドイデや、水浴びが好きなニドランは積極的にそのシャワーの中に飛び込み、嬉しそうに飛びはねている。
ベトベターは嫌がるかと思っていたが、地面に広がるように身体を伸ばし、身体を上に向けて満足そうに目を細めていた。
「キバ!!キバァ!!キバァ!!!」
そんな中、キバゴはフシギダネの背中に乗り、両腕を広げて空を仰ぎ見るようなポーズを取る。一見するとシャワーを全身に浴びているだけにも見えるのだが、何かおかしい。
キバゴは時折タクミ達の方に意味ありげな視線を向け、そしてその度に大仰に再度同じポーズを取って叫び声をあげるのだ。その下ではフシギダネが非常に迷惑そうな顔をしていたが、キバゴはお構いなしだった。
「キバゴ、何してるの?」
「キバァ!」
「え?なに?」
頭をひねるしかできないタクミ。その時、隣でゴースにまとわりつかれていたマカナが何かに気が付いたかのように頷いた。
「……わかった……『ショーシャンクの空に』だ」
そう言うと、キバゴは猛烈に頷いて喜びの声を上げた。
「え?なにそれ?映画?」
「……うん……『You either get busy living or get busy dying』」
マカナは完璧な発音でそう言ってみせた。
「わお、さすがマカナ……で、なんて意味?」
「……日本語だと……『選択肢は2つ、必死に生きるか、必死に死ぬか』……好きな台詞」
「へぇ……っていうか、キバゴはなんでそんなの知ってるの?」
「……キバゴは普段何してるの?」
「普段?普段は家にいることが多くて……あぁ、それでか。父さん結構いろんな映画をHDに入れてるからそこから観たのか」
キバゴが時々、妙にキメたがるのはその影響だろう。
「……でも……『ショーシャンクの空に』とは……いい趣味」
「そうなの?」
「……うん……私が見た中で……2位」
「へぇ、じゃあ1位は?」
「『スタンドバイミー』。ちなみに、3位は『天使にラブソングを』4位は『メアリ』5位は『レオン』」
タクミもスタンドバイミーは見たことがある。
廃線となった線路を歩いて、4人の少年が小さな冒険に出かける物語だ。
ただ、タクミは他の映画は観たことがなかった。というか、タイトルからして10歳の少年少女が観るものじゃない気もする。だが、マカナのミステリアスな雰囲気からすればそういった洋画を観ていてもなんとなく納得してしまう。
タクミはいつか機会があれば観てみようとホロキャスターのメモ帳に記録しておいた。
「キバゴ、気がすんだらフシギダネから離れてあげて。迷惑そうだよ」
「キバ?」
「ダネダ!」
フシギダネが強い口調で注意すると、キバゴはすぐにフシギダネの上から降りて反省のポーズを取った。
片手をフシギダネのタネに置き、項垂れるキバゴ。
それが猿回しがよくやる『反省のポーズ』というのはタクミも知っていた。
「キバァ………」
「ほんと、お前はどこでそういうの覚えてくるの?」
そんなこんなで水を撒きながら、ポケモン達と戯れる。
ポケモン達が十分に水浴びに満足すれば、後はお手入れの時間だった。
「……ヒドイデはこっち……ニドランはそこに座って……ベトベターは寝てるならいっか……で、ゴースは邪魔するなら戻る?」
マカナが半目になってゴースをにらみ上げると、ゴースは涙目になってマカナの周囲で飛び回った。
「ゴスゴスゴスゥ!ゴースゥ!ゴスゥ!!」
『嫌だぁ』と全身で訴えるゴースにタクミはクスクスと笑う。
相変わらず間の抜けた『お化け』であった。
タクミはポケモン用の石鹼を借り、それでキバゴの鱗をゴシゴシと磨いてやる。ただ汚れを落とすだけでなく、特訓で疲れたキバゴの身体をマッサージするつもりでタオルを擦る。
石鹼の泡が汚れを浮かせ、それを拭うと、手拭がすぐに真っ黒に変わった。
「キバゴ……お前、ほんと頑張ったな」
「キバ?」
リベンジマッチの為の特訓。タクミとフシギダネの気持ちが折れることなく、こうして最終日を迎えられたのはやっぱりキバゴのひたむきな強さがあってこそだったように思う。どんな時でも、常に全力で、決して諦めない姿勢がタクミ達に勇気を与えてくれた。
泡の下にあるキバゴの傷だらけの鱗はそのうち治る。折れたキバも生え変わってより強いキバになる。そのうち、特訓の怪我などまるでなかったかのようになるだろう。だが、あの時にキバゴが見せてくれたそのハートの強さは決して消えることはない。
「お前は最高のポケモンだよ」
「キバ!」
「『選択肢は2つ、必死に生きるか、必死に死ぬか』か……いい言葉だ」
「キバ!」
タクミはそう言って、キバゴの頭から水をかけて泡を洗い流す。
「キバァ!!」
『完全復活』とでも言いたげにマッスルポーズを取るキバゴ。
タクミはそのキバゴの頭をポンポンと撫で、フシギダネをひざ元に抱き寄せた。
「フシギダネも身体洗う?」
「ダネ」
頷いたフシギダネは“ツルのムチ”を伸ばして、自分で手ぬぐいに石鹼を泡立てた。
「ダネダ~」
「はいはい」
タクミが水をかければフシギダネは自分で自分の身体を洗っていった。本当に器用なフシギダネである。
タクミはフシギダネが自分では見えない場所だけを拭いてあげる。
そして、最後にタクミはフシギダネの動かない足を拭いてやった。
凝り固まった筋肉。動かない関節。そして、大きな傷跡。
フシギダネのその足はボロボロだ。この怪我は一生消えることはない。
タクミは筋肉の血流を少しでも良くするために、フシギダネの足を念入りにマッサージする。
フシギダネはされるがままにそのマッサージを受けつつも、“ツルのムチ”ではキバゴとシャドーボクシングのマネごとをしていた。
「フシギダネ……君も忘れないでね」
「ダネ?」
「『必死に生きるか、必死に死ぬか』……フシギダネはどっち?」
「……ダネ」
フシギダネはタクミを見上げ、ニヤリと笑ってみせた。
『前者だ』
タクミの耳にそんな声が聞こえた気がしていた。
ポケモン達のお手入れが終わり、タクミとマカナはオーキド研究所の片隅に座り、一息ついていた。
「そういえば、マカナって『地方旅』はどこの地方行くの?」
「……言ってない?」
「聞いてないかな。っていうか、僕も言ってないか」
「……私は……カロス……カロス地方」
「ほんと!?じゃあ、僕と一緒じゃん!!」
「……そうなの?」
「そうだよ、僕もミネジュンもカロス地方を巡るんだ。ははっ!すごい偶然!!ってことは旅先でちょくちょく会うかもね」
嬉しそうにマカナの顔を覗き込むタクミ。
だが、マカナの表情はどちらかと言えば浮かないものだった。
その横顔はいつもと変わらない無表情であるが、わずかに目を伏せているせいでその顔色に陰りが見えていた。
「…………うん……そうだね……」
マカナの会話の間合いが変わったのをタクミは感じた。
元々、独特な間合いで喋るマカナであったが、最後の返事だけ少し躊躇うような間があったのだ。
「マカナ?どうかした?もしかして、僕らと一緒は嫌だったり……」
「それはない」
マカナはピシリとそう言い放つ。彼女にしては即答の部類だった。
「……タクミも……ミネジュンも……いい友達……一緒の地方なのは……心強い」
「そう?でも、なんか……悩んでる?」
「………悩んでる……うん……悩んでる……のかも……」
「かも?」
「……かも」
マカナの返事はどうも煮え切らない。それは彼女自身も自分の気持ちを上手く表現できずにいるせいもあった。
そして、マカナは不意に目の前で溶けたように眠っているベトベターに声をかけた。
「……ベトベター」
「ベトォ?」
「……おいで……」
マカナがそう言うと、ベトベターは這うようにしてマカナの足元に寄り添った。
アローラのベトベターは毒素を体内の結晶体に濃縮するため、悪臭もなく、また表面の体液の毒性も極めて薄い。地方によっては化粧品扱いされている場所もあるらしいが、色合いが毒々しいので率先して触りたいとは思えない。
そんなベトベターをマカナはなんの躊躇いもなく自分の膝上に乗せた。
ベトベターはマカナの膝に合わせて形状を上手く変え、自分の身体を安定させた。
「……ねぇ……ベトベター……私……」
何かを言いかけたマカナ。
だが、そこから先に言葉は続かず、マカナは息を飲むように唇を結んでしまった。
「……ベトォ……」
顔を伏せ、目を閉じ、落ち込んだようにも見えるマカナ。遠巻きに見ているマカナのポケモン達はそんな彼女に心配そうな視線を送っていた。特にゴースはまたもや泣きそうな顔でオロオロしており、『ちょっとしっかりしろ』と言いたくなってしまいそうになる。
そんな彼女の頬にベトベターが手を当てた。
「………ベトベトベ!!」
そして、ベトベターは突然両腕を広げて空を仰ぎ見た。
「……え?」
「ベトベ!!」
それは紛れもなくさっきキバゴが見せた『ショーシャンクの空に』の真似であった。
「……『必死に生きるか、必死に死ぬか』……」
「ベト!!」
肯定するように大きく頷くベトベター。
そんなベトベターに向け、マカナは強く頷いた。
「……うん……そうだね……」
そして、マカナはベトベターを自分の肩に乗せ、立ち上がってタクミの真正面に立った。
「マカナ?」
「タクミ……私と……バトルして……」
「……え?」
一瞬、何を言われたかわからずに呆けた顔になるタクミ。
だが、その言葉の意味を頭が認識するにしたがってタクミは自分の口角が自然と持ち上がっていくのを感じた。
今のマカナの顔はいつもの無表情とはかけ離れていた。
眉間にはわずかに皺が寄り、顔全体に力が入り、興奮しているのか瞳孔が開いてギラギラと輝いて見える。
それは闘志に溢れた顔だった。
そんな顔でバトルを挑まれたら、応えない方が失礼だ。
「よしっ!やろう!!」
「……ルールは1対1……私は……ベストパートナーのベトベターで行く」
「ベトベッ!!」
気合十分のベトベター。ベトベターの表面の緑色の液体が激しく流動しているのがタクミからもわかった。
「それじゃあ、こっちはキバゴだ」
「キバキバァ!!」
彼女が何を思い悩んでいるのかはわからない。
わからないが、その悩みを吹っ切るためにバトルを必要としているのはタクミにもわかる。
だったらこっちは彼女が全力でぶつかってこれるよう、全てを出し尽くすだけだ。
タクミとマカナは他のポケモン達に声援を送られながら、お互いに距離を取って向き合う。
バトルフィールドでもない、ただの野原でのバトル。
だが、気分は大歓声のスタジアム真っ只中だった。
キバゴが大地を踏みしめ、咆哮を上げる。
ベトベターが柔軟体操をするように身体をひねり、勢い余って周囲に体液を飛び散らせていた。
「……タクミ……本気で……」
「勿論だよ!!」
マカナとは特訓中に何度かバトルしたものの、それはキバゴやフシギダネのトレーニングがメインであり、お互いにある程度体力を温存するようなバトルをしていた。
本気でぶつかり合うバトルをマカナとやるのは初めてだった。
タクミはニヤリと笑い、声を張り上げた。
「行くぞキバゴ!!“ダブルチョップ”を構えろ!」
「キバァ!!」
キバゴが腕を振り下ろすとその両腕に紫の炎が灯った。
「先手必勝!仕掛けろ!!」
「キバキバァ!!」
真正面から突っ込んでいくキバゴ、それに対してマカナの冷静沈着な視線が刺さる。
「ベトベター……流して」
「ベトォ!」
「キバァ!!」
キバゴが一気に接敵し真正面から殴り掛かる。
だが、ベトベターはその流体の身体を生かして、攻撃をヒラリと回避した。
「キバキバキバァ!」
キバゴの連撃は止まらない。“ダブルチョップ”を纏った両腕を次々と振り切り、前に前に突っ込んでいく。
「ベトベター……後退して」
「ベト」
ベトベターはその攻撃を右に左に身を揺らすようにして回避しながら下がる。キバゴの攻撃が時折その身体を掠めるも、ダメージは軽い。キバゴの直線的な動きが読みやすいこともあり、致命打にはなかなか至らない。
だが、ベトベターも回避に精一杯でカウンターを差し込む余裕もないはずだった。
「………」
「キバキバキバ……キッバァ!!」
キバゴの“ダブルチョップ”がついにベトベターの身体の一部を削り取った。状況は間違いなくタクミ優勢に動いている。そのはずなのに、タクミはなんだか嫌な予感を覚えていた。
マカナは普段は大人しい雰囲気のある女子だ。だが、その内情には結構な熱量がある。冷静沈着にバトルフィールドを見渡し、自分のポケモンに関しては特に精通している。そんな彼女が何もせずに防御一辺倒だなんてことがあるだろうか。
タクミはマカナの表情をチラリとみる。眉間に皺を寄せたマカナの視線を追い、バトルフィールドを見渡しタクミは一瞬で青ざめた。
「キバゴ!!戻れ!!罠だ!!」
「キバ!?」
「……遅い……ベトベター……“かたくなる”!」
「ベトォ!!」
ベトベターを構成する体液がかたまっていく。頭の天辺からベトベターの表面を流れていた液体の流動が止まり、そのまま胴体が固定される
そして『地面』が固まった。
正確にはベトベターが後退しつつ薄く地面に張り巡らせていたベトベターの体液が固まったのだ。
無臭であり、深緑色の液体のベトベターの体液はこの草原のフィールドではあまりにも目立たない。
キバゴの両足は既にそのベトベターの沼地に取り込まれていた。
「キバッ!キバキバッ!!」
前に前に出ていたキバゴの動きが止まる。
キバゴの足がベトベターの体液と一緒に固まっていた。
「……ベトベター……“アシッドボム”」
「ベトベ!!」
「キバゴ!!撃ち落とせ!!」
「キバァ!!」
足が動かずとも腕は動く。キバゴはベトベターが放ってきた毒の爆弾を次々とその両腕ではたき落とした。
だが、それは攻撃を受け止めているだけであり、回避できているわけではない。そのダメージは確実に蓄積されていく。
ベトベターが近接攻撃を仕掛けてくれれば反撃の余地もあったが、キバゴのパワーを知るマカナは確実に距離を取って攻撃してくる。
このままじゃジリ貧になることは目に見えている。こちらから動かなければ勝機はない。
「キバゴ!!足元の液溜まりは薄い!!お前なら外せる」
「キバァァァァアアアア!!」
キバゴも同じことを考えていたようで、自分の足を引き抜こうと力を込める。
だが、それをすれば防御の方がおろそかになる。
「……ベトベター……畳みかけて!」
「ベトベ!!」
大きく息を吸いこんだベトベター。大量の“アシッドボム”を放つ前準備だ。
その攻撃を受ければさすがのキバゴも危ない。
タクミは足をなんとか引き抜こうとするキバゴに指示を飛ばした。
「キバゴ、足元に向けて“ダブルチョップ”!!」
「キバッ!!」
両腕を頭上でクロスに構えたキバゴ。
その直後、ベトベターの口から6発の“アシッドボム”が放たれた。
「ベトォォオオオオ!!」
毒の爆弾が迫る。キバゴの両腕の紫炎が一際強い輝きを放つ。
「キバァ!!」
強烈な一発が振り下ろされるのと、“アシッドボム”の着弾はほぼ同時。
だが、陶器が割れるような乾いた音の方が一瞬だけ早かった。
「キバッ!!」
間一髪のところで回避したキバゴはバク転をしながら、タクミのすぐ手前まで戻ってきた。初期の立ち位置に戻ったキバゴとベトベター。
そして、キバゴは鼻先についた“アシッドボム”の飛沫を左手の爪で拭い去り、カンフーのようなポーズを取った。
「キバァァアアアアア!!」
「……ブルース・リー……」
マカナがそう言うと、キバゴは親指を立てて満足そうに頷いた。
「はい、キバゴ、バトルに集中」
「キバ!!」
「……それにしても、なかなか突飛なバトルをしてくれる」
タクミはそう言って楽しそうに笑う。
それに対して、マカナの表情は変わらない。
静かにフィールドを見つめ、次の一手を熟考しているようであった。
タクミはベトベターの足元に目を向ける。
キバゴの足を捕らえたのはベトベターの身体の一部だ。その部分を“ダブルチョップ”で叩き砕いてキバゴは脱出した。だが、ベトベターの身体にはダメージを負った様子はない。叩くならやはり本体に当てないとだめだろう。
ベトベターの軟体には通常の打撃は通りにくいが【ドラゴンタイプ】を付与している“ダブルチョップ”なら関係はない。
やはり、勝つための一番の問題は『如何にして接近するか』の一点につきる。
「キバゴ、アクロバットに行くしかないね」
「キバ?」
ポケモンには“アクロバット”というワザがあるが、そんなワザをキバゴが使えるわけがない。
ここでいうアクロバットというのは、単なる地球界での用語のことであった。
「キバゴ、オリンピックは覚えてるだろ?体操選手みたくキメてくれる?」
そう言うと、キバゴは口の端でニヤリと笑い、大きく頷いた。
「キバァァァ!!」
「よしっ、キバゴ!”ダブルチョップ”!!」
「キバッ!!」
キバゴは一気に突進し、ベトベターの身体が広がる領域へと躊躇せずに足を踏み入れてくる。
「……突っ込んでくる……」
マカナの脳裏にこの数日のキバゴの特訓のことが頭に浮かんだ。
全ての攻撃を叩き落とし、正面突破で相手に突撃することに特化した訓練。
マカナはキバゴがベトベターの体液を強引に突破してくるつもりだと予想した。
「……ベトベター……今度は十分引きつけて」
「ベトベェ!!」
先程の“かたくなる”をキバゴが抜け出せたのはベトベターが広げた体液が薄く、弱かったからだ。
ベトベタとの距離が近づけばその体液も量が増え、厚みも増える。至近距離まで近づいてくればキバゴのパワーがあろうと、その足を止められるはずだった。
マカナは息を止め、生唾を飲み込んだ。
マカナはキバゴのパワーを間近で見てきた。その恐ろしさもよくわかっている。距離のあるうちに“かたくなる”で足を止めたい衝動に駆られてしまう。
その気持ちを押さえつけ、キバゴが突っ込んでくるプレッシャーに負けじと気持ちを強く張ってキバゴを内側に誘い込む。
「……ベトベター……まだ……まだ」
「ベト……」
だが、そうやって引き付けて来ることはタクミの方も予想していた。
「キバゴ!今だ!!」
「キバァ!!」
次の瞬間だった。キバゴが“ダブルチョップ”を地面に叩きつけ、跳躍した。
ベトベターの沼地を大きく飛び越え、本隊を直接狙うハイジャンプ。
「……え……」
マカナの背に一気に冷や汗が噴き出した。だが、すぐさま動揺を飲み込み、状況を冷静に確かめる。
「……その跳躍……届かない……ベトベター……着地を狩るよ……」
「ベトォ……」
「いいや、そうはいかない!!キバゴ、もう一度地面に“ダブルチョップ”!」
「キバァ!!」
キバゴは空中で身体をひねり、強引に頭から落下する。
そして、地面に身体が付く直前に“ダブルチョップ”を叩きつけた。
軽い地鳴りが起きた。
ベトベターの沼地が一瞬だけ吹き飛び、地面が見える。そして、そのままキバゴは再度空中へと飛び上がった。
今度こそ、キバゴの跳躍距離はベトベターの本体に届く。
「……くっ……ベトベター……弾幕を」
「ベトベェ!!」
空中にいるキバゴに向けて“アシッドボム”を連打しようとするベトベター。
だが、つい先程まで“かたくなる”のタイミングを伺っていたため、行動が遅れる。
キバゴが飛んでくる僅かな時間に放てた“アシッドボム”は2発のみ。
その程度の攻撃で今更キバゴが止まるはずもなかった。
「キバゴ!!一気に決めろ!!“ダブルチョップ”!!」
「キィィイイバァアアアア!!!」
「……ベトベター……“かたくなる”!」
「ベトォ!」
防御を強引に固めにきたマカナ。ベトベターはすぐポケモン身体の流動を止め、硬質化する。
そこに、キバゴの攻撃が刺さった。
「キバァァァアア!!」
「ベトォオオオオ!!」
全体重を乗せた“ダブルチョップ”を叩き込むキバゴ。
全身を持ってその場に踏みとどまろうとするベトベター。
両者一歩も引かないかに見えた攻防が膠着したのはほんの一瞬。
「キバァアア!!」
キバゴの攻撃がベトベターの体躯を突き飛ばした。
「ベトォ!」
草地の上を転がり、やや丸くなったベトベターはマカナの足元で動かなくなった。
沼地の上に着地し、キバゴは再びポーズを決める。
今度もやはりブルース・リーであった。
「キバァアア!!」
そうしながらも、決して目線はベトベターから外さないキバゴ。
そのベトベターの傍にマカナが走り寄り、膝をついた。
「……べ、ベトォ……」
目を回し、身体が蕩けるように平べったくなっているベトベター
そして、マカナはタクミの方を見て、静かに首を横に振った。
「……もう戦えない……私達の負け」
タクミはそれを聞き、両手の拳を握りしめる。
「イヨッシャ!!キバゴ!ナイス」
「キバァ!」
タクミとキバゴがハイタッチを決める。
「いってぇえええええ!」
タクミは今度からバトルが終わったキバゴには“ダブルチョップ”を解除させるのを絶対に義務付けようと心に誓うのだった。
ポケモンの小説を書くぐらいポケモン好きな人生を歩いてきたら、その人生の走馬燈のようなPVを公式が放ってきた!
『GOTCHA』を一回見て涙が出て、それからずっとリピートを続けているよ!おかげでポケモンの小説が書けない!PVで『XY』の描写少なかったから『俺が書かなきゃ!』って意気込んでんだけど、それ以上にゲームで自分の相棒達に会いたくなっちゃったんだよ!
そんなこんなでちょっとしばらく、テンションおかしいと思うので投降ペースがどうなるかわかりません。無茶苦茶投稿速度あがるかもしれないし、クソほど遅くなるかもしれません。