ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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これで負けたら男が廃る

その予約が入った時、ビオラは唇の端を持ち上げてニヤリと笑った。

その日に向けて、自分のカメラを念入りに手入れし、ポケモン達の体調もバッチリ整えた。

ジム戦をする時は常にやっていることだが、ここまでワクワクしているのは久しぶりだった。

 

そして、ジム戦の当日。

 

予約の時間に合わせてフィールドに立っていると、予定のキッチリ5分前に彼は現れた。

 

最初に来た時とは足取りからして違う。自分の進むべき道が最初から見えているかのような躊躇いのない歩み。緊張感を保ちながらも、決して強張っていない手足。目元には自信が満ち、引き締まった口元には強い負けん気が浮かんでいた。そして何より彼の全身から燃え上がるような熱量を感じていた。

 

絶対に今日勝つんだという気概、やる気、覚悟。

 

ビオラは一目見ただけで悟った。

 

もう彼は既に『初心者トレーナー』ではない。

 

「来たわね」

「はい!今日こそは勝ちます!!」

 

タクミはそう言って、握りこぶしを見せつけてきた。手の中には既にモンスターボールが握られている。手垢のついたモンスターボールだ。新しいポケモンを捕まえてきたわけではないらしい。

そのことが、ビオラの期待を更に高める。

 

「いいね……いいわね!!」

 

最高のシャッターチャンスが訪れそうな雰囲気をひしひしと感じるビオラ。

ビオラの手には既にアメタマのモンスターボールが握られていた。

 

タクミはバトルフィールドまでの残り数歩をダッシュで駆け抜け、フィールドに降り立った。

 

ビオラが目で審判に合図を送る。

 

「これより、チャレンジャータクミ対ジムリーダービオラのハクダンジム、ジム戦を始めます。使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトル終了になります。ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます」

 

前回と同じ口上。そしてそれが終わるや否や、ビオラはすぐさまモンスターボールをフィールドに投げ込んだ。

 

「お願い!アメタマ!!」

 

やはり最初のポケモンはアメタマ。

アメタマは地面を左右に滑り、臨戦態勢を取る。

 

「やっぱり、アメタマ……」

 

予想通りの初手。

 

タクミは口の中に溜まった生唾を飲み込んだ。

 

対策は立てた。作戦も考えた。実行するための特訓もした。

 

勝算はある。だが、勝負に『絶対』はない。

 

タクミは一度大きく深呼吸をした。

 

それでも、今日勝たなきゃ男が廃る。

 

タクミはアキの不安そうな笑顔を思い出し、腹に力を込めた。

 

「行くぞ!キバゴ!!」

 

投げ上げたモンスターボールからキバゴが飛び出てくる。

 

「キバキバッ!」

 

やる気たっぷりに吠えるキバゴ。

それを見てビオラはニヤリと笑った。

 

「あら、初手はキバゴなの?私のアメタマが【こおりタイプ】のワザを使えることを忘れたわけじゃないでしょうね?」

「もちろんですよ!わかった上で『逆』にしたんです!!」

「へぇ、じゃあ魅せてちょうだい!あなたのバトル!!」

 

張り詰めた闘争心。その火が最高潮に達した瞬間を待っていたかのように審判が旗を振り上げた。

 

「試合開始!」

 

先にしかけたのはタクミだった。

 

「キバゴ!一気に間合いを詰めろ!“ダブルチョップ”!」

「キバッ!!」

 

ゼロから一気に加速してアメタマに迫るキバゴ。その瞬発力にビオラは一瞬面食らった。

 

「はやい!でもっ!!アメタマ!ステップでかわして」

「アッ!!」

 

アメタマは最小限の動きで回避する。その直後、キバゴの攻撃が地面に突き立った。

一発目の攻撃は外れた。だが、キバゴの目はアメタマの移動先を確実にとらえていた。

ステップで素早く間合いを詰め、二発目の“ダブルチョップ”を繰り出す。

 

「アメタマ!“れいとうビーム”」

「アァッ!!」

 

頭の触覚に冷気が収束し、“れいとうビーム”が放たれる。キバゴは【ドラゴンタイプ】だ。当然【こおりタイプ】のワザを使ってくるだろう。そのことはタクミも予想していた。

 

「キバゴ!地面だ!地面に向けて“ダブルチョップ”!!」

「キバッ!!」

 

地面に叩きつけたチョップが土埃を巻き上げ、ビームを遮った。

 

「地面を掘ってビームを防ぐ気?だったら、これでどう!!アメタマ、氷のフィールドを作って」

「アッ!!」

 

“れいとうビーム”が地面に次々と打ち込まれ、地面が音を立てて凍っていく。

 

「キバゴ!逃げろ!!」

「キバキバキバ!!」

 

フィールド全域に降り注ぐ“れいとうビーム”をキバゴは必死に回避する。

地面を転がり、ダイブし、バク転まで駆使してキバゴはなんとか全てのビームを回避した。

だが、キバゴはタクミの目の前にまで後退してしまう。

フィールド全域は既に氷のフィールドに塗り替えられた。アメタマはその中央で優雅に滑っている。遠距離攻撃のないキバゴはアメタマに近づくしかないが、足場の悪いこのフィールドで先程よりもスピードの上がったアメタマに接近するのは至難の技だ。

 

そんなキバゴとタクミに向け、ビオラは腰に手を当てて言った。

 

「やっぱり、フシギダネを先発にした方がよかったんじゃない?」

 

フシギダネには中距離に対応できる“ツルのムチ”がある。最初に“やどりぎのタネ”を使えばフィールドの主導権を完全に取られることもなかった。

 

だが、タクミはゆっくりと首を横に振った。

 

「いいえ、『逆』ですよ」

「逆?」

「はい!『逆』なんです!!キバゴ!突っ込め!!“ダブルチョップ”!!」

「キバァッ!!」

 

両腕に紫の炎を纏ったキバゴは助走をつけ、氷のフィールドに踏み込んだ。

 

「アメタマ!!迎え撃って!!“れいとうビーム”」

「アッ!!」

 

地面の上にいた時よりも数段上のスピードで移動しながら攻撃を繰り出すアメタマ。足場を失ったキバゴでは対応できない。

 

そのはずだった。

 

「キバゴ!加速だ!!」

「キバァ!!」

 

キバゴが地面を蹴る。爪の先で氷を僅かに掴んで蹴りだし、もう片方の足で華麗に氷上を滑っていく。

そのスピードに“れいとうビーム”が置き去りにされた。

 

「えっ!!」

 

キバゴの遥か後方に着弾する“れいとうビーム”。キバゴは更に加速し、アメタマへと迫る。

 

「アメタマ!かわして!!」

「アッ!」

「逃がすな!右だ!」

「キバッ!」

 

キバゴは身体を傾け、“ダブルチョップ”を氷の地面に添わせる。紫色の炎が氷の上を走り、キバゴの後ろにバックファイヤーのような軌跡を残した。足を外側に蹴りだしながら滑らかなコーナリングでアメタマを追跡するキバゴ。

 

「アメッ!!」

 

背後に迫るキバゴに驚き、別方向に逃げようとするアメタマ。

だが、既に加速が十分に乗ったキバゴからは逃げられない。

 

「キバァアアア!!」

 

スピードの乗った渾身の“ダブルチョップ”がアメタマを捉えた。

 

「アァッ!!」

「アメタマ!!」

 

キバゴはそのまま止まることなく駆け抜け、フィールドを大きく回ってタクミの前で止まる。

その綺麗なブレーキの足さばきを見て、ビオラはキバゴの動きが格段に良くなった理由を悟った。

 

「そういうことね。あなた達、ローラースケートで練習したのね」

「その通りです!」

「キバァ!!」

 

この町にあった公園のローラ―スケート場。ポケモンも一緒に遊べるローラースケートがあったことが幸いだった。キバゴはこの数日の間、毎日のようにローラースケートで遊び、滑る感覚を身につけていた。

 

それは相手に氷のフィールドを作られることを前提とした作戦。

相手のフィールドを打ち破るのではなく、利用する戦術だった。

そして、この戦い方を実行するには足が動かないフシギダネでは分が悪い。だからこそのキバゴ先発だった。

 

タクミはタイプ相性ではなく、戦い方の相性で有利を取りにきたのだ。

 

全ては『最初のポケモンを逆にする』という発想から生まれた作戦であった。

 

「キバゴ!もう一度だ!!“ダブルチョップ”!!」

「キバァ!!」

 

キバゴは炎を纏い、再び氷を蹴って加速していく。

 

「アメタマ!降り注ぐような攻撃じゃかわされる!真正面から“れいとうビーム”!!」

「アッ!!」

 

ビオラはその観察眼でもってキバゴがターンを苦手としていることを見抜いていた。

さすがに数日の特訓では自由自在に移動はできない。なればこそ、突っ込んでくるキバゴに対して面のような攻撃で対応する。

 

回避は不可能と判断したタクミ。その際の選択肢はやはりいつもと一緒。

 

「キバゴ!片腕で受け止めろ!!」

「キバァアア!!」

 

キバゴは左腕の“ダブルチョップ”を盾のように構えて“れいとうビーム”を受け止めた。前回のバトルでも似たようなことをやっていたが、やはりキバゴはこうやって戦っている時が一番安定する。

 

いつもの作戦『正面突破』である。

 

キバゴは左腕を凍らせながら一気に間合いに踏み込み、その凍った腕をアメタマの頭上に叩きつけた。

 

「キバッ!!」

 

更にその上から右腕の“ダブルチョップ”を重ねて叩き込む。二発目の攻撃は左腕の氷を割り、アメタマに強烈な衝撃を浴びせた。

 

「くっ!アメタマ!距離を取って!」

「アッ!」

 

氷を滑り、一気に間合いを取るアメタマ。

 

「接近させちゃダメ!!“ねばねばネット”」

「アッ!!」

「キバゴ!!飛んでかわせ!!地面に“ダブルチョップ”を叩きつけろ!」

「キバッ!」

 

キバゴは地面を弾き、その反動で大ジャンプを繰り出す。

アメタマの“ねばねばネット”がそのキバゴを狙って次々と打ち込まれる。

キバゴは自分に当たりそうなものだけを“ダブルチョップ”で撃ち落としていく。

 

キバゴを外れた“ねばねばネット”は天井や壁に張り付き、蜘蛛の巣を形成していった。

 

その時、タクミとキバゴはお互い目を合わせて何かを確認するかのように頷きあった。

 

着地したキバゴは間髪入れずに再び空中に飛び上がる。

 

「アメタマ!チャンス!!“ねばねばネット”!」

「アッ!」

 

キバゴ相手には生半可な攻撃では強烈なカウンターを浴びる。だからこそ、ビオラはキバゴの動きを封じることを選んだ。キバゴは“ねばねばネット”をなんとか受け流すが、その身体には粘性の高い糸が次第に付着していく。

 

“ねばねばネット”で動きが鈍くなってきているキバゴ。

 

だが、タクミの目はそのキバゴを見ていなかった。

タクミはキバゴを含めたフィールド全体を俯瞰するように視野を広げていた。

 

「よしっ!キバゴ!着地と同時に加速しろ!!」

「キバッ!」

 

キバゴは瞬時に“ダブルチョップ”のパワーを全開にする。手の先だけでなく、肩にまで紫炎を纏い、キバゴは氷の地面へと盛大に着地した。氷の欠片が飛び散り、霜が煙のように舞い上がった。

 

「キバゴ!アメタマに向けて突っ込め!!」

「キバッ!!」

 

だが、手足を“ねばねばネット”に絡み取られたキバゴの動きは鈍い。

 

「アメタマ!これならかわせる!回避行動!」

「アッ!!」

 

氷の上を滑るアメタマ。スピードが十分に乗らないキバゴでは追いつけない。キバゴもコーナリングでなんとか追い詰めようとするが、一度開けられた間合いはなかなか詰まらない。

 

「アメタマ!囲い込むように周りながら“れいとうビーム”!!」

「アッ!!」

 

フィールド全域を一杯に使って距離を取りながら、アメタマは“れいとうビーム”の照準をキバゴに合わせた。

そして、アメタマは動きながら“れいとうビーム”を放つ。一撃で決めるつもりはない。少しでもキバゴが受けに回って足が鈍れば、遠距離攻撃で確実に削り取れる。

 

当然、その危険性はタクミも十分に理解していた。

 

度重なるイメージトレーニングではそのやり方で何度負けたかわからない。

 

「キバゴ!地面を削れ!!“ダブルチョップ”!!」

「キィバァアア!!」

 

キバゴは片腕を氷に突き立て、強引にブレーキをかける。

そして、もう片方の腕を全力で地面に突き刺し、地面を一気にひっくり返した。

氷が割れる音と共に、冷気で一塊となった土が空中に掘り起こされる。

 

そこに“れいとうビーム”が突き刺さった。土の塊が瞬時に氷の塊に代わり、一回り大きくなる。

 

「しまった!」

 

この時、ビオラの表情に初めて焦りが見えた。

キバゴが作り上げた氷塊。それはキバゴの身体を完全に隠す程の盾になる。

 

「キバゴ!一気に近づけ!!」

「キバァア!!」

 

氷塊を押しながら滑るキバゴ。アメタマの“れいとうビーム”が当たるたびにその氷塊は更に大きさを増していく。大きな塊が迫ってくるプレッシャーにアメタマの足が止まった。

 

「キバゴ!!蹴り込め!」

「キィバァ!!」

 

動きの止まったアメタマに向け、キバゴが氷塊を蹴り込んだ。

 

「アッ!アッ!アッ!」

「アメタマ惑わされちゃだめ!!飛んでかわして!」

「アッ!!」

 

滑ってきた氷塊を飛び越えて回避したアメタマ。

 

ビオラはそこに勝機を見出していた。

 

キバゴは勝負を焦って盾となる氷塊を手放した。

今のキバゴになら今度こそ“れいとうビーム”が刺さる。

ビオラとアメタマはキバゴを狙おうと攻撃態勢に入った。

 

だが、想定外のことが起きた。

 

「アメッ?」

「あれ!キバゴがいない!」

 

フィールドから忽然と姿を消したキバゴ。氷のフィールドに姿形もない。頭上にもおらず、土の中に潜った形跡もない。

だが、タクミだけはキバゴの姿がしっかりと見えていた。

 

「今だ!!“ダブルチョップ”!!」

 

アメタマの動きを封じるために蹴り込まれた氷塊。その死角からキバゴが飛び出した。

 

「キィバァァアア!!」

 

宙に浮き、身動きの取れないアメタマ。その身体をキバゴの爪が確実にとらえた。

 

「アッ!」

 

キバゴの渾身の一撃にアメタマが吹き飛ばされ、氷のフィールドに横たわる。

ひっくり返って目を回すアメタマを見て、審判がフラッグをあげた。

 

「アメタマ!戦闘不能!キバゴの勝ち!」

「よっし!!まずは一勝目!!」

「キバキバァ!!」

 

ガッツポーズをするタクミの前にキバゴが華麗に滑り込んで勝利のVサインを掲げる。

 

ビオラはそんな二人の姿に満足そうにほくそ笑む。

 

氷のフィールドをこんなに短期間で攻略されたのは久しぶりだった。

 

間合いを開けられた時の対策も練られているし、こちらのリアクションを予想している節もあった。タクミがこの短い日数でアメタマに対する対応をかなり詰めてきていることが伺えた。

 

自分に対してキッチリ対策を立て、予想外の方法を取ってくるトレーナー。

それはビオラにとっても良い刺激になる。

 

これこそ、『地方旅』の壁として君臨するジムリーダー冥利に尽きるというものだった。

 

ビオラは次に繰り出すビビヨンに対してタクミがどう対処するのかを見るのが既に楽しみでしょうがない。

 

「さぁ、行くわよ!!ビビヨン!!」

「ビビィ!!」

「キバゴ!ここまでは予定通りだ!腹括っていくぞ!!」

「キバァ!!」

「試合開始!!」

 

先手はビビヨンが取った。

 

「ビビヨン!“かぜおこし”!!」

「キバゴ!もう一個土塊を取り出せ!!」

「キバァ!!」

 

キバゴは再び爪を地面に突き立て、霜で凍った土塊を掘り起こした。

それが“かぜおこし”の風を受けて凝結し、更に硬くなっていく。

キバゴは掘り起こした穴の中に隠れながら、ビビヨンの“かぜおこし”を耐えていた。

 

「へぇっ、塹壕とは考えたわね」

「こんなの序の口ですよ!キバゴ!そいつ投げつけろ!!」

「キバァ!!」

 

力任せに土塊を投げるキバゴ。向かい風の中、ビビヨンめがけて土の塊をぶん投げるその膂力は大したものだが、流石に力任せの攻撃に当たる程ビビヨンは遅くない。

 

「ビビヨンかわして!」

「ビビィ!」

「まだまだ!キバゴ!もっとだ!当たるまで投げつけろ!!」

「キバッ!キバッ!キバッ!!」

 

風が吹くことで土塊がより固くなることを利用して次々と投擲するキバゴ。

“かぜおこし”を緩めることなくひらひらと回避するビビヨンであるが、このまま地面を掘られ続ければフィールドに死角が増え、相手が一方的に有利になっていく。

ビオラはこのままキバゴとの根競べをするより、状況を打開する方を選んだ。

 

「ビビヨン!“ねむりごな”!!」

「えっ!!“ねむりごな”だって!?」

 

タクミの顔に動揺が走った。前回のバトルではビビヨンはそのワザを使ってこなかったのだ。想定外の攻撃だ。それに瞬時に対応できる程、今のタクミに余裕はなかった。“ねむりごな”はビビヨンの舞い上げた風に乗り、瞬時にフィールド全域にばらまかれた。

 

「しまった!!」

「キバァ……」

 

“ねむりごな”をもろに吸いこみ、瞼が閉じていくキバゴ。

キバゴはそのまま耐える様子すらなく、一気に睡魔の波に飲まれていった。

 

「キバゴ!!」

 

昨晩は十分に睡眠をとってもらったのだが、ここ連日の特訓の疲れは着実にその身体に蓄積している。

気持ちのよい眠気にキバゴはまるで逆らうことができなかった。

 

「ビビヨン!“ねんりき”!!」

「キバゴ!起きろ!!」

 

キバゴはビビヨンの“ねんりき”で宙に浮かされ、そのまま壁に叩きつけられた。当然、叩きつけられた場所はアメタマが貼った“ねばねばネット”の上だ。だが、それが普通の壁だろうと天井だろうと結果は変わらない。キバゴは気持ちよさそうに眠りながら、張り付けにされていた。

 

「キィバァゴォ!!起きろぉおお!!」

 

タクミがいくら声を張り上げようと、キバゴは器用に鼻提灯を作って眠っている。

なんだか『眠らされている』というよりも、そもそも起きる気力がないんじゃないかとまで思える熟睡っぷりだった。

 

「ビビヨン!“ソーラービーム”!!」

「ビビッ!!」

 

エネルギーのチャージに時間のかかる“ソーラービーム”であるが、キバゴが寝てしまっているこの現状ではどそれを防ぐ手段はない。

 

「ビビィィ!!」

 

ビビヨンが放った最大威力の“ソーラービーム”がキバゴを直撃した。

 

「……キバ……」

 

鼻提灯から煙を噴きだし、キバゴはコテンと目を回した。

 

「キバゴ!戦闘不能!ビビヨンの勝ち!!」

 

審判の宣言を聞き、タクミはキバゴをモンスターボールに戻した。

 

「ありがと、キバゴ。お膳立ては……まぁ、十分とはいえないけど」

 

本当は、もう少しキバゴで氷のフィールドに穴を空けるつもりだったのだ。

フィールドの構築は『不十分』。だが『最悪』ではない。

タクミはキバゴがビビヨンと戦う前に負けてしまう可能性まで考慮していた。

 

それに比べればこの程度は許容範囲だった。

 

「頼むぞ!!フシギダネ!!」

「ダネダネッ!!」

 

繰り出されたフシギダネにビオラは想像通りだとでも言いたげに唇の端を持ち上げた。

 

「やっぱり最後はフシギダネなのね」

「もちろんですよ。僕はこいつらと最初のジムを突破します!!」

「ダネフッシ!!」

 

気合十分のフシギダネ。フシギダネは【くさタイプ】だ。そのため、ビビヨンの隠し玉であった“ねむりごな”は効果がない。だが、【むしタイプ】と【ひこうタイプ】を持つ相性不利なビビヨンにわざわざフシギダネをぶつけてきたのだ。何か策があると考えてしかるべきだった。

 

「さて、どうするのかしら?」

「どうするって、もちろん……」

 

タクミはニヤリと不敵に笑う。それにシンクロするようにフシギダネもニヤリと笑う。

 

「勝ちます!!」

「ダネダ!!」

「面白い!かかってきなさい!!」

「ビビィ!!」

 

「試合開始!!」

 

ジムバトルもいよいよ佳境であった。

 

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