ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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サイホーンレース開幕

ジム戦から一夜明け、タクミはビオラのいるハクダンジムに朝早くから訪れていた。

 

「ビオラさん、こんな朝からごめんなさい」

「いいのよ。私もこれからフィールドワークに出かけるし。それで、はい、頼まれてたもの」

 

ビオラはそう言ってタクミにフラッシュメモリのようなものを渡した。

タクミはそれを受け取り頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

「お安い御用よ。それで、タクミ君は次にどこのジムに挑戦するか決めてるの?」

「いえ。でも、一度ミアレシティに帰ろうかと思ってるんです。友達の手術が終わったばかりで、少し様子を見に行きたくて」

「そうなの?ってことは次に挑戦するのはミアレジム?あれ?まだ改装中だったっけ?でも、ミアレに帰るなら帰り道はスミル村の方を通ったらどう?」

「スミル村?」

「ええ、ちょうど数日後にサイホーンレースの大会があるの。あまり大きな大会じゃないけど、本格的なレースだし、飛び入りもOKの大会だから、カロス地方の思い出にどうかと思って」

「それいいですね!行ってみます!ビオラさん、本当にありがとうございました!!」

 

タクミは深々と頭をさげ、待ちきれんばかりに大通りを駆け出していく。

次の旅が待ちきれない様子はやはり新人トレーナーそのものだ。

 

ビオラは手元のカメラのデータを眺めた。

 

タクミの試合前と試合後の写真。それらをパラパラと眺め、ビオラはタクミがキバゴとフシギダネに飛び乗られて喜びをわかちあっている写真を映し出した。

 

「今年のコンテスト……これで行こうかしら」

 

本人の許可はジム戦の後でとったので、割と本気で考えているビオラであった。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ハクダンシティからスミル村へと旅立って数日。ミアレからハクダンシティへと向かった時とは桁違いに整備されていない凸凹の道を歩くタクミ、森の中でポケモンに度々出会うものの、積極的にゲットしたりはせずに軽く交流を深めては別れを繰り返すような旅をしていた。

 

そうして森の中を歩き続けていたタクミはふとロープで区切られた道にたどり着いた。

 

地面を削り、森の中に平坦な道を作ったようなその道はタクミが今まで歩いてきた道と比べても格段に踏み固められているようだった。

 

地図を見るとそろそろスミル村の近くまで来ている。方角的にはこの道を歩いて行けば到着しそうだが、ロープを乗り越えてその道に降りるのは少し憚られた。

 

「うーん……入っちゃダメだから区切ってるんだよな……」

 

とりあえず、下の道には降りずにロープを辿っていってみようかと思っていた時だった。

道の向こうから砂埃を上げて何かが走ってきているのが見えた。それと同時に、大量の重い足音が大地を踏み締めるような重低音がきこえてくる。

 

「なんだろ?」

 

背伸びをするように道の奥を覗き込む。次第に砂埃の先頭が見えてきた。

 

「あっ!サイホーンだ!」

 

一丸となって道を駆けてくるサイホーン。

その背にはライダースーツに身を包んだ人が乗っており、手綱を操ってサイホーンを走らせていた。

 

「うわぉ!すごい!本物のサイホーンレースだ」

 

それは、カロス地方で行われるメジャー競技の1つ。

サイホーンに乗ったトレーナーが舗装の無い山道を走り抜けていくレース競技だ。

 

サイホーンを操るトレーナーの技量や手綱さばきによっても明確な差が出る種目であるが、多くの人達が楽しみにしているのはやはりサイホーンだ。

 

サイホーンの頑丈で重厚な体躯。それを支える岩のような蹄。鍛え上げられて脚力は【いわタイプ】とは思えない程のスピードを出す。地球界の競馬程のスピード感はないが、クロスカントリーのような荒れ道をそのパワーでもって踏破していくサイホーンに魅せられる人達は多い。

そういうタクミもサイホーンレースの力強さに興奮する1人だ。男の子にとって『世界最速』は『世界最強』と同じぐらい魅力的な称号だ。パワータイプのレースに気持ちが昂るのも当然であった。

 

タクミは少しでもよく見ようと木の上によじ登った。

 

サイホーンレースは6人で同時にスタートして競われるレース。今、先頭集団にいるのは4人。

目を凝らせば砂埃で煙る視界の向こうにうっすらと2人のサイホーンレースが見える。

そんな、サイホーン達の先頭には最近ガラル地方で開発されたロトムの入ったドローンが飛び交って映像データを送っていた。

 

タクミの真下にあるコースはとても複雑なカーブだ。

一度右に曲がった道はすぐに左へとカーブする。その角度はヘアピンカーブに近く、間違いなくここはサイホーン達が仕掛けるのにもってこいの場所であった。

 

タクミはホロキャスターのカメラ機能を呼び出し、これを映像に収めようとした。

 

サイホーン達がコーナーへと突っ込んでくる。

最高速度では曲がり切れない。サイホーンのライダー達がどこで減速を仕掛けるかお互いに牽制し合う。それと同時に最善のコースを取る為にサイホーン達が相手を押しのけようと左右で激突する。彼等の身体がぶつかるたびに岩がぶつかるような重低音が響き渡った。

 

まさにレースの駆け引きの醍醐味が全て詰まっていた。

 

タクミはホロキャスターの画面では飽き足らず、数秒ごとにカメラの映像と実物の姿を見比べていた。

 

そして、コーナー直前にサイホーン達がわずかにスピードを落とした。

アウトインアウトのコースを取る為にサイホーン達がアウトコースに身体を寄せる。

 

その時だった。

 

砂埃の中から小さな影が飛び出した。

 

「………えっ?」

 

それはサイホーンと比較するとあまりに小さな影だった。

完全な球体のような姿。空色の皮膚。そして、弾力のありそうな身体がサイホーン達の隙間から突然現れたのだ。

 

「あれは……ゴマゾウ?」

 

鼻を身体に巻きつけ、一つのボールのような姿となってゴマゾウがサイホーンレースに混じって転がっていた。

サイホーン達が減速し、ゴマゾウだけがそのままの速度でコーナーに身体を差し込んだ。

 

「ダメだ!そのスピードじゃ……」

 

ゴマゾウは砂を撒きあげながらドリフトを決め、強引にコーナーを曲がっていく。

だが、そのスピードが産み出す遠心力で身体がコーナーの外へと流れていく。

 

「パオォオォオオ!!」

 

ゴマゾウは雄叫びをあげて遠心力を強引にこらえるように身体を傾けた。

ギャリギャリと地面に轍が刻まれ、砂利が巻き上がる。

そして、ゴマゾウはついに最初のコーナーを駆け抜けた。

 

「曲がり切った!?でも、この後はキツイ左だ!減速しないと壁に激突するぞ!」

 

最初のコーナーだけであれば、本来なら減速せずとも乗り越えられる。だが、サイホーン達が減速したのはその後に続く左のヘアピンカーブの為だ。コーナーとコーナーの間が短く、減速して立て直すスペースがないからこそ、彼等は最初のコーナーの前で減速したのだ。

 

それを無視して、強引にコーナーを曲がったゴマゾウ。

彼はかなりのハイスピードで次のコーナーへと侵入してしまった。

 

「いわんこっちゃない!!スピードが乗りすぎてる!ぶつかるぞ!!」

 

ゴマゾウは全力でドリフトを決めている。だが、それでも壁際に押し付けられていくゴマゾウ。このままだと曲がり切れずにコーナーの壁に正面衝突だ。タクミはもうホロキャスターなど見てはおれず、身を乗り出すようにしてゴマゾウの行方を追った。

 

その瞬間、ゴマゾウが二度目の咆哮を上げた。

 

「パァァオオオオオオオ!!」

 

そして、雄叫びと共にゴマゾウが跳ねた。

 

弾力のある毬のように地面から飛び上がるゴマゾウ。そして、ゴマゾウはその回転を殺さぬまま『壁』に着地した。

 

「……バカな……『壁走り』だと……」

 

壁の砂利を巻き上げ、ゴマゾウが『壁』を走り出す。遠心力とスピードで壁に吸い付くように走るゴマゾウ。だが、ゴマゾウの身体は重力に引かれるように次第に壁からずり落ちていく。地面に落ちれば壁と地面の2か所から摩擦を受けることになり、スピードは極端に落ちてしまう。

 

コーナーを最高速のまま駆け抜けるには、壁を走り切るしかないのだ。

 

ゴマゾウが地面に激突するのが先か、コーナーを脱出するのが先か。

 

ゴマゾウは身体を70度近くまで傾けて、重力に抗う。

だが、あと少しというところで不意にゴマゾウの身体が揺れた。

固い石か何かを踏んだのだ。一気に壁からずり落ちていくゴマゾウ。

 

もうだめかとタクミが思ったその時だった。

 

「パァァァオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

3度めの絶叫が鳴り響く。

 

ゴマゾウが強引に回転数を上げた。

 

一時的に加速し、遠心力が復活する。そしてゴマゾウは一気にコーナーを突破した。

 

「おおおおおおお!!!すごい!越えてった!!」

 

タクミは思わずガッツポーズをした。

 

「パオォ!!」

 

ゴマゾウは後続を振り切り、そのまま加速して引き離していく。

1人飛び出したゴマゾウは独走状態のまま、村の方へと消えていった。

 

「はぁ……」

 

タクミは震える手を抑えながら、感嘆の吐息を漏らした。

 

「いや……凄いの見ちゃった……」

 

ホロキャスターにもバッチリ記録が残っており、再度見返すとなんとも芸術的なコーナリングだった。

『壁走り』を前提とするならコーナーへの侵入角度もスピードコントロールも完璧だ。

あのゴマゾウは余程このコースを走り込んでいるに違いなかった。

 

しかし、タクミには一つ疑問が残る。

 

「なんでサイホーンレースにゴマゾウが混じってんだろ?」

 

至極まっとうな疑問を浮かべつつ、タクミは鞄を背負いなおしてスミル村への道を歩いて行った。

 

サイホーンレースのコースの脇を進んでいき、峠を一つ越えると真下にスミル村が見えてきた。

コースはその峠を激しく蛇行しながら下っていき、最後には大きなカーブを経てスミル村の中央に位置する牧場のホームストレートへと続いている。

サイホーンレースの真っ最中のスミル村はまさにお祭り騒ぎだった。牧場を中心に屋台や出店が立ち並び、あちこちに横断幕やペナントが飾り付けられている。中央には巨大なスクリーンが設置されドローンロトムの映像が大迫力で映し出されている。熱の入った実況と観客の歓声が峠のてっぺんまで聞こえてくる。

 

タクミは祭りに乗り遅れまいと、急ぎ足で峠を下っていった。

 

村の入り口にはポケモン界の警察機構の代表一族であるジュンサーさんがバイクに乗って警戒にあたっていた。

タクミは頬を少し上気させながら元気よく挨拶をした。

 

「こんにちは!ジュンサーさん」

「あら、こんにちは?その荷物の大きさはもしかして『地方旅』の途中?」

「はい!ここでサイホーンレースがあってるって聞いて見に来たんです」

「そう、ならいいタイミングね。これからレースの準決勝2戦目が始まるわ。明日には飛び入り参加の人達のレースもあるし、決勝戦もある。スミル村を楽しんでいってね」

「はいっ!!」

 

タクミはホロキャスターのカメラを起動しながら、スミル村へと飛び込んでいった。

流石のお祭りとあって、サイホーンレースの合間に色々なイベントが催されていた。メリープの早刈り競争や、卵運びの障害物レース、カビゴン対人間10名の大食い対決なんてものもやっていた。タクミはキバゴとフシギダネをボールの外に出し、屋台で買ったホットドッグを一緒に頬張ったり、モーモーミルクで作ったソフトクリームに舌鼓を打ったりしながら祭りを堪能していた。

 

そして、今日のラストイベントはサイホーンレース準決勝2レース目だ。

 

6人で同時に走り出して順位を競うサイホーンレース。1回戦、2回戦、準決勝、決勝とレースは4回。それぞれのレースでの上位2名とタイム上位者の数名が次へと進めるシステムだ。レース毎にサイホーンの乗り換えは自由であるが、登録できるサイホーンは2匹までだ。そのサイホーンをどのように乗り換えていくのかも各々戦術があり、サイホーンレースの醍醐味でもあった。

 

タクミは観客席に座り、入り口で貰ったパンフレットに目を通しながら、大盛りポテトフライをキバゴ達と一緒につまんでいた。

 

「キバゴ、フシギダネ。今日はお祭りだ。好きなだけ食べていいからね」

「キバァ」

「ダネダ」

 

普段は体調管理の為にポケモンの栄養バランスには気を遣っているが、今日は何も気にせずに甘いもの、あげもの、塩分の高いものと健康など度外視した食べ物を食べまくる。地球界と違って祭りでもあまり割高設定になっていないのもまたタクミの財布のひもを緩くする。

 

サイホーンレースが始まる時間が近づき、次第に観客席に人が集まってくる。

席が埋まってきて、タクミはキバゴを頭の上に、フシギダネを膝の上に移動させた。なお、フライドポテトの器はフシギダネが“ツルのムチ”で器用に支えてくれた。

 

そして、ついに準決勝が始まった。

 

一斉に走り出すサイホーン達。スタートから飛び出て仕掛けるか、上り坂で引き離すか、体力を残して下り坂で勝負にかけるか。そういったライダー達の様々な思惑を乗せたサイホーンの走りが暑苦しい程の実況者を副音声にして繰り広げられる。

 

砂塵が舞い、大地を抉り、それでいて時にクレバーな立ち回りでレースを進めるライダー達。

 

途中で1位と2位が後続を引き離し、流しに入ったのは少し残念だったが、3位の選手がタイムで決勝に残るためにギリギリのラインでコーナリングをしていく様子はなかなかに迫力があった。

 

だが、正直レースの内容など割とどうでもよかった。タクミはレースを見ているうちに、今すぐにでもサイホーンに乗ってみたくなっていたのだった。

 

レースが終わり、参加者達に拍手を送る頃にはタクミはすぐさま観覧席を抜け出していた。キバゴとフシギダネを抱えたまま飛び入り参加の受付へと走り込み、すぐさま『貸しサイホーン』達のいる牧場へと移動した。

 

「キバゴ、フシギダネ。2人ともそこにいてよ」

「キバキバ」

「ダネ」

「フシギダネはホロキャスターもよろしく」

「ダネ」

 

2人はポケモン用巨大クッキーを分け合いながら柵の外でタクミを見守る。ホロキャスターを渡されたフシギダネはタクミの要望通り“ツルのムチ”でホロキャスターを高く持ち上げ、タクミの姿を動画で撮影していた。

 

ジャージに着替えたタクミは係員の人に連れられるままサイホーン達がわんざか集う牧草地へと足を踏み入れた。

 

「サイホーンは真正面から近づくと、敵対していると思って警戒します。かといって、後ろから近づくと蹴飛ばされます。サイホーンに寄る時は必ず横から。ゆっくりと近づいて手で触れてあげてください」

「はい……うわぁ、すご、固いのにちゃんと温もりがある」

「【いわタイプ】のポケモンに触るのは初めてです?」

「はい!なんか不思議な感じ。見た目は完全に岩なのに、ちゃんと生きてるんだ」

「すごいでしょ。この感覚に魅せられて【いわタイプ】専門になるトレーナーも多いんですよ」

「へぇ……乗ってもいいです?」

「はい、乗る時はこっち側から足をかけて……」

 

タクミは教えられるまま、サイホーンに跨る。手綱も鞍もつけていないのにサイホーンの背中はピタリとタクミの身体が収まった。

 

「うわ、なんか不思議な感じ。視線が普段より高くなるからからかな。なんか、変な感じ」

「そうでしょ」

「なんだろ、なんかすごい……『嬉しい』じゃないけど、『楽しい』?いや違うな……なんかすごいふわふわする感じがする」

 

タクミのその反応は係員の人が欲しかった反応であった。

係員は満面の笑みで大きく頷いた。

 

「サイホーンに初めて乗った方は皆さんそう言うんですよ。実はですね、人間が赤ちゃんの時にハイハイをしている状態から立って歩けるようになった時に上昇する高さの比率と、サイホーンに乗った時に上昇する視線の高さの比率がほとんど同じなんですよ。ですから、今感じている感動というのは、人間が初めて立ち上がった時の感動と同じなんです」

 

それを聞いたタクミの眉が跳ねた。

 

「……初めて……立ち上がった時?」

「はい!サイホーンに乗った時の感動というのは、見える景色が変わり、見える世界が変わった時の感動と同じなですよ!」

 

ニコニコとそう言った係員。

 

彼はきっとより深く感動したタクミの表情を期待したであろう。

 

だが、今回はタクミは彼が期待する反応をすることはなかった。

 

タクミはスンと落ち着いた表情でゆっくりと周囲を見渡した。

 

『見える景色が変わり、見える世界が変わった時の感動』

 

タクミは今この瞬間にも自分の足で立とうとする大事な友人へと思いを馳せる。

彼女の手術は成功したが、傷が安定するまではまだまだかかる。そこから義足の調整を行い、本格的にリハビリができるのはもっと先だ。

 

彼女が1人で立つことができるのは一体何時になるのか見当もつかないが、その時に彼女はきっとこんな気持ちになのだろうか。

 

そんなことを思ってしまったタクミは視線を落として、サイホーンの頬を軽く叩いた。

 

「ありがと、サイホーン」

「サイ?」

 

首をかしげるサイホーンに向け、タクミはニパッと笑い、サイホーンから飛び降りた。

 

「すみません。他のサイホーンにも乗ってみていいですか?」

「あっ、はい、いいですよ。明日乗るサイホーンを今のうちに吟味してみてください」

 

人間の指紋がそれぞれ異なるように、サイホーンの背中の突起もそれぞれ異なる。タクミの身体にその突起が合わなければ乗るのは断念しなければならない。だが、タクミはどちらかといえばサイホーンの性格で選びたいと思っていた。タクミはサイホーンの間を渡り歩き、職員が食事をあげる手伝いをしながらサイホーン達に触ってコミュニケーションを取り、跨った時の反応をみていった。

 

そして、いよいよ明日乗るサイホーンの候補を3匹ぐらいに絞った。

 

「うーん、どうしようか……フシギダネ、録画している映像見せてよ」

「ダネダ~」

 

フシギダネはモーモーミルクを飲み干して口元に白い髭を付けながら返事をしてくれた。

 

タクミはホロキャスターを受け取り、自分が乗っている時のサイホーンの足さばきや視線に注目して見ていく。

そして、ホロキャスターの動画を見ていくうちに、ここに来る前に録画した映像が再生された。

 

それはタクミが偶然出くわしたサイホーンレースの映像。

 

それを見て、タクミはふと思い出したことを係員に尋ねた。

 

「すみません」

「はい、なんですか?」

「あの、準決勝の第一レースかな?ここに来る途中でサイホーンレースのコースに突き当たって、そこでレースを直に見たんですけど。その時、ゴマゾウがコースを走ってたんです。あれは選手だったんですか?」

「ああ、あのゴマゾウね」

 

そう言うと、係員の人は眉間に皺を寄せながら苦笑いを浮かべた。

 

「いや、あれは選手じゃないんですよ。いつの頃からかな、あのゴマゾウはどこからか別の場所からやってきて、あのコースに住み着いちゃったんです」

「住み着いている?」

「そうなんです。もともと走るのが好きな奴だったみたいで。それで、このコースを気に入っちゃったんですよ。普段から毎日のようにコースを周回して、ドリフト決めてコーナーを攻めて、まるで自分のホームグラウンドみたいに使ってて」

「へぇ。でも、そんなことしていいんですか?」

「まぁ、一日中走ってるわけじゃないし。向こうもこちらに出くわしたらキチンと止まってくれるのでそこまでは……ただ、走るのが好きで、当然競い合うことも好きなようで、こうしてサイホーンレースがあると勝手に乱入してくるんです」

「へぇ……」

 

スピード狂という奴だろうか。

 

タクミにも身近に『スピードこそ最強』みたいな考え方をしている友人がいるのでその感情は理解できなくもなかった。

 

「トップと競り合うと、インコースをブロックしてきたりしてタイムに影響が出ちゃうこともあるんで、こちらとしてはやめさせたいんですけど」

「そのゴマゾウって『野生』ですよね。ゲットとかできないんですか?」

「村としては、ゲットしたいんですけど……ただ、レーサーの人達がそれに納得してくれなくて」

「え?妨害されてるレーサー達が?」

「はい。実はあのゴマゾウ……今のところサイホーン相手に無敗なので」

「マジですか」

「マジです。やっぱ日々走ってるからかコース取りとか、加減速の匙加減が絶妙に上手いんですよ。それでレーサーの方々もサイホーン達も『負けたまま終われるか』って闘争心燃やしちゃってしまって」

「なるほど……」

「そのおかげで、今ではちょっとした名物になってますけどね。ゴマゾウが参戦した時の会場の盛り上がりは凄いですよ」

「それでサイホーンとかメリープに混じってゴマゾウのぬいぐるみが売られてたんですね」

 

そんなゴマゾウの話をしていると、いつの間にか一匹のサイホーンがタクミの隣に並んでいた。

それはタクミが吟味していた3匹のうちの1匹で、他のサイホーンより負けん気が強そうな態度が目立つサイホーンであった。

 

「サィ!サィ!!」

「ん?どうしたんだお前?」

「サイサイサイ!!」

 

そのサイホーンは何かを訴えかけるように顔を上下させ、前足で地面をかいた。

闘争心を剥き出しにしているような、威嚇しているような態度であった。

 

だが、タクミは不思議とそのサイホーンから敵意を感じなかった。

タクミはサイホーンを落ち着かせるようにその頬を撫でる。

 

「なんだお前、ゴマゾウの話題が気にくわないのか?」

「サイィ!」

 

身震いするように顔を振るサイホーン。

そんなサイホーンを見て、職員が苦笑いを浮かべた。

 

「そのサイホーンはゴマゾウの遭遇率がやけに高くてね。何度もレースでゴマゾウに負けちゃってるんだ。ずっとリベンジするために頑張ってるんだけど、なかなかねぇ……」

 

本職のレーサー達ですら手玉に取るゴマゾウだ。

牧場で普段は畑を耕す手伝いをしているサイホーンでは勝てるわけもないだろう。

 

だが、そういう理屈がわかっていても勝ちたいという意志を捨てることが出来ない奴もいる。

 

タクミはそのサイホーンのツノを撫でた。

 

「お前、あのゴマゾウに勝ちたいのか?」

「サィ!!」

 

このサイホーンの目が憎々しげに細められる。どうやら随分と煮え湯を飲まされているようであった。

タクミはそのサイホーンを見て、ニヤリと笑い、サイホーンの頬を手の甲で軽く叩いた。

 

「よっし、サイホーン。明日は僕と一緒に走るか!?」

「サイッ!!」

 

サイホーンが頷き、鼻先のツノを突き出した。

タクミはサイホーンの意図を察し、そのツノに拳をぶつけた。

 

「よろしくね、サイホーン!」

「サイッ!」

「ゴマゾウが現れるといいね」

「サァイッ!!」

 

夕焼けが迫る牧場。

 

レースは明日の朝一番。

 

タクミはの胸はワクワクで一杯であった。

 

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