ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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キモリを追え!森の中の追跡劇!

ハクダンシティからミアレシティへと向かう道のり。スミル村を通る為に随分と大回りの道になってしまったが、収穫はあった。

タクミは足元で歩幅を合わせて歩いているゴマゾウをチラリと見る。

 

「パオ~パオパオパオ~パ~オオ~パオパオ~」

 

ゴマゾウは陽気に鼻歌を鳴らしながら短い尻尾を左右に振りながら歩いていた。

走ることが好きなゴマゾウはモンスターボールの中よりも、外を歩くことの方が好きらしい。

そして、それはゴマゾウに限った話ではなく、キバゴもフシギダネもしょっちゅう外に出ようとしてくる。

 

1度に2匹連れ歩くのはタクミとしては目が離せず気が気でないので、今日はゴマゾウ以外は我慢してもらっていた。

 

タクミはゴマゾウの鼻歌に自分の鼻歌を被せながら森の中を歩く。

カロス地方の穏やかな空の下、湿度の低い風が時折森の中を攫っていく。

何の障害もないはずのミアレシティへの道のりだった。

 

そのはずだった。

 

「あっ……」

「パオ?」

 

タクミ達が森の中で足を止める。

彼等の目の前が巨木に塞がれていた。

 

「木が倒れてる……迂回は……茂みが高くてちょっと面倒だな」

 

道を塞ぐように横たわっているのはとんでもない大きさの大樹であった。

木の幹の太さがタクミの身長を僅かに超え、樹皮の厚みも半端ではない。樹全体はまだ水々しく、つい最近折れたようであった。

 

頑張れば乗り越えることもできそうであるが、一人で上に登るのは少し大変そうであった。

タクミは足元のゴマゾウに声をかけた。

 

「ゴマゾウ、これ登れる?」

「パオッ!」

 

ゴマゾウはすぐさまその場で鼻を身体に巻きつけるようにして丸まり、転がりだした。

一気に回転速度をあげ、勢いをつけて飛び上がり、ゴマゾウは難なく大樹を乗り越えていった。

 

「パオッ!」

「さすが、ゴマゾウ」

 

サイホーンレースに混じって山道を走り続けて鍛えた身体にこの程度は障害にすらならないようであった。

タクミはゴマゾウに鼻で引っ張り上げてもらいながらその巨木の上に登る。

 

タクミは反対側に飛び降り、その巨木を振り返る。道の上に横たわる巨木は明らかに旅人の邪魔になる。

 

「これ、どかした方がいいよな?」

「パオパオ!」

 

タクミの言葉にゴマゾウも同意する。やけに鼻息が荒いところを見ると『これじゃ道を思いっきり走れじゃないか』とでも考えていそうであった。

とはいえ、この大木をタクミ一人で動かすのは無理だ。キバゴやフシギダネに協力してもらっても難しいだろう。

ひとまずポケモンセンターにでも連絡しておこう。

 

そう思ってタクミがホロキャスターを起動したその時、森の中から人の声がした。

 

「あれ〜こっちに来たと思ってんだけどな。見失っちまったかな〜?」

「ケロケロ〜」

 

聞き覚えのある声とケロマツの鳴き声。

タクミは驚いたように声のした方を振り返った。

 

「ん?あれ!タクミじゃん!」

「ミネジュン!?どうしてここに!?」

「どうしてって、俺はこれからハクダンジムに行く途中だよ。ちょっと珍しいポケモン見つけて森の中を追っかけてたんだ。まぁ、見失っちまったんだけどさ」

「えっ、ってことは1個目のジムバッジは……」

「もちろん!」

 

ミネジュンは満面の笑みでリュックからバッジケースを取り出した。

そのケースの左上には水滴と水面の波紋を象ったバッジが飾られていた。

 

「へっへー!どうだ!ロマジムのアクアバッジだ!タクミもバッジゲットしたんだろ?」

「うん、ちょっと待って」

 

タクミとミネジュンはお互いに手に入れたバッジを見せ合う。

 

「これがハクダンジムのバグバッジ」

「おぉっ!!すげぇ、で、ジムリーダーは強かったか!?」

「うん。初戦は負けちゃってさ。2回目でなんとかゲットしたよ」

「なんだよそれぐらい。俺なんか4回も挑戦しちゃったぜ」

「4回も!?それにしてはここまで戻ってくるの早くない?」

「そりゃ、毎日挑戦したからな!4日でゲットだ!そっから一直線にここまできた!早く次のジムに行きたいからな!」

 

親指を立ててウィンクするミネジュン。その行動力とスピードは流石である。

 

「それよかさ、そのゴマゾウ、お前のポケモンなのか?」

「うん、ついこの間ゲットしたんだ。ゴマゾウ、彼はミネジュン。僕のライバルだよ」

「パオ〜!」

 

鼻を振り上げて挨拶するゴマゾウ。ミネジュンはゴマゾウの鼻と握手した。

 

「よろしくな、ゴマゾウ!」

「ケロケロ!」

 

ケロマツとも握手させたミネジュン。その時のミネジュンの横顔は既にウキウキとしたものに変わっていた。彼が次に言わんとしていることがタクミには手に取るようにわかる。案の定、ミネジュンは目を爛々と輝かせてタクミの方を向いた。

 

「なぁなぁ!今、時間あるか!?」

「言うと思ったよ。バトルだろ?」

「さっすがタクミ!俺のことよくわかってるぅ!」

 

その提案はタクミにとってもありがたかった。

まだゴマゾウと本格的なバトルをしていないのだ。ここらで一つバトルをするのも悪くはなかった。

 

「この先に俺がキャンプ張ってんだ。そこまで行こうぜ」

「うん」

 

タクミとミネジュンは木の倒れていた場所から少し歩き、開けたところに移動した。

話もそこそこにして、タクミはミネジュンと距離を置いてさっそく向き合った。

 

「ゴマゾウ!初バトルだ!気合いれていくぞ!」

「パオパオ!」

「それじゃあこっちはコイツだ!出てこい!ツチニン!」

 

ミネジュンが投げ込んだモンスターボールからツチニンが姿を見せた。

乾燥した白い外骨格を持つ【むしタイプ】と【じめんタイプ】を併せ持つツチニンだ。

 

「ツチッ!」

「ツチニン?へぇ、新しくゲットしたんだ」

「おうよ!普段は静かな奴だが動き出すとすげぇんだぜ!」

 

タクミはポケモン図鑑でツチニンのデータを調べる。普段は土の中で生活するポケモンらしいが、ミネジュンが仲間にしたのだからスピード狂であることは間違いないという確信があった。

 

「面白い!いくぞミネジュン!」

「あぁ!」

 

バトルのゴングもない野良バトル。バトルはいつも通りミネジュンから始まった。

 

「ツチニン!先手必勝だ!“どろかけ”!」

「ツチッ!」

 

地面を掘り起こし、泥状にしてぶちまけてくるツチニン。

いきなりの遠距離攻撃。だが、タクミが驚いたのはそこではない。

ミネジュンが指示してから、ツチニンがワザを繰り出すまでの間がほとんどなかったのだ。

ミネジュンといえばポケモン自身の『移動スピード』を重視していると思っていたので、こういうタイプのスピードで勝負してくることに意表を突かれた。

ゴマゾウは頭から泥を被り、視界を塞がれる。鼻で器用に目元を擦るがゴマゾウの視野は極端に狭くなった。

 

「畳み掛けるぞ!ツチニン、“つじぎり”!」

「ツチッ!」

 

ツチニンがその場から一気に飛び上がった。助走も溜めも作らない一瞬の跳躍。外骨格の内側に筋肉を持つ【むしタイプ】独特の挙動だった。だが、タクミもその動きは読んでいた。タクミとて【むしタイプ】のジムであるハクダンジムをフロック(偶然)で突破してきたわけではない。

 

「ゴマゾウ!“まるくなる”!」

「パオッ!」

 

鼻を畳み、完全な球体になるゴマゾウ。そこにツチニンの“つじぎり”が刺さった。

だが、ゴマゾウはサッカーボールのように吹き飛んだだけで、大きなダメージはない。

 

「ゴマゾウ!そのまま“ころがる”だ!」

「パオン!」

 

ゴマゾウは着地と同時に回転数をあげ、一気にツチニンへと迫る。

泥で視界を防がれているゴマゾウだが、その狙いは極めて正確であった。

 

それもそのはずで“ころがる”最中のゴマゾウは周囲の認識を視覚に一切頼っていない。

そもそも高速回転している状態では目視で周囲を確認することなどできない。ゴマゾウはその敏感な嗅覚でもって相手の位置を特定していた。

 

「ツチニン!ジャンプだ!」

 

ツチニンはキレのあるジャンプでゴマゾウを回避しようとした。だが、今回はミネジュンのせっかちが裏目に出た。ミネジュンの指示が早すぎて、ゴマゾウに対応する時間が生まれたのだ。

 

「ゴマゾウ!そこだ!飛べ!」

「パオン!」

 

ゴマゾウが跳ねる。タクミのタイミングも完璧だった。

ゴマゾウは空中にいるツチニンに寸分の狂いもなく衝突した。

落下するツチニン。なんとか受け身はとったもののそのダメージは大きい。

 

「大丈夫か!ツチニン!」

「ツチッ!」

「ナイスだゴマゾウ!」

「パオン!」

 

ゴマゾウは歓喜を表現するかのようにその場でコマのように回り続ける。

“ころがる”の回転速度はなお上がる。ワザの威力も回転数に応じてまだまだ上がる。

計測したことはないが、最高速度に達すればきっと1時間で11000回転ぐらいできるとタクミは誰かから教えてもらったかのように確信していた。

 

「そのゴマゾウ、なかなかやるな」

「ミネジュンのツチニンもね!でも、まだまだこんなもんじゃないでしょ!」

「あったりまえさ!いくぞツチニン!」

「ゴマゾウ!迎えうつよ!」

 

ツチニンが構え、ゴマゾウがその場でピッチを上げて空回しをする。

そして両者が飛び出そうとした。

 

その時だった。

 

「キャモ?」

 

近くに樹木からポケモンの鳴き声がした。反射的にタクミとミネジュンの視線が向く。

その視線の先、一本の木の幹にキモリが張り付いてオレンの実をもぎ取っていた。

 

「…………」

「…………」

 

一瞬の静寂。

 

そして、次の瞬間。

 

「いたぁあああああああああああ!」

 

ミネジュンが奇声をあげた。

 

「キャモッ!?」

 

キモリが驚いて森の中に逃げ込み、すぐさまその後を追ってミネジュンが駆け出した。

 

「えっ!?ミネジュン!?」

「ごめんタクミ!バトル中止だ!バトル中止!!」

「えっ?えぇっ!?」

「俺!この森でずっとあのキモリを探してたんだ!ここで絶対に捕まえたいんだ!バトルはまた後で!!」

「ちょちょっ、ちょっと待って!ゴマゾウ!行くよ!」

「パオン!」

 

タクミは自分のリュックを掴み上げ、すぐさまミネジュンの後を追う。ゴマゾウは回転を止め、4足で走りながらタクミの横を並走する。ミネジュンの背中にはいつの間にかケロマツもツチニンもくっついていた。どうやら、あのキモリはミネジュンのポケモン達にとっても最優先目標のようだった。

 

「ミネジュン!どういうことなの!?」

「この森であのキモリを見かけたんだけど、あいつ、うちのケロマツより早かったんだ!」

「うそっ!?」

「マジなんだよ!逃げるキモリを追っかけたケロマツがスピード負けした!あんなスピード、なかなかお目にかかれない!だから俺、絶対あいつ仲間にしたいんだ!」

「ケロケロッ!」

 

気合のこもった声をあげるケロマツ。その瞳に闘争心が宿っていることを見ると、どうやらケロマツは純粋にキモリに勝ちたくて追跡をしているらしい。

タクミは頭上で枝を渡っていくキモリの背中へと視線を向けた。確かにキモリの動きは素早い。だが、キモリの動きはどこかぎこちなかった。キモリはなぜか両手を使わず、何かを抱えているような姿勢を保っていた。

 

ふと、追っかけていたキモリの胸元から何かがこぼれ落ちた。

 

「いてっ!」

 

落ちてきたものがミネジュンの頭に直撃する。

 

「大丈夫!?」

「平気だ!ってなんだこれ?オレンの実?」

 

そういえば、先程もキモリはオレンの実を集めていた。

あの両手の中に抱えられているのはオレンの実なのだろうか?

 

タクミはそんなことを考えながら、キモリを追う。

 

追われる側であるキモリはタクミ達が付いてきていることにもちろん気が付いていた。さっきからなんとか引き離そうと頑張っているが、両腕が塞がっている状態ではスピードをあげられない。木の枝を飛び移りながら、キモリは意を決したように振り返った。

 

「キャモ!!」

 

そして、キモリは口から大量のタネを弾丸のように吐き出した。

 

「“タネマシンガン”だ!!」

 

タクミがいち早く察し、ミネジュンがすぐさま対応する。

 

「ケロマツ!“あわ”だ!」

「ケロッ!!」

 

ケロマツが放った“あわ”の弾幕にキモリの“タネマシンガン”が突き刺さった。

“あわ”が“タネマシンガン”を相殺して弾け飛ぶ。

水滴が飛び散り、森の中に虹をかけた。だが、それ以上に“タネマシンガン”の威力が強かった。タクミ達は弾け飛んだタネに足を止められてしまった。

 

タクミ達が再び顔を上げた時、既にキモリは森の奥へと姿を消してしまっていた。

 

「はぁ、逃げられた……」

 

肩を落とすミネジュン。ケロマツとツチニンも同じように目線を地面に落とした。

あれだけ動きの素早いキモリ。一度森で見失ったら追跡はできない。

 

だが、タクミはそうは思っていなかった。

 

「いや……もしかしたら追いかけられるかもしれない」

「え?」

「ミネジュン、さっきのオレンの実をもらえる?」

「う、うん。ほい」

 

タクミはオレンの実を受け取り、それをゴマゾウに見せた。

ゴマゾウはタクミの意図を察したのか、その実の自分の鼻で摘み、スンスンと臭いを嗅いだ。

 

「ゴマゾウ、臭いを追えるかい?」

「パオン」

 

自信満々に頷くゴマゾウ。

 

「このオレンの実にはキモリの臭いも混じっている。大量に抱えたオレンの実とキモリの臭い。それを追いかけていけば、キモリにたどり着くさ」

「そっか!すげぇぜタクミ!!やっぱり持つべきものは友達だぜ!だけど、あのキモリは俺がゲットするからな!」

「わかってるって。さっさと捕まえて、バトルの続きをしよう!」

「おうよ!!」

「パオ!パオパオパオ!!」

 

臭いを嗅ぎつけたのかゴマゾウが皆を呼ぶ。

ゴマゾウは鼻を高く持ち上げ、空気中に漂うキモリの臭いを確かな足取りで追跡していった。

タクミ達はそんなゴマゾウに付いて森の中を歩いていく。

キモリはタクミ達を撒く為に時折方向転換をしながら進んでいく。

 

そして、辿り着いたのはタクミがよじ登って乗り越えた巨木が倒れている場所だった。

 

「あれ?ゴマゾウ、戻ってきちゃったけど」

「パオパオ?」

 

ゴマゾウも首をかしげる。だが、匂いは確かにこっちの方に続いているようであった。ゴマゾウは道を跨いで反対側の森を鼻で示した。

 

その時、ミネジュンが何かに気づいたように話し出した。

 

「そういえば、最初にキモリを見失ったのもここだったな」

「そうなの?」

「そうそう、それで探し回ってる時にタクミに会ったんだよ」

「ああ、あの時……」

 

確かに最初にミネジュンに会った時、彼は何か探し物をしているようであった。

 

「でも、なんで二度も同じ道を辿って逃げたんだ?この先に何かあるのか?」

「かもね……ん?どうしたのゴマゾウ?」

「パオパオ!」

 

ゴマゾウが何かに気づいたかのように立ち止まっていた。

タクミ達が駆け寄るとゴマゾウは倒れた木の根本の臭いを嗅いでいた。

 

「ゴマゾウ、この木がどうしたんだ?」

「パオ!パオパオ!!」

「ん?……ん~…何か言いたがってるんだけど……わかんないな」

「パオ~……」

「ごめん、ゴマゾウ……あっ、そうだ!」

 

タクミはすぐさまキバゴのモンスターボールを取り出した。

 

「キバキバッ!」

「キバゴ、ゴマゾウの言ってることを通訳してくれるか?」

「キバ!!」

 

キバゴはゴマゾウと一言二言会話して、驚いたように頷いた。

 

「キバキバキバ!?」

「パオパオ!」

「どうしたんだキバゴ?」

 

そして、キバゴはタクミ達を振り返り、両腕で何かを挟むような動作をした。

キバゴはその両腕で折れた木の幹を掴むような動きを繰り返す。

 

「えっ、もしかして。この木……誰かに折られた!?」

「キバキバッ!」

「ポケモンに?何か挟むことに長けたポケモン……」

「キバ!」

 

キバゴは自分の頭のツノと両腕、顔芸を駆使してポケモンの姿を表現する。

その形態模写をタクミは素早く読み解いた。

 

「わかった、カイロスだ!!」

「キバキバッ!」

 

頷くキバゴと満足そうな顔をするゴマゾウ。どうやら正解だったらしい。

ほとんど以心伝心のようなタクミとキバゴを見てミネジュンが感心しつつも、ちょっとヒクような顔をした。

 

「タクミとキバゴ、ほんとすごいな」

「まぁ、伊達に長く付き合ってないよ」

「なんかキモイ」

「そこまで言う!?」

 

とりあえず、そのことは置いておき、タクミ達は本題に戻った。

 

「カイロスがこの木を折った?こんなところにカイロスが生息してたっけ?」

「いや、さっきからポケモン図鑑で調べてるけど、カイロスなんてこの辺にはいないはずだ」

 

だが、図鑑の生息域というのも完璧に信頼できるわけではない。

群れから追い出されたり、人の手によって逃がされたりで、野生のポケモンの中には通常と異なるところに居を構えているのもいるのだ。

 

「でもさ、ゴマゾウはなんでそのカイロスが気になったんだ?」

「確かに……どうして?ゴマゾウ?」

「パオン!!」

 

そして、ゴマゾウは自分の持っているオレンの実を持ち上げた。

すぐさまその隣でキバゴがもう一度カイロスの形態模写をする。

 

「もしかして、カイロスと一緒にオレンの実の臭いがするってこと?」

「キバッ!」

「パオン!」

 

キバゴとゴマゾウが2人で器用に〇を作った。正解だったらしい。

 

「オレンの実の臭いがする巨木を倒したカイロス……」と、タクミが呟く。

「大量のオレンの実を持って逃げたキモリ……」と、ミネジュンが呟く。

 

2人は目配せをする。

 

「何かある……のかな?」

「あるだろうね……なんか、面白くなってきた!」

「だね!」

 

冒険盛りの10代。タクミ達は不敵に笑いながら、再びキモリの追跡を再開した。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

 

森の中を飛び回っていたキモリは追いかけてくる相手がいないことを確かめ、安堵のため息を吐いた。

誰だか知らないが、このオレンの実を渡すわけにはいかなかった。

 

「キャモ……」

 

キモリは腕の中に抱えた大量のオレンの実を見下ろし、ため息を吐く。

 

『なんでこんなことをしてるんだろ?』

 

そう思うものの、答えは決まり切っている。

 

『僕が弱いから……だよね……』

 

キモリは暗い目をしながら、オレンの実を抱えなおし、再び森の中を飛んでいく。

キモリが向かった先はこの森で一番の大樹であった。それはキモリがこの森で産まれる遥か以前より存在していた大樹だ。強大な嵐も、空を焦がさんばかりの山火事でも決して倒れることなくポケモン達の拠り所となっていたこの森の中心的な場所。

 

誰にとっても大事な樹。

 

だが、今はそこに余所者が住み着いていた。

 

キモリはその大樹の近くで木から地面に降りた。

巨大な樹を中心に広場のような空間が広がっているその場所。樹の根本には大量のオレンの実が山のように積まれていた。

 

「キャモキャモ……」

(持ってきました……)

 

キモリがそう呼びかけると、その大樹の上から大きな影が飛び降りてきた。

地響きを産むようなズシンとする音がして、そいつが着地する。

鋭い目と力強い2本の顎。キモリはその大きな顎を見て、身体に震えが走ったのを感じた。

 

「カイ……」

(遅いんだよ……)

 

それはカイロスであった。

こいつはつい最近、どこからか別の森からやってきた。そして、瞬く間にこの森を締め上げてしまった。弱いポケモン達の居場所を踏み荒らし、逆らうものは容赦せずにぶちのめし。この地を支配して、他のポケモン達に税のように自分の好物であるオレンの実を集めさせている。しかも、他のポケモン達が食べるのに困るぐらいの量を独占している。

 

そんな横暴を許しておくわけにはいかないと多くのポケモンが立ち上がった。

 

だが、その結果は手痛い敗北であった。

 

もともとの森の主であったダーテングもカイロスから受けた傷が今も治らずに森の奥で療養を余儀なくされている。

 

そして、キモリもこの森を守る為に戦ったポケモンのうちの1人であった。

キモリは皆と一緒に戦い、そして負けた。

キモリはカイロスに締め上げられ、踏みつけられ、そして自分の住処であった木を切り倒された。

打ちひしがれたキモリはカイロスに従うことを選んでしまった。

 

傷は時間と共に癒える。住処などまた探せばいい。だけど、一度折れてしまった心を立て直すのは非常に難しかった。

 

キモリは震える体をなんとかこらえ、両腕のオレンの実をその場に置いて引き下がろうとする。

 

「カイ!カイロ!」

(おい!待ちやがれ!!)

「キャモ!?」

(なんです!?)

 

カイロスはオレンの実の個数を数え、そしてキモリを鋭い目で睨みつけた。

 

(決められた数より一個足りねぇじゃねぇか!!どういうつもりだ!)

(そ、それは。途中で落としてしまって……今すぐとってきます)

(そういうこと言ってんじゃねぇ!お前、一個足りねぇのわかってて持ってきやがったな!?俺をだますつもりだったのか!?)

(ち、違います。僕は、そんなつもりじゃ)

(うるせぇ!俺は今むしゃくしゃしてんだよ!!)

 

カイロスがそう言って頭の上の顎をカシャカシャと鳴らした。

 

(てめぇ!!容赦しねぇ!そこ動くなよ!!)

 

頭を前に向けて突進してくるカイロス。

その顎に挟まれた痛みはまだ記憶に新しい。

 

キモリの身体が恐怖にすくみ、硬直する。キモリの目の前に鋭い顎が迫る。キモリは歯を食いしばり、強く目を閉じた。

 

その時だった。

 

「ケロマツ!!“でんこうせっか”!」

「キバゴ!!“ダブルチョップ”!!」

 

真横から突撃してきたポケモンが2体。

ケロマツとキバゴの攻撃が同時にカイロスに突き刺さり、吹き飛ばした。

 

カイロスは砂埃をあげながら、茂みの中に叩き込まれた。

ケロマツとキバゴは見事に着地を決めて、素早く戦闘態勢を取る。

 

キモリは目の前に突然現れた味方に目を丸くしていた。

 

「間に合ったな!!」

 

ミネジュンがそう言ってキモリの前に滑り込んだ。その肩にはまだツチニンがくっついている

タクミもすぐさまその隣に並ぶ。足元ではゴマゾウが役目を終えたオレンの実を口の中に放り込んだところであった。

 

「っていうか、ミネジュン。いきなり攻撃しちゃったけど。良かったのかな?」

「あったりまえだろ!このキモリは俺が仲間にする!つまり俺のポケモンだ!そのポケモンを攻撃しようとしてくるなら、敵でいいだろ!!」

「まぁ、それでいっか……」

 

タクミはそう言いながらもカイロスが確保していた大量のオレンの実を見据えていた。

 

「どっちにしろ、あんなにオレンの実を1人で独占しているような奴は許しておけないね」

「そうそう!その通り!!」

 

ミネジュンがバトルの態勢に入ると同時に肩のヌケニンも飛び出し、ケロマツの隣に並ぶ。

ゴマゾウもオレンの実を食べて満足したのか、身体を丸めて周囲を軽く一周して身体を温めた。

 

「カイロ!カイロカイロ!!」

 

威嚇してくるように顎を打ち鳴らすカイロス。

4対1だというのにまるで怯む様子がない。

 

確かにタクミ達もこのカイロスは手強そうな気配を感じていた。

 

「キャ、キャモ?」

 

キモリは突然目の前に現れた味方に困惑していた。

 

彼等は自分のオレンの実を狙っていたんじゃなかったのか?

 

そんなキモリの疑問の声が聞こえたわけではなかったが、ミネジュンはキモリの方を振り返って言った。

 

「キモリ!ここに来る途中で住処(すみか)の木を倒されて困ってるポケモン達が何匹もいた!あれは、このカイロスがやったことで間違いないんだな!?」

「キャ、キャモ……」

「頷いたな。間違いないんだな!!タクミ!!」

「ああ!これで、許しておけない項目が1つ増えた!!」

 

彼等の身体から闘志が吹き上がる。

 

それを目にしたキモリは目を疑った。

 

戦うつもりなのか?あのカイロスを相手に?

 

だが、キモリの目からは彼等のポケモン達があのカイロスに勝てるとは到底思えなかった。

あのカイロスには森で一番強いと称されていたダーテングですら勝てなかったのだ。

 

それなのに、あんな小さな身体のポケモン達で勝てるはずがない。

 

だが、キバゴやケロマツの目にはまるで不安な様子などない。

彼等の目は絶対的な支えがあるかのように自信に満ちていた。

 

「カイィィィィ!!」

 

鬨の声をあげるカイロス。

 

「ミネジュン!来るよ!!」

「おう!ケロマツ!“でんこうせっか”!ツチニン“つじぎり”!」

 

再びケロマツが攻撃をしかける。続いてツチニンが何の予備動作もなしに飛び出した。

 

「ケロッ!」「ツチッ!」

 

2匹の攻撃をカイロスは最低限の被弾で受け流す。彼等の攻撃はカイロスの頑丈な外骨格に阻まれて大きなダメージは与えられない。だが、そんなことは織り込み済みだ。

 

ミネジュンの隙を埋めるようにすぐさまタクミが仕掛けた。

 

「ゴマゾウ!真正面から“ころがる”だ!!」

「パオン!!」

 

カイロスに全力でぶつかっていくゴマゾウ。その攻撃をカイロスは両腕で抑え込んだ。

本来なら回避したかっただろうが、ケロマツとツチニンの攻撃で足が止まっていたのだ。

ゴマゾウの攻撃は完璧にカイロスの真芯を捉えた。

 

「キバゴ!“ダブルチョップ”」

「キバッ!!」

「って、バカ!!上から行くな!!」

 

いきなりジャンプしようとするキバゴに慌てて指示を飛ばしたタクミであったが、もう遅かった。キバゴは両腕を振りかぶって飛び上がり、カイロスの真上から攻撃を仕掛けようとしていた。だが、カイロスの頭にはその自慢の顎があるのだ。カイロスに頭上からの攻撃はご法度だ。

 

カイロスはゴマゾウの“ころがる”攻撃を支えながらもキバゴを挟み込もうと身構えた。

 

このままじゃ、キバゴの攻撃は通らない。

そう判断したミネジュンが素早く次の手を打った。

 

「タクミ!フォローする!ケロマツは“あわ”だ!ツチニンは“どろかけ”!」

 

ケロマツが放った“あわ”に泥状になった土が降り注ぐ。それにより空中に土色の泡が大量にばらまかれた。

即席の目くらまし。キバゴの姿が完全に隠れる。

 

「カイッ!?」

 

その時、初めてカイロスの顔に動揺が現れた。

そこを見逃すタクミではない。

 

「ゴマゾウ!11000まできっちり回せ!!」

「パァァアアアオオオオオオ!!!」

 

一気にフルスロットルに回転力をあげたゴマゾウ。

その回転力でカイロスの両腕を弾き、加速したパワーに任せゴマゾウは全身をカイロスに叩きつけた。

ゴマゾウの攻撃にカイロスの身体が仰け反り、顎の先がわずかに逸れた。

 

「キバゴ!!全力でいけぇ!!」

「キバァァアアア!!」

 

泥泡の煙幕を突き破り、キバゴの全力の“ダブルチョップ”が振り下ろされる。

 

「キバァァアァア!」

「カッ……」

 

まずは右腕の攻撃。だが、キバゴの全体重を乗せた【ドラゴンタイプ】のワザのエネルギーは生半可なものではない。その上にキバゴの2発目のチョップがダメ押しで叩きつけられる。

 

その衝撃はカイロスを貫通して地面にまで達し、地面にヒビを入れた。

 

キバゴはすぐさまジャンプして距離を取り、ゴマゾウも一時離脱して戻ってくる。

ケロマツとツチニンもいつでも次の攻撃を行えるように身構えていた。

 

「カイ……カイ……」

 

それでも、カイロスの意識は完全に飛ばなかった。

だが、カイロスは腰が抜けたかのようにキバゴ達から後ずさる。

 

それをタクミとミネジュンは怖い顔で見下ろした。

 

「お前、この森で暴れてるらしいな」

 

ミネジュンがそう言いながら指をぽきぽきと鳴らす。

 

「森のルールを守れない奴はこの俺がボコボコにしてやる。覚悟はいいか?」

「カイッ!カイッ!!」

 

頭を下げて許しを請うカイロス。だが、タクミは取り合わなかった。

 

「お前は……そうやって頭を下げた奴らをどうしてきた?まぁ、もっとも、あのキモリの態度を見れば一目瞭然だけどな」

「…………」

 

頭を下げた姿勢のまま固まるカイロス。

 

これだけ脅せば大丈夫だろうか?

 

そう思い、タクミとミネジュンが顔を見合わせる。

 

だが、彼等がカイロスから目線を逸らした瞬間だった。

 

「カイロッ!!!」

「えっ!!」

 

カイロスが突然飛びかかってきた。

 

カイロスが頭を下げている。それはつまり、一番の攻撃手段である彼の顎が一番敵の近い位置にあるということ。彼は頭を下げていたのではない、その姿勢がカイロスは最短最速の攻撃態勢だったのだ。

 

「しまっ!!」

 

狙いはミネジュン。カイロスはトレーナーを潰す気なのだ。ケロマツもツチニンも反応が間に合わない。ミネジュンに巨大な顎が迫る。タクミも油断してしまっていた。ミネジュンの身体は驚愕に硬直してしまっている。

 

カイロスの顎の間にミネジュンの身体が挟まりかけた。

 

その刹那。

 

キモリの痛烈な蹴りがカイロスの身体を吹き飛ばした。

 

「キャモ!!」

 

ミネジュンの前に滑り込んできたキモリの足がギュッと地面を掴む。

蹴り飛ばされたカイロスは地面を転がりつつも受け身を取り、口の中の泥を吐き捨てた。

 

「カイ……」

 

奇襲を失敗したカイロスは憎々しげな顔でキモリを睨みつけた。

キモリに蹴られた程度ではダメージは薄い。だが、それ以上にカイロスはそのプライドを傷つけられていた。

 

キモリの心は以前、完膚なきまでにへし折ったのだ。いわば、キモリは既にカイロスの恐怖の奴隷だったはずだ。実際、ついさっきまでキモリの目に戦う意志は欠片も残っていなかった。

 

その相手が突然牙を剥いてきたのだ。

 

それがカイロスにとっては不愉快で仕方がない。

 

シャカシャカと威嚇の音を鳴らすカイロス。

キモリはその音に少し震えながらも、決して引くことなくカイロスを睨んだ。

そのキモリの目にはしっかりと闘志が宿っていた。

 

そんなキモリの背中をミネジュンは驚いたように見つめていた。

 

「キモリ……助けてくれたのか?」

「キャモ……」

 

キモリはミネジュンを一瞥し、再びカイロスへと視線を向ける。

 

カイロスが頭を下げて許しを請うた時、それは騙し討ちで相手を倒す手段だということをキモリは知っていた。それはこのカイロスが最初にこの森にやってきた時にダーテングを倒した方法だったのだ。唯一その時の様子を知っていたキモリはカイロスが頭を下げた時点で既に動きだしていたから、ミネジュンを守ることができたのだ。

 

キモリは自分でもなんで戦うつもりになったのかわからなかった。

 

キモリはカイロスを見据えながら、ミネジュンの手持ちポケモンであるケロマツやツチニンを視界に収める。キモリと同様の体格程度しかない彼等。だが、彼等はトレーナーの指示の下であのカイロスを圧倒していたのだ。

 

その姿に勇気づけられたのか?自分にもできるかもしれないと思ったのか?

 

いや、違う。

 

情けなかったのだ。

 

森に住んできた自分が何もせずに怯え、外からきたポケモンに守られている自分が情けなかったのだ。

 

「……キャモ……」

 

キモリは震える足を踏みしめ、ミネジュンの方を振り返った。

 

「キャモ!!」

「お前……一緒に戦ってくれるのか!?」

「キャモ!!」

「よしっ!キモリ!この卑怯者を完膚なきまでに叩きのめすぞ!!“でんこうせっか”!」

「キャモ!!」

 

その瞬間、キモリが痛烈な加速をした。

 

「カイッ!!」

 

その攻撃は見事にカイロスの腹に突き刺さる。そのワザのキレにタクミもミネジュンも目を丸くした。

最高速度だけを見ればケロマツにも勝るとも劣らない。加速に力はわずかに劣るが、それでも最速に達した時のスピードは目で追うことも困難な程であった。

 

「すげぇ……キモリ!一気にいくぞ!!“タネマシンガン”!!ケロマツは“あわ”、ツチニンは“どろかけ”だ」

「キャモ!!」「ケロッ!!」「ツチッ!!」

 

3種の攻撃がカイロスに迫る。

 

「カイロォオオ!!」

 

カイロスは『調子に乗るなぁ!』とでも叫ぶかのうに自分の顎を振り回し、攻撃を受け切った。

だが、これは囮。本命は既にカイロスの頭上へと迫っていた。

 

「キバッ!!」「パォン!!」

 

キバゴとゴマゾウがカイロスに飛び乗った。

 

「カイッ!?」

 

カイロスは暴れ、キバゴとゴマゾウを振り払おうとする。

だが、彼等はまだ未熟とはいえパワータイプのポケモンの進化前だ。そう簡単に抜け出すことはできない。

 

「キバゴ!ゴマゾウ!!そのまま抑え込め!!」

 

キバゴとゴマゾウは全身に体重をかけて顎にのしかかり、カイロスを顔から地面に組み伏せた。

もがくカイロスであるが、キバゴとゴマゾウががっちりとその身体を抑えこんでいて動けない。

 

その上からゆっくりとキモリ達が迫る。

 

「さぁて、カイロス。覚悟はいいな?」

「今度はちゃんと反省するまで頭を下げてもらうからね」

 

ドスの効いた2人分の声が頭上から聞こえ、カイロスはピタリと動きを止めた。

だが、それは先程と違い、恐怖により固まっただけであった。

その証拠にカイロスの全身から玉の汗が浮かんでいた。

 

キモリが一歩前に出る。ケロマツがキラリと目を光らせた。ツチニンが前足をシャカシャカと鳴らす。

 

タクミとミネジュンはこのカイロスに反省させるにはまず徹底的に痛めつけて自信をへし折ることが大事だとの結論に至っていた。

 

タクミとミネジュンは顔を見合わせ、頷きあう。

 

「お前ら!やっちまえ!!」

 

ミネジュンの号令と共に彼等がカイロスに襲い掛かった。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

「もう二度と乱暴するなよぉおお!!」

「キバァァアアアア!!」

「パォオオオオオオ!!」

 

森の奥に逃げていくカイロスを怒鳴り声で見送り、タクミ達は鼻息を強くならした。

カイロスがいなくなったことで森のポケモン達が恐る恐るといったように大樹の傍へと集まってくる。

その中には傷ついたダーテングもおり、彼が指揮を執るようにしてカイロスが集めたオレンの実を皆に分配していた。

 

キモリはそのダーテングの手となり足となり、ポケモン達にオレンの実を配っていく。

 

野生のポケモン達の上下関係や共存関係というものをタクミとミネジュンは興味深く眺めていた。

 

「へぇ、やっぱりこういうところでも、強いポケモンっていうか。まとめ役みたいなのがいるんだな」

「だね。縄張り争いとかがあるってのは知ってたけど、実物ははじめて見たよ」

 

タクミはそう言いながらその光景をホロキャスターの映像フォルダに収めていく。

 

オレンの実を受け取ったポケモン達はきのみを抱えて新たな住処を探しに森の中へと戻っていく。

大樹の下に残ったのは怪我をした数匹のポケモンであった。きっとカイロスに痛めつけられたのだろう。この樹は森の中で単独で生活できそうにないポケモンが助け合う避難所のような場所なのだろう。

そんな場所を占拠していたカイロスの悪行っぷりがよくわかるというものであった。

 

その時、不意にダーテングがキモリと共にタクミ達の方を向いた。

 

ダーテングは『森の神様』とも言われることのあるポケモンだ。

そのダーテングの鋭い目で睨まれ、タクミ達の背筋が自然とピシリと固まった。普段は口の軽いミネジュンですら、気軽に声を出せずにいた。その圧力に彼等のポケモン達も“へびにらみ”でも喰らったかのように全身の動きが止まった。

 

そのダーテングはキモリを舎弟のように従え、ゆっくりとした歩調でタクミ達に近寄ってくる。

 

「ど、どうも……」

 

ミネジュンが震える声で挨拶をして片手をあげる。

だが、ダーテングがギロリと睨むと、ミネジュンがそのままの姿勢で凍り付いた。

そんなミネジュンの様子を見て、ダーテングは一瞬反省するような顔をした。

キモリがそんなダーテングに呆れたように声をかける。

 

「キャモキャモ」

(ほら、そんな顔だと、怖がられるんですよ)

「ダーテン……」

(仕方あるまいこういう顔なのだ……)

 

タクミ達にはダーテングとキモリの会話は聞こえなかったが、彼等のポケモン達はその限りではない。

キバゴやケロマツ達はその会話を聞き、率先して前に出た。

 

「キバキバ?」

(なんかよう?)

 

キバゴが軽い口調でそう聞く。怖いもの知らずといか、躊躇がないというか。

そんなキバゴの豪胆な態度にダーテングが小さく笑った。

 

「ダーテン、ダー……」

(ああ、今回は助かった。礼をいう)

 

ダーテングはそう言い、団扇のような手元の中からいくつかのきのみをタクミ達に差し出した。

タクミ達は差し出されたきのみに目を丸くした。

 

「え?これ、僕達が受け取っていいの?」

「ってことは、このダーテング。お礼を言ってるのか?」

 

タクミとミネジュンはそれがわかると途端に笑顔になり、喜んでそのきのみを受け取った。

きのみの中には割と珍しいものもあり、ホクホク顔のタクミ達。

 

その時、ミネジュンがきのみの中から不思議な石を拾い上げた。

 

「あれ?なんだこれ?」

 

ミネジュンが持ち上げたのは大きめのビー玉ぐらいの鉱石だった。

黒曜石のような黒い色の鉱石であるが、表面の一部が割れ、中から虹色の光が漏れていた。

 

「綺麗だなこれ。2個あるから1個ずつでいいか?」

「うん」

「アキにお土産ができたな」

「うるさい」

 

そう言いつつもタクミはその鉱石を大事なものをいれているリュックのポケットの奥にそっと入れた。

 

そうやって喜んでいる二人の顔を見て、ダーテングは安堵したように息を吐きだした。

 

 

そんなダーテングにケロマツが声をかけた。

 

「ケロケロ?」

(あのカイロス、放っておいて良いのでしょうか?」

「ダー、ダーテン……」

(問題ない。我が全快であればあの程度容易い)

 

実際、ダーテングが負けた原因は最初の騙し討ちによるものだった。

お互いに全力の1対1であればダーテングはあの程度の相手に負けはしない。

 

「……ダーテン……」

(……それより……)

 

ダーテングは自分の隣にいるキモリの背中を軽く押した。

キモリは軽くつんのめりそうになったが、なんとか踏みとどまる。

キモリは驚いたようにダーテングを見上げた。

 

「ダーテン……」

(言いたいことがあるんだろ……)

「キャモ……」

(それは……)

 

躊躇うような顔をするキモリ。キモリは何度も瞬きをし、縋るような目でダーテングを見上げた。

だが、ダーテングはそれ以上は何も言わない。

 

決めるのはお前だ。

 

無言のうちにそう訴えかける。

 

キモリはしばらくそのダーテングの横顔を見上げていたが、何かを決断したかのようにその目を前に向けた。

 

「キャモ!!!」

 

そして、キモリはミネジュンとタクミの前に立ち、腰を落として片手を前に差し出した。

 

「キャモキャモキャ!!キャモ!!」

「え?どうしたんだキモリ?」

 

威勢よく何かを訴えるキモリ。これは旅のダーテングが他の森を通過するときにやる『仁義を切る』というものだ。それは『自己紹介』と『自分の売り込み』を併せた挨拶なのだが、それを理解したのは彼等の中ではキバゴだけであった。

 

キモリの言っていることはわからない。

ただ、キモリが何を伝えようとしているのかは言いたいかはすぐにわかった。

 

「キモリ、もしかして、一緒に来たいのか?」

「キャモ!!」

 

キモリは頷いた。

 

キモリはもっと強くなりたかったのだ。

 

今回の出来事でキモリはそれを実感していた。

 

カイロスに力で抑えつけられ、守りたいものも守れずに折れてしまった自分。

そんなカイロスを相手に五分に戦うポケモン達を目の当たりにして、キモリはトレーナーの元で戦えば強くなれるんじゃないかと思ったのだ。だからキモリはこうして森を離れ、彼等に付き従う決断をしたのだった。

 

「タクミ、今回は……」

「はいはいわかってるよ。ミネジュンがゲットしなよ」

「恩に着るぜ!!!キモリ!俺と来るか!!」

「キャモ!!」

 

闘志あふれるキモリ。その頭に向け、ミネジュンは自分の想いを叩きつけるようにモンスターボールを投げ込んだ。モンスターボールは5回程点滅し、静かになる。

 

「イヨッシャァア!キモリゲットだ!!早速出てこい!!」

「キャモ!!」

 

飛び出したキモリはミネジュンの前に立ち、すぐさまダーテングに深々と頭を下げた。

 

「キャモ!!」

(お世話になりやした!)

「ダーテン!!」

(半端やるんじゃねぇぞ!)

 

気合の入った別れの挨拶をかわしたキモリとダーテング。

そして、ダーテングは大きな動作で身を翻し、大樹の方へと戻っていった。

 

森の中でポケモン達を束ねるダーテング。

タクミとミネジュンはその背中に何か感じるものがあり、ピシリと直立して頭を下げた。

 

ふと、風が吹く。

 

顔を上げた時、ダーテングはどこにもいなかった。

 

「すげぇプレッシャーのあるポケモンだったな……」

「うん、リーダーって感じ……」

 

タクミとミネジュンは一呼吸置き、その大樹に背を向けた。

 

「よっしゃ!タクミ!タクミ!!さっそく戻ろうぜ、そんでバトルだバトル!キモリの初戦を飾ってくれ!!」

「わかったよ。でも、とりあえずにキャンプに戻ろう。ここはポケモン達の憩いの場みたいだし」

「わかってるって。だけどさ、このキモリの動き見たろ!もう俺、ワクワクが止まんなくてよ、こいつを生かす作戦を考えようと思ってるんだけど、タクミも一緒に考えてくれよ。それと、ハクダンジムのこともっと教えてくれ!!」

「はいはい」

 

キャンプ地へと戻っていくタクミとミネジュン。

 

そんな2人を木の上から見送るダーテング。

 

彼等の旅はまだまだ、まだまだ、続く。

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