ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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まだまだリアルが忙しい……
また、更新が少し空くかもしれません。


その心臓の高鳴りはきっと恋じゃない

バトルの宣言をしたものの、2人してバトルフィールドに駆け込むわけにもいかない。

タクミはアキの車椅子を押し、彼女をバトルコートへと連れて行った。

 

「アキ、ここでいい?車椅子のブレーキかけるよ」

「うん、OK!」

「それでモンスターボールはどこ?」

「車椅子の下にボールケースが入ってる」

「あったあった。はい、どうぞ。点滴引っ掛けないでよ。手はこっち握って。寒くない?上着いる?」

「平気。ミアレってあったかくていいよね。雨もあんまり降らないし。日本より過ごしやすい気がする」

「それもそうだね」

 

タクミはアキの点滴台が風に煽られないように高さを調整し、車椅子の隙間に挟んで固定する。

手慣れたものであった。

アキのバトルの準備をしっかりと整え、タクミはようやくバトルコートの反対側へと向かった。

 

「アキ!バトルは何回目?」

「へへへ、実は初試合!!」

「だと思ったよ」

 

彼女はポケモンを貰ってからすぐに手術となった。

その後は病院で寝たきりだったのだから、バトルをする暇などあるはずがない。

 

「ルールはアキに合わせるよ。好きに決めて」

「ほんとっ?それじゃあ、えと、一番強いコでバトルしよ!!」

「OK!」

 

タクミは迷わずにモンスターボールを選んだ。

 

アキは手元のボールケースを見下ろす。

最初のポケモンを貰って3日後には手術になったアキ。だが、アキは諸々あって既にポケモンを3匹連れている。だが、その誰もがバトルしてゲットしたわけではない。

 

これが正真正銘の初バトルなのだ。

 

しかも、その相手はタクミ。

 

アキは手にしたモンスターボールをギュッと握りしめた。

 

アキの脳裏に『あの日』のことがフラッシュバックする。

 

タクミのボールが部屋に転がり込んできた『あの日』

窓から飛び込んできたボールを握った感触は今も覚えている。

 

病気に蝕まれ、友達を作ることもできず、ただベットの上で不安に押しつぶされそうになっていた頃。目の前は真っ暗で、未来なんかどこにもなかった。公園で子供達が遊ぶ声を聞いていたのも、手が届かない世界への憧れと羨望でしかなかった。

 

『あの日』私は世界のことを嫌いになりはじめていた。

 

そんな時に、彼は窓からやってきた。

 

そこから世界が広がったのだ。

 

タクミと出会い、一緒に戦う仲間ができた。追いかけたい背中ができた。未来の先にある夢が見えた。

だから辛い治療を乗り越えてきた。大きな決断を乗り越えることができた。そして夢への第一歩を踏み出すことができた。

 

そんなタクミとポケモンバトルができる。

 

ずっと憧れていたポケモンバトル。ずっと望んでいた相手とのバトル。

 

燃えない訳がなかった。

 

アキは自分の胸に手を当てた。

 

その掌の下では心臓が今までにないぐらいに速いリズムで鼓動を打っていた。まるで胸の中に火のついた薪を入れられたかのように身体の奥から熱が溢れてくる。動いてもいないのに背中が汗ばむ。吸い込む息が足りないような気がして、何度も深呼吸を繰り返す。

 

リハビリを頑張った後でもここまで身体が熱くなったことはなかった。治療が上手くいった時もここまで気持ちが昂ったりしなかった。

 

こんなに心臓が強く、激しく動いているのはもしかしたら産まれて初めてなのかもしれなかった。

 

アキは自分の心臓の上をギュッと握り込んだ。

 

「ねぇ、タクミ。全力疾走した時って、こんな感じなのかな」

「え?」

「心臓がバクバクしてる。頭の奥がドクドクする。こんなの……こんなの初めて!!」

 

アキはそう言って目をギラギラとさせながら、八重歯をむき出しにして笑った。

 

『笑顔』というのは本来、他者に対する威嚇の表情だったという。

アキの今の笑顔はまさしくそれだった。

無邪気さの中に秘められた好戦性。理性の外れかかった闘争の表情。

そんなアキの姿を見るのはタクミも初めてだった。

 

「……いい顔しているじゃん……」

 

タクミは口の中だけでそう呟く。

 

今までと違うアキの姿。それは彼女が本当に大きなことを乗り越えたことの象徴のような気がした。

それがあまりにも嬉しくて、タクミは声を殺してクツクツと笑う。

 

そんなタクミにアキは自分のモンスターボールを突き出した。

 

「タクミ!!全力で来てね!!」

「あったりまえだ!!」

 

タクミも同じようにモンスターボールを前に突き出す。

そして、2人はほぼ同時にフィールドにモンスターボールを投げ込んだ。

 

「お願い!ヒトカゲ!!」

「行くぞ!キバゴ!!」

 

フィールドに立つヒトカゲとキバゴ。

 

「キバァ!!」

「カゲェ!!」

 

タクミは『ヒトカゲ』相手のバトルは初めてではない。ポケモンキャンプでのハルキとのバトルはそう忘れられるものではない。だが、タクミはあの時のことは完全に頭の外に追いやることにした。

 

あのバトルは経緯のこともあり、あまり自慢できるものではない。それに、彼とのバトルがアキを相手に参考になるとは思えなかった。

 

アキのヒトカゲはハルキのヒトカゲと比べて随分と体付きが違ったのだ。

 

「カゲッ!」

 

軽くステップを踏み、シャドーボクシングを繰り返すヒトカゲ。

足腰の動きといい、肩の筋肉の発達具合といい、アキのヒトカゲからは接近戦の匂いがプンプンしていた。

そんなヒトカゲを相手にするなら本当はキバゴは相応しくない。中距離から戦えるフシギダネかタイプ相性の良いゴマゾウで戦うのがベストだった。

 

だが、タクミの顔には後悔も不安もない。

 

今のタクミにはこの瞬間にできる最高のバトルがしたいということしか頭になかった。

 

タクミとアキの間に火花が散る。お互いのポケモン同士も目が合い、バチバチと火花が散る。

そして、2体のポケモンがフィールドに出たことにより、審判AIが起動する。

 

「ヒトカゲVSキバゴ、バトル承認!バトル承認!制限時間なし!」

 

無機質なAIの声。

だが、そんなことは今は何も気にならない。お互いがお互いのことしか見ていない。自分のポケモンの声を聞くことしかできない。

 

きっとここが大歓声のスタジアムでも彼等は同じであっただろう。

 

アキが渇いた唇をペロリと舐める、タクミが口の中に溜まった唾を飲み込んだ。

 

「バトル開始!!」

 

バトル開始のゴングが鳴る。

 

「キバゴ!“ダブルチョップ”!」

「ヒトカゲ!“メタルクロー”!」

 

キバゴとヒトカゲはその指示を最初から待っていたかのように、一気に飛び出した。

紫炎の“ダブルチョップ”と白銀の“メタルクロー”がフィールドのほぼ中央で激突する。

 

「キバァァァ!」

「カゲェェェ!」

 

真正面からのぶつかり合い。小手先のテクニックを駆使するつもりなど毛頭ない。全身の駆動を全て使い、相手にワザを叩き込む。ただそれだけだった。

 

「カゲェエエエ!」

 

ヒトカゲの爪がキバゴの両腕を内側からこじ開けていく。

 

「キバァアアア!」

 

キバゴの下肢がヒトカゲを押し込もうと前に出る。

 

ヒトカゲがわずかに後退し、キバゴの防御が崩れる。

 

どちらにせよ、この膠着状態は長く保たない。

 

先に動いたのはタクミの方だった。

 

「キバゴ!ターンだ!!」

「キバァ!!」

 

キバゴは左腕を外し、右足を軸にその場でターンを決めた。それはスケートやダンスのような華麗なものではない。格闘家が地面を強く踏み込むようにキバゴは足の爪でがっちりと地面を掴み、腕を畳んで高速で回転した。そして、その遠心力を右拳に集約させる。

 

「キバッ!!」

 

下半身の駆動力を込めた鋭い裏拳だ。一瞬で振り抜かれた裏拳はヒトカゲに防御の隙すら与えずに側頭部に突き刺さった。攻撃を受けたヒトカゲの身体が流れ、足が揺らぐ。

 

だが、ヒトカゲの目はその程度で怯みはしなかった。

 

「ヒトカゲ!尻尾!!」

「カゲェ!!」

 

ヒトカゲは揺らいだ体重の移動を利用して、足を大きく振り回してその場でターンする。

ヒトカゲは遠心力を利用し、先端に炎を灯した尻尾での打撃で反撃を狙った。

 

「キバゴ!止まれ!!」

「キバッ!」

 

追撃しようとしていたキバゴはギリギリのところで足を止める。炎の先端がキバゴの頬を掠める。攻撃を回避することはできたが、ヒトカゲの回転はまだ止まらない。ヒトカゲは振りぬいた尻尾のエネルギーを殺すことなく、足を踏みかえる。ヒトカゲはブレイクダンスのように身体を回し、そのまま左腕の“メタルクロー”をフックパンチのような軌道で振り抜いた。

 

「カゲッ!!」

 

ヒトカゲの“メタルクロー”がキバゴの横っ面をぶち抜いた。

 

「キバゴ!怯むな!!」

「キバァ!!」

 

ヒトカゲの攻撃は派手だったが大振りだ。攻撃直後の隙も大きい。腕を振り切ったヒトカゲは勢いを殺しきれずにキバゴに身体の側面を向けていた。

最高の反撃のチャンスだった。

 

だが、その直後、タクミは虫の知らせのような鳥肌を覚えた。

 

「キバゴ!ガードだ!!」

「キバァ!」

 

キバゴが“ダブルチョップ”を纏った両腕をクロスする。

次の瞬間、ヒトカゲの尾が怪しく揺らめいた。

 

「ヒトカゲ!“ドラゴンテール”!!」

「カゲッ!」

 

アキの指示が飛ぶ。

 

回転の勢いの乗ったヒトカゲの尻尾。その先の赤い炎が勢いを増し、青白く変色する。

【ドラゴンタイプ】のエネルギーを纏った炎が燃え広がり、尾の全体を包み込んだ。

ヒトカゲは大きく足を踏み出し、身体を半回転させてキバゴに向けて尾を振り切った。

 

雷鳴のような音が鳴った。

 

それは、強力な【ドラゴンタイプ】の攻撃がぶつかり合った時に生じる特有の黒い火花。

 

苦手なタイプの攻撃を下から突き上げるように受けたキバゴ。キバゴの身体が浮き上がり、数メートル程吹き飛ばされる。キバゴは両足と両手で着地し、顔を上げる。派手に飛ばされたが、防御が間に合ったおかげか、ダメージは少なかった。

 

ヒトカゲは回転を止めることなくステップを刻み、少し距離を取って足を止めた。

大きく股を開き、両腕を胸元の前で構えるヒトカゲはまるで歴戦の格闘家のようなオーラを纏っていた。

 

「キバァ……」

「カゲェ……」

 

睨み合うヒトカゲとキバゴ。

ひり付くような空気がその場を満たす。

 

緊張の糸が張り詰める。キバゴとヒトカゲはすり足でじりじりとお互いの間合いを詰めていく。

日本刀での立ち合いのように、一瞬でも先に攻撃を叩き込もうとする両者。

タクミとアキの呼吸が自然と小さく、浅くなっていく。全神経をフィールドの間合いに集中する。

 

「………」

「………」

 

息が詰まる程の緊迫感。

 

そして、張り詰めたものが切れる。

 

「キバゴ!!」

「キバァ!!」

 

キバゴが飛び出した。一瞬でトップスピードに乗り、低い姿勢から突撃する。

ハクダンシティでのローラースケートの練習がキバゴの脚力を数段向上させていた。

その脚力に合わせたタクミの指示。遠すぎず、近すぎない位置からの突撃。

 

まさしくドンピシャであった。

 

一気に懐まで潜り込んだキバゴはその勢いのまま左腕をヒトカゲの腹部に叩き込んだ。

 

「カゲェ……」

 

ヒトカゲが呻き声をあげる。たが、ヒトカゲはすぐさまキバゴの腕へと手を伸ばした。

 

「ヒトカゲ!捕まえて!」

「カゲッ!」

 

ヒトカゲはキバゴの左腕を引き寄せ、関節を極めつつ脇で締め上げた。

 

「“メタルクロー”!!」

「カゲッ!!」

 

キバゴは腕関節を極められた。逃げられない。片腕ではガードもままならない。

 

「キバゴ!キバで受けろ!!」

「キバッ!!」

 

キバゴが自慢のキバを“メタルクロー”に合わせた。

バキンと激しい音がしてキバゴのキバがへし折れ、宙を舞う。

 

これはチャンスだった。

 

「キバゴ!そいつを蹴り込め!!」

「キバァッ!!」

 

キバゴは地面を蹴り、身体を回して強引に関節技を外した。そして、そのキバをボレーシュートよろしく蹴り込んだ。折れたキバは見事にヒトカゲの眉間を直撃した。

 

「えぇっ!そんなのあり!?」

「ありに決まってるだろ!!キバゴ!!追撃しろ」

「ヒトカゲ!ターンして“ドラゴンテール”!」

「カゲッ!!」

 

ヒトカゲは身体を大きく回し、蒼炎を帯びた尻尾を叩きつけようとする。

だが、タクミもキバゴもその攻撃が来ることは予想していた。

 

「キバゴ!!尻尾に“かみつく”だ!!」

 

その指示にキバゴはニヤリと笑い、その大口を開いて尻尾に飛びついた。

 

「あぁんぐ!」

 

キバゴはヒトカゲの尻尾の根本に完全に食いついた。

 

「カゲェッ!」

 

その痛みにヒトカゲは驚き、その場で小さく飛びはねる。

姿勢を崩したヒトカゲ。

その瞬間、タクミの指示が飛んだ。

 

「キバゴ!!そのままヒトカゲを持ち上げろ!!」

「ィィバァア!」

 

キバゴは顎の力でヒトカゲの重心をズラし、浮いた片足を担ぎ上げるようにして抱え上げた。

 

「ヒトカゲ!暴れて!逃げて!!」

「キバゴ!ヒトカゲを叩きつけろ」

 

キバゴは軽く飛び上がる。

キバゴの顎の力と首の力を使い、膂力と重力を掛け合わせてヒトカゲを頭から地面に思いっきり叩きつけた。

 

「カゲッ……」

「ヒトカゲ!逃げて!!追撃が来る!」

「そこだキバゴ!“ダブルチョップ”!!」

 

ダメージで動けないヒトカゲに向け、キバゴが大きく飛び上がった。

 

「馬鹿!!」

 

タクミの叱責が飛んだ。

 

「キバゴ!!不用意に飛ぶんじゃないって何度言ったらわかるんだ!」

「キバァアアアアアア!!」

 

だが、もうキバゴの動きは止められない。

 

「ヒトカゲ!“メタルクロー”を構えて!!!」

「カ、カゲッ!」

 

ヒトカゲは痛む身体を引きずりながら、片腕だけに自分の力を集中させる。

右腕のみに力を集約された鋼の爪。

 

ヒトカゲは頭上に迫るキバゴの動きに全神経を研ぎ澄ませた。キバゴの腕の動き、ワザの揺らめき、身体の隙。その全てを観察し、自分の中の反撃のイメージを頭の中で固める。ただし、攻撃のタイミングだけは計らない。それは自分がやらなくてもいい。

 

そして、アキの声が飛ぶ。

 

「今っ!!」

 

落ちてくるキバゴに向け、突き刺すようなヒトカゲの“メタルクロー”が放たれた。

間合いを完璧にとらえた一撃。キバゴの左腕を外側に弾き出し、狙うはその急所である眉間。

 

「キバッ!!」

 

バキンと再び音がした。

 

キバゴのもう片方のキバが折れた音だった。

 

キバゴは先程と同じようにヒトカゲの攻撃を自分のキバで受けたのだった。

攻撃が逸れ、有効打に至らなかったヒトカゲの一撃。

その伸びきった腕をキバゴは引き寄せながら、“ダブルチョップ”をヒトカゲの腹部に叩きつけた。

 

腕に蓄えられていた全てのエネルギーがヒトカゲの身体を突き抜ける。

ヒトカゲの目が強く見開かれる。

 

「カゲ……」

 

キバゴが腕を引く。ヒトカゲの身体が倒れていく。

そして、ヒトカゲは重力に逆らうことなくフィールドの上に横たわった。

 

審判AIがフラッグを上げる。

 

「ヒトカゲ戦闘不能!キバゴの勝ち!」

 

その宣言が響き渡る。

 

「キバァアアアアアアアア!!」

 

キバゴの勝利の咆哮が響き渡る。

 

だが、それに続くトレーナーの歓声は聞こえなかった。

 

タクミは緊張の糸が切れたかのように大きく息を吐きだしていた。

タクミはその時になって自分が呼吸を止めていることに気が付いた。

 

「……勝った……」

 

タクミは何時間も続いた戦いが終わったかのように両拳を握り込んで頭上に掲げた。

 

「キバ!キバキバキバ!!」

 

キバゴがタクミの足元にまで戻ってきて、ハイタッチをせがむように小さく飛びはねていた。

タクミはそのキバゴを細目で見下ろし、しゃがみこんでキバゴと視線を合わせる。

 

「キバゴ、お疲れ様」

 

タクミはそう言ってキバゴの頬をムニムニと撫でまわした。

 

「キィバァ……」

 

くぐもった声を出しながら『それほどでも~』と調子に乗った表情をするキバゴ。

タクミは一層目を細め、キバゴの頬を両側に引っ張った。

 

「キバッ!?」

「キバゴ!勝ったからいいものの!最後の大ジャンプはいらないでしょ!!普通に最短距離で“ダブルチョップ”を叩き込んでたらもっと安全に勝てたでしょうが」

「キバ~キバ~」

 

タクミはキバゴの頬をもみくちゃにしながら、持ち上げる。

 

「反省してる?」

「キバキバキバキバ」

 

潰されながらも殊勝な顔で何度も頷くキバゴ。

 

「じゃあもうしない?」

「…………」

「なんで返事をしないんだお前は」

 

タクミは疲れ果てたような長いため息を吐き出した。

 

キバゴの無駄に大技を繰り出したがるこの性格はどうしたものだろうか。本当なら無理にでもやめさせるべきなのだろうが、キバゴにとってこれはテンションを最高潮に保つために必要なものなのだ。キバゴのバトルのリズムを保つのにも一役買っているし、難しいところであった。

 

頭を悩ませるタクミ。その傍にアキが自分で車椅子を動かして近づいてきた。

 

「タクミ、キバゴは大丈夫?」

「え?あぁ、うん。平気みたい」

「キバァ!」

 

キバゴの両側のキバは折れてしまった。だが、キバゴは元気に片手をあげてアキに挨拶をする。

 

「よかった。それとタクミ、バトルありがと」

「こちらこそ。アキのヒトカゲは?」

「こっちも平気。怪我もないよ。ほら」

 

アキが促すと、ヒトカゲは車椅子の後ろから顔を出した。

どうやら、アキの車椅子を頑張って押してくれていたようだった。

そのヒトカゲは『元気だよ』と宣言するかのように片手をピシリと上げた。

 

「カゲ」

「そっか、よかった」

 

タクミの手の中からキバゴが飛び降り、ヒトカゲに向けてトテトテと歩み寄る。

そして、キバゴは自分の爪を握りこんでヒトカゲに突き出した。

 

「キバァ!」

 

それに応えるようにヒトカゲも自分の爪を握りこむ。

 

「カゲッ!」

 

そして、ヒトカゲはキバゴの拳に自分の拳をゴンと叩きつけた。拳がお互いの力のせめぎ合い、プルプルと震える。接近戦にこだわりのありそうな両者。何か通じ合うものがあったらしかった。

 

そんなポケモン達をアキは微笑ましく、タクミは若干呆れ笑いで眺める。

そして、アキは改めてタクミに手を差し出した。

 

「タクミ、ありがと。良いバトルだった」

 

タクミはアキに応え、その手を握り返す。

 

「こっちこそ!すっごい楽しかった」

 

そして、二人はお互いの手の熱に苦笑いを浮かべた。

 

「タクミ、すっごい手汗」

「アキだってめちゃくちゃ手が熱いじゃん。熱あるんじゃないの?」

 

タクミは何気なくそういった。

アキは昔からことあるごとに熱を出していたので、よく冗談でそう言っていたのだ。

だが、そんなタクミの一言にアキは八重歯を見せて笑った。

 

「あるよ。あるに決まってるじゃん。だって、だって、こんなに……嬉しいんだから!!」

 

アキは顔をしわくちゃにして、目尻に涙を光らせて、歯をむき出しにして笑った。

 

「だって、タクミとポケモンバトルできたんだよ!ずっと、ずっとやりたかったバトルができたんだよ!!」

「……そっか、そうだよね」

「私、絶対にできないって思ってたんだよ……私、このまま何もできずに、やりたいこともできずに、死ぬんだって思ってた……でも、出来たんだよ!」

「うん」

「私、ポケモントレーナーになれたんだ!本当になれた!私、ポケモントレーナーになったんだよね」

「当たり前だろ。だって、今バトルしたとこじゃないか」

「うん!!」

 

タクミはそう言って、ニヒヒと笑う。アキがもう一度くしゃりと笑い、その拍子に大きな雫が零れ落ちた。

アキは握手していた手を離して、大きく手を掲げた。

タクミもすぐさま彼女の意図を察して自分も手を振り上げる。

 

「タクミ!ありがと!!」

「アキ!ほんとに頑張ったな!」

「うん!!」

 

ハイタッチの乾いた音が病院のバルコニーに鳴り響く。

 

泣くように笑う2人に向け、キバゴとヒトカゲが祝福のように諸手をあげていた。

 

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