ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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目が冴えた夜って余計なこと考えるよね

ミアレシティの町の片隅にあるレストラン。ドレスコードもなく、家族連れも来るような敷居の低いレストラン。バリアフリー化もなされており、車椅子で入ることも問題ない。タクミがそういう店を選んだのだから、当然であった。

タクミとアキは慣れないナイフとフォークでの食事に少し苦戦しつつも美味しい料理に舌鼓を打つ。

テーブルの上でヒトモシがキャンドルランプの役割を勝手に演じていること以外は地球界のレストランとそう変わらない光景であった。

 

そんな店でアキと2人で御飯を食べる。

見ようによってはロマンチックに見える光景かもしれないが、タクミの顔には渋い顔が張り付いていた。

それもそのはずで、先程からアキの話題の選択がシトロンの話ばかりなのだ。

 

「それでね、プリズムタワーの中も少し見学させてもらおうと思ったんだけど、今改装中らしくてね……」

 

前菜を食べている間はせいぜい【でんきタイプ】のポケモンの話とか、ジム戦の話ぐらいの話題であったのに、それが徐々にシトロンの話にシフトしていったのだ。

 

タクミとしては別にシトロンの話をすることはやぶさかではない。

カロス地方で『地方旅』をするのなら、何度も通ることになるミアレジムのジムバッチはぜひとも手に入れたいところ。そのジムリーダーの情報であればどんな些細なことでもいいから集めておきたい。

 

だから、シトロンがハイスクールの先生達と連戦連勝した時の話とかは是非とも聞いておきたい話の筆頭であった。

 

「……そのときにレントラーの“ワイルドボルト”が直撃してね。ジムリーダーの本気ってあそこまで威力でるんだね」

 

それなのに、なぜかタクミは今すぐアキの話題を別のものに変える方法をずっと探していた。

 

「アキ……その……」

「ん?なに?」

 

アキがわざとらしいぐらいの満面の笑みを向けてくる。彼女の笑顔は今の話題を絶対に変えるつもりがないことを言葉以上に物語っていた。その完璧な防壁を前にタクミは言葉をせき止め、別の台詞を吐かざるおえなくなる。

 

「お水……いる?」

「うん!」

 

店員を呼び、水を注いでもらうタクミ。美味しい食事をしているはずなのに、タクミは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

そんなタクミの顔を楽しそうに眺めるアキ。

このレストランの食事は『頬が落ちる』程には美味しいわけではないのだが、アキの顔の筋肉は緩みっぱなしであった。

 

まるで対照的な両者の顔色。

それを眺めながらヒトモシはサービスで出してもらったポフィンに舌鼓を打っていた。

 

「へへへ……」

「アキ、なんでそんなに嬉しそうなの?」

「んー……ふふふ、なんでだと思う?」

「………なんでって……なんで?」

「教えない」

「………」

 

アキは悪戯が成功したかのように笑い、タクミの口元がより強く結ばれる。

そんなタクミの顔を見続けるのもそれなりに楽しいのだが、この辺りが潮時だろう。

なにせ、次の料理はメインディッシュだ。それをタクミには美味しい顔で食べてもらいたい。

 

アキは一息つき、話題を変える為にグラスの水に口を付けた

 

「タクミ、ここのお水美味しいでしょ」

「え、ああ、うん。そうだね。少し甘いというか、口に柔らかいというか」

「このお水ね、ミアレの西にある『地つなぎの洞窟』ってところで取れた天然水なんだって。タクミもそこ通る予定ある?」

「『地つなぎの洞窟』?んー……えーと、通るよ。その洞窟を通ってショウヨウシティのジムに挑戦するつもり。ただ、コウジンタウンにも行きたいなって思ってて」

「コウジンタウン?あそこにジムはないよね?」

「うん。でも、そこにポケモンの化石の博物館とか水族館とかあるから、ちょっと観光に寄りたいなって思ってて」

「えっ、そんなのあるの!?」

「うん。アキ、水族館とか好きでしょ?だから何かお土産とか買ってくるよ」

「いいの!?えっ、でも寄り道して大丈夫?」

「それぐらいの余裕はあると思う。まぁ、今後もジムで苦戦することもあるかもしれないけど。でも、せっかくカロスに来たんだから、他にも回ってみたい場所もあるし、例えば……」

 

それからの話題はこれからのタクミの旅の行く先の話が中心になっていった。

メインディッシュが運ばれてくる段階ではタクミの眉間の皺も消え、デザートが来る頃には不機嫌だったことなど忘れたかのようにいつもの温和なタクミが戻ってきていた。

 

レストランでの食事を笑顔でしめくくり、タクミ達は会計を済ませて夜のミアレの空気を吸いこんだ。夜風が涼しいミアレの町。町に流れる音楽がポップなギターの音から静かなジャズミュージックに変わり、夜がより深まったように感じる。だが、これでも時計の針はまだ20時前だ。

 

タクミ達は少し膨れたお腹を抱えて、病院へと戻る道を歩く。

街灯の明かりの中、アキはタクミの顔を時折見上げて、思い出したように笑っていた。

 

「アキ、今日はなんかやけに機嫌がいいね」

「そりゃそうだよ。タクミが会いに来てくれたんだもん」

「その答えは……ずるい……」

 

タクミは口の中で言葉を濁す。アキは上機嫌にヒトモシの頭を撫でてながら、夜でも明るいミアレの空を見上げていた。

 

タクミが病院の表玄関まで来ると、アキは膝に乗せていたヒトモシをタクミへと手渡した。

 

「はい、タクミ。ヒトモシのことよろしくね」

「え……あ、うん。でも、なんでここで渡すの?病室まで送るよ」

 

タクミがそう言うと、アキは首を横に振った。

 

「ここでいいよ。今日はタクミのこと一杯振り回しちゃったし」

「そうかな?今日はバトルして、ヒトモシ連れてって、晩御飯食べただけだし、そんなに振り回された感じしないけどな……なんなら、去年の今頃の方がよっぽど酷かった」

「……藪蛇だった……その、あの頃のことは……私も悪いと思ってて」

「ふふふ、もう気にしてないよ」

 

タクミは眠そうなヒトモシを両腕で抱えなおし、首をひねる。

 

「で、どういう風の吹き回し?いつもなら『ベットまで送れー』とか『移乗手伝えー』とか言うくせに」

「んー……」

 

アキは少し悩んだ仕草をした後、ニヒヒと笑った。

 

「タクミが気づいてないなら言わない」

「え?どういう意味?」

 

まるで会話の意味がわからないタクミ。そんなタクミを見て、アキはくすぐったそうに笑った。

 

「いいのいいの。それより、タクミ。明日にはもうミアレを出るんだよね」

「それは、うん。ミアレジムが改装中ならこの町にいても仕方ないしね。明日にはコボクタウンに向けて出るつもり」

「……そっか……じゃあ、ここでお別れになるのかな」

「え?明日があるじゃん」

「へ?明日?」

「うん、明日は朝からここに寄るつもりだったけど」

 

当たり前のようにそう言われ、アキの方が逆に面食らってしまった。

 

「え、明日も会いに来てくれるの?」

「うん」

「あー……そっかー……そっかー」

 

そういえば『ポケモンキャンプ』に出発する日も、最初にミアレシティを旅立った時もタクミは朝からアキに会いに来ていた。そのことを思い出し、アキは腕を組んでと唸り声をあげた。

 

「どうしたの?アキ?」

「うーん……来てくれるのは嬉しいんだけど……でも……でもなぁ……」

「ん?」

「……よし」

 

アキは何かを決めたように両手を打ち鳴らした。

 

「じゃあ!また明日!」

「え?あ、うん。えっ!?ちょっと待って、何か言いたいことありそうな雰囲気だったけど違うの?」

「うん、あるにはあるよ。でも、今日はここでいいの」

「ん?」

 

首を反対側に捻るタクミ。ヒトモシがそれを真似るように同じ方向に首を傾けた。

そんなタクミにアキは片手をかざす。

いつものハイタッチの合図。タクミは長年の習慣に添ってその手に自分の掌を打ち付けた。

 

「それじゃあ!また明日!」

「うん……また明日……」

 

アキは軽快に車椅子をターンさせ、病院の中へ入っていく。

それを見送り、タクミは怪訝な顔のままポケモンセンターへと向かう。

 

2人の感情を感知しているヒトモシの炎が風に吹かれたように揺れ動いていた。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ポケモンセンターについたタクミはあらかじめ予約していた自分の部屋へと入っていった。

秘密基地のようなカプセル型の大きめのベットの中にヒトモシと荷物を置き、シャワーを浴びて戻ってくると、ヒトモシはすでに枕元で寝息を立てて眠ってしまっていた。

 

穏やかに眠るヒトモシをボールに戻すのがなんとなく忍びなくなり、今日は外で寝かせておいてやろうと思うタクミ。タクミは暖色の光を放つライトをつけながら、ベットの中に潜り込む。

 

扉を閉めれば、ベットの中は高級テントのような雰囲気に早変わりする。

空調も照明もボタン一つであり、音楽の再生機器まで揃っているベットは本当に自分の秘密基地のようであった。

 

だが、ここに泊まるのも2度目ともなれば既に慣れてくる。

タクミは頭の下で腕を組み、ぼんやりと天井を眺めつつ頭を空っぽにする。

 

旅の疲れもあるし、今日はヒトモシ関連でバタバタと忙しかった。

実際、身体は疲れている。このまま目を瞑ればそのまま簡単に眠りに落ちることができるだろう。

 

そのはずなのに、タクミの目は妙に冴えていた。

 

一息ついて、落ち着いて、もう後は眠るだけの時間。

そんな時に思考の中に割り込んでくるのはいつだって胸の奥でひっかかっていることなのだ。

 

タクミが考えていたのはジムリーダー、そして四天王や現チャンピオンのこと。

 

タクミは何かを思いついたかのように、ベットに備え付けられているタブレット端末を引き出し、動画サイトからポケモンリーグの映像を検索した。

 

ジムバッチを8つ手に入れ、予選を勝ち抜いた者だけが挑戦できる本戦リーグ。シード権を持つ四天王を始め、実力者が集い、ジムリーダーも自分の実力を試す為に時々混じることもある。

 

タクミはカロス地方のリーグ戦の中から一人のジムリーダーの出ている試合を探す。

 

「……この人だ………」

 

タブレットの青白い光に照らされてタクミの顔が真剣味を帯びる。

画面に映っていたのはカロス地方、ミアレジム、ジムリーダー。

【でんきタイプ】のスペシャリスト、シトロンの試合であった。

 

レントラーのを筆頭に様々な【でんきタイプ】のポケモンを操るシトロン。スピードで翻弄するバトルをしたかと思えば、マヒをばら撒きながらテクニカルに立ちまわることもある。そうかと思えば、時には真正面からの力押しで挑んだり、突拍子もない意外な戦術で盤面をひっくり返してくることもある。そして、その全てが的確で効果的であった。

 

ポケモンとの呼吸も完璧であり、この若さでジムリーダーをやっているだけのことのあるトレーナーであった。

 

彼は10歳で初の『地方旅』でポケモンリーグに挑戦し、2年続けて本戦リーグに出場している。ジムリーダーに任命された3年目はリーグ戦に出場はせず。そして、4年目に堂々と再度参戦し、四天王にあと一歩のところまで迫る大奮闘であった。

5年目である今年はジムリーダー業に専念するためにリーグへの挑戦はしないとのこと。

 

タクミはシトロンのインタビュー記事を流し読みして、ため息を吐きながらタブレット端末を暗転させた。

 

タブレットを脇に置き、再び頭の上で手を組んで天井を見上げる。

なんとなくその天井に手を伸ばす。カプセル型のベットとはいえ、さすがに身体を起こさないとその天井に手は届かない。

 

タクミは諦めたように手を下ろす。

 

「はぁ……」

 

もう一度ため息が零れ落ちた。

 

シトロンの去年のリーグ戦を見る限り、その実力はやはり本物であり、今のタクミではどう逆立ちしたって勝てそうになかった。

『地方旅』を始めてまだ1か月も経っていない新人トレーナーなので当たり前といえば当たり前なのだが、理屈だけで納得できるならこうもモヤモヤとした気持ちを抱えることはない。

 

タクミはむず痒いような気がする胸元をかきむしる。

 

ポケモンバトルではまず勝てない。ポケモンハイスクールの卒業生であるなら勉強も当たり前にできるであろう。機械工作が得意でアキがweb授業を受けやすいように色々調整してもらったともレストランの雑談で詳しく聞かされた。人当たりも良さそうで、朗らかな人柄で親しまれているらしい。

 

そして、何より彼はこのミアレシティに住んでいる。

アキがいるミアレシティに住んでいる。

 

「……………いや、だから何だってんだよ!!」

 

タクミは外に声が漏れないだろうギリギリの声量で声をあげた。

 

自分が何に苛立っているのか、なんでこんなに焦燥を感じているのかまるでわからない。

ムカつく理由など1つもない。シトロンさんは立派なトレーナーで、アキに良くしてもらって、嫌う理由なんて何一つない。

 

ないのだが、なぜか無性に腹立たしいのだ。

 

「あぁ、もう!」

 

腹の奥から熱が沸きだし、身体が驚くほどに熱くなり、背中に汗がにじむ。

タクミは眠れそうになくなった気分を沈める為にベットの外へと飛び出した。

ホテルのようなポケモンセンターの廊下を歩き、自動販売機で水を買い、下へと降りていく。

 

夜も更け、人の疎らになったポケモンセンター。

 

中央のロビーではごく数人が居座り、それぞれに自分の時間を過ごしていた。

タクミはスリッパの音をパタパタと鳴らしながら、ロビーを歩き、誰もいない一人用のソファに深く腰を落とした。

 

「はぁ……」

 

腹の奥に灯った淡い色の炎。消えるか消えないかの熱量でありながら、ずっとタクミの内側を炙り続ける。

それがどういう意味をもつのかをタクミ自身が理解できていなかった。

理解はできないが、この炎を放置してはいけないことだけは頭ではなく、心が理解していた。

 

だからこそ、タクミはこのまま何もせずにミアレシティを後にすることはどうしてもできそうになかった。

 

タクミは『地つなぎの天然水』を飲み、再び頭上を見上げた。

3階まで吹き抜けになっているポケモンセンターの天井は、タクミの遥か頭上にある。

最早手を伸ばしてみる気力もわかず、タクミは脱力したようにソファに身体を沈めた。

 

「よしっ!」

 

そして、タクミは何かを決めたかのように身体を起こした。

 

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

病室に戻ったアキは静かな部屋で看護師に介助してもらいながら、ベットへと移った。

 

「アキちゃん、ヒトモシは大丈夫だった?」

「はい。プラターヌ博士にばっちり治療してもらいました。それで、そのままヒトモシはタクミが……えーと、友達がそのまま連れていくことになりました」

「そう。あの子がタクミ君なのね。そういえば、前に一度来てたことがあった?」

「はい、タクミは『地方旅』に出たばっかりのトレーナーなんです!この間も……」

 

アキは体温や血圧の測定をしてもらいながら、できるだけ小声で話す。

アキの同室者である片垣瑠佳が既に眠っているような気がしていたのだ。

アキのように長年入院生活を送っていれば、同室の人達の気配でその人の大まかな状態を感じ取るぐらいはできるようになっていた。

 

アキの検査の結果、血圧はいつもよりやや高めだった。体温もやや高めで心拍もやや高め。

その数値を見て、看護師はニコリと笑った。

 

「久々の外出は随分と楽しかったみたいですね」

「はい。楽しかったです。色々と嬉しいこともありましたし」

 

アキは頬をわずかに染めてそう言った。

 

その後、アキは看護師さんに包帯の様子も見てもらい、『問題なし』の保証を貰ってから布団の中に入り込んだ。

 

アキは布団の中で自分のモンスターボールを手の中で握りしめる。

 

「………えへへ……」

 

アキはモンスターボールを抱き枕のように胸元に抱きしめた。

布団をかぶり、目を閉じるがどうも眠ることができそうにない。

 

目を閉じれば今日の出来事が映画のようによみがえってくる。

 

初バトルは本当に最高だった。タクミとの実力差がハッキリわかってしまうバトルではあったが、昔から想像することしかできなかった夢の1つを叶えられたのだ。結果は敗北であったが、そこは大事なことじゃない。

 

これでようやくタクミと同じ目線に立つことができたのだ。

 

今までは自分は見ているだけしかできない、助けられる存在でしかなかった。

それがようやく対等に渡り合えるものを手に入れられたのだ。

 

今日のバトルはその証明だった。

 

もちろん、1度バトルができただけで満足するつもりはない。

ハイスクールで学び、バトルして、ポケモンリーグでタクミとバトルしてみせる。

アキはその決意を込めて、自分のポケモン達のモンスターボール一つ一つを握りしめた。

 

そして、アキはハイスクールのことから連想するようにシトロンのことを思い出した。

 

「くふふ」

 

正確にはシトロンのことではなく、シトロンの話をしている時のタクミの顔を思い出していた。

話題をシトロンのものにすると、わかりやすく苦虫をかみつぶしたような顔になるタクミ。ジムリーダーの話だから気になることはあるのだが、できれば話題にして欲しくないような複雑な表情。

 

そんな顔をさせるのが楽しくて仕方がなかった。

 

「ねぇ、ヒトカゲ……これって、そういうことだよね」

 

モンスターボールに声をかけても返事はない。

だが、モンスターボールの中から『知らねぇよ』というような呆れた声が帰ってきたような気がしていた。

 

「タクミも嫉妬するんだね。ふふ、シトロンさんに嫉妬してくれたんだよね」

 

自分とジムリーダーが仲良く話していたことだけでそんなに妬いてくれるとは思わなかった。

タクミが自分にそんな気持ちを抱いてくれているということが、純粋に嬉しかった。

 

なぜなら、タクミの態度を見ていると時々わからなくことがあるのだ。

 

タクミは自分のことを『気の毒な少女』としか見ていないのではないかと思うことがある。

困っている人がいたら助けるように、怪我をしている人がいたら手を差し伸べるように、そういった誰もが持つ当たり前の善意で自分の傍にいてくれるのではないかと、不安になることがある。

 

色々と世話をしてくれたことには感謝している。それこそ、言葉では表せないぐらい感謝している。

だからこそ、タクミがもしそういう『ただの善意』で接してくれているだけなら、それはもうしょうがないと諦めるしかないとも思っていた。

 

今まで散々迷惑をかけ、嫌な気分にさせ、我慢させてきたのだ。

 

傍にいてくれるだけでほとんど奇跡なのだ。そんな私がタクミに『私を好きになって』と言う資格はない。言ってはいけないのだと常に思っていた。

 

もし、そういうことが言える日がくるとするなら、それは本当の意味でタクミと肩を並べることができた時だと思っていた。

 

それまでにタクミの心が離れてしまえば、やっぱりしょうがないと諦めるしかないのだ。

 

私の胸に宿る小さな小さな初恋はそれだけ儚いものでしかない。

 

だが、そんな不安を蹴飛ばしてくれる今日の出来事である。

 

嫉妬を覚えてくれているということは、つまり、そういうことなのだろう。

 

「………まぁ、逆かも……しれないけど」

 

ジムリーダーであるシトロンさんに『アキだけが仲良くしている』という状況に嫉妬している可能性だ。

ポケモンが好きで『地方旅』をしているタクミならば、決して有り得ない話ではない。

 

「……タクミ……」

 

こうして名前を呟いてみるとわかる。

 

自分の中心には常に彼がいるのだと。

 

タクミはまた明日旅に出てしまう。次に出会えるのは2か月後か、それとも3か月後か。

下手をすればもっと長い期間会えないかもしれない。

 

アキは身体を起こし、テレビの下にある引き出しを開いた。

 

その中にあるものを確かめ、アキは自分の頬を叩いた。

 

「……よしっ!」

 

そして、アキは意を決したようにテーブルのライトをつけ、何やら作業を始めたのだった。




随分と時間があいてしまいました。
ちょっと、半端じゃないぐらい年末年始が忙しすぎてダウンしてました。
そして、まだしばらくこの忙しさが続く。

しばらく本調子には戻らないかも。

気長に待っていただけると嬉しいです。
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