ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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Side School 学校という場所 中編

ポケモンハイスクールに実際に通うことになったら真っ先にミーナとバトルをする。

それは2人の間の約束であった。

アキは車椅子を押して、バトルフィールドのトレーナーサークルへと入る。

対面にはミーナが不適な笑みを浮かべて立っていた。

 

ナタリーとトマはバトルをせずに観客席から2人のバトルを見届けるようであった。

 

「さぁ、アキ!!勝負だよ!」

「うん!」

 

アキとミーナはそれぞれモンスターボールを構え、フィールドに投げ込んだ。

 

「お願い!イーブイ!」

「行くよ!フォッコ!」

 

アキが選んだポケモンはイーブイであった。このポケモンはアキが最初にヒトカゲを貰った時に一緒に受け取ったポケモンであった。

 

「ブィッ!!」

 

イーブイは全身の毛を逆立たせ、尻尾を跳ね上げる。

少しでも自分の体を大きく見せる為の威嚇行為だ。それだけでイーブイのバトルに対する熱意が伝わってくる。

 

対してミーナが選んだポケモンはフォッコ。

カロス地方で初心者トレーナーが最初に貰うポケモンの代表格のうちの1匹だ。

 

フォッコは尻尾に刺していた小枝をポリポリと食べ、耳から火の粉を噴出した。

 

両者共にやる気十分。

 

審判AIが起動し、バトル開始を宣言する。

 

「試合開始!!」

 

先手を取ったのはフォッコの方であった。

 

「フォッコ!“ニトロチャージ”!」

「フォッ!!」

 

フォッコが全身に炎をまとい、突っ込んでくる。

それに対してアキも応戦する。

 

「イーブイ!“でんこうせっか”!」

「ブィ!!」

 

静止した状態から一気に最高速度へと加速したイーブイ。フィールドを一直線に駆け抜けるとき、イーブイの尻尾の白い毛がテールランプのように白い残像となる。

 

速度を上げたフォッコとイーブイが一直線上に相対する。

 

「フォッコ!正面突破だよ!吹っ飛ばせぇ!!」

「フォッ!!」

 

四肢に力を入れて更にスピードを上げるフォッコ。

最高速度のまま間合いを詰めるイーブイ。

 

アキの指示はなく、両者は真正面からの力比べをするかのように見えた。

だが、フィールドの中央でポケモンが激突する寸前。

短く、的確なアキの指示が飛んだ。

 

「右!!」

「ブィ!!」

 

イーブイとフォッコが衝突する数舜前にイーブイが急激に方向転換した。

最高速度を維持したままほとんど直角に向きを変える荒業だ。

イーブイはフォッコの攻撃の軌道から逸れ、“ニトロチャージ”をやりすごす。

 

「フォッ!?」

「くっ、フォッコ逃がさないでもう一回“ニトロチャージ”」

「させない!そこっ!!」

「ブィ!!」

 

イーブイはフォッコが方向転換するタイミングを狙って“でんこうせっか”で突撃する。相手の攻撃の出鼻を挫く、これ以上ない一撃だった。

 

だが、このフォッコはその程度で根をあげるようなポケモンではなかった。

 

「フォッコ!負けるな!押し返せ!!」

「フォォォッ!!」

 

フォッコは自身の纏う炎を更に吹き上がらせ、地面を蹴り上げた。

先ほどより更に速度の上がった“ニトロチャージ”。

炎の威力も手伝い、フォッコがイーブイを弾き飛ばした。

 

「イーブイ!受け身を取って!着地と同時に“でんこうせっか”」

「ブィ!!」

 

イーブイは飛ばされた勢いを殺さないように肩から着地し、地面を転がるように受け身を取る。そして四肢が地面に着いたと同時に再び最高速度まで加速した。だが、今度は馬鹿正直に真正面から突撃などしない。

 

「攪乱する!動いて動いて!」

「ブィブィ!!」

 

イーブイは不規則にバウンドするラグビーボールのように縦横無尽にフィールドを駆け巡る。

いくらフォッコが“ニトロチャージ”で加速を重ねても、これでは相手を捉えることは至難のだ。

 

「くっ、フォッコ!スピードじゃ追いつけない!フィールドいっぱいに“ひのこ”をばらまいて!」

「フォッ!!」

 

フォッコは体を震わせ、体毛の隙間に小さな火花を発生させ、それを一気に霧散させた。

巨大なねずみ花火のように“ひのこ”をまき散らすフォッコ。フィールド全体が発火したかのように赤く染まった。その様はまるで炎の霧のようであり、この中を飛び回れば全身に炎を浴びることになる。

 

イーブイは動きを止めざる終えない。

 

だが、その瞬間こそアキが待っていたものだった。

 

「足を止めたね!!イーブイ!“シャドーボール”」

「ブィィィ!!」

 

イーブイは“ひのこ”を受けながらも、全身の毛を逆立たせながらエネルギーを口元に収束させる。

出来上がったのは夜を溶かし込んだ色の球体。バチバチと黒いスパークを放ちながら、“シャドーボール”が完成する。

 

「発射!!」

「ブィィ!」

 

放たれた“シャドーボール”はフィールドを横切り、フォッコに直撃した。

“シャドーボール”が炸裂し、噴煙が立ち上る。

 

「しまった、フォッコ!!大丈夫!?」

「コホ……コホ……」

 

砂煙の中からフォッコが咳をしながら転がり出てくる。

 

「イーブイ!間合いを詰めて!」

「ブィィ」

 

イーブイは噴煙の中を駆け抜け、一気にフォッコに肉薄する。

 

「そこっ!“でんこうせっか”」

「ブィ!!」

 

超子近距離からの一撃。

フォッコは再び吹き飛ばされ、フィールドの外まではじき出された。

 

「フォッコ!!」

「……ふぉ……こほ……」

 

倒れるフォッコを確認し、審判AIがフラッグを上げた。

 

「フォッコ、戦闘不能、イーブイの勝ち!」

「いやったぁああ!イーブイ!!」

「ブィブィ!!」

 

イーブイは喜びを爆発させるようにその場で2度飛び跳ね、アキに向かって駆け出した。

 

「ブィィ!」

 

イーブイはアキの胸元に飛び込み、膝の上で胸を張る。

『褒めろ、褒めろ』と言いたそうなイーブイの頭をアキは思う存分撫でまくった。

 

「やったやった、よくやったイーブイ!!」

「ブィ~」

 

尊大そうな顔つきで綺麗な毛並みをワシャワシャにされるイーブイと歯を見せて笑いながらイーブイの全身を撫でるアキ。

 

その様子を観客席からナタリーとトマが見ていた。

 

「ほーアキもなかなかやるじゃん。トマはどう思う?」

「彼女は終始自分のペースでバトルを進めてました。“シャドーボール”という隠し玉には少々驚きましたがね」

「それ対してミーナは少し動きが固かったね。ちょっと緊張してたかな」

「確かに、“ニトロチャージ”での加速にこだわりすぎていたようにも見えました」

 

お互いに今のバトルの感想を語り合うナタリーとトマ。

そうこうしているうちに、ポケモンをボールに戻した2人が観客席の近くまで寄ってきていた。

 

「ナタリー、トマ。次は2人がバトルしなよ」

 

目元を少し赤く腫らしたミーナが2人に呼びかける。

 

「いいのかい?ミーナとアキでもう一戦してくれても私達は構わないよ。だろ?トマ」

「ええ、というか僕たちは既に何度も野良バトルをしてます。今更やっても結果は見えています」

 

メガネをクイっと持ち上げたトマ。そんな彼の言い方にアキは口を挟んだ。

 

「結果が見えてるって、もしかして、皆んなの中で誰が一番強いかもう大体決まってるの?」

「ええ、もちろん。この3人で一番強いのは……」

 

そしてトマは台詞を切り、ズレてもいないメガネを鼻筋に押し付けた。

それと同時にミーナが大きく胸を張り、ナタリーも親指で自分を指し示した。

 

「僕ですね」

「私」

「アタシだね」

 

3人の声が綺麗に重なった。

そして、3人の視線が交差する。

 

トマがもう一度メガネをクイッと持ち上げた。

 

「あのですね2人とも、僕はこの3人でのバトルの戦績を全て記憶しています。戦績では僕が2人に勝ち越しています。強いのは僕です」というトマにすかさずミーナが反論する。

「何言ってんのさ!トマはここんとこ連敗続きじゃん!私に2連敗、ナタリーに4連敗中のくせに最強なんて烏滸がましい。っていうか、私、ナタリーにも現在3連勝中なんですけど〜」そう言ったミーナにナタリーが鼻息荒く捲し立てる。

「ふざけたこと抜かしてんな。あの3戦はエース勝負じゃなかったろ。エースでの1対1でなら、私の勝率は7割近い。一番強いのはアタシだ」

 

バチバチと火花を散らす3人。

アキはそんな彼等の対抗心剥き出しの様子に「おー」と小さく声を上げた。

こういった『勝ちたい』という欲求をストレートにぶつけ合う文化はアキの周りには無かったものであった。

 

そもそも、アキの周囲にいたのはポケモンバトルをできる年齢まで生きることすら大変な人ばかりであったのだ。唯一の例外がタクミであったが、彼の剥き出しの闘争心を見たのもこの前の初バトルが最初であった。

 

「なんなら今ここでもう一回最強を決めようじゃんか」

 

ミーナがそう言ったが、その言葉にはナタリーとトマが首を横に振った。

 

「ミーナのエースは消耗してるじゃないか。今、バトルしても結果は見えてるよ」

「そうです。それに……」

 

トマがチラリとアキに視線を送った。

 

「あれ?私がいると問題?」

「そういう訳ではありませんが……僕達はアキのことを何も知りません。そんなアキの前でバトルを行なって一方的に情報を晒すのは、フェアではないように思うんですよ」

「それは……」

 

いくらなんでも気にしすぎではないだろうか?

 

アキは内心でそう思った。

これから1年間、ここで幾度もバトルすることになる。ポケモンリーグが始まる頃にはもうお互いに相手の大部分の情報を持っているだろう。最初の数試合、それも評価に関係の無い自由時間の試合の勝敗にまで情報戦をする必要があるのだろうか?

 

まぁ、考え方は人それぞれだ。

 

「それじゃあ、私とバトルしない?それならフェアでしょ」

「確かに、それなら構いませんね。それじゃあナタリーがお先にどうぞ」

「おい!トマ、どこまで情報収集に徹するつもりだお前は」

「いえいえ、レディファーストですよ」

「ったく、都合の良い時だけ紳士ぶりやがって。まぁ、いいや。アキ、アタシとバトルしようや」

「うん!」

 

バトルの経験が未熟なアキとしてはどんな相手でもバトルができるのは願ったり叶ったりだ。

そして、いざもう一戦と意気込んだ時だった。

 

「おい、ちょっと待ってくれよ。そこのバトルフィールドは俺達が使うんだからな」

「え?あっ、それはごめんなさ……い……」

 

声の方に振り返ったアキの言葉が尻すぼみになる。

そこにいたのは男子と女子数人のグループ。その中心にいたのはアキと同じ東アジア系の顔をした男子であった。彼等はアキ達に向けて薄い寒い微笑を浮かべていた。

 

ただ、アキが言葉に詰まったのは相手の圧力に怯んだ訳では無い。

彼等の背後に使われていないバトルフィールドがいくつも広がっていたからだ。

他に幾らでも使えるバトルフィールドがあるのに、わざわざアキ達のフィールドを使いたいと言い出した。

 

明らかな嫌がらせ行為であった。

 

そんな彼等に向けて真っ先にミーナが噛み付いた。

 

「なんだよ、あんた達。バトルしたいなら隣のフィールド使いなよ」

「隣は俺達が予約済みなんだよ」

 

集団の中の1人がそう言ってニヤニヤと笑う。この様子なら他のフィールドを使えと言っても無駄だろう。

彼等の目的はポケモンバトルではなく、アキ達の妨害なのだ。

 

アキは車椅子をくるりと回し、彼等を睥睨する。

 

学校という場だとイジメが問題になるニュースは度々耳にするがこうも簡単に出会えるとは思わなかった。

アキはどうしようかと思い、自分に友人達を見渡す。

ミーナは眉間に皺を寄せてわかりやすく怒っている。トマは心底面倒そうに身を一歩引いていた。ナタリーは、ちょっとのっぴきならない表情になっていた。

 

「くだらないことしやがって……」

 

先程までの朗らかで姉貴分的な彼女とは打って変わり、低くドスの効いた声がナタリーの口元から漏れる。

彼女の指がゆっくりと握りしめられ、関節がパキパキと音を立てた。

 

「ナ、ナタリー。暴力はダメだよ」

「あん?」

 

チビりそうなぐらい怖い顔で睨まれた。元々の彫りが深い顔の造形が強い陰影を残し、般若のような顔になっていた。

正直、嫌がらせの標的にされたこと以上にナタリーのことが恐ろしいと思った。

 

とにかく、今の状況を何とかしなければならない。正直、アキとしてはこんな連中に付き合う時間は無駄でしか無い。

下手にぶつかるより、身を引いた方がいい。

 

アキは車椅子の車輪に手をかけた。

 

「みんな、他行こう。バトルフィールドは他にもあるんだし」

 

だが、そんな弱腰な姿勢は味方のはずの友人女子2人が決して許さなかった。

 

「あぁん!?こいつらから逃げるのか!?」

「そうだよ!アキ!引くことないって。っていうか、ここで退いたらずっと続くよ!殴られたんなら、殴り返さなきゃずっと負けっぱなしになる!」

「で、でも……」

 

今まで狭い人間関係しか持ってこなかったアキ。アキが我儘を言って、自分を押し通していけたのは今までタクミだけだったのだ。

こういった場でどうしたら良いかなどわからず、逃げてしまうのは仕方のないことであった。

 

そんな逃げ腰の彼女を見てアジア系の彼がせせら笑った。

 

「見ろよ。やっぱり地球界のトレーナーってのはこんな程度なんだよな」

 

ピタリとアキの手が止まった。

 

「だよな。バトルしようとしてもすぐに何か言葉を濁して逃げやがる。トレーナー同士、目があったらバトルするのが挨拶みたいなものなのにな。挨拶もできない礼儀知らずばかりだ」

「そうそう、『地方旅』に来たって言っても、ただの観光旅行だろ?そんなんだから本戦リーグにも出場できない」

「やるだけ無駄なんだよねぇ。まぁ、ポケモンスクールに通うのも同じぐらい無駄だと思うけど」

「地球界のトレーナーにバトルフィールドは似合わないんだよ」

 

アキが目を見開き、ジロリと彼等へと視線を向けた。

それを見て、ミーナがニヤリと笑い、ナタリーが「ふん」と満足そうに鼻を鳴らした、一歩引いていたトマは眼鏡を押し上げてメモ帳を開いた。

 

アキは車椅子をその場で勢いよく反転させ、彼等の前へと出る。

 

「そんなに強いの?ポケモン界のトレーナーってのは?」

 

その問いに彼等は声をあげて笑った。

 

「当たり前だろ?お前、ポケモンリーグ見たことある?地球界のトレーナーが本戦に進んだことなんて一度だってないんだぞ。地球界のトレーナーなんて雑魚だ」

「へぇ……じゃあ、私に負けてるあなたは雑魚以下だ」

「あ?何言ってんのお前?」

 

彼等はアキの言葉の意味がわからないという仕草をした。

そんな彼等にアキは穏やかな表情を崩さない。

 

「小テストで私に勝ってるのってトマだけなんでしょ?地球界から来た私に成績で負けて、よく大口が叩けるよね」

「お前、馬鹿じゃねぇの?座学と実技は違うんだよ」

「じゃあ試してみる?」

 

アキはモンスターボールをスルリと取り出した。

 

「あなたの言うことが本当なら、地球界のトレーナーの私には絶対に勝てるよね」

「面白ぇ」

 

彼は『ノッてきたな馬鹿が』という顔でアキを見下ろす。

それをアキはいつもと変わらない笑顔で受け止めた。

 

「俺が勝ったら、もう二度と俺に逆らうんじゃねぇぞ」

「嫌です」

 

アキはそれだけをサラリと言って、さっさとトレーナーサークルへと進んでいった。

挑発を流された彼は友人連中に小突かれながら、トレーナーサークルへと入っていく。

 

「ったく、あいつら……」

 

アキの隣にミーナが並び、鼻息を強く吐きだした。

 

「アキ、加減することないよ。思いっきりやっつけちゃえ」

「ミーナ。バトルは喧嘩じゃないんだよ」

 

アキは平常心を保ったままのような声でそう言った。

すると、背後でナタリーが唾を吐き捨てる音が聞こえた。

 

「アキ、そんな優等生地味た建前なんか聞きたかないよ。本音と本気でぶつかってこそのポケモンバトルだ。腹の内をさらけ出せ」

「そうだそうだ!ナタリーの言う通りだ!」

「……みんなにとってのポケモンバトルってそんな感じなんだ……」

 

どうやら、地球界とポケモン界のトレーナーではバトルに対する意識が随分と違うらしい。

地球界は少しポケモンバトルを神聖化しすぎなのかもしれない。

 

ただ、アキとしてはあまり感情をバトルにぶつけるつもりはなかった。

 

そもそもアキは思考と感情を切り離すのは得意なのだ。

運命に対する行き場のない怒りも、先の見えない絶望も、全部飲み込んで生きてきた。アキにとってこの程度の感情など胸の奥に閉じ込めておくのに造作もない。

 

ただ……

 

「…………」

 

アキがモンスターボールを握り込むと、モンスターボールが強く熱を帯びた。

それが自分の掌の熱だと自覚するのに随分と時間がかかった。

 

『地球界のトレーナー』

 

アキにとって、その条件に一致する相手はほとんど限定される。

 

「……私がどうこう言われるのは別にいいんだよね……別に……」

 

アキは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

 

「でも……」

 

アキには夢がある。苦しい時も辛い時もそれを支えに生きてきた大事な夢だ。

 

タクミと一緒に語り合った夢だ。

 

「私の……私達の夢を馬鹿にするのだけは……許さない……」

 

アキは静かに燃える心の火をモンスターボールの中に移すかのようにモンスターボールをコツンと自分の額に当てた。

その瞬間、ヒトカゲのモンスターボールが一際強く揺れた気がした。

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