ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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テンション上げて行こうぜ!

バトルコートに立ったザクロとタクミ。

所定の位置についたタクミであったが、観覧席に人影を見つけ、そちらに視線が向く。

そこでは数人のトレーナーがタクミ達のバトルを見学に来ていた。

 

おそらく、ジムの門下生だろう。

 

各ジムには大概はこうしてジムリーダーを目指したり、自分を鍛えたりする目的のトレーナーが所属していることが多い。

とはいえ、タクミには観客の有無で緊張するようなメンタルは持ち合わせがない。

むしろ、チャンピオンを目指すぐらいなら観客が多いほど燃えて然るべきだった。

 

そんな中、審判がいつもの試合前の口上を述べる。

 

「これより、チャレンジャータクミ対ジムリーダーザクロのショウヨウジム、ジム戦を始めます。ジムリーダーの使用ポケモンは2体。対してチャレンジャーは手持ちのポケモン全てを使ってバトルをしていただきます」

「へぇ……えっ!?えっ!?」

 

タクミは聞き間違いかと思って審判を2度見した。

 

「全部!えっ、今僕の手持ち5体いますけど、全部使っていいんですか!?」

 

その問いには審判ではなく、ザクロが答えた。

 

「はい。それがこのジムのシステムです。手持ちのポケモン全てを使って、私にぶつかってきてください」

「…………」

 

揺るがぬ意志を示すザクロ。タクミはその自信を前にして、生唾を飲み込んだ。

 

【いわタイプ】とはタイプ相性の中でも比較的弱点が多く、不利を背負うことが多いタイプだ

チャレンジャーによっては6体全てを【いわタイプ】に相性のいいポケモンで固めてくることぐらい当然のようにやってくるだろう。

 

このジムリーダーはそんなチャレンジャー達を今まで壁として弾き返してきたのだ。

 

やっぱり、一筋縄じゃいかないだろう。

 

気持ちが一瞬引けてしまうタクミ。隣にいたクチートがそんなタクミの微細な感情の揺れを感じ取った。

 

「クチ……」

 

心配そうに見上げてくるクチート。その視線に気づき、タクミは自分がどんな顔をしていたのかを悟った。

ネガティブな感情はトレーナーからポケモンに伝染する。

 

トレーナーの気持ちが鈍れば、ポケモンの動きも鈍る。

逆に、トレーナーの気持ちが昂っているなら、それだけポケモンも応えてくれる。

 

「………ダメだな」

 

タクミは飲まれかけていた気持ちに気合を入れなおした。

 

「安心しろ、クチート」

 

相手は格上。

 

そんなことはわかってる。わかった上で挑みに来たのだ。

気持ちで負けている暇なんかカケラもない。

 

「必ず勝つ!!勝ってバッジを手に入れる!」

 

タクミはそう言って唇の端で笑ってみせる。クチートはそんなタクミを信じるように真剣な顔で頷いてくれた。

 

そんなタクミ達の表情に満足したのか、ザクロが視線で審判に続きを促した。

 

「バトルはどちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点で終了になります。ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます。よろしいですか?」

「もちろんです!よろしくお願いします!」

「はい、それでは始めましょうか!!」

 

ザクロはおもむろにフィールドにモンスターボールを投げ込んだ。

 

「イワァァァアアア!!」

 

出てきたのは巨大な岩が連なった姿をしたポケモン。イワークだ。

 

「クチッ!!」

 

クチートがイワークの鳴き声と振動に驚いて、タクミの背後に飛び込んだ。

 

「クチート?……あっ、そっか……イワークはしょうがないよな……」

 

クチートが彷徨っていた坑道にはイワークが生息していた。多分、襲われたのも1度や2度じゃなかったのだろう。しかも、ザクロが出したイワークはあの時に出会ったイワークより2回り程大きい。クチートが怖がるのも無理のない話だった。

 

「クチート、怖いなら観客席にいてもいいんだよ?」

 

タクミの言葉にクチートの身体が一瞬硬直する。

 

そして、クチートはフルフルと首を横に振り、より強くタクミのズボンにしがみ付いた。

意地でもタクミの隣でバトルに参加するつもりらしかった。

だけど、顔をズボンに押し付けて蹲っているクチートはどこからどう見ても『大丈夫』ではない。

 

「タクミ君?そのクチートは大丈夫なのですか?」

「はは、気にしないでください。このコはちょっと……リハビリ中で……バトルには出すつもりはないんです」

「そうなんですか?てっきり私は【いわタイプ】対策で連れてきているのかと思ってました」

 

クチートは【はがねタイプ】だ。【いわタイプ】とは相性はいい。

だが、それだけではバトルをさせる理由にはならない。

 

「違います。今日は、コイツに僕達の全力を見せる為に連れてきたんです!」

 

タクミはそう言って、上着のポケットからモンスターボールを取り出した。

 

「それじゃあ、まずはお前だ!頼むぞ!!フシギダネ!!」

「ダネダ!!」

 

フシギダネが三肢に力をみなぎらせて現れる。

 

「なるほど、フシギダネですか……」

 

ザクロは素早くそのフシギダネの左後脚の動きが悪いことを見抜いた。

だが、そこを指摘することはしなかった。既にバトルは始まっている。ならば、後はお互いに全力を費やすだけだ。

 

「それでは!試合開始!!」

「イワーク!先手を取ります!!“ラスターカノン”」

「イワァアア!」

 

動きが悪いフシギダネに対して遠距離攻撃。

誰しもがそれを狙う。だからタクミも既に対策は終わっている。

 

「フシギダネ!“ツルのムチ”!」

「ダネッ!」

 

フシギダネの十八番。“ツルのムチ”を使っての高速機動が早くも動き出した。

本来なら“やどりぎのタネ”などによる下準備が必要なムチによる高速機動であるが、ここは岩のフィールド。起点となるポイントはいくらでもある。

 

だからこそのフシギダネの先発だった。

 

イワークの初撃を回避したフシギダネはそのままフィールドを飛び回る。

イワークはそのまま“ラスターカノン”を連射したが、フシギダネを3次元的に対応できない。

 

「ほう、なかなかのスピードですね。イワーク、こちらも加速します“ロックカット”」

「イワッ!」

 

“ロックカット” 自分の身体の余分な岩を削り落とし、移動に最適化することでスピードを上げるワザだ。

相手に速度を上げる手段があるのなら、フシギダネの機動に追いつかれるのも時間の問題になる。

 

だが、タクミは焦りそうになる自分の気持ちを抑え込んだ。

 

「フシギダネ!いつも通りだ!“やどりぎのタネ”!」

「ダネフッシ!」

 

フシギダネはより高い位置に飛び、背中から複数の“タネ”を発射した。

 

それはフシギダネの全ての動きの起点。フシギダネのバトルの戦術は全てこの“タネ”が握っている。

ザクロはそのフシギダネの“タネ”がフィールド全体にばらまかれようとしていることに気づき、眉をひそめた。

 

「イワーク、それを着弾させてはなりません!“アイアンテール”」

「イワァ!!」

 

イワークが一瞬でとぐろを巻いた。その尾が光り、鋼の輝きを宿す。

そして、蛇のようにギリギリと身をよじったイワークがその身体に宿した力を一気に解放した。

“ロックカット”で加速した体捌きと、長い体躯を生かした“アイアンテール”

周囲全てを薙ぎ払うような軌道で振り抜かれた尾はその風圧だけでタネを四方八方に吹き飛ばした。

 

「くっ!」

「ダネッ!」

 

フシギダネがその風圧に煽られてバランスを崩して着地する。

フシギダネがばらまいた“やどりぎのタネ”はフィールドの四角に吹き飛ばされてしまう。

予定の位置から大きく外れた“やどりぎのタネ”にタクミは奥歯を噛み締める。

 

 

「なるほど、その“やどりぎのタネ”が本来のフシギダネの動きの起点なのですね。ですが、あなたにフィールドの主導権は渡しませんよ!イワーク、もう一度“ラスターカノン”」

「イワァ!!」

「フシギダネ!“ツルのムチ”だ!!」

「ダネ!!」

 

フシギダネは素早く“ムチ”による高速機動に移ったが、イワークの動きはさっきより一段階ギアがあがっている。

スピードの差は縮まってくるだろうし、時間が経てばそれだけ相手がフシギダネの動きに慣れてしまう。

 

回避だけをしていては勝てない。

 

「フシギダネ!飛び込め!“ツルのムチ”」

「ダネッ!!」

 

フシギダネは“ラスターカノン”を低空起動で回避し、一気にイワークの足元に滑り込んだ。

そのまま身体を捻り、渾身の“ツルのムチ”をアッパーカット気味に叩きつけた。

 

“ツルのムチ”は綺麗にイワークの顔面に入った。決定的ではないが、確かに大きなダメージを与えた。

 

だが、これは大きなミスであった。

 

ザクロは待っていたのだ。

 

フシギダネがイワークに接近してくる瞬間を。

 

「イワーク!そこです!“がんせきふうじ”!」

「まずい!フシギダネ!飛べ!!」

 

だが、フシギダネは攻撃の直後で体勢が整っていない。

直後、イワークの周囲に巨大な岩が浮かび上がり、フシギダネめがけて降り注いだ。

 

フシギダネを中心に雨あられと降り注ぐ大小の岩の塊。

直撃だけは避けたが、フシギダネの身体が岩に囲まれてしまう。

 

「ダネ……」

 

フシギダネの“ツルのムチ”の射線が塞がれた。

これではフシギダネは“ツルのムチ”を伸ばして移動することができない。

唯一、逃げられる場所は真上だけ。

 

だが、そこには……

 

「イワーク!“アイアンテール”」

 

真上に陣取ったイワークが巨大な尾を振りかぶった。

もう回避も防御も間に合わない。

フシギダネの目が敗北を覚悟したかのように細まる。

 

「フシギダネ!!“やどりぎのタネ”!!」

「ダネッ!!」

 

フシギダネの背中のタネが光った次の瞬間、フシギダネの周囲を覆う岩ごとイワークの“アイアンテール”が叩き潰した。

 

「フシギダネ!!」

 

砂煙が収まり、イワークが尾を上げる。

その下では潰されて気絶しているフシギダネがぐったりと腹ばいになっていた。

 

それを見た、審判が旗を上げる。

 

「フシギダネ、戦闘不能。イワークの勝ち!」

 

まずは1敗。タクミはモンスターボールをフシギダネに向け、ボールに戻した。

 

「……サンキューフシギダネ。いい仕事だったよ」

 

タクミはフィールドを見渡す。

既にフィールドはイワークの“がんせきふうじ”により、大量の岩で覆われている。

だが、まだ隙間は広く、『走り抜ける』ことぐらいは容易だ。

 

「……頼むぞ、ゴマゾウ!!」

「パオン!!」

「相性有利できましたか。後々辛くなりますよ」

「ご忠告ありがとうございます!でも、残念ですが、このゴマゾウ!!【じめんタイプ】のワザは使えないんですよ!!」

「えっ?」

 

ザクロの眉が跳ねる。

そして、審判が試合を再開した瞬間、タクミの指示が飛んだ。

 

「ゴマゾウ!!“ころがる”だ!!」

「パォォン!!」

 

ゴマゾウは軽く飛び上がり、身体を丸めて一気にフィールドを駆けだした。

“がんせきふうじ”でフィールドが制限されていようとおかまいなしだ。

むしろ、そんな複雑なコースを楽しむかのようにゴマゾウはドリフトで砂利を跳ね上げながらイワークに接近していく。

 

「なるほど、それで懐に飛び込むつもりですね。ですが、イワーク“がんせきふうじ”」

「イァアア!」

 

再び頭上から降り注いでくる岩石。匂いのない無機物の岩を相手にゴマゾウの鼻では感知できない。

だったら、それを回避させるのはトレーナーの役目だ。

 

「ゴマゾウ!右に曲がれ!!」

「パオン!」

「左40度!!」

「パオン!!」

「最後は右!!S字フック!!」

「パォオオオオオ!」

 

振り注いてきた岩を完全に回避イワークに迫るゴマゾウ。

だが、イワークも闇雲に“がんせきふうじ”を落としていたわけではない。

その真の狙いは“がんせきふうじ”でゴマゾウが向かってくるルートを一本に絞りこむことであった。

 

いかに相手のスピードが上であろうと、来る方向さえ限定してしまえばその迎撃は容易い。

 

「イワーク!“アイアンテール”!」

「イワァ!!」

 

“ころがる”で突っ込んでくるゴマゾウに向けてイワークが“アイアンテール”を振りかぶる。

だが、ザクロは一つ計算違いをしていた。

 

ゴマゾウはまだ『最速』ではない。

 

「ゴマゾウ!!回せ!!」

「パォオオオオン!!」

 

ゴマゾウの回転数が一気に跳ね上がった。

その時、はじめてザクロの顔に焦りが浮かんだ。

 

「なにっ!!」

 

ゴマゾウが巻き上げる粉塵が倍になり、加速の伸びは最早目で見て反応できる速度を越た。ゴマゾウはイワークの“アイアンテール”が振り切られるより先にイワークの懐に飛び込み、イワークの身体に着地した。

 

「ゴマゾウ!!そのままイワークの身体を駆けあがれ!!」

「パォン!!」

「イワーク!振りほどいてください!!」

「イワァ!!」

 

のたうち回ろうとするイワーク。

だが、きっちりとトルクの乗ったゴマゾウの足回りはイワークの身体に吸い付くようにその身体を駆けのぼった。そして、ゴマゾウはその回転の勢いを殺さずにイワークの横っ面に全身でぶつかっていった。

 

「イワァァァ!!」

 

激しい衝突音と共にイワークが仰け反り、吹き飛ばされる。

 

「イワーク!!」

 

イワークの巨体を吹き飛ばすパワー。加速の乗ったゴマゾウにとっては朝飯前であった。

イワークはフィールドの隅に設置されていた岩に叩きつけられて目を回した。

 

「イワーク!戦闘不能!ゴマゾウの勝ち!!」

「よっし!いいぞ!ゴマゾウ!!」

「パオパオパオ!!」

 

ゴマゾウはまだまだ走り足りないかと言うかのようにフィールドを転がり続けていた。

 

「クチィ……」

 

あの巨大なイワークが倒れる姿を見て、足元のクチートが恐る恐るというように身を乗り出してフィールドを覗き込もうとしていた。

タクミは手を伸ばして、そんなクチートの頭を撫でた。

 

「見たかクチート。お前の仲間はこんなにも強いんだぞ」

「クチ……」

 

クチートが久しぶりに『肌で感じる』トレーナー同士のポケモンバトル。

しかも、誰しもが持ちうる全ての力で挑むジム戦だ。

 

傍から見ているだけで場に満ちた緊張感で胸が張り裂けそうになる。

 

だけど、クチートの『瞳』に映るタクミとゴマゾウはそんな時間を楽しんでいる様子であった。

 

「いいぞ、ゴマゾウ!でも、油断するなよ!レースは最後の最後までわからないんだ!」

「パオパォ!」

 

だが、クチートの『目』にはそんなタクミ達の姿は届いていなかった。

クチートがバトルの場で思い出すのは『勝たなきゃいけない』という押しつぶされそうになる重圧感だけだった。

 

『なんでお前は勝てないんだ!メガシンカだ!メガシンカしろって言ってるんだ!!』

 

幻聴のような雑音。雑音のようにノイズのかかった冷たい記憶。

クチートの胸がドクリと不規則な跳ね方をした。

クチートはタクミの服の裾を掴み、再びその背後に隠れてしまう。

 

「クチート?」

「………」

 

タクミからはクチートの表情は見えない。だけど、その手が小刻みに震えているのだけはハッキリとわかる。

 

やっぱりイワークは怖かったのだろうか?

 

クチートの過去を知らないタクミにはそれぐらいしか思い当たる節がない。

タクミは少しでも気休めになればともう一度クチートの頭を優しく撫でた。

 

ザクロはイワークをボールに戻し、腰に手を当てる。

 

「なかなかの加速ですね。驚きましたよ」

「コイツの自慢なんです。別に素のスピードはそんなに速いわけじゃないんですけど。加速が乗ってきたらそう簡単には止められませんよ!」

 

そう言っている間にもゴマゾウはフィールドを所狭しと走り回っている。

無駄に体力を消費しているだけにも見えるが、ゴマゾウの動きのキレを保つにはむしろ走っている方がいいのだ。

 

「いいですね。それでは……お願いします!チゴラス!!」

「ガァオ!!」

「チゴラス?」

 

タクミは珍しいポケモンに眉をひそめた。確か化石から復元に成功したとされるポケモンのうちの一種。地球界で言えばティラノサウルスやアロサウルスなんかと似たような特徴のあるポケモンだ。頑丈で大きな顎と牙を持ち、【いわタイプ】と【ドラゴンタイプ】を併せ持っている。

 

「……強敵だな」

 

チゴラスはフィールドに散った岩の中でも一際大きな岩の上に立ち、フィールドを見渡していた。

 

「チャレンジャー、ポケモンの交代はしますか?」

 

審判の質問にタクミは首を横に振る。今の加速がついてるゴマゾウを引き戻すのは明らかに悪手だ。

 

「さぁ、タクミ君、今度はこの壁をどう乗り越えますか?」

「……色々な方向から攻めてみたい気持ちはありますが……ゴマゾウはどんな相手にもやることあんまり変わらないんです!」

 

審判が再び試合開始を宣言する。

 

「ゴマゾウ!“ころがる”だ!!」

「パォオン!!」

 

岩の合間を縫うようにフィールドを駆け抜けるゴマゾウ。

既に障害物の位置を把握しているゴマゾウ。

ゴマゾウは真正面からは攻め込まず、チゴラスの周囲を円形に回り、攻め込む隙を伺う。

 

「そのスピードはなかなか厄介です。ですが止める方法はある!チゴラス!“がんせきふうじ”」

「ガァオ!!」

「こっちも使ってくるのか!」

 

チゴラスの“がんせきふうじ”は先程のイワークのものとはワザのキレが1段上であった。しかも、チゴラスはゴマゾウを直接狙わず、ゴマゾウが走るルートを閉ざすような位置に岩を的確に落としてきた。既に幾度の“がんせきふうじ”でコースが制限されているこの現状。一度でも足を止めて回転を殺してしまえばもう一度ここまで加速を乗せることは不可能だ。だったらその前にダメージを通すしかない。

 

「ゴマゾウ!岩場から飛べ!!」

「パオン!!」

 

ゴマゾウは岩場をジャンプ台代わりに飛び上がり、一気にチゴラスに接近した。

 

「真正面!!“ころがる”だ!!」

「パオン!!」

「チゴラス!“かみくだく”!」

「ガァァッ!!」

 

突撃してくるゴマゾウ目掛け、チゴラスが大きく口を開いた。

そして、ゴマゾウの回転する身体をチゴラスはその大顎で受け止めた。

 

「ゴマゾウ!回転を緩めるな!」

「パォォオオ!!」

「無駄です。チゴラス!締め上げなさい!!」

「ガァァアアアアアアアアアァアォオオン!!」

 

ゴマゾウの回転とチゴラスの顎がぶつかり合い、火花が散る。

回転で顎を弾こうとするゴマゾウ。顎を閉めて回転を殺そうとするチゴラス。

歯医者のドリルのような不協和音が周囲に響く。

 

だが、その音はある瞬間を境に止まった。

 

「パ、パオン!?」

「なにっ!」

 

ゴマゾウの回転が殺されたのだ。

 

「チゴラス!そのままゴマゾウを叩きつけてください!」

「ガァァアオン!!」

 

チゴラスは咥えたゴマゾウを岩場に向けて叩きつけた。

 

「ゴマゾウ!!まだやれるか!?」

「パオ!」

 

まだ余裕な顔で立ち上がるゴマゾウ。

だが、完全に回転を止められてしまった。

“がんせきふうじ”で制限されてしまったフィールドで最高速に乗せるのは至難だった。

ここは、一度仕切りなおした方が得策だった。

 

だけど……

 

一瞬、タクミが逡巡する。

 

その隙を逃すジムリーダではない。

 

「チゴラス“ドラゴンテール“」

「ギャァアアア!!」

 

チゴラスの尾に竜の鱗のようなエネルギーが満ちる。次の瞬間、チゴラスはその強靭な脚力でゴマゾウの懐に飛び込んだ。

 

「ギャォオ!!」

「パオッ!!」

 

チゴラスの攻撃を顔面で受けたゴマゾウはその衝撃で大きく仰け反り、後退した。

 

「ゴマゾウ!!!」

「パ、パオ……」

「くそっ!戻れゴマゾウ!!」

 

タクミはモンスターボールのレーザーを当ててゴマゾウを手元に戻した。

 

「ごめんなゴマゾウ……余計なダメージをもらっちゃった」

 

ギリ、とタクミの奥歯がなった。

 

バカなことをした。

 

タクミは握り拳を固めて自分の側頭部を強めに小突いた。

 

タクミはゴマゾウを交代させることを躊躇ってしまったのだ。

 

それは『このバトルが2対2の同数でのバトルだったなら』と考えてしまったのだ。

 

これがジム戦ではなく、ザクロさんとの正式なバトルであったのならゴマゾウが戦えなくなった時点で試合終了でタクミの負け。ゴマゾウを交代させるということは、すなわち対等なトレーナーとしては負けを認めることだった。

 

だから迷ったのだ。このままゴマゾウで勝ってしまいたいと欲をかいたのだ。

 

そんな、自分のくだらないプライドと見込みの甘さで判断が遅れた。

トレーナーとして未熟もいいところだった。

 

タクミは悔しさに力がこもりそうになる。

それを、深呼吸をすることでなんとか落ち着かせていた。

 

「タクミ君」

「は、はい」

「君は随分と『上』を見ているようですね」

「え?」

「私に、同数のポケモンで勝ちたかったですか?」

 

見透かされている。だったら、変に平静を装う意味もないか。

 

タクミはそう思い、負けを認めたかのようにため息を吐いた。

 

「そうですね。僕は今『ゴマゾウが負けたら、ザクロさんに負けたことになる』と思いました。それで判断が遅れて、行動も遅れました」

「なるほど、ジムリーダーにただ勝ってバッジを手に入れる。それだけがあなたの目標ではないのですね」

「はい。僕は……全力のジムリーダーに勝てるトレーナーに……この世界の誰にも負けないトレーナーになることが夢なんです」

 

タクミのその返事に観客席にいた門下生達が僅かにどよめいた。

その言葉の意味するところは一つしかない。

 

「……『チャンピオン』ですか……」

「はいっ!!」

 

タクミの澱みの無い返事にザクロは満足そうに頷いた。

 

「……険しい壁です。それは今日のジム戦よりも、君がこれから出会う数多くの障壁よりも、遥かに高い壁です」

「だからこそ!越えがいがある!!」

「……ふふふ、いいですね。ですが、それで目先の『ホールド』を見失っては元も子もありませんよ!!」

「わかってます。つまんない拘りはもう捨てました。もう迷いません!!」

 

タクミの沈みかけた気持ちが復活してくる。

唸るように激しく音を鳴らす心臓の鼓動を聞きながら、タクミは次のモンスターボールを握った。

 

勝負はまだまだこれからだ!!

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