ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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VSチゴラスー死闘ー

「頼むぞ!ヒトモシ!!」

 

タクミはヒトモシをフィールドに繰り出した。

 

「ヒトモシですか」

 

【いわタイプ】には相性不利の【ほのおタイプ】を選んだタクミ

だが、観客席にいる門下生からのどよめきは少ない。

 

チャレンジャーに手持ちのポケモンを全て使うことを許可しているのなら、こういうことも多々ある。

地方旅を越えていくトレーナーなら様々なタイプのポケモンを手持ちに加えるのは定石であるし、そういったポケモンは早めに捨て駒として使うのも当然の戦術であった。

 

とはいえ、今回のバトルにおいてタクミには『捨て駒』なんて概念はない。

 

「ヒトモシ!攪乱していくぞ“ナイトヘッド”」

「モッシ!!」

 

突如、ヒトモシの小さい身体から漆黒の(とばり)が吹き上がった。それはヒトモシの体躯からは想像できない程の瘴気。“ナイトヘッド”はフィールドを覆いつくし、空すら塞ぎ、逃げ場のない闇と化した。

世界が夜に変わったかと錯覚する程の広範囲攻撃。ドーム状に広がった“ナイトヘッド”が一気にチゴラスに迫る。

 

あまりの攻撃に息を飲む客席。

 

それに対してジムリーダーであるザクロは冷静に状況を読み切っていた。

 

「チゴラス、これは目くらましです。“がんせきふうじ”」

「ギャオ!!」

 

チゴラスが放った“がんせきふうじ”はいともたやすく“ナイトヘッド”の夜霧を振り払った。

 

ヒトモシの能力ではこれほどの広範囲攻撃は本来無理だ。無理を通すためには何かを犠牲にするしかない。つまり、この“ナイトヘッド”は通常の攻撃よりもより薄く、威力が弱い。見た目が派手なだけのこけおどしだ。

 

だが、タクミにとってはその『こけおどし』こそが本命だった。

 

「……やはり隠れましたね……」

 

ザクロが呟く。

 

“ナイトヘッド”が消え、光が戻ったフィールドではヒトモシの姿が消えていた。

フィールドには大量の“がんせきふうじ”により、岩がいくつも転がっており、死角が多い。

“ナイトヘッド”は単なる目隠し。真の狙いはヒトモシの姿を隠し、位置を把握できないようにすることであった。

 

「チゴラス!匂いで追えますか?」

「ギャモ!」

「そんな暇は与えない!ヒトモシ!“おにび”!!」

「……モッシ……」

 

突如、あちこちの岩場の影から青い炎が浮かび上がった。

“ナイトヘッド”で隠れた際に仕込んだ“おにび”の群れだ。

 

それが一気にチゴラスに向けて迫った。

 

「チゴラス!岩を盾にして回避を!」

「ギャオ!」

 

四方八方から飛びこんでくる“おにび”を紙一重で躱すチゴラス。

 

その間にもヒトモシは岩場の影を縫うように接近し、その隙に死角に新たな“おにび”を仕込んでいく。

 

そして、十分に接近したヒトモシは岩の隙間からチゴラスを視界にとらえた。

 

最初に放った“おにび”が全て回避され、チゴラスがまた鼻を利かせようとする。

だが、既にヒトモシはチゴラスを射程内に収めていた。

 

「ヒトモシ、“サイコキネシス”!」

「モッシ……」

 

ヒトモシの腕から不可視のエネルギーが放たれ、チゴラスの身体を縛り上げた。

チゴラスの身体の動きが止まる。

 

「よっし!捕まえた!!」

 

思わず拳を握り込むタクミ。

 

だが、次の瞬間。

 

「ギャァァアアアオ!!」

「モッシ!?」

 

チゴラスが暴れたと思った刹那、チゴラスの身体を覆っていたサイコエネルギーが一瞬で吹き飛ばされた。

チゴラスは何かワザを使ったわけではない。純粋なパワーのみで拘束を打ち破ったのだ。

 

「なにっ!」

「侮ってもらっては困りますよ!チゴラス!2時方向の岩の裏です!!“ドラゴンテール”」

「ギャァァアオ!!」

「ヒトモシ!逃げろ!」

 

だが、タクミの指示が間に合うはずもない。

 

チゴラスはヒトモシが隠れていた岩を突き破り、その勢いのまま“ドラゴンテール”をヒトモシに叩きつけた。

 

「モシッ!!」

 

ヒトモシの真芯を捉えた一撃。

ヒトモシの頭の炎が消える程の衝撃。

間違いなく一撃必殺だ。

 

だが、タクミは『タダでやられるものか』と声を張り上げた。

 

「ヒトモシ!“おにび”!」

「……モッ……ッシ……!」

 

ヒトモシの意識が飛びそうになる一瞬。ヒトモシは最後の力を振り絞り、タクトを振るった。

岩場の裏に仕込んでいた“おにび”が浮かび上がる。

それは磁力に吸い寄せられるようにチゴラスに向けて殺到した。

 

「グギャッ!!」

 

青白い炎の“おにび”は自由自在な軌道を取れる代わりに熱量は低い。

派手に着弾はしたものの、チゴラスには大したダメージは入っていないだろう。

 

そのタクミの予想を裏切ることなく、“おにび”の火の粉が消えた後にはチゴラスがその強靭な足で大地に立っていた。

身体には火傷が残ってはいるものの、その戦意は健在だ。

 

「……モシ~……」

 

対してヒトモシは岩場に叩きつけられて目を回している。それを確認して審判がフラッグを上げる。

 

「ヒトモシ、戦闘不能!チゴラスの勝ち!!」

「戻れ、ヒトモシ!」

 

タクミはモンスターボールにヒトモシを戻す。

 

「ありがとな。ヒトモシ」

 

ダメージこそほとんど入れられなかったが、チゴラスに火傷を与えただけで十分だ。

これで少しはチゴラスの攻撃の勢いも落ちる。

 

だけど、“サイコキネシス”が一瞬で破られたのは想定外であった。

ヒトモシの“サイコキネシス”はタクミのパーティーの中でも上位のパワーを持っていた。

それはタクミのキバゴでも抵抗することが精一杯というレベルだった。

 

それをこのチゴラスは一瞬で打ち破った。

 

「流石、ジムリーダー……」

 

チャレンジャーに手持ち無制限のルールを提示してくるだけはある。

生半可なポケモンは最初からいない。

 

タクミは手の中の汗をズボンでぬぐう。

だが、何度掌をこすりつけても後から後から冷や汗が出てくる。

 

タクミの手持ちは既にダメージを負ったゴマゾウと【ドラゴンタイプ】のキバゴ。

 

チゴラスの底の見えないパワーを目の前にして一気に追い詰められたような気分だった。

その時、ふとタクミは自分の服の裾が引っ張られるのを感じた。

 

「………………」

 

クチートがタクミの服を引っ張っていた。

だが、それはクチートがタクミを呼んでいるわけではなかった。

 

クチートはバトルフィールドを凝視しながらタクミの服を強く掴んでいただけだった。おそらく、無意識で身体に力が入っているのだろう。

 

「クチート……」

「クチッ……」

 

クチートは服を引っ張りすぎていたことに気づいたのか、慌てた様子で手を離した。

 

「……お前やっぱり……バトルが怖いのか?」

「クチクチクチ!」

 

クチートは必死に首を横に振る。

 

「クチッ!クチッ!」

 

クチートは戦えることをアピールするかのように自分の顎をカチカチと鳴らした。

 

『いざとなれば私も出ます!』

 

そんな視線がタクミを見上げてくる。

 

タクミは一瞬、その誘惑に負けそうになった。

 

クチートは【はがねタイプ】と【フェアリータイプ】を併せ持つポケモン。

【いわタイプ】と【ドラゴンタイプ】のチゴラスにはあまりに有利だ。

 

クチートがバトルできれば勝利はグッと近くなる。

 

そんなことはわかっている。

 

タクミは息を大きく吐き出した。

 

「だけどさ……それじゃあ、ダメだよ……ダメなんだよ」

「クチ……」

 

タクミは手の汗を拭くのをやめ、次のモンスターボールを手に取った

 

「大丈夫だ、クチート。僕を信じろ!行くぞキバゴ」

「キバァ!!」

 

タクミが選んだのは同じ【ドラゴンタイプ】のキバゴであった。

キバゴはいつものスーパーヒーロー着地を決めて、ポーズを取る。

今日は観客席にカメラが回っているのでアピールもより大胆に決めてみせた。

 

そして、キバゴはタクミの方を振り向いた。

 

「キバッ!」

 

キラリンと自分のキバを光らせるキバゴ。そのあまりに見事な光っぷりにタクミは目を細めた。

おそらく太陽の位置から角度を見定めて光を綺麗にタクミの方向に反射させて見せたのだろう。

そういう計算だけは素早いキバゴである。

 

「クチ……」

 

呆気にとられるクチート。

苦笑するタクミ。

 

だが、そのキバゴの間抜けなカッコつけでクチートの毒気は抜けたし、タクミの追い詰められたような焦燥感も少しは緩和した。

 

「……ったく……どこまでわかってやってんのやら」

 

タクミは気を取り直してキバゴに戦闘態勢を取るように指示した。

 

「ほう、同じ【ドラゴンタイプ】ですか」

「はい。こいつがうちのエースです。そうは見えないかもしれませんけど」

「キバァァァ!!」

 

キバゴは自分の存在を強調するかのように吠える。

そんなキバゴに呼応するかのようにチゴラスも吠えた。

 

「キバァァァアアア!」

「ギャァァアアアア!」

 

同じ【ドラゴンタイプ】同士、大口を開け、あらんかぎりの声をあげてお互いを威嚇する。

そして、緊張がピークに高まったのを見計らったかのように審判の声があがった。

 

「試合開始!!」

「キバゴ!懐に飛び込むぞ!“ダブルチョップ”」

「キバァ!」

 

キバゴが岩の上を飛び跳ねてチゴラスまで接近する。

 

「チゴラス!迎え討ちます!“ドラゴンテール”」

「ギャァオ!」

 

チゴラスも負けじと岩の上を飛び移りながらキバゴめがけて突進してくる。

 

「キバァァア!」

「ギヤァオオ!」

 

両者がフィールドの中央で激突した。

【ドラゴンタイプ】同士の攻撃がぶつかりあった時の独特の黒色の火花が散る。

せめぎ合いは一瞬。両者は弾きあい、距離を取って向かいあった。

 

パワーは互角。

 

その事実にタクミは戦慄した。

 

火傷を負い、3戦目に入っているチゴラスと、完全な状態のキバゴが互角なのだ。

あのチゴラスがいかに強いかの証明だった。1対1の勝負では太刀打ちできなかったであろう。

 

「……ほんと、ヒトモシ様々だ……キバゴ!牽制する!岩を殴り飛ばせ!!」

「キバァ!」

 

キバゴは“ダブルチョップ”を纏い、ビール瓶を横薙ぎにするかのように岩を叩き割ってチゴラスに向けて吹き飛ばした。

 

「チゴラス!岩の後ろに逃げ込みなさい!」

「ギャオ!」

 

チゴラスは先程のヒトモシのバトルと同じように、岩を盾にした。

 

「キバゴ!チゴラスを釘付けにしろ!どんどん撃ち抜け!!まずは右の岩!!」

「キバキバキバ!!」

 

次々と岩を殴りつけ、散弾のように吹っ飛ばしていくキバゴ。度重なる攻撃にチゴラスの足が止まる。

 

「キバゴ!真正面の岩だ!特大のをかませ!」

「キィィィバァアァア!!」

 

キバゴは野球のバッターのように全体重を片足に乗せ、そのまま大きく一歩を踏み出した。

足腰のパワーを腕に乗せ一気に振り抜く。キバゴの“ダブルチョップ”は目の前にあった特大の岩石を粉々にして吹き飛ばした。

 

そのあまりの弾幕にチゴラスは岩の裏に身体を引っ込めざるおえなかった。

 

嵐が過ぎ去るのを待つチゴラス。

 

そして、岩が全て地面に落ち、一瞬の静寂が訪れる。

 

「チゴラス!下です!!」

 

ザクロの指示が飛んだ。

チゴラスが僅かに体を捻る。

 

一拍遅れて、チゴラスの真下からキバゴが飛び出した。

キバゴは“あなをほる”で真下からアッパーカットを叩き込もうとしていたのだ。

 

「キバッ!?」

 

渾身の打撃を外したキバゴ。

身体が伸びきり、無防備になっている胴体に向けチゴラスの攻撃が迫った。

 

「“ドラゴンテール”です!」

「ギャオ!」

 

チゴラスはその場でクイックターンを決め、尻尾を振り抜く。

キバゴもガードしようと動いていたが、あまりに距離が近すぎる。

 

絶体に間に合わない。

 

その時だった。

 

「ッ!!」

 

攻撃しようとしていたチゴラスの動きが一瞬鈍った。火傷の痛みだ。

それはコンマ数秒程度のわずかな隙。

 

だが、その僅かな時間が明暗を分けた。

 

「受け流せ!」

「キバッ!!」

 

キバゴは“ダブルチョップ”を“ドラゴンテール”に添わせるように振り切る。キバゴの身体が“ドラゴンテール”の上をコマのように回った。ダメージを最小限で済ませたキバゴは素早く受け身を取って着地し、地面を蹴った。

 

一足一撃の距離。

 

ここはキバゴの間合いだ。

 

「キバゴ!“ダブルチョップ”!!」

「キバァ!」

「チゴラス!ジャンプです!」

「ギャオ!」

 

迫るキバゴの一撃。上に飛んで間合いから外れようとするチゴラス。

チゴラスの強靭な両脚のジャンプ力は確かに見事だったが、この間合いで無傷で逃げられる程にキバゴの攻撃は鈍くはない。

 

キバゴの“ダブルチョップ”はチゴラスの脇腹を確かに貫いた。

 

「ギャォ……」

 

歯を食いしばり、間合いを取るチゴラス。

 

「キバゴ!逃がすな!追撃だ」

 

タクミの指示とほぼ同時にキバゴがチゴラスに突っ込む。

 

タクミには今の一発でわかったことがあった。

 

チゴラスのパワーは確かにキバゴを上回る。

だが、至近距離でインファイトならキバゴの方が速い。

間合いの内側に捉えれば手数の差で勝ちきれる。

 

タクミに見えた勝利のビジョン。

 

だが、ジムリーダーはその見通しを許す程甘くはなかった。

 

「チゴラス!そこです!“りゅうせいぐん”!」

 

“りゅうせいぐん”

 

そのワザの名を聞いた瞬間、タクミの背筋が凍った。

それは【ドラゴンタイプ】の中でもトップクラスの威力のワザだ。

 

「まずい!キバゴ!!」

 

キバゴはチゴラスを追うあまりに直線的な行動になっていた。

 

チゴラスはそのキバゴを真正面から睨みつけ、大口を開けた。

口の中に揺らめく青白い炎。【ドラゴンタイプ】のエネルギーの塊が隕石のように燃えている。

 

それは巨大な砲弾のように、放たれた。

 

まるで煌く星空のような色合いで、土砂降りの如く襲いかかってくる“りゅうせいぐん”

 

キバゴは咄嗟に両腕を眼前に構えたものの、その物量と威力に吹き飛ばされた。

 

「キバァァァ……ッ!!」

 

渇いた音がしてキバゴのキバが片方折れる。

 

「キバゴ!!大丈夫か!?」

「キッ、キバァ……」

 

片膝をつき、それでも親指を立てて『まだやれるぞ』とアピールするキバゴ。

だが、今のダメージは決して軽くない。

追加でもう一発でも攻撃を受ければ間違いなくダウンする。

 

「キバァッ……」

 

それでも、まだ立てる。

 

立てるということは戦えるということだ。

 

「キバァァア!!」

 

両脚で立ち上がり、吠えるキバゴ。

 

それを見て、ザクロは唇の端で笑う。

 

「まだ立ちますか」

 

余裕の笑みではない。

 

“りゅうせいぐん”は使うポケモンの消耗も激しく、使えば使う程に威力が落ちていくワザだ。

ザクロとしてもここ一番でしか使わない切り札だった。

 

それを使わされた上でキバゴのダウンを取れなかったのはザクロとしてもかなりの痛手であった。

 

キバゴはあの至近距離での攻撃にも関わらず、直撃しそうな“りゅうせいぐん”をいくつかを叩き落としていた。普通のところなら8発は“りゅうせいぐん”を浴びるというのに、キバゴがくらったのはせいぜい3発。

 

「とはいえ、【ドラゴンタイプ】相手ならそれでも十分なんですがね」

 

本当になぜ立っていられるのか不思議であった。

 

体力は最早限界だろう。足腰にも震えが来ている。既に表情を取り繕う余裕もない。

 

それなのに、キバゴの目は死んでいないのだ。

 

今のキバゴを支えているのはおそらく、純粋な気力。

つまり、単なる『ド根性』だけで立っている。

 

何がそこまでキバゴを駆り立てるのだろうか?

 

相対している【ドラゴンタイプ】への闘争心か、トレーナーと共に勝利を勝ち取らんとする執念か。

 

それとも……

 

ザクロはチラリとタクミの足元にいるクチートを視界の端にとらえた。

 

「エース……ですか……」

 

キバゴとチゴラスが睨み合ったまま円を描くように間合いを計る。

 

「キバァ……」

「ギャォ……」

 

お互いの間には“がんせきふうじ”で落とされた岩がまだいくつか残っており、直線的な攻撃はできない。

 

にらみ合いが続けば、消耗を重ね、火傷を負っているチゴラスに不利だ。

逆に言えばタクミは時間を稼ぎに徹してもいい。

 

もちろんそれはザクロにとっても百も承知であった。

 

「チゴラス!“ドラゴンテール”!」

「ギャオ!」

 

それは一瞬の出来事であった。

 

岩と岩の隙間。わずかにできた一本道を縫うように一気にチゴラスが間合いを詰めた。

 

「くっ、キバゴ!!迎え撃つぞ!前に出ろ!」

「キバァァ!!」

 

出遅れたキバゴは相手の攻撃を迎撃しようと腕を大きく振りかぶり、走り出す。

先制を許したことでチゴラスの方が加速が付いている。だが、キバゴも負けじとより強く、より足を深く踏み込んで加速していく。

 

お互い脇目も降らずにお互いに向けて突進していく。

最早、正面衝突を見据えたチキンレースだ。

2体のポケモンの足音が地鳴りのように響き渡る。

 

彼我の距離が残り数メートル。

 

「キィィィバァァァア!!」

 

攻撃の間合いに入る直前。キバゴが地面が抉れるほどの脚力で一気に突っ込んだ。

今までに見たことがないほどの加速で一気に懐に飛び込むつもりなのだ。

それは、キバゴの執念が限界を突破した瞬間だ。

 

だが……

 

「チゴラス!尻尾を地面に!!」

「ギャモ!!」

 

突如、チゴラスが“ドラゴンテール”を突然地面に突き立てた。

砂が舞い上がり、チゴラスの突進が止まる。

 

「キバッ!?」

「しまった!」

 

チゴラスの突進はフェイント。

タイミングをズラされ、キバゴの踏み込みが届かない。

勢いは行き場をなくし、キバゴの足がたたらを踏み、身体がよれる。

キバゴは無防備な姿のまま、チゴラスの目の前に投げ出された。

 

「そこですチゴラス!“りゅうせいぐん”!!」

「ギャァァアアモォ!!」

 

超至近距離から放たれる“りゅうせいぐん”。

多少の防御などものともしない高威力の【ドラゴンタイプ】の攻撃がキバゴに突き刺さった。

 

「キバゴ!!」

 

黒い火花が飛び散り、紫煙が上がる。

 

その戦塵の中からキバゴが再び飛び出してくることはなかった。

 

「キバァ…………」

 

フィールドに横たわるキバゴを審判が確認し、フラッグが上がる。

 

「キバゴ!戦闘不能!チゴラスの勝ち!」

「……くっ……」

 

これで遂にタクミには後がなくなった。

 

キバゴを戻し、最後のモンスターボールを取り出すタクミ。

 

残るはゴマゾウのみ。

 

「……………」

 

真剣な顔でゴマゾウのモンスターボールを額に当てるタクミ。

祈るような、覚悟を決めるようなタクミの姿。

 

泣いても笑ってもこれが最後のバトル。

 

ジム戦もいよいよ最終局面であった。

 

そして、タクミは託すようにモンスターボールをフィールドに投げ込んだ。

 

「行け!ゴマゾウ!」

「パオパオ!!」

 

傷を負いながらも、まるで初登場のように跳ねてみせるゴマゾウ。

 

ただの強がりだ。

 

だが、最高の強がりだった。

 

その姿に応えるようにタクミは唇の端で笑ってみせた。

 

「…………」

 

だが、この状況下。

 

誰しもが視線を向けてしまう存在がある。

 

ザクロも、審判も、そしてジムの門下生達もその存在を無視はできない。

 

「…………クチ……」

 

クチートの身体が一際強く震えた。

 

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