ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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初バトルの味はなに?

目を輝かせながらバトルフィールドに立つタクミとミネジュン。

ケロマツとキバゴも『いつでもかかって来い』とでも言いたげに気力を漲らせていた。

キバゴはどっしりと両足を構える戦闘態勢。対するケロマツは常に足を動かして、軽快なフットワークを見せつけていた。

 

「キバゴ!初バトルだ!気合い入れて行くよ!」

「キバァ!!」

「ケロマツ!いつでも行けるな!行けるよな!ここで行けなきゃ嘘だぞ!」

「ケロッ!」

 

両者、ポケモンと共に気合い十分。

そして、バトルフィールド備え付けの自動審判プログラムが起動した。

フィールドをスキャンし、ポケモンを認識する。

 

「ケロマツVSキバゴ、バトル承認!バトル承認!」

 

バトルフィールド周囲にバリアが構築され、ポケモンのワザが周囲に影響を与えないようになる。

タクミとミネジュンのバトルを前に、バトルフィールドの周りには少なくないギャラリーが集まり出していた。

 

「おっ、ずいぶんと初々しい感じのトレーナーだな」

「なんだよ、雑魚同士の戦いじゃねぇか」

「二人共頑張れー!」

 

多種多様な声援に囲まれて、バトルフィールドに立つ二人は更にヒートアップしていく。

 

「制限時間10分!バトル開始!!」

 

機械的な定型文と同時にバトル開始のゴングが鳴る。二人の少年は腹の奥から湧き上がる熱量のまま動きだした。

 

先に仕掛けたのはミネジュンだった。

 

「ケロマツ!速攻で行くぞ!“でんこうせっか”!」

「ケロケーッロ!」

 

軽快なフットワークから急加速の突進。

一直線に突っ込んできたケロマツの攻撃はキバゴの腹部にクリーンヒットした。

 

「キバッ!」

 

吹き飛ばされるキバゴ。だが、キバゴはなんとか受け身を取りつつ立ち上がった。

 

「キバゴ!大丈夫!?」

「キバキバァ!」

「ケロマツ、畳み掛けるぞ!“はたく”で追い詰めろ!」

「ケロケロ!」

 

ミネジュンはキバゴに体勢を立て直す時間は与えまいと、更に接近戦を仕掛ける。

キバゴの真正面にケロマツが飛び込む。

 

「ケーロッ!」

 

そのスピードを乗せたケロマツの渾身の“はたく”がキバゴの頬を打ちのめした。

 

「キバゴ!距離を取って!」

「させるか!食らいつけ!ケロマツ!とことんまで追い詰めろ!」

「ケロケロッ!」

 

キバゴはなんとか後方に逃れようとするも、ケロマツがそれを許さない。キバゴが一歩下がれば二歩前に出る。三歩下がれば五歩突進してくる。

 

初バトルとは思えない積極的攻撃姿勢。

 

だが、それ以上に特筆すべきはそのスピードだった。

ケロマツは軽いフットワークからの素早い踏み込みで、確実にキバゴの懐に潜り込んでくる。

キバゴは最初の一発以降はなんとかガードできているものの、一方的なことには変わりない。

 

このままでは何もできずに負けてしまうと思ったタクミは意を決してキバゴに呼びかけた。

 

「キバゴ!受けてちゃダメだ!仕掛けるよ!」

「キバッ!」

 

キバゴは『待ってたぜ!』とでも言わんばかりに口元で笑った。研ぎ澄ましたキバゴの爪が照明の光を反射して輝いていた。

タクミはケロマツの“はたく”のタイミングを計る。ケロマツは無理に前に出てくるせいで、動きが単調になっていた。

 

「行け行けケロマツ!押せ押せ押せ!」

「ケロッ!ケロッ!ケロッ!」

 

キバゴはケロマツの攻撃を防ぎながら、タクミの声に集中する。

そして、ケロマツが深く踏み込んできた瞬間だった。

 

「今!!」

「キバッ!」

 

ケロマツの大振りの攻撃をかいくぐり、キバゴの爪が光る。

前のめりになっていたケロマツの腹部にキバゴの”ひっかく”の一撃が突き刺さった。

 

「ケロッ!」

 

狙い澄ました一発。キバゴはまだ幼いながらも【ドラゴンタイプ】のポケモンだ。その身に宿るのは圧倒的破壊力に育つ種である。ケロマツに比べて10kg近く重い体躯から繰り出された”ひっかく“。そのクリーンヒットを受けたケロマツはフィールドの反対側まで吹き飛ばされた。

 

「キバゴ!今だ!もう一度・・・」

 

追撃をかけようとしたタクミだが、ミネジュンは次の行動も早かった。

 

「ケロマツ!“あわ“で近寄らせるな!」

「ケロ!」

 

飛び起きたケロマツがフィールド全域に”あわ“の弾幕を張り巡らせた。

 

「キバゴ!ストップ!」

 

フィールドに舞う”あわ“の壁。照明が反射して虹色に輝く幻想的な世界を構築する。だが、その”あわ“の一つ一つは触れれば弾ける【みずタイプ】の小さな爆弾である。“あわ”で満たされるフィールドを前にしてタクミはキバゴの足を止めた。その判断は一見正しかったようにも見える。しかし、それはケロマツの新たな攻撃の的になることを意味していた。

 

「ケロマツ!もう一回近づけ!」

「ケロッ!」

 

ケロマツが“あわ”の隙間を縫って突っ込んでくる。周囲の“あわ”の表面にケロマツの顔が反射した。

 

「キバゴ!もう一度だ!カウンターで“ひっかく”を差し込む!」

「キバッ!」

 

キバゴは再び攻防一体の腰を据えた構えを取る。タクミはケロマツの攻撃のリズムを既に掴んでいた。

相手の攻撃タイミングを狙うことはそう難しいことではないはずだった。

 

「キバゴ・・・・今だ!“ひっかく”!」

 

タクミの指示はケロマツの出鼻を叩き落とす最高の瞬間だった。

だが、それは“はたく”を想定した攻撃であることが前提なのである。

 

「ケロマツ!“したでなめる”!」

「えっ!」

 

ケロマツから飛んできたのは“はたく”の掌ではなく、ケロマツ特有の長い舌だった。

“はたく”よりも素早い攻撃にケロマツの先制を許してしまう。キバゴの頬が舌で舐められ、キバゴの背筋に怖気が走る。

だが、その程度で止まるキバゴではない。キバゴはタクミの指示に従い、腕を振り抜いた。

 

それは確実にケロマツをとらえたはずだった。

 

「キ、キババッ・・・」

 

だが、キバゴの“ひっかく”はケロマツの体をすり抜けるかのようにして外れてしまう。

 

「よしっ!ケロマツ!“あわ”を打ち込め!」

「ケロロッ!」

 

大振りの攻撃を外され、体勢を崩したキバゴに至近距離から“あわ”攻撃がヒットする。無数の【みずタイプ】の攻撃を受け、キバゴはたまらず吹き飛ばされた。

 

「いよっしゃぁぁ!ケロマツ!決まったぜ!」

「ケロケロケローッ!」

 

拳を振り上げるケロマツとミネジュンを見て、タクミはまんまとミネジュンの作戦にはまってしまったのを悟った。

 

「そうか・・・【へんげんじざい】か・・・」

 

それはケロマツの特性の一つである。繰り出したワザのタイプに自らのタイプを変化させる特性。

ケロマツは”ひっかく“を受ける直前に【ゴーストタイプ】である“したでなめる”を使うことで、自らを【ゴーストタイプ】に変化させたのだ。そのせいで【ノーマルタイプ】のワザである”ひっかく“は外されてしまった。

 

「へへぇん!どうだタクミ!俺のケロマツ、スゲェだろ!」

 

フィールドの反対側でガッツポーズをするミネジュン。タクミの胸の奥に悔しさがこみ上げてくる。

 

確かにミネジュンもケロマツもすごい。スピードはキバゴより遥かに上だし、特性を利用した作戦も見事だった。

けど、うちのキバゴだって、ミネジュン達に負けないものを持っている。

 

「・・・キバゴ!まだいける!?」

「キバァ!!」

 

キバゴの張りのある声が響いた。キバゴは少し傷ついた身体ながらも危なげなくフィールドに立ち上がる。

 

「キバァァァァアァアア!」

 

キバゴが放つ鬨の声がフィールドに解き放たれる。

ど根性を体現した姿にギャラリーから歓声と拍手があがる。

そんな周囲の盛り上がりを他所にミネジュンは驚いたように目を見張っていた。

 

「すげぇな・・・まだ立つのかよ」

「僕のキバゴを舐めてもらっちゃ困るよ!こいつの粘り強さに何度うちの一家が降参したと思ってるのさ!!」

 

特に何か一つのことに決めた時のキバゴの粘りは半端ではない。タクミはキバゴが諦めて凹む姿を今まで一度だって見たことが無かった。

 

「だったら先制だ!ケロマツ!“でんこうせっか”!」

「真正面からだ!“ひっかく”で打ち返せ!」

 

ケロマツとキバゴがぶつかり合い、弾かれる。キバゴとケロマツはわずかな距離を取って睨み合う。

しかし、それも一瞬。常に先手を取ってきたミネジュンはここでも先に動いた。

 

「行け!ケロマツ!」

 

タクミはミネジュンの次の行動に全神経を集中した。

 

どんなに頑張っても、キバゴはケロマツにスピードでは敵わない。だったら、それを逆に利用してやる。

必ず先制してくるつもりなら、こっちは『後出しジャンケン』を仕掛けるまでだ。

 

「“したでなめる”!」

 

ケロマツの器用な舌が伸び、キバゴのガードをすり抜けてその顔を舐めあげる。

その瞬間こそ、タクミが待ち望んだ瞬間だった。

 

「キバゴ!」

 

“したでなめる”の威力は低い。キバゴであればその攻撃を受けてでも有効打が放てる。

そして、今のケロマツは【ゴーストタイプ】である。ならば、叩きつけるワザは決まっていた。

 

「“ダメおし”」

「キバァ!!」

 

キバゴの掌が黒く光る。ケロマツがワザを放った直後のわずかな隙。そこにキバゴの掌が直撃した。

 

「ケロッ!」

 

盛大に吹き飛ばされるケロマツ。

 

「ケロマツ!ケロマツ!」

「ケ、ケロロ・・・」

 

【ゴーストタイプ】に効果抜群の【あくタイプ】の技“ダメおし”。しかも、キバゴの全体重が乗った有効打だ。

 

キバゴが今までにケロマツに打ち込んだ攻撃はたった二発。だが、もとより体力の低いケロマツにとっては一発一発が非常に重い。

 

ケロマツはガクつく両足でなんとか立ち上がった。

 

「ケロマツ!まだ行けるな!」

「・・・ケロロ!」

 

意を込めて、構えをとるケロマツ。その身は体力を削られて小刻みに震えてはいたが、ケロマツの戦意はまだ折れちゃいない。

 

「キバ・・・キバァ・・・・」

 

それに対するキバゴも息があがっている。キバゴも度重なる攻撃に晒されて限界が近い。

 

「キバゴ!次で決める!」

「キバッ!」

 

爪を構えるキバゴ。

ひりつくような緊張感。

 

お互いが次の一撃が最後の攻撃になることを悟っていた。

 

バトルフィールドの中で揺れる“あわ”が弾けて消えた。

 

「“でんこうせっか”!」

「“ひっかく”!」

 

ケロマツの素早い突撃。真正面から爪を差し込むキバゴ。

 

両者がフィールドの中心で激突する。衝撃波がそよ風となってトレーナーの顔を打つ。

2匹のポケモンはお互いの攻撃をその身に受け、そのまま静止した。

お互いを支えるように立つケロマツとキバゴ。

 

そして、不意にキバゴの身体が崩れ落ちた。

 

フィールドに横たわるキバゴ。ケロマツはそれを見下ろしながら数歩後退。キバゴはもう動き出すことはできなかった。

 

試合終了のブザーがなり、審判ロボが勝敗を宣言する。

 

「キバゴ戦闘不能!ケロマツの勝ち!!」

 

バトルフィールドに貼られていたバリアが解除され、周囲から拍手が降り注ぐ。

それを浴びながらミネジュンが拳を握りしめてガッツポーズを決めていた。

 

「くぅーーーー!いよっしゃぁああ!!」

 

ケロマツもまた彼と全く同じポーズをとりながら、感情を爆発させていた。

 

「ケロケロォ!」

 

ケロマツがミネジュンのもとへ走り寄り、ハイタッチをかわす。

抱き合って喜ぶミネジュン達。

 

タクミはそんな彼らには目もくれず、すぐさまキバゴへと駆け寄っていた。

 

「キバゴ!」

「キバ・・・バ・・・・」

 

力尽き、目を回しているキバゴを抱き上げる。腕にかかるキバゴの体重が今日はやたらと重く感じた。

 

「キバ・・・」

 

腕の中で目を開けたキバゴは申し訳そうな顔をしながらも、無事を伝えるかのように小さく頷いた。

 

「キバゴ・・・ごめんね。負けちゃった」

「キバ・・・」

 

初バトル、初敗北。タクミの胸を悔しさが包み込む。

キバゴの小さな手がタクミの頰に触れる。

 

『次は勝とう』

 

そんな声が聞こえた気がした。

タクミは目に滲みかけた涙を手の甲で拭い、キバゴの手を握り返した。

 

「2人とも!ナイスバトルだったぞ!」

「キバゴもケロマツもよく頑張った!」

 

周囲からの拍手を受け、タクミはようやく過剰な程のギャラリーが周囲にいることに気がついた。

 

「あ・・・」

 

予想以上の人間に見られていることに驚き、タクミは急いでもう一度目元を擦る。

 

「おい!バトルが終わったトレーナーは握手するもんだぞ!」

「あ、そうだった」

 

少し偉そうな態度の青年にそう言われ、タクミは慌ててミネジュンへと目を向けた。

ミネジュンもまた「忘れてた」と呟いてタクミへと駆け寄ってくる。

 

「タクミ、ナイスバトルだった」

「うん・・・ナイスバトル!」

 

悔しさに烟る気持ちを振り払い、握手を交わす。

 

「けど、“ダメおし”かぁ!キバゴって【あくタイプ】の技覚えるなんて知らなかった!」

「まぁ、隠し球って程じゃないけどね。でも、【へんげんじざい】・・・厄介な特性だね」

「だろだろ?俺はまだまだ一杯戦い方考えてんだぜ!次はもっともっと面白いバトルにしてみせるからな!」

「ケロロ!」

 

ケロマツと一緒に意気込むミネジュン。

その時、フィールドの外からマサ先生がタクミ達を呼んだ。

 

「おーい、2人とも。終わったならすぐに移動だ。もうすぐ出発だぞ!」

 

タクミとミネジュンは勢いよく返事をし、自分のポケモンをボールに戻した。

 

「ミネジュン」

「ん?なんだ?」

「次は負けないからね!」

 

タクミがそう言うと、ミネジュンは顔全体でニカッと笑った。

 

「おうともさ!でも、俺だって負けるつもりはねぇぞ!」

 

ミネジュンが拳を突き出し、タクミも自分の拳をぶつける。

骨同士がぶつかる痛みが拳に響いた。

 

2人でヘラヘラと笑いながら、タクミとミネジュンはマサ先生の元へと急いだのだった。

 

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