ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて 作:からんBit
クチートの心臓が脈を打つ。
――――――――――ドクン――――――――――
それは聞きなれた心臓の音のはずだった。
――――――――ドクン、ドクン――――――――
自分の心臓の音。
暗闇の中で生きていた頃はその音ばかりがやけに耳に響いていた。
だが、その鼓動だけが自分が生きている証明でもあった。
だが、今やその音がとてつもなく自分を追い詰めようとしてくる。
――――――ドクン、ドクン、ドクン――――――
「チャレンジャーは本当にこのままあのクチートを出さないつもりでしょうか?」
「いや、それはさすがにないんじゃないか。あまりに相性有利だし」
「でも、最初に『このクチートは出さない』って……」
「心理戦だった可能性もありますよ。前にもいたじゃないですか、バトルで使用するポケモンを4体って言って最終的に6体使ってきたチャレンジャーとか」
「うーん……チャレンジャーはピンチだし。出さない理由はないと思うんですけどね」
――――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――――
無意味な程に研ぎ澄まされた第六感がいくつもの声と視線を拾ってくる。
自分を見つめる目、自分に期待する声。
そして、何よりもクチート本人が、自分の存在価値をわかりすぎる程にわかっていた。
――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――
相手は【ドラゴンタイプ】と【いわタイプ】。
しかも、消耗している相手だ。万全の状態の自分が出れば、勝ちの目は高い。
自分が出なければいけない。自分が活躍しなければいけない。
私は……私は……私は……戦わなければならない。
戦って、証明しなければならい。
自分の存在価値を
自分がマスターに付き従っている意味を
自分が『使える』ポケモンであることを
今は絶好のチャンスなのだ。絶対に勝てるバトルなのだ。
だけど……もし……負けたら……
『ったく、使えねぇな』
クチートの脳裏に冷たく、乾いた声音がよみがえる。
「クチ……クチ……クチ……」
過呼吸になりつつあるクチート。
手足が震えていた。全身が恐怖に強張っていた。
クチートはそんな自分を叱咤するように自分の顎で自分の足に嚙みついた。
ザクリと深く牙が体に食い込んだ。
喝を入れるだけにしては明らかな過剰な一撃。
それなのに、クチートは痛みを感じなかった。
だが、震えが止まった。
今のクチートにはそれだけで十分だった。
「ク、クチッ!」
クチートは意を決するようにタクミの服の裾に手をかけようとした。
その時だった。
「試合開始!!」
審判の宣言がなされて、ジム戦が再開される。
「ゴマゾウ!“ころがる”だ!」
「チゴラス!加速が乗る前に叩きます!“ドラゴンテール”」
バトルフィールドから地鳴りのような轟きが聞こえる。
ゴマゾウとチゴラスとの激突が空気すら震わせてクチートのところまで届いてくる。
「くそっ!ゴマゾウ!体制を立て直せ!!」
「させませんよ!“がんせきふうじ”」
「……これ以上はまずい……ゴマゾウ!!突っ込め!“がんせきふうじ”を撃たせるな!!」
ゴマゾウがチゴラスに突っ込んでいく。
だが、その直後にチゴラスがワザを放つための体勢を変えた。
「かかりましたね!“ドラゴンテール”!」
ゴマゾウのくぐもった声がフィールドに響き渡る。
「ゴマゾウ!大丈夫か!?」
「勝負を焦りましたね。これ以上ゴマゾウが走るスペースを減らされては困る。だから、“がんせきふうじ”を仕掛けようとすれば、決着をつけに来ることは予想できていました」
「くそっ……ダメか……ダメなのか……」
タクミの食いしばった口の隙間からそんな声が漏れる。
いよいよ後がなくなってきた。
クチートは再び震えはじめた自分の足を叩く。
「クチッ!クチッ!」
今、動かなければ、動かなければいけないのだ。
そうじゃなければ、私は、なんのために、なんのためにここにいるんだ!
もう、この震える手ではタクミの注意を引くには足りない
クチートは自分の顎を持ち上げる。
大きな牙をむき出しにして、タクミの腕へと噛み付いた。
「ゴマ……うわっと!クチート!?どうしたんだ!?」
ゴマゾウに指示を出そうとしていたタクミの意識がバトルから切れる。
「パオ?」
指示が途中で止まり、ゴマゾウも思わずタクミを振り返ってしまう。
張りつめていたバトルの空気がその一瞬で途切れた。
タクミとゴマゾウの高まっていた集中力も一気に霧散してしまう。
それは、真剣勝負の場ではあまりにも大きな隙だった。
唯一幸運だったのはその緊張感の喪失がジムリーダーにまで及んだことだろう。
「ギャモ?」
「タクミくん?どうしました?」
「す、すみません。ちょっと待ってください……クチート、どうしたんだ?」
審判もまたこの状況に困惑しているのか、バトルを中断すべきかどうか悩んでいるようであった。
タクミは申し訳なさそうに皆に頭を下げ、クチートを見下ろした。
日の光を受けて影になるタクミの顔。
そのタクミを見上げ、クチートは声を張り上げようとした。
自分がバトルに出ると、自分が勝ってみせると
そう訴えかけようとした。
「ッ…………!!」
クチートの動きが止まる。
「やっぱり、クチートがバトルに出てきそうですね」
「あんまり褒められた状況じゃないけど。まぁ、やっぱり順当だな」
「ザクロさんの状況はこれで俄然厳しくなりましたね」
「あのクチートはメガシンカはできなさそうだけど、どんなバトルを見せてくれるのか」
クチートの身体に突き刺さる視線と声。
期待の目、期待の声。
それが失望に変わる瞬間の冷たい痛みが幻痛のようにクチートを貫いた。
そんなクチートの耳にタクミの声音でとあるセリフが再生された。
『ったく、使えねぇな』
もちろん、タクミはそんな言葉は一言も発していない。
だけど、クチートの耳にはそんな声が聞こえてしまったのだ。
――ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――
クチートの心臓が早鐘のように胸を打ち続ける。
「ッ………!!ッ………!!ッ………!!」
呼吸の仕方を忘れてしまったかのようにクチートの喉が詰まる。
「クチート?どうした?クチート!!」
「パオ?パオパオ!!」
クチートの左眼の瞳孔が開いていく。
だが、その目には何も見えていない。
クチートの視界には何もなかった。
タクミの姿は影に消えた。タクミの声は心音がかき消した。
今のクチートに見えているのは過去幾度となく繰り返し、打ちのめされてきたバトルの記憶だけ。
大きな炎、鋭いツメ、強烈な拳。
過去の恐怖に飲み込まれ、トラウマに呑まれたクチートの目は夢の中を漂うかのように揺れる。
「クチート!!」
世界を震わせるようなタクミの強い声がした。
一瞬で意識を現実に引き戻されたクチート。
クチートの目に映ったのはタクミの黒く、大きな影。
周囲にあるのは幾度となくトラウマを刻み込まれたバトルフィールド。
それは、クチートに自分がバトルの最中であるかのような錯覚を与えるには十分だった。
潰れたはずの右眼から涙が溢れ落ちた。
「ッ…………!!」
耐えられるはずがなかった。
心が耐えられるわけがなかった。
クチートは遮二無二に逃げ出した。
目を閉じ、耳を塞ぎ、手負いの獣のように走り出す。
だが、忘れてはならない。
ここは岩山の天辺に作られたバトルフィールドなのだ。
「クチート!!待て!!行くな!!」
タクミはすぐさま後を追う。
大事なジム戦であることも完全に頭から抜け落ち、トレーナーサークルから飛び出してクチートを追いかける。
だが、バトルフィールドの断崖まで距離にして10メートルもない。
先に飛び出したクチートに追いつけるわけがない。
「クチートォォ!止まれぇぇぇ!!」
タクミは喉が枯れそうな程に叫ぶ。
だが、クチートには届かない。
「クチートォ!!」
クチートが崖から飛び出すまで数秒も残ってない。
人間の足では間に合わない。
そして、クチートの足が崖の外へと踏み出した。
「クチッ!」
クチートの身体が傾き、落下し、崖下へと消える。
「クチートォォ!!」
手を伸ばしても届かない。
その時
タクミの脇を水色の球体が駆け抜けた。
「パォォォォン!!」
“ころがる”の勢いに乗ったゴマゾウがフィールドを一呼吸で横切った。
地面が焼け焦げる程の加速の乗ったゴマゾウが崖から飛び出す。
「パァオォオオオオン!!」
間一髪だった。
ゴマゾウの鼻先がクチートの足に絡みついた。
だが、勢い余ったゴマゾウもまた崖から飛び出している。
クチートと一緒に落ちていくゴマゾウ。
「ゴマゾォォ!!」
だが、ゴマゾウがその身で稼いだ数十センチの距離が生死を分けた。
崖の端からヘッドスライディングで飛びついたタクミの手がゴマゾウの後ろ足を掴んだのだった。
「ぐぐぐ……ゴマゾウ!大丈夫か!?」
「パオン!」
クチートを鼻でしっかりと引き寄せたゴマゾウは比較的元気な声で返事をする。
そのことに安堵の息を漏らしたタクミは背筋を使いながらゴマゾウを引っ張り上げた。
「ふぅ……助かった。ありがとうゴマゾウ」
「パオパオ……」
ゴマゾウもクチートも無事だ。
だが、それは怪我が無かったというだけのこと。
真の問題は解決したわけではなかった。
「クチ……クチ……」
クチートは自分のしでかしたことを悟ったのか、痛々しいまでのか細い声でタクミの胸元に縋り付いてきていた。
『ごめんなさい』という謝罪
『もうしませんから』という涙声
『だからどうか捨てないでください』という悲痛な叫び
それらが否応なしに聴こえてくる。
「……クチート……お前……」
「パオ……」
タクミがクチートの体を支えるように抱き、ゴマゾウが慰めるようにクチートの頭に鼻先を乗せる。
タクミは自分の見立てが甘かったことを痛感していた、
タクミは伝わってると思っていた。
自分がクチートに期待する役割をクチートも理解してくれているものと思っていた。
だが、クチートとはまだ出会ったばかりなのだ。
既に一心同体のキバゴとは違う。
色々と達観しているフシギダネとも違う。
性根が大らかなヒトモシとも違う。
少し能天気なゴマゾウとも違う。
責任感が強くて、抱え込みやすくて、真面目すぎるほどに真面目で酷く臆病なクチートなのだ。
「クチート……ごめんな」
「クチ!クチ!」
首を横に振るクチート。
まるで自分が全面的に悪いのだと訴えているようだった。
「パオン……」
タクミがいくら頭を撫でても声をかけてもやはりクチートは首を振り続ける。
ゴマゾウも同じように何度も声をかけ、頭を撫でてくれたが、クチートは泣き続けるばかり。
今のクチートには下手な慰めも、優しい言葉も届かない。
「…………」
「…………」
タクミとゴマゾウの目が合う。
「パオン!」
ゴマゾウが何かを決意したように小さく頷いた。
それに応えるようにタクミも頷く。
今の自分達がクチートの為にしてあげられることはたった一つなのだとタクミもゴマゾウもハッキリと理解した。
タクミはクチートを胸元に抱えたまま立ち上がり、トレーナーサークルへと戻っていく。
目に強い光を宿したゴマゾウもまた、バトルフィールドへと戻っていく。
「クチート……お前をバトルに出さないのはお前が『使えない』からじゃない」
タクミは諭すようにそう言った。
ジムリーダーであるザクロはトレーナーサークルを飛び出して心配そうにこちらに駆け寄ってくれていた。
門下生や審判もクチートを心配して集まってきてくれている。
タクミは彼等に無事を伝え、バトルを再開してくれるよう頭を下げた。
「よろしいのですか?後日仕切り直しても私は構いませんよ」
「いえ、このまま継続させてください。お願いします」
確かに時間を置けばクチートの心の傷も少しは癒えてくれるかもしれない。
そうすればジム戦でのバトルも望めるかもしれない。
でも、それではダメなのだ。
タクミは今この場で証明しなければならければならないのだ。
その強い意志を宿した瞳を受け、ザクロはを笑顔で頷いた。
「わかりました。そこまで言うのなら続けましょう」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げたタクミ。
試合が再開され、タクミとザクロは再びトレーナーサークルの中で向かい合う。
タクミはもう一度クチートに声をかけた。
「クチート、もう一度言うぞ……お前はここで見ていろ」
「……クチ……」
「お前の仲間は……僕の仲間は……僕達の仲間はこんなところで負けやしない!」
「試合再開!」
審判の掛け声と同時にゴマゾウが丸まって駆け出す。
フィールドの岩の間を抜け、一気にチゴラスに迫ろうとする。
「ゴマゾウ!一気に飛び込め!“ころがる”だ!」
「させませんよ!チゴラス “がんせきふうじ” です!」
彼我の距離は数メートル。
ゴマゾウの加速が乗れば “がんせきふうじ” が放たれる前に攻撃が届く。
“がんせきふうじ”を止められる。
だが、それはザクロも百も承知の事柄だ。チゴラスは “がんせきふうじ” の初動に入りつつも、すぐさまワザをキャンセルし、近接格闘戦に移行できるように準備をしていた。接近してきたゴマゾウをパワーでねじ伏せるつもりだ。
タクミもそれは読んでいた。タクミは相手が近接戦闘に体勢を変える瞬間を見極める為に全神経を集中していた。
だが、このフィールド内でただ1人だけ。
それぞれの思惑を全て無視し、行動している者がいた。
それはゴマゾウ本人だ。
「パオォォン!」
チゴラスへと突っ込むかに見えたゴマゾウ。チゴラスまで残り3メートルという距離。
その時、ゴマゾウは突然跳ね上がり、空中に身を躍らせたのだ。
「ギャモ!?」
「なにっ!?」
「えっ!?ゴマゾウ!?」
それはタクミでさえも予想外の行動であった。
空中では当然加速はできない。回転は死に、失速し、四肢を宙に広げたゴマゾウは完全に無防備になった。
これでは “がんせきふうじ” の的だ。
その時だった。
「っ!」
タクミの目を鋭い光が貫いた。
真上の太陽から差し込んだ光が一瞬ゴマゾウの体で煌めいたのだ。
「えっ……」
宙にいるゴマゾウが何かを身に纏っていた。
ゴマゾウの周囲から靄のように冷気が流れ出す。
その身体に浮かんでいたのは白い礫のような氷の欠片。
「パァァアオォオオオオ!」
ゴマゾウの身体からその礫が目にも止まらぬ速度で放たれた。
そのあまりの速度に見ている側からは白いレーザー光線のような軌跡しか捉えられない。
銃弾のような氷の欠片が次々とチゴラスに突き刺さり、動きを完全に止める。
「ギャ、ギャモォォ!」
「チゴラス!」
そのワザをタクミは知識では知っていた。だが、知っていただけでゴマゾウが使えるなんて思ってもみなかった。なにせ、このゴマゾウはタクミと出会ってから今まで “ころがる” しか使ってこなかったのだ。
こんなワザが仕えるなんてタクミには知る由もなかった。
「…… “こおりのつぶて” ……」
氷を放ち終え、着地したゴマゾウは欲求不満を示すように地面を足で掻き、タクミを左眼だけで振り返った。タクミだけを真っ直ぐに見据えた鋭い目。
『走ることこそ信条の俺が足を止めるワザを放つ』
『その意味を履き違えてくれるなよ』
そんな視線を受け、タクミは自分の背に鳥肌が走り抜けた気がした。
「………ゴマゾウ……わかった……お前の覚悟!確かに受け取った!」
歯を食いしばるようにそう叫んだタクミにゴマゾウはニヤリと笑う。
ゴマゾウは一瞬だけクチートに優しい視線を向け、前を向いた。
「ゴマゾウ!回り込むぞ!右側のコースを抜けろ!l
「パオン」
ゴマゾウは再び丸くなって転がっていく。だが、その加速は普段よりも格段に遅く、いつでも “こおりのつぶて” を放てる体勢であった。
「くっ、ゴマゾウにこんな隠し球があったとは!チゴラス射線を切るんだ!岩をばら撒け! “がんせきふうじ” !」
「ギャモ!」
チゴラスの周囲に無数の岩が浮かび上がる。
「まぁ、そう来るよな。だけど……そろそろのはずなんだよ……ゴマゾウ!そこで止まれ!」
「パオ?」
ゴマゾウが止まった場所は多くの岩に囲まれたポイントであった。当然、チゴラスまでの射線は通らない。
一見すれば、“がんせきふうじ”から身を隠す位置のようにも見えるが、その位置はタクミが最初から狙っていた場所であった。
いや、正確には『フシギダネが戦闘不能になった後』から狙っていた場所だった。
「まだか……まだか……」
「隠れても無駄です!チゴラス“がんせきふうじ”」
「ギャァァモォォ!」
“がんせきふうじ”が降りそいでくる。
それとほぼ同時にフィールドに変化が起こった。
ゴマゾウとチゴラスの間にあった岩の下からピョコンと小さな植物の芽が生えたのだ。
「そこだ!ゴマゾウ!!真っすぐ突っ込め!!」
「パオン!!!」
ゴマゾウは何かを悟ったかのように目の前の岩に向かって直進する。
頭上からは“がんせきふうじ”が迫る。目の前には岩の壁が立ちふさがる。
一見、無謀な突撃にしか見えない。
だが、次の瞬間だった。
ゴマゾウの目の前の岩が植物によって持ち上げられた。
ゴマゾウはその岩の下に滑り込み、“がんせきふうじ”を回避する。
「えっ!!!」
それは最初のフシギダネ戦から仕込んでいた“タネ”
フシギダネがやられる直前に放った“やどりぎのたね”が今になって成長を遂げたのだった。
岩を持ち上げるように成長した“やどりぎのたね”。岩の下に新たな走行ルートが現れる。
ゴマゾウとチゴラスの間を遮るものはもう何もなかった。
「ゴマゾウ!“こおりのつぶて”!!」
「パァァオオオ!!」
「チゴラス!ガードです!」
「ギャモ!!」
ゴマゾウの体に浮かび上がった氷の欠片が凄まじい連射速度で放たれ、次々とチゴラスへと襲い掛かっていく。
「いけぇぇええええええ!!」
「パァオォオオオオオオ!!」
全身全霊をもって攻撃を撃ち続けるゴマゾウ。
チゴラスが“こおりのつぶて”に押されて下がっていく。
防御姿勢を取っていても容赦なく撃ち込まれる氷の弾丸にチゴラスは遂に耐えられなくなった。
チゴラスの体が浮き上がり、吹き飛ばされ、岩に叩きつけられる。
それでもまだ、チゴラスの目は死んでいない。
チゴラスの口が開き、その内側で青い炎が燃え上がる。
“りゅうせいぐん”の初動だった。
「させるか!!“ころがる”だ!!」
「パァァァオン」
直後、チゴラスの口から“りゅうせいぐん”が放たれた。
だが、既に3発目の“りゅうせいぐん”
放たれた隕石の量は最初の1/8程度だ。その密度ならかわせる。
ゴマゾウは華麗なるドリフトを連続で決め、隕石群を回避して一気にチゴラスに突っ込んだ。
全体重を乗せた“ころがる”がクリーンヒットする。
その衝撃はチゴラスを突き抜け、背後の岩にまでヒビをいれる。
ミシミシという不吉な音が鳴り、遂にはその岩が砕け散った。
ゴマゾウはチゴラスを背後の岩ごとぶっ飛ばしたのだ。
吹き飛んだチゴラスは大の字に横たわり、動かなくなった。
「パォ……パォ……パォ……」
ペタリと尻もちをつくゴマゾウ。
山道で鍛えた無尽蔵のスタミナを持つゴマゾウも流石に限界であった。
一瞬の沈黙。
そして審判がフラッグを上げる
「チゴラス、戦闘不能。ゴマゾウの勝ち!!よって勝者、チャレンジャータクミ!!」
タクミのクチートを抱く腕に力がこもる。
「………クチ………」
クチートがタクミを見上げる。
「パオ」
ゴマゾウが仰向けに寝っ転がってヘラヘラと笑っていた。
「いよっしゃあぁああああああ!!」
タクミの雄たけびがジムの中に響き渡った。