ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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伝説との接触

「……おかしいな……」

 

タクミはマップを開きながら、何度目かもわからないセリフを吐いた。

 

「キバァ?」

「クチ……」

 

不安そうに見上げてくるポケモン達に苦笑いを返し、タクミはもう一度マップを確認する。

 

タクミはキバゴとクチートを連れて『映し身の洞窟』を歩き続けていた。

 

メレシーの大群から逃げる為に細道の奥へと入ってしまったが、地図上ではその道はシャラシティの出口近くに繋がっている。タクミはそのマップを頼りにここまで歩いてきた。

 

だが、なんだか様子がおかしい。

 

「……………」

 

タクミはマップの現在地と周囲の景色を確認する。

 

タクミが歩いてきた道はやけに十字路の多い道であった。それは別に珍しいことではないが、直角に道が交わっているのはやはり違和感があった。まるで誰かが整備したんじゃないかと思える程だ。

 

それに加えて、今まで歩いてきた道に比べて妙に鏡が多い気がする。しかも平面の鏡がやけに多い。

今までの道では鏡は変形したり、曲がっていたりして綺麗な像を結ばなかった。

それが、この横道に入ってからというもの、やけに鏡に映った自分と目が合う。

 

そのせいか、タクミは誰かに見られているような感覚が常に体に付きまとっていた。

 

なんだか変な気分だった。

 

「……クチ……」

「ん?どうした?クチート、疲れたか?」

 

クチートは小さく頷いた。

キバゴがクチートの肩に手を置き、その顔をのぞき込む。

 

「キバァ?」

 

肩を貸そうか、と聞いているようであったがクチートは小さく首を横に振った。

タクミは時計を確認する。

 

時計は11時過ぎを指している。

今日は朝からポケモンセンターを出発し、9時頃に『映し身の洞窟』に入ったので、まだ2時間程度しか経ってない。

体感ではもうもう少し長くこの洞窟にいるような気もしていたが、思っていたよりも時間の進みが遅い。

 

「ちょっと早いけど昼の時間にしようか。この先に広い空間がありそうだし、そこで休もう」

 

タクミはそう言って十字路を右に曲がり、それにクチート達も続く。

 

マップを確かめながら歩いていくタクミ。

 

次の十字路を左に曲がり、次の十字路を直進。

 

「……ほんと、やけに十字路が多いよな……」

 

自然にできた洞窟にしては不自然だった。だが、そこを疑ってもしょうがない。

タクミはマップに従い、次の十字路を曲がろうとする。

ここを曲がれば休めそうな場所までもう少しであった。

 

「……えと……この道を右に……」

 

その時、マップに一瞬ノイズが走った。

 

「…………ん?」

 

マップをずっと見ていたタクミはふとその場に立ち止まった。

 

「クチ?」

「キバ?」

 

突然立ち止まったタクミにクチートとキバゴが足を止める。

 

マップにノイズが走ったことは別にいい。

 

この洞窟に来てからマップに時折ノイズが走るのはタクミも気づいていた。

 

だから、問題はそこじゃない。

 

ノイズが走った前と後で何かマップに違和感を覚えたのだ。

わずかな一瞬に何かが入れ替わったような感覚。

視界が変化したような違和感。

 

だが、マップに変わったところはない。

 

気のせいだろうか?

 

タクミはその時、ふとマップの片隅に表示されている時計に気が付いた。

 

そして、その顔が凍り付く。

 

「…………え……」

 

タクミの背中に震えが走った。

 

「………あれ?……え?」

「キバ?」

 

顔を青くしていくタクミの顔をキバゴが不思議そうな顔で見上げていた。

 

「………どうなってんだ……これ……」

 

マップの右上に常に表示されているデジタル時間。

 

その数字が『10時前』になっていた。

 

「……なんで?なんで?え?」

 

タクミは自分の記憶をたどる。

間違いなく、先程確認した時は11時を過ぎていた。だからこそ昼ご飯にしようと発言した。間違いない。

 

なのに、時間がズレている。

 

いや、時間が戻っている、

 

「……なんだこれ……エラー?」

「キバッ!?」

「いてっ!!キバゴ!?なにすんだ!?」

 

タクミは背後から蹴りを浴び、慌てて振り返る。

そこではキバゴが腰に手を当て、憤懣を露わにして、タクミを睨み上げていた。

 

「キバキバ!!」

「えっ?一人で慌てるなって言いたいの?そりゃ、でも……キバゴに何かできる?」

「キバキバ!」

 

キバゴは『失敬な!』と言いたげに顔をしかめ、模範的な深呼吸の動作をした。

 

「……なるほど……まぁ、確かにそうか……」

 

タクミはそんなキバゴに倣うように目を閉じ、深呼吸をする。

 

自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえた。

 

そうだ、こういう時こそ落ち着かなきゃ。

落ち着いて考えろ。

時計が自分の認識とズレていただけだ。

思い返してみれば、先ほどの時刻が本当に11時過ぎだったのか確信が持てない。

時計を見間違えただけの可能性だってある。

 

タクミはゆっくりと目を開けた。

 

目の前に鏡があった。

 

そこに映る自分の顔は随分と青ざめていた。不安が顔に色濃くでており、こんな状態ではまともに時計を確認することもできなさそうだった。

 

タクミは自分の顔を緩めようと頬をもみほぐしながら、落ち着け、と自分に言い聞かせた。

 

別に迷子になったわけじゃないんだ。時間がズレていただけ。だったら、マップに従っていけば……

 

 

 

「……………………………あれ?……」

 

 

 

 

タクミはゆっくりと頬をもんでいた手を下ろし、もう一度鏡に映った自分を見る。

 

見つめ返してくるタクミの顔色が青を通し越して白くなっていた。

 

タクミは慌ててその鏡に駆け寄る。

 

「…………なんでだ…………なんで……()()()()()()()()()()()()()()

 

タクミは十字路を曲がった。

そして、立ち止まり、振り返り、目を閉じた。

 

なのに、なんで目を開いたら目の前に『鏡』がある?

本来なら反対側の道が続いているはずじゃないのか!?

 

タクミはもう一度、今進もうとしていた道を振り返った。

 

 

そこに鏡があった。

 

 

「なっ!!!」

 

鏡には色を無くし、驚愕した自分の顔が映っている。

そんなタクミの背後にも鏡がある。

合わせ鏡の中に無限の世界が続いていた。

幾重にも重なっている自分の身体。

 

その奥で何かが動いた気がした。

 

「うわぁぁぁああああぁぁぁああああ!!」

 

慌ててその場から飛びのいたタクミ。

 

「キバァ!?」

「クチッ!?」

 

突然の取り乱しっぷりにキバゴとクチートが駆け寄った。

 

タクミは荒い息で状況を整理しようとする。

だが、頭がまるで回っていなかった。

 

「戻るぞ2人とも!!ここ、何かおかしい!!」

「キ、キバ……」

「クチ……」

 

タクミは慌てて立ち上がり、マップを見ながら来た道を戻ろうとする。

ここまで歩いてきた道はマッピングしている。

 

十字路ばかりの道でも戻れるはずであった。

 

タクミは冷や汗が滲む掌を拭いながら、足早に来た道を戻っていく。

 

その時、また再びマップにノイズが走った。

 

「っ!!!」

 

タクミの身体が硬直する。

 

「………これは………どうなって……」

 

時計は10時前で変わらない。

 

なのに……

 

「日付が……三日前に戻ってる……」

 

タクミはマップから顔を視線を上げる。

 

「っ!!!」

 

目の前に鏡あった。

 

悲鳴をあげそうになる口元を押し殺し、タクミは後退する。

 

ドン、と壁にぶつかった。

 

今まで真っすぐに歩いてきたはずなのに、後ずさって壁にぶつかった。

 

まさか、と思って振り返る。

 

鏡だった。

 

また、タクミは合わせ鏡の真ん中に立っていた。

 

「………なんだこれ……なんだこれ!?どうなってんだよ!!」

 

叫んでみても声は左右の道へと流れていくだけで木霊することもなく消えていく。

 

そして、その時タクミは鏡の中の自分の姿に違和感を覚えた。

 

自分の服装が変わっていた。

 

タクミは慌てて自分の今の服を確かめる。

だが、それは今朝方ポケモンセンターを出た時と寸分の狂いもない。

なのに、合わせ鏡の中の自分の姿だけがわずかに変わっていた。

 

タクミは自分の足元へと目を向け、そしてさらに肝を冷やした。

 

鏡の中のクチート。

 

その右目に包帯が巻かれていたのだ。

 

「クチート!!これを見てくれ!?」

「クチ?……クチッ!!?」

 

クチートは慌てて自分の右目に触れる。

だが、そこに包帯はなく、昨日もらった眼帯がぶら下がっている。

 

「……昨日……包帯が取れたのは昨日……まさか……これって3日前の……」

 

タクミは合わせ鏡の中の自分の姿を見つめる。

 

「これは……過去の姿……どうなってんだ……」

 

タクミはふとマップへと目を向ける。

タクミは今まで来た道を戻ってきた。だが、その道は鏡になり、道は左右にしか残っていない。

 

そして、マップが指示しているのは右の道。

 

「…………」

 

鏡にぶつかるまでは間違いなくマップの指示は直進のはずだった。

それが、いつの間にか変わっている。

 

何が起きてるんだ。

 

ここは『映し身の洞窟』の奥深く。だが、電波は通じており、SOS通信は届く。

押すべきか?押してなんと説明する?今の状況を客観的に説明して誰かが信じてくれるだろうか?というか、そもそも、レスキューはここに来れるのか?

 

タクミはもう一度鏡を見る。

 

合わせ鏡の中に幾重にも自分の姿が連なっている。

 

その鏡の奥に一瞬、桃色の光が見えた気がした。

 

「…………?」

 

その光にタクミは見覚えがあったような気がした。

タクミは鏡に映る角度を変え、その桃色の光をよく見ようと鏡に身体を寄せた。

合わせ鏡の奥に幾重にも続いていく無限の世界。その7番目の位置に何かいる。

 

「……キバゴ……あれ見えるか?」

「キバ?」

 

キバゴが別の方向からのぞき込もうとする。

だが、その桃色の光はいつの間にか消えてしまった。

 

タクミはしばらくその鏡の前で粘っていたが、やはりその光をもう一度見ることはできなかった。

 

「…………クチ……」

 

不安そうな顔でタクミの顔を見上げるクチート。

タクミはもう一度深呼吸をする。今度は目を閉じることはしなかった。

 

とにかく、今はどうするかだ。

 

道は2つだが、問題はマップに従うか否かだった。

マップに従っていけばセキタイタウンに戻れることになっているが、まるで信用がならない。

マップに逆らって進むべきだろうか。

 

「…………ん?」

 

その時、タクミはまた何かの視線を感じた。

 

タクミは天井の方に目を向ける。そこには割れた結晶が様々な景色を乱反射していた。

 

「…………」

 

『視線を感じた』というのはその光による錯覚と考えるのが自然だろう。

だが、タクミは今感じた視線の『色』が気になった。

 

タクミの視界の隅に確かに桃色の光が映ったような気がしたのだ。

 

「やっぱり……何かいるのか?何かが……僕らを……見ているのか?」

 

その時だった。

 

鏡に興味を深々になっていたキバゴが鋭い声をあげた。

 

「キバキバァ!!!」

 

キバゴがタクミに向けて“ダブルチョップ”を腕に纏わせた。

 

「キバゴ!?」

 

キバゴは既に戦闘態勢に入っている。

それと同時にクチートも何かに怯えたようにキバゴの背後に飛び込んでいた。

 

タクミはキバゴが自分に向けて攻撃を仕掛けることはないと信じている。

だったら、問題はタクミじゃない。

 

タクミは自分の背後に何かいることを悟った。

 

「…………」

 

タクミは自分の額に球の汗が浮かんでいるのを感じた。

 

「キバァ!!」

 

キバゴがタクミに向かって駆け出す。

タクミはすぐさまその場から転がるように前に飛び出た。

 

キバゴと紙一重ですれ違い、躱しざまにキバゴがタクミの背中を蹴って加速する。

 

「キバァァ!!」

 

キバゴの“ダブルチョップ”が何かを固いものを叩いたような音がした。

それと同時にタクミの視界に桃色の閃光が映り込む。

 

タクミは地面を転がりながら姿勢を整え、振り返った。

 

「………なっ!!」

 

言葉を失うタクミ。

 

目の前にポケモンがいた。

 

だが、そのポケモンをタクミは今まで見たことがなかった。

 

カロス地方に行くとなった時、カロス地方に生息するポケモンの大部分は頭に入れた。

だが、その知識の中に目の前のポケモンはなかった。

 

「…………なんだ……メレシーじゃない……なんだ……なんなんだこのポケモンは……」

 

少女のような姿の上半身と額のピンクダイヤモンド。頭部の結晶はまるでティアラのように煌めいている。下半身は岩塊だが、その中にもピンクダイヤモンドが一部露出している。

ただ、何よりも特筆すべきなのはそのピンクダイヤモンドの身体が生み出す桃色の輝きだった。

 

洞窟の中でタクミのランプに照らされただけの貧弱な明かりの中でもはっきりとわかる程にその輝きは別格だった。生き物の温もりと宝石の強さが溶け込んだような光。太陽の輝きとも月の光とも違う。それはまるで、生命の根源から放たれたような光。宝石など興味のないタクミでもその輝きの美しさははっきりと理解できた。

 

あまりの美しさに思わず思考が停止してしまったタクミであったが、そのポケモンにキバゴが吹き飛ばされてようやく我に返った。

タクミは足元に転がってきたキバゴの背中を支えた。

 

「キバゴ!?大丈夫か」

「キバキバ……」

 

キバゴに怪我はない。ひとまず安心するタクミであったが、再度そのポケモンの姿を見てタクミは再度驚愕した。

 

「無傷!?キバゴの全力の攻撃なのに!?」

 

キバゴの攻撃は直撃したように見えた。だが、そのポケモンの身体には傷1つついていない。

そのポケモンは悠然とした輝きを放ちながら、洞窟の中でわずかに浮遊している。

タクミは震える手でポケモン図鑑を起動する。

 

ポケモン図鑑は僅かにノイズを走らせた後、検索結果を示した。

 

「……ディアンシー……世界の洞窟で目撃されているポケモン……メレシーの女王ともいわれているが詳細は不明……」

 

図鑑に示された内容はそれだけだった。

生息地もタイプも何もかもが不明。

 

「……まさか……」

 

タクミの背筋に先ほどまでとは別種の鳥肌が走り抜けた。

タクミは震える手でホロキャスターのカメラを起動して写真を撮った。

 

「…………これが……伝説のポケモン……」

 

タクミはまるで神にでも出会ったかのように尻込みし、膝を折った。

 

ポケモントレーナーの中には伝説のポケモンや珍しいポケモンを追い求めて世界を巡る人達がいる。

有名どころでいえばスイクンを追いかけ続けるミナキなどだ。

 

タクミにはそういった手合いに興味はなかったが、今納得できた。

なるほど、伝説に魅せられるトレーナーがいるのも頷ける。

 

それ程までに目の前のディアンシーというポケモンの存在感は圧倒的だった。

こんなもの一目見てしまえば、もう一度出会いたい、可能ならばゲットしたいと思うに決まっている。

 

タクミは自分の懐にある空のモンスターボールのことを考える。

目の前にいる伝説のポケモンが大人しくゲットされてくれるとは思えない。

だが、こんなポケモンを前にして『ゲットしたい』という願いはポケモントレーナーとして抗い難い誘惑だった。

 

タクミは生唾を飲み込みモンスターボールに手を伸ばそうとする。

 

その直後だった。

 

ディアンシーが腕をタクミに向けて振り上げた。

 

次の瞬間、タクミが触れていた空のモンスターボールがひしゃげた音を立てた。

 

「っ!!」

 

驚いて腕を引き抜くタクミ。冷や汗の滲む指先で恐る恐るモンスターボールを取り出すと、それは見るも無残に圧壊していた。

 

「…………」

 

ゲットしよう、なんて気持ちが根こそぎ奪われていく。

伝説のポケモンがゲットされないのはそれ相応の理由があるということだった。

 

だが、疑問は残る。

 

ディアンシーは一体全体何をしにここに来たのか?

 

タクミはディアンシーの瞳を見据える。

ディアンシーは慈悲深い女神のように温もりのある目でタクミを見返していた。ディアンシーからは気迫や戦闘意欲は見られない。だというのに、放たれるプレッシャーはそこらの野生ポケモンとは比較にならない。

 

タクミは乾燥した唇を舌先で舐めて湿らせようとしたが、口の中の唾液は根こそぎ消え去っていた。

緊張と圧迫感で声が喉の奥に絡まって出てこない。

そんなタクミとは対照的にキバゴはディアンシーに戦う意志がないのを読み取ったのか、落ち着いた様子でディアンシーを見上げていた。

 

「キバ?」

 

恐れ知らずのキバゴがディアンシーに話しかけた。

 

ギョッとするタクミを他所にキバゴはテクテクとディアンシーに近づいていく。

肝が据わっているとかそういう次元ではない。

タクミはキバゴのあまりの大胆さになんとか声を取り戻した。

 

「キ、キバゴ!!戻ってこい!」

 

キバゴはタクミの言うことなど聞く耳をもたず、ディアンシーのすぐそばまでやってきて首を傾げた。

 

「キバァ?」

 

そんなキバゴにディアンシーは一瞬だけ笑ったような顔をした。

そして、ディアンシーは優雅な仕草で腕を持ち上げ、指を差した。

 

その先にいたのはクチートであった

 

「クチッ……」

 

慌ててタクミの後ろに隠れるクチート。

ディアンシーはフワフワとタクミへと近づいていき、そのまま横を通り過ぎて洞窟の奥へと進んでいく。

そのディアンシーの後を追ってキバゴが洞窟の奥へと向かう。

 

「キ、キバゴ!?」

「キバキバ」

 

キバゴは『さっさと来い』とタクミを手招きする。

 

「…………」

 

洞窟の奥へと進んでいくディアンシー。

このままでは見失ってしまう。だが、モンスターボールを破壊できるような力を持つ伝説のポケモンに付いて行って大丈夫なのか?しかもここは誰も通らないような洞窟の奥だ。本当に……

 

そんな迷いを断ち切るかのようにキバゴが前を向いて歩きだしてしまった。

 

「キバゴ!!」

 

キバゴを放っておくわけにはいかない。タクミはクチートを抱き上げてすぐさまキバゴの横に並んだ。

 

「キバゴ……大丈夫なのか?」

 

声を落とすタクミにキバゴは小さく頷くだけだった。

今のキバゴに浮足立っているような様子はない。

 

むしろ、バトル中のように気を張り詰めているのを感じる。

 

危険は承知している。それでも、ディアンシーに付いていく方がいいと、キバゴは考えているのだろう。

腹を括っているキバゴ。それを見て、タクミは自然と自分の臍に力が込もるのを感じた。

 

今は、キバゴの直感を信じよう。

 

そう思いながらタクミはディアンシーの後を追うことにした。

 

ディアンシーは真っすぐな通路を進んでいく。

その通路にはところどころ綺麗な鏡面が並んでいた。

そのどれもが合わせ鏡になっていた。

 

「…………」

 

タクミは歩きながら横目にその合わせ鏡を見ていく。

 

鏡に映る自分やキバゴやクチートの姿がどんどん時間を遡っていた。

 

1つ合わせ鏡の前を通り過ぎるごとにキバゴのキバが伸びたり折れたり縮んだり。

クチート顔にはある時から包帯がなくなり、襤褸布が張り付いた。その襤褸布も1つ鏡を経るごとに汚れが消えていく。

 

タクミの服装もどんどん変わっていき、ポケモンキャンプの頃や、それ以前の小学校に通っていた時の服装へと戻っていく。

 

もちろん、自分自身の姿は変わらない。鏡の中の世界だけが時間を逆行していく。

 

「……ディアンシーは……どこに連れていくつもりなんだろう」

 

ホロキャスターのマップ上ではタクミは既に岩の中を歩いていることになっていた。

こうなってはもうマップは役に立たない。タクミはホロキャスターのマップを完全に終了させた。

 

そして、しばらく歩いていたところ、通路の向こうに強い光が見えた。

 

「………ん?」

 

ディアンシーのピンクダイヤモンドの温かみのある輝きではない。

もっと透明で、もっと鋭利な、別世界から漏れ出てきたかのような輝きだった。

目を細め、洞窟の奥を見る。

 

そこに大きな空間が広がっていた。

 

ホールのように広がった場所の中央に岩で作られた簡素な台座のようなものがあり、その上に光り輝く巨大なダイヤモンドが乗っていた。

 

タクミはディアンシーに導かれるままにそのホールに足を踏み入れる。

 

その直前、通路の最後の合わせ鏡。

 

 

そこに映ったクチートの顔からは襤褸布が外れていた。

 

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