ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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投稿が遅くなりました。

色々と環境が変わって大変だったもので。次の話はまた時間がかかりそうですが、気長にお待ちいただければ幸いです。

まぁ、前置きはさておき、ここからはこの物語の中で個人的に一番好き勝手するポイントです。さぁ、さぁ皆さん、覚悟をキメてご照覧あれ。



前哨戦!相手はジムリーダー?

シャラシティはカロス地方によく見る海沿いの町と同じく、海沿いに続く岩山に段々状に作られた町並みだ。だが、1つ特徴があるとすればこの町のどこからでも見える『マスタータワー』の存在であろう。

元々シャラシティは半円状に入り組んだ砂浜に作られた町だ。その円の中心地点にレンガ造りの巨大な塔が立つ島がある。町と島は干潮の時にだけ現れる道で繋がっている。所謂『トンボロ現象』と呼ばれるものだ。

その島に建設された石造りの塔こそが【かくとうタイプ】のジムである、シャラジムであった。

 

シャラシティでの夜。

 

タクミはポケモンセンターの一室で窓を開け放ち、夜風を浴びながら夜海に浮かぶ『マスタータワー』を眺めていた。『マスタータワー』は『メガシンカ発祥の地』と呼ばれる観光名所でもある。島の中にはレジャー施設を併設した宿泊施設やジムの門下生のトレーニング施設なんかもあり、それらの明かりがまだ島を照らしていた。

 

タクミの傍らにはクチートがゴムで自分の顎を縛って寝る準備をしている。ベッドの中には既に『今日はモンスターボールの外で寝たい』と駄々をこねたキバゴが鼻提灯を膨らませて熟睡していた。

 

タクミは窓際に腰かけ、手元のホットミルクを口に運ぶ。

 

タクミが思い出していたのは前の町で出会ったハルキとの会話だった。

 

『メガルカリオ……強敵だったよ』

『メガルカリオは……スピードもパワーもテクニックも……全てが桁違いだ』

『バッジは3つめが鬼門って言われている……そこでジム戦のレベルが跳ね上がるって』

『ライバルにこういうこと言うのもなんだけどさ……頑張れよ』

 

タクミは幾度となく繰り返した深呼吸をもう一度行う。

 

タクミはホロキャスターを見下ろし、メッセージを見返す。

ミネジュンからメッセージが届いていた。ミネジュンは今日3つ目のジム戦に挑戦した。そして、なすすべもなく敗北した。

送られてきたメッセージはミネジュンにしては驚く程に短く、淡泊なものだった。長年友人をしてきたタクミからすればかなりの異常事態だった。

 

それだけ大敗したのだということが、その短いメッセージから伝わってくる。

 

タクミはホロキャスターを暗転させ、再び『マスタータワー』を視界に収める。

 

タクミもジム戦の予約は取れた。日付は明後日、朝9時からジムバトルになった。

本番まであと2日もあるというのにどうも眠れない。

 

気持ちを落ち着ける為にホットミルクを作ってきたものの、どうも効果は乏しいようだった。

 

「……クチ?」

 

クチートが『眠らないの?』と言いたげにタクミを見上げてきた。

 

「……うん……寝るよ。寝るけど……」

 

タクミはホットミルクのコップを置き、クチートに手を伸ばした。

クチートを抱え上げ、膝の上に乗せる。

タクミはクチートの顎に自分の口を押し付け、また出そうになったため息を飲み込んだ。

 

「……緊張してるみたいだ」

 

これ程、緊張しているのは初めてかもしれない。

学校の発表会とはわけが違う。初めてのジム戦の時は興奮の方が勝っていた。アキに手紙を渡す時も緊張したがあの時の緊張とは少し種類が違う気がする。

 

気持ちが押しつぶされそうな圧迫感。喉がつぶれそうな窒息感。胸の奥に勝手に溜まっていく空気を吐きだす為にため息を繰り返す。

 

なんでこんなに緊張するのか?

 

理由は明白だった。

 

「……ハルキ君が偶然で勝利できる程の相手……なんだよね」

 

タクミとハルキの戦績は1勝2敗。今この瞬間の実力ならおそらくハルキの方が上。

そんなハルキが苦戦したという相手に勝てるのだろうか。

 

そんな不安がタクミの心と体を硬直させていた。

 

「…………ダメだ。余計なことばかり考える。今はとにかく寝よう」

「クチ」

 

タクミはホットミルクを飲み干し、水洗いとお手洗いを済ませてベッドに入り込む。

キバゴを脇に押しのけ、クチートが自分の懐に入り込むのを確認し、タクミはタイマーがセットされているかどうか最後にホロキャスターを確認した。

 

「ん?」

 

ホロキャスターには新たなメッセージが入っているランプがついていた。

アキ、ミネジュン、マカナの3人からのメッセージだ。

 

タクミはそれを読み、思わず吹き出した。

彼らが送ってきたメッセージは示し合わせたかのように寸分違わず同じものだった。

 

『ジム戦、頑張れ』

「……ありがと」

 

タクミは手早くそれだけを打ち返し、目を閉じたのだった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

早朝9時。

久しぶりにゆっくりとした朝を迎えたタクミはキバゴの我儘を受け、シャラシティのレジャー施設へと足を踏み入れていた。『マスタータワー』のある島の中にあるレジャー施設。キバゴの目当てはポケモンと一緒に滑れるローラースケート場であった。キバゴはハクダンシティでローラースケートを経験したが、どうやら気に入ったようだった。

 

「キバキバ!」

「はいはい、わかってるから」

 

石造りの重厚な色合いの『マスタータワー』に見下ろされたスケート場。

キバゴは既にローラースケートを履いてコートで滑っている。

フシギダネやゴマゾウ、ヒトモシも誘ったが、ゴマゾウは『普通に転がる方がいい』とパス、ヒトモシは『興味なし』とのこと、フシギダネは一度経験しているので『もう二度とやりたくない』との態度であった。

というわけで、タクミは唯一付き合ってくれることになったクチートの足にローラースケートを履かせていた。

 

「クチート、きつくない?」

「ク、クチ……」

 

不安定な足元に膝を震わせるクチート。

そのクチートの手をタクミは優しく握ってコートの中へと引っ張っていく。

 

「ほら、こっちの足を蹴って……そうそう、まずはバランスを取ることから……」

「キバキバ~」

 

そんなタクミとクチートを煽るように周囲をぐるぐる回るキバゴ。

時折、変顔をかましてくるので間違いなく確信犯だ。

 

「キバゴ……お前な……」

「キババ~キババ~」

 

タクミが凄むとキバゴは素早く加速して遠くへと逃げていく。

なんだか、前回やった時と比べて格段に上達しているような気がする。

相変わらず、ヘンな技術ばかり成長が早い。

 

「ク、クチ……クチ……」

「おっ、クチートも結構上手いじゃん。ほら、手放すよ」

「クチクチクチクチ!!!」

「いや、大丈夫だって、ほら、ほら!」

「クチ~!!」

 

タクミが手を放す。クチートは頑張ってバランスを取り、不格好ながらもスッと滑ることができた。

一歩だけでも自分の力で滑ることができたクチートをタクミは受け止める。

 

「上手いじゃんクチート」

「クチ……」

 

クチートに少し恨みがまし目で見上げられ、タクミはクツクツと笑った。

タクミは今度はクチートを引っ張りながらコートの外縁をゆっくりと滑っていく。

クチートは次第にコツをつかみ、3週程周っている間に手放しでも滑れるようになっていた。

 

「どう、クチート、楽しい?」

「ク、クチ……」

 

まだ、滑ることに集中しすぎでていて楽しむ余裕はないようであった。

そんなクチートの隣をキバゴがバック走で走ってくる。

 

「キバッ!キバッ!キバッ!」

 

しかも足をクロスさせながらステップまで刻んでいる。

 

「……お前、本当に上達早いね」

「キバキバ~」

「でも、その才能は多分使いどころないよよ」

「キバッ!」

 

『そんなことないだろ!』と抗議するキバゴである。

確かにハクダンジムの氷のフィールドを突破するのにあたり、キバゴのこのスケート技術がなければ難しかった。だが、この先、スケートのバック走なんて技術を使う場面はなさそうだった。

 

そんなタクミの内心をキバゴはタクミの表情で察したようだった。

 

「キバキバッ!!」

 

キバゴは自分を親指で示し、ドヤ顔と共に加速していく。

何か新技を見せてくれるのだろう。

 

そして、キバゴは大きく足を踏み切った。

 

「キバァァァァア!!」

 

キバゴが見せたのは美しいまでの3回転ジャンプであった。フィギュアスケートの選手のように手を巻き付けてクルクルと回転するキバゴ。その軸にブレはなく、華麗なジャンプであった。着地が決まれば周囲から拍手が沸くレベルだ。

 

「キバッ!!キババァ~」

 

着地が決まれば、の話だが。

 

キバゴはジャンプの勢い余って制御を失い、そのまま隣で滑っていた人と接触してしまった。キバゴがぶつかった人はそのままバランスを崩してしまう。

 

「キバゴ!!あのバカ!!」

 

タクミは青ざめてすぐさま駆け出そうとした。

 

だが、予想外のことが起きた。

 

キバゴがぶつかったその人は綺麗にステップを踏んで体制を立て直してみせたのだ。その上、転びそうになったキバゴを受け止めてくれた。素晴らしいバランス感覚だった。

 

「おっとっと、こら、ここでは危ないトリックは禁止だよ」

「キバ~……」

 

その人の腕に支えられて項垂れるキバゴ。

タクミはすぐに我に返り、ローラースケートで滑りこむ。

 

「すみません!!」

 

キバゴがぶつかった相手は長い金髪をトライテールにした女の子だった。身長はタクミより少し高く、やや細身に見えるが、二の腕やふくらはぎにはしなやかな筋肉がしっかりと盛り上がっていた。タクミよりも少し年上であろうか。彼女は道着のような上着と動きやすいミニスカートにスパッツという出で立ちであった。

 

タクミは彼女に全力で頭を下げる。

 

「ごめんなさい!怪我はないですか!?」

「だいじょうぶだよ、ちょっと当たっただけだから」

「良かった。キバゴ!!お前も謝りなさい!」

「キバ……」

 

萎れた顔で頭を下げるキバゴ。

タクミももう一度彼女に頭を下げた。

 

「すみませんでした!」

「あははは、そんな気にしないでって。それよりそのキバゴ、面白い動きするね。さっきの回転ジャンプは君が教えたの?」

「え?いえ、キバゴがいつの間にか勝手に編み出していて……」

「へぇ……」

 

彼女は膝を折り、キバゴに視線を合わせる。

 

「君、スケート好きなの?」

「キバァ!」

 

キバゴは片手をあげて笑顔で返事をする。

 

「あはは、面白い子だね」

「面白いのはいいんですけど、すぐに羽目を外すんです。さっきは本当に……」

「いいの、いいの、もう気にしないで。私はむしろこんなにローラースケートが好きなポケモンがいるのが嬉しいんだ。『ポケモンと一緒にローラースケートができる』って触れ込みは沢山出してるんだけど、実際にやってるポケモンってほとんどいなくてさ」

「ああ、確かに……」

 

タクミが周囲を見渡してもポケモンが滑っている様子は確認できない。

ハクダンシティのローラースケート場でも、一緒に滑っているポケモンは極端に少なかった。

そもそも、スケートシューズに制限があって、できるポケモンの種類が限られる。イワークとかケムッソ用のシューズなんて作りようがないからしょうがないのは理解できるが。

 

「ローラースケートはさ、体幹のバランス感覚を養ったり、地面に力をしっかりと伝える為の足腰の鍛錬だったり、体重移動のいい練習になるのに。おじいちゃんったら、『遊びにあまりうつつを抜かすなよ』だってさ。私のパートナーのルカリオもローラースケート靴見せたら逃げ出すんだよ。酷いと思わない?」

「あはは……」

「それに比べて、キバゴの楽しそうな滑り!」

「キバ~」

 

彼女はキバゴの頭をワシャワシャと撫でて立ち上がった。

そして、彼女は目をキラキラと輝かせてタクミの方へと視線を向けた。

 

「ねぇね、君さえよかったらこのキバゴとバトルさせてくれない!?」

「えっ!?」

 

その提案にタクミは少なからず驚いた。

 

「僕は……いいですけど……いいんですか?」

 

正直、タクミにとっては願ったりかなったりであった。

 

だが、本当にいいのだろうか?

 

煮え切らない様子のタクミに対して彼女はキョトンと首を傾げた。

 

「ん?何か問題ある?」

「あ、いえ……いいなら、いいんですけど……じゃあ、やりあましょうか」

「ほんと!?やったやった、向こうにバトルフィールドがあるの!すぐにやろう!」

「あっ、はい……」

 

タクミは彼女と一緒にバトルコートへと移動し、トレーナーサークルで向かい合う。

ただ、流石にキバゴにローラースケートを履いたままバトルはさせられない。タクミはキバゴの靴を脱がせる為にしゃがみこんだ。

タクミはその間にも彼女の様子を盗み見る。彼女は屈託のない笑顔でウキウキとタクミを待っていた。

 

「……気づいてないのかな……」

 

準備を終え、タクミがトレーナーサークルに立ち、それを待っていたかのように彼女が高らかに名乗りを上げた。

 

「私はコルニ!!相棒は……この子」

 

投げ込まれたモンスターボールから彼女のパートナーが現れる。

 

現れたのはタクミの予想通りの相手であった。

 

青を基調とした毛並み。2足歩行の獣人のような出で立ち。

はどうポケモンのルカリオ。

 

「バウッ」

「さぁ、ルカリオ!気合入れていくよ!!」

「バウ」

 

ルカリオは左手を前に掲げ、右手は腰のあたりに落とした構えを取る。

タクミは足元のキバゴに視線をチラリと送った。

 

「……キバゴ、わかってるな」

「キバ」

 

キバゴが親指を立てて、タクミにウィンクを返す。

そして、すぐにキバゴの顔から笑顔が消えた。

生半可な相手じゃないことを悟ったのだろう。

 

実のところ、タクミは一目見た時から彼女の正体に気づいていた。

 

彼女の容姿をタクミは知っている。

 

それは、ここに来るまでに何度も繰り返し見たバトル映像に映っていた。

 

そう、今、目の前にいるのはタクミの明日の対戦相手。

彼女はシャラジムのジムリーダー、コルニ。

 

「……相手はジムリーダーだ……最初から出し惜しみは無しだ」

「キバキバッ!!」

 

キバゴ一気に加速して空中前転を決めながらバトルフィールドに飛び込んでいく。

着地を決め、ポーズを取り、吠える。

 

「キバァァァア」

 

声のノリもいい。絶好調の証だった。

 

「自分はタクミです!よろしくお願いします!」

「うん!よろしく!!」

 

はっきりと名乗ったが、やはり反応がない。

 

やっぱり、僕がチャレンジャーだってことに気づいてないのだろうか?

 

一応事前に電話連絡して名前は伝えているのだが。

 

タクミの中に一瞬葛藤が沸きあがる。

 

やっぱり申し出るべきだろうか?

こっちだけ相手のことを知っていて、バトルするなんてフェアじゃない気がする。

 

その時、タクミは産まれて初めて天使と悪魔の囁きというものを実感した。

 

『正直に名乗るべきですよ』と語りかけてくる天使

『このまま黙ったまま情報収集しちまえ』と囁く悪魔

 

タクミは数秒の自己弁護の末、神様と仏様とアキに謝罪の言葉を口の中でつぶやく。

タクミは小さな罪悪感と共にそれ以上の言葉を飲み込んだ。

 

コルニはこのルカリオを『パートナー』とまで言及している。そして、その言葉に裏打ちされるだけのプレッシャーをタクミは既に感じていた。おそらく、目の前の相手は明日、最大の敵となる。

 

この『壁』を超えるのは生半可なことではない。

 

色々と想いはあるが、バトルの間だけは全部忘れる。

明日のことも、相手がジムリーダーであることも、全部忘れる。

今はただ、全身全霊を持って当たるのみ。

 

タクミの拳に力が宿る。

 

それと同時に審判AIが起動した。その間にタクミは深呼吸を一度だけ行った。

 

「試合開始!!」

「キバゴ!“ダブルチョップ”」

「キバァァァ!」

 

タクミの指示とほぼ同時にキバゴの両腕に紫炎が灯る。

地面を砕かん勢いで飛び出したキバゴは一気にルカリオへと肉薄した。

 

キバゴの苦手な戦い方は距離を取られる中遠距離戦だ。ルカリオには遠距離攻撃である“はどうだん”がある。それを撃たれる前に間合いに踏み込む。

キバゴに勝機があるとすればここしかない。

 

鬼の形相で肉弾戦の間合いへと詰め込んだキバゴ。

そんなタクミ達に対してコルニの顔には心底楽しそうな好戦的な笑顔が浮かんでいた。

 

「いいね!そうこなくっちゃ!!ルカリオ!前に出て“はっけい”!」

「バウッ!」

 

ルカリオが飛び出し、掌に青い炎のような“波動”が揺らめいた。

両者はフィールドのほぼ中央で肉薄する。お互いが足を止め、ワザを打ち合う。ルカリオとキバゴの足が交差するレベルの接近戦。このクロスレンジこそキバゴの距離だ。キバゴの右腕の“ダブルチョップ”が低い位置から最速の軌道で繰り出される。

 

ルカリオの方が遅い!届く!

 

タクミがそう確信した瞬間だった。

突如、キバゴの右腕の紫炎が霧散した。

 

「キバッ!?」

「えっ!?」

 

キバゴの攻撃が逸れた。

 

ルカリオの“はっけい”だった。

ルカリオはキバゴの身体を狙ったのではない。

ルカリオはキバゴの“ダブルチョップ”で伸びた腕を真横から“はっけい”で狙ったのだ。

 

攻撃を受け流され、バランスを崩したキバゴ。そこに目掛けてルカリオの第2

の“はっけい”の追撃が迫る。

 

「キバゴ!伏せろ!!」

「キバッ!」

 

キバゴはその攻撃を身体を低くして回避する。

 

「ルカリオ!水面蹴り!!」

「バウッ!!」

 

ルカリオは“はっけい”を躱された後隙を埋めるため、流れるような動きで水面蹴りを繰り出した。

それは“波動”を伴わないただの蹴り技。ワザではない攻撃なので当然威力は低いが、それゆえに攻撃の出が早い。

 

「キバゴ!もっと下だ!!」

「キバァ!!」

 

『水面蹴り』は地上スレスレの回し蹴り。

それを下に回避する方法は1つ。

 

キバゴは瞬時に地面に手をかけ、土の中にもぐりこんだ。

 

「バウッ!?」

「へぇ、やるじゃん」

 

“あなをほる”は【じめんタイプ】のワザ。

【はがねタイプ】のルカリオに効果はバツグンだ。

 

だが、それはもちろん、当たればの話だ。

 

「…………」

 

タイミングを見計らおうとするタクミ。

 

それに対してルカリオとコルニに迷いはなかった。

 

「ルカリオ、わかる?」

「バウ」

 

ルカリオは呼吸を整えながら自分の身体を巡る“波動”を感じていた。呼吸も、瞬きも、心臓の鼓動すら自らの意識下に置き、自身の中の“波動”の揺れを極限まで沈めていく。波風1つ立たぬ静かな心、木石のように微動だにしない体。たどり着いた境地は明鏡止水の世界。

わずかな風の流れも、大地の底から湧き上がる脈動も、今のルカリオにとっては全てが掌の中の出来事に等しい。

 

“波動”という“揺れ”を止めたルカリオの身体。

それが他者が発する“波動”を明確に浮かび上がらせる。

 

次の瞬間、キバゴがルカリオの背後に飛び出した。

そこに、ルカリオがノールックで放った裏拳を叩き込んだ。

 

「……ッ!!」

 

ルカリオの手の甲についた鋭い突起がキバゴの顔面に突き刺さる。

キバで防御することもできない、強烈な一撃。

コルニの自信に満ちた笑みがより深まる。

 

だが、それはキバゴとタクミにとっても想定の範囲内だった。

 

「キバゴ!!今だ!!」

「キバァッ!!」

 

ルカリオが他の人やポケモンの持つ“波動”を読み取っているのは知っている。

視界外からの不意打ちは通じないのもわかっていた。

 

だからこそ、キバゴに“あなをほる”を指示したのだ。

 

ルカリオの一撃は必要経費。むしろ、裏拳一発で済んで儲けものだった。

 

鋭い一撃をくらったかに見えたキバゴ。そのキバゴはその裏拳を強引に掴み、体を上へと持ち上げた。拳の上に逆立ちになり、全身の駆動と“あなをほる”で飛び出した勢いで、ルカリオへととびかかる。そのままルカリオの肩を踏み台にして、再度ルカリオの背後へと回り込んだ。

 

「キバァァアッ!!」

 

そして、キバゴは両腕に纏った“ダブルチョップ”をルカリオ目掛けて連続で叩き込んだ。

横なぎの左チョップ。ボディブローの軌道で放つ右フック。そして、足に“ダブルチョップ”を纏わせての回し蹴り。

 

流れるような3連撃がヒットする。その攻撃は先程ローラースケート場でキバゴが見せた3回転ジャンプのように一切体幹がブレていない。全てが有効打となりうる攻撃だった。

 

だが……

 

「ルカリオ!前蹴り!」

「バウゥ!!」

 

槍のような鋭い前蹴りがキバゴの顎を蹴り上げた。

かちあげられ、体が伸び切るキバゴ。

 

「くっ……」

 

キバゴの連撃はルカリオにガードされていた。

 

「“はっけい”!!」

「バァウ!!」

 

ルカリオが強く踏み込む。一瞬でルカリオの全身を巡る“波動”がその右の掌に凝集した。陽炎のような青い“波動”が掌底からキバゴの無防備な腹部に叩き込まれた。

 

先程とは比べものにならない破裂音が響く。

 

「…………ッ!!」

 

キバゴが声にならない悲鳴をあげる。キバゴが吹き飛ばされ、フィールドの真ん中から端まで吹き飛ばされた。

 

「キバゴ!!」

 

仰向けに地面に叩きつけられたキバゴ。

受け身を取ることもできず、大の字になって横たわる。

 

「キバゴ!大丈夫か!?」

「キッ……キバッ……」

 

キバゴの手足の動きが鈍い。

身体の中心にモロに“はっけい”を食らってしまった。

ルカリオに叩き込まれた“波動”がキバゴの体力以上に身体の動きを鈍らせている。

 

だが、キバゴの目はまだ死んではいなかった。

 

左腕の“ダブルチョップ”の紫炎はまだ消えておらず、足腰にはまだ力が残っている。

 

「キッ、キバァ……」

「バウ」

 

それに対してルカリオは残心の姿勢を取ったまま距離を詰めようとはしてこない。

キバゴの体力があるうちは最後の一瞬まで油断するつもりはないようだった。

 

「キバゴ!“あなをほる”!」

「キバァ!」

 

キバゴは地面に飛び込み、ルカリオへと迫る。

今度はタイミングを計るような駆け引きなどしない。

 

一直線にルカリオに突っ込み、最速で攻撃を届かせる。

キバゴは深く潜ることはせず、地面に痕跡が残る浅さで一気にルカリオに接近する。

そして、ルカリオまでの距離が1mを切った瞬間、キバゴは水から跳ねる魚のように地面から飛び出した。

 

だが、そのスピードもルカリオとコルニにとっては想定の範囲内でしかなかった。

 

「ルカリオ!絡め取って!」

「バウッ」

 

ルカリオはキバゴの攻撃を掌底を当てて受け流し、そのままキバゴの腕を掴んで地面に叩きつけた。

 

「キバッ!!」

「くっ!」

 

腹ばいになるキバゴ。その頭上にルカリオの足が掲げられる。

その足先には凝集し、青い球体と化した“波動”の塊が光っていた。

 

「ルカリオ!“はどうだん”!」

「バウッ」

 

キバゴの背に踵落としのように“はどうだん”が叩き込まれた。

 

「なっ……」

 

その一撃にタクミは驚愕した。足で“はどうだん”を撃つルカリオなんて聞いたことがない。

 

「キバゴ!距離を取れ!」

「キッ……キバァ……」

 

キバゴが脱出すると同時に“はどうだん”が放たれ、砂煙をあげた。

キバゴはなんとか後方に飛ぶことに成功したが、ルカリオはそんなキバゴにピッタリとくっ付くように距離を詰めてきた。

 

「なっ……」

 

ルカリオはまるで社交ダンスでも踊っているかのように自然な動きでキバゴを間合いに捉え続ける。しかも、その間合いはクロスレンジのわずかに外。キバゴが反撃に移るには一瞬以上の隙が産まれ、ルカリオが追撃を加えるには絶好の距離。付かず離れずのこの距離はあまりにも危険な立ち位置だ。

 

「ヤバい……キバゴ!」

 

だが、タクミが次の指示を出すより早くコルニの指示が飛ぶ。

 

「ルカリオ!“インファイト”!」

「バウッ!!」

 

ルカリオの両腕がオレンジ色の光を帯びた。ルカリオが踏み込んだ一歩が青い衝撃波となって地面を駆け巡る。

 

もう、回避はできない。

 

「キバゴ!!キバで受けろ!!」

「キッ!バッ!」

 

キバゴが足の爪をガッチリと地面に食い込ませ、迎撃の姿勢を作る。

全身を一本の槍と化し、歯を食いしばったキバゴ。

そこに“インファイト”の初撃が叩き込まれた。

 

キバゴの白いキバと赤熱した拳がぶつかり合う。

 

白熱がせめぎ合ったのは一瞬。

 

キバゴのキバが不吉な音を立てだす。

 

「キ、バァァァ……」

「ウワォォォォォン!!!」

 

遠吠えのような雄叫びと共にルカリオの両腕がより強い光を放つ。

 

そして、その拳がキバゴのキバを叩き折った。

 

拳はその勢いのままにキバゴの顔面に突き刺さる。

 

その直後、既に反対側から次の拳が迫ってきていた。

 

キバゴはそちらもキバで受けようとしたが、今度はせめぎ合うこともできずに叩き折られた。

 

キバを折られ、攻撃を防ぐ手段を失った。そのキバゴに息もつかせぬ猛攻撃が叩き込まれていく。5発、10発、20発。カウントすることが無駄に思える程の高速のラッシュが続く。

ルカリオの両腕の回転速度は次第に上がっていき、その拳は赤熱した鋼のような色へと光り輝く。

 

「フィニッシュ!」

「バゥォッ!!!」

 

アッパーカットのように叩き込まれた拳がキバゴを跳ね上げる。

打ち上げられたキバゴは放物線を描き、フィールドに背中から落下する。

がらんどうの肉体が地面にぶつかる音がした。

 

数舜遅れ、叩き折られたキバが落ちてくる。

 

カラン、カランと味気ない音を最後にフィールドは静まり返った。

 

そして、審判AIが最後の宣言を行う。

 

「キバゴ!戦闘不能!ルカリオの勝ち!!」

「やったね!!ナイス、ルカリオ!」

「バウゥ!」

 

コルニがピースサインを送り、ガッツポーズを返すルカリオ。

そんな2人を目に入れることなく、タクミはすぐさまキバゴへと駆け寄っていた。

 

「キバゴ!キバゴ!大丈夫か!?」

 

最後の落下でキバゴは一切受け身が取れていなかった。

危険なダメージを受けてないかが心配だった。

幸いにもキバゴに大きな怪我はなく、タクミが抱き上げるとすぐに薄目を開けた。

 

「キバァ……」

「キバゴ……良かった」

 

だが、折れてしまったキバの断面がなかなかに痛ましい。

今日は一晩ポケモンセンターだろうなと思いながら、タクミはキバゴをモンスターボールに戻した。

 

「ふぅ……」

 

一息つき、タクミはコルニに向けて頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

「うん、ありがとね。いいバトルだったよ」

 

ローラースケートで滑ってきたコルニと握手を交わす。

 

「いや~やっぱりいい動きするよ君のキバゴ。“あなをほる”からの3連“ダブルチョップ”の流れは綺麗だったし、私のルカリオじゃなかったら間違いなくあれだけでバトルの優勢が決まってたね」

「ありがとうございます」

 

『だけど、『あなたのルカリオ』に効果的じゃなかったら意味がないんですけどね』

 

タクミは口元まで出かかったその言葉を飲み込む。

 

「ねぇ、ねぇ、タクミ君だっけ?この後時間ある?良かったら……」

 

その時、ルカリオがコルニの腕を引っぱった。

 

「えっ?ルカリオ、なに?」

 

ルカリオが顎で近くの時計を示した。それにつられてコルニが時計を確認した瞬間、その顔に一気に冷や汗が噴き出した。

 

「えっ、もうこんな時間!?うわっ、ヤバ!おじいちゃんに怒られる!」

 

コルニはタクミの手をもう一度ブンブンと振り回し、急ぎ足で言葉を継いでいく。

 

「ごめんごめん!私もう行かないと!今日は本当にいいバトルだったよ!うん、明日のいい予行演習になったし!あっ、そうだ、明日もここ来るでしょ?」

「……え……あ、ええ、まあ、はい……」

「そうだよね!そうだよね!うんうん!それじゃあ、また明日!」

「……あ、はい……」

 

コルニはタクミの手を放し、ルカリオと一緒に勢いよくジムに向けて駆け出して行った。

タクミはその後ろ姿に手を振りながら、首を捻る。

 

「……やっぱり、僕がチャレンジャーだって……気づいてた?」

 

ルカリオもメガシンカを使わなかったし、やっぱり手札を晒すのを嫌ったのだろうか?

 

「クチ……」

「あっ、クチート……」

 

タクミは寄ってきたクチートを胸元に抱き上げ、コルニが向かっていった『マスタータワー』を見上げた。

 

「……どっちにしろ、かなりの強敵であることは間違いない」

「クチ」

 

タクミの握り込んだ拳の中に冷たい汗が滲んでいた。

 

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