ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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大きな背中は漢の証

タクミは『マスタータワー』の真正面に位置する海岸に来ていた。足元にはいつものクチート。既に朝日は登り、空は快晴。タクミも睡眠はバッチリで、ポケモン達もキバゴを含めて絶好調だ。真っすぐに『マスタータワー』を見つめるタクミに気負いはない。

 

そんなタクミの意志を感じとったかのように、道が現れる。

 

潮が引き、海の中に砂の道が浮かび上がってくる。最初は遠浅の砂の海岸でしかなかった場所に、一本の道が形作られていく。人を導くように現れた道に向けてタクミは足を踏み出した。乾いた砂浜と違い、湿った砂地は足が沈むことなく力を地面に伝えてくれる。

 

蹴りだす足が前に出る力を与えてくれる。

その大地の反発を感じながら、タクミは『マスタータワー』の島へと足を踏み入れた。

 

昨日観光で来た時も感じたが、こうして『マスタータワー』の目の前に立つと圧倒される程の高さに身が引き締まる。

 

もちろん、塔の高さだけで言えば、東京タワーやスカイツリーの方が上だ。

ただ、そういうことではないのだ。

重厚な石造りの塔が持つ重みと、積み上げてきた歴史の高さがタクミに訴えかけてくるのだ。

 

『ここに強敵がいる』

 

タクミはギリと自分の拳がきしむのを感じた。

 

そんな時だった。

 

「おや、随分早いな」

 

それは大人の男性の声であった。

 

タクミがその声に振り替えると、目の前にジャージ姿の初老の男性が立っていた。頭の髪は少し寂しい感じがするが、豊かな眉毛が随分と目を引く。それに、初老というのはあくまで顔の印象であって、その立ち姿や服の上からでもわかる筋肉の付き方などは老人のそれではない。背筋は定規でも仕込んでるんじゃないかと思える程に真っすぐに伸び、めくり上げた腕や足の裾からはしなやかな筋肉が盛り上がっている。

 

「君が今日の挑戦者のタクミ君だね」

「はい!!今日はよろしくお願いします!」

 

タクミも背筋を伸ばし、屹立した。

 

「そうか。ワシはコンコルド。このジムの師範だ」

「よろしくお願いします……えっ?師範?それは……ジムリーダーじゃないんですか?」

 

このジムの『ジムリーダー』はコルニのはずだ。

だが、『師範』と言えば道場の頂点たる人であろう。

 

『ジムリーダー』と『師範』が共存しているジムなんてあるのだろうか?

 

怪訝な顔をするタクミにコンコルドがクツクツと笑う。

 

「ははは、皆そう言うのだ。だが、ワシは間違いなく『師範』だ。ジムリーダーはワシの孫でな。もうすぐ戻ってくると……おお、来た来た。あれがこのシャラジムのジムリーダーだ」

 

コンコルドが『マスタータワー』の隣の施設を指さす。

そこから、金髪のトライテールをなびかせて一人の女の子が走ってきていた。

 

その人をタクミはもう知っている。

 

「おじいちゃん!今日のジム戦の撮影機材だけど、って、あれ?昨日の……」

「おはようございます」

「え?あれ?そういえば、君の名前って……確か……タクミ君だから……」

 

その瞬間、彼女のトライテールがビコンと跳ね上がった。

 

「えっ!タクミ君が今日のチャレンジャーだったの!?」

「やっぱり、気づいてなかったんですね」

「えっ!!えぇっ!!じゃ、じゃあ、タクミ君は私のこと知ってたの!?言ってよ!!」

「いや……その……」

 

気まずそうに苦笑いをするタクミと髪を逆立てるコルニ。

 

そんな2人を交互に見てコンコルドは眉間に皺を寄せた。

 

「なんだコルニ。もう彼と会っていたのか?」

「うん!昨日のローラースケートの時にね!もう、言ってくれればいいのに!!」

 

憤るコルニであったが、コンコルドの眉間の皺はより深くなっていく。

 

「彼はその時に名乗りもしなかったのか?」

「え?」

 

コルニの表情が固まる。

 

「いや、名乗った、けど……」

「コルニ、お前がローラースケートに出かける前には既にチャレンジャーの名前は伝えていただろ?憶えていなかったのか?」

「えぇと……ぁあ……その……あっ、私!ジム戦の準備してきます!」

 

どうやら形勢不利を悟ったらしいコルニは踵を返して戻っていった。

そんな彼女の後姿にコンコルドがため息をついた。

 

「まったく、修行が足らんな」

「あはは……」

 

タクミとしては愛想笑いを返すしかできなかった。

 

コンコルドはタクミを促し、『マスタータワー』の中へと案内してくれた。

 

「さっきのがワシの孫のコルニだ。見ての通りまだまだジムリーダーとしての自覚が足りん」

「は、はぁ……」

「すまんな。チャレンジャーに聞かせる愚痴ではなかった」

 

『マスタータワー』の中でタクミを最初に出迎えてくれたのは巨大なメガルカリオの石造だった。

 

「うわぁ……」

「クチ……」

 

吹き抜けになっている『マスタータワー』内部。そのど真ん中に鎮座している巨大な石造は朝日を浴びて静かに佇んでいた。セキタイタウンで見た土産物屋の石の置物とはまるで違う。あれもあれで今にも動き出しそうな精巧な作りだった。この石像も同じように動き出しそうな印象を受けるのだが、その本質はまるで異なる。

 

セキタイタウンの石が生きて見えたのは『微に入り細を穿つ』技術によって生みだされたリアリティだ。『今にも動き出しそう』という感想も『石像が動き出しそう』という意味だ。

 

だが、これは違う。

 

石像の作り自体は荒々しいものだ。それなのに、これには石の中に魂が込められているような気迫があった。その石の内側に生身の息吹や熱を秘めているような感覚。今にも中から本物のメガルカリオが飛び出してきそうな、そんな荒々しい存在感がある。

 

「……すごい……」

 

それしか言葉が出ないタクミ。

自分が目にしている物の衝撃が大きすぎて、語彙が消えてしまっていた。

ただただ圧倒されるというのはこういうことを言うのだろう。

 

そんな彼の様子にコンコルドはニヤリと笑っていた。

 

「さて、見ほれるのもいいが、ジム戦のバトルフィールドはこっちだぞ」

「は、はい!」

 

タクミはコンコルドに案内され、一階にあるバトルフィールドへと通された。

フィールドはオーソドックスなクレイフィールド。だが、その部屋の雰囲気はやや異質であった。

フィールドの周囲は堀に囲まれており、周りの壁はすり鉢状になっている。出入り口はトレーナーサークルの後ろに1か所ずつあるだけで、観客席すら随分と高い場所に位置している。

 

まるでこのフィールドから外に出ることを拒むかのような作りになっていた。

 

フィールドの周囲の堀自体はは金網で塞がれているものの、なんだか、バトルフィールドというより『闘技場』という言葉が似合いそうな場所であった。

 

「ここが我がシャラジム自慢のバトルフィールドだ」

 

そう言われ、タクミは乾燥した口の中を湿らせる為に舌を動かす。

 

「なんだか……少し、怖い感じがします」

「ふふふ、そうだろう。ここは我が先祖が代々真剣勝負を繰り返してきたフィールドでもあるのだ」

「先祖?」

「この土地が『最初にメガシンカが観測された地』だというは知っているか?」

「は、はい。パンフレットで読みました」

「うむ、我が一族はその最初のメガシンカを行った者の末裔とされている。我々は代々この始まりの地を守る使命を請け負ってきた。今となってはジムリーダーと形は変わったものの、その使命は今も果たされ続けている。このバトルフィールドはその戦いの歴史が刻まれている場所なのだ」

「…………」

 

タクミは自分の踏みしめている地面へと視線を下ろす。

足裏で地面を擦ると、踏み固められた土の力を感じることができた。

この土の下には無数の強者の汗と涙が染み込んでいるのだ。

 

「どうだ?このフィールドは?」

 

そう問われ、タクミは胸元を握りしめる。

 

「……武者震いが……します」

「ほう?」

「バトルが……俄然楽しみになってきました!」

 

自分が遥かなる歴史の延長線上に立っている。それを聞いて興奮しない男の子はいない。タクミは自分の拳を掌に叩きつけた。

 

「気合が入りました!改めて、今日はよろしくお願いします!」

「うむ。さて、我が不詳の孫はまだかの?」

 

コンコルドがそう言った直後、バトルフィールドの観客席の方に人が入ってきた。

 

「早く早く!カメラそっちとそっちにセットして!」

「まったく、昨日のうちにやっとけよ」

「すみません!先輩!これもお願いします!!」

 

観客席に入ってきたのはコンコルドと同じデザインのジャージを着た数人の男性だった。

年齢層は20台ぐらいの青年からタクミより少し上ぐらいの少年まで。おそらくジムの門下生だろう。

 

「タクミ君だったかな。このジムでは全ジム戦を記録しているが、撮影してかまわんかね?」

「はい。問題ないです」

 

そして、そうこうしているうちにバトルフィールドの反対側からローラースケートを履いたコルニが駆け込んできた。

その姿を見た瞬間。タクミの隣に立っていたコンコルドから一喝が轟いた。

 

「コルニ!時間を過ぎているぞ!チャレンジャーを待たせるとは何事か!?」

「ごめんなさい!でもでも、おじいちゃんが朝から急に特別メニュー始めるのにも問題があったんじゃ……」

「あれぐらい定刻内にこなさんか!!それと……」

「あぁ、もう!わかりました!ごめんなさい『師範』」

 

なんだか、コンコルドさんの方がジムリーダーらしいなと思うタクミであった。

 

そんなタクミの肩をコンコルドがポンと叩いた。

 

「審判はワシが務める。良いバトルを期待しておるぞ」

「……はい!」

 

タクミはクチートと共にトレーナーサークルへと足を踏み入れた。

 

「……クチ?」

 

クチートがタクミを心配そうに見上げてくる。

そんなクチートにタクミは歯を見せて笑う。

 

「大丈夫だ。今の僕は落ち着いているよ。クチート、今日は応援頼むよ」

「クチ」

 

ガッツポーズを見せてくれるクチート。

ようやく、クチートもバトルに対する焦燥感が抜けてきているようだった。

だが、今日はクチートのことを構ってはいられない。

 

とにかく目の前の相手に集中だ。

 

シャラジムのジムリーダーであるコルニはローラースケートのホイールを鳴らして、トレーナーサークルへと入った。

 

「昨日の帰りに『また明日ね』って声かけた時はこういう展開になるとは思ってなかったよ」

「僕はわかってましたけど」

「まぁ、いいや。今日はいいバトルをしよう!いや、今日『も』いいバトルをしよう」

 

コルニは竹を割ったようなカラリとした声でそう言った。

そんな彼女に向け、タクミも声を張り上げる。

 

「はい!よろしくお願いします!!」

「いいね。でも、悪いけど、今日は昨日の私とは違うよ!!いいね!?」

「もちろん!!」

 

タクミは自分のベルトに結んでいるモンスターボールに触れる。

コルニがどんなポケモンを出してこようと、今回先発するポケモンは決まっていた。

 

コンコンドルが審判台に立ち、準備は全て整った。

 

「これより、チャレンジャータクミ対ジムリーダーコルニによるシャラジム、ジム戦を始める。使用ポケモンは3体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトル終了だ。ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められる」

 

その口上が終わるか終わらないかのうちにコルニがいきなりボールを投げ込んだ。

 

「お願い!コジョフー!」

「コジョ!」

 

出てきたのはぶじゅつポケモンのコジョフー。

小柄な体躯ながら、素早い連続攻撃を得意とする格闘タイプのポケモンだ。

 

「よし、これなら」

 

タクミは予定通りのモンスターボールを取り出す。

 

「行くぞ!フシギダネ!!」

「ダネ!」

 

フィールドに降り立ったフシギダネ。その体躯には力が漲っており、背中のタネも瑞々しい。気力が充実している証拠だ。

 

「フシギダネ、役割はわかってるね?」

「ダネダ……」

 

『言われるまでもねぇ』

 

そう言ってニヒルに笑っているフシギダネの顔が見えるようであった。

 

「よし、作戦通りにいくぞ」

「ダネ」

 

フシギダネが前足を強く地面に食い込ませ、全身に力を込めた。

それと同時にフラッグが振り上げられた。

 

「試合開始!!」

「フシギダネ!“やどりぎのタネ”」

「ダネ!!」

 

先手必勝と言わんばかりに速攻で動き出すフシギダネ。

瞬時にタネをばらまき、フィールド内にフックショットのポイントを無数に作り上げる。

フシギダネの機動力を上げる大事な下準備。

 

それに対してコルニは様子見などはしなかった。

 

「コジョフー!“グロウパンチ”」

「コジョ!!」

 

コジョフーは散らばる“やどりぎ”を鋭い拳で振り払いながら一気にフシギダネに近づいていく。フィールドに育った“やどりぎ”など無視した直線的な動き。

 

コルニがフシギダネの足のことに気づいているかどうかはわからない。

だが、タクミがやることは変わらなかった。

 

「フシギダネ!右2番!!」

「ダネ!!」

 

フシギダネは“ツルのムチ”を伸ばし、コジョフーと距離を取る。

何度も試行錯誤を重ねた末タクミとフシギダネは設置する“タネ”の位置を番号で把握する程に煮詰めていた。

 

「攻撃に移るぞ!“ツルのムチ”を伸ばすんだ」

「ダネ!!」

 

フシギダネは移動しながら、鎌のように“ツルのムチ”を伸ばし、コジョフーの頭を薙ぎ払おうとする。

 

「コジョフー!ガードして!!」

「コジョ!!」

 

両腕を十字に交差させるクロスガード。だが、加速の乗ったフシギダネの“ムチ”はそう簡単には止まらない。“ムチ”の先端部分を最高速度で叩きつけ、フシギダネはコジョフーのガードを弾き飛ばした。

 

「コジョッ!!」

「っッ!!なかなかやるね!」

 

フシギダネはすぐさま別の“タネ”にツルを伸ばして縦横無尽にフィールドを飛び回る。

中距離を保ちながら次々と“ムチ”を叩きつけていくフシギダネに対して、コジョフーはフィールドの中央に貼り付けにされた。

 

「コジョフー!状況を変えるよ!“スピードスター”!」

「コジョ!!」

 

コジョフーが腕を振る。その軌道に合わせ、星が光った。

次の瞬間、目にも止まらぬ速度で星の形をしたエネルギー弾が放たれた。

“スピードスター”というワザの真骨頂はワザの初動の速さによる命中率の高さだ。

 

「フシギダネ!!止まれ!!」

「ダネ!」

 

タクミは回避は不可能と判断し、フシギダネを着地させる。。

だが、タイミングが悪かった。

 

「ダネッ……」

 

着地したフシギダネの左足にモロに体重がかかる。

 

普段から立体機動をする際には進行方向には注意をしているが、どうしても危険なタイミングというものはゼロにはできない。今回は相手の反撃タイミングを見誤ったタクミのミスだ。

 

足の痛みに顔をしかめるフシギダネ。そこにコジョフーの“スピードスター”が突き刺さった。

ただ、“スピードスター”の威力はそこまで高くない。

この程度ならダメージとしては軽い。

 

本当に危険なのはこの次だった。

 

「コジョフー!“とび膝蹴り”!!」

「コォッッジョォォォ!!」

 

足を止めたフシギダネに向け、これ幸いとコジョフーが突っ込んでくる。

フシギダネの左足はまだ砕けたままだ。

 

「フシギダネ!“ムチ”で防御だ!」

「ダネ……」

 

フシギダネは“ムチ”を顔の前に構えて防御しようとしが、間に合わない。

コジョフーは地を這うように突進し、防御の下をくぐりぬけた。

フシギダネの眼前でコジョフーの踏み込んだ足が地面を抉った。コジョフーは瞬間的に筋力を爆発させ、飛び上がる。超至近距離から放たれた“とび膝蹴り”がフシギダネの顎をかちあげた。

 

「ダッ……ネ……」

 

フシギダネの顎があがり、体が仰向けにひっくり返りそうになる。

“とび膝蹴り”の勢いのまま空中に躍り出たコジョフーは既に次の攻撃の初動へと移っていた。

 

「コジョフー!“グロウパンチ”!!」

「コジョ!!」

 

飛び上がったコジョフーの右腕に赤い光が宿る。跳ね上がったフシギダネの頭部に目掛け、振り下ろしの右(チョッピングライト)を叩き込もうとしている。

 

「……ダネッ!!」

 

だが、その連撃は既に読んでいた。

今度はフシギダネの“ムチ”の防御が間に合う。

 

「フシギダネ!受け流せ!!」

「ダネフッシ!!」

 

フシギダネはコジョフーの腕を“ツルのムチ”で絡め取り、そのまま後方へと放り投げた。

パンチの威力を利用した投げ。コジョフーは自らの勢いを殺すことができずにフィールドの端まで放り投げられた。コジョフーは受け身を取り、反転して再び構えを取る。

 

だが、既に両者の間合いは離れた。

 

再び間合いを詰めようとするコジョフー。

それをさせまいとタクミの指示が飛ぶ。

 

「フシギダネ!“ツルのムチ”!!」

「ダネッ!」

「コジョッ……」

 

動きの出鼻を挫くようにフシギダネの“ムチ”が一気に接近した。“ムチ”の細かい連打がコジョフーに襲い掛かる。ジャブを刻むような小さな連続攻撃を積み重ね、コジョフーをフィールドの端に貼り付けにする。

 

タクミは次の指示のタイミングを計る。

 

フィールドの端に追い詰められたコジョフーがこの場から脱出する方法は3つ。

先程と同じように“スピードスター”等の射程のある攻撃でフシギダネを怯ませるか、強引にダメージを受けながら前に出るか。それとも……

 

「コジョフー、脱出して!!」

「コジョ!!」

 

そう、左足の力が弱いフシギダネは左側の攻撃の威力がわずかに弱い。その方向に逃げるのは確かに有効だ。

 

だが、もちろんそれはタクミもフシギダネも十二分に把握している。

 

「フシギダネ!!そこだ!!」

「ダネッ!!」

 

フシギダネの“ムチ”が伸びる。それはコジョフーの脇を抜け、隣のフックポイントを掴んだ。

フシギダネは一気に“ムチ”を引き寄せ、瞬時に間合いを詰めた。

 

「“とっしん”!!」

「しまっ……コジョフー!避けて!!」

 

もう遅い。

 

今のコジョフーは脱出することを優先して防御の構えが緩んでいた。

 

 

タクミが防御を崩したのだ。

 

その為にこの場所にコジョフーを放り投げた。その為に細かい連打でコジョフーの動きに即応できるようにした。その為に最初に的確に“やどりぎのタネ”を設置した。

 

全てはこのタイミングを待っていたからだ。

 

「ダァァネェエ!!」

「コジョッ!!」

 

なんとか左腕だけで防御しようとしたコジョフーの体幹にフシギダネの渾身の“とっしん”が突き刺さった。

コジョフーは肘をフシギダネに立てて、少しでもダメージを返そうとしていたが、その程度ではフシギダネの勢いは止まらない。

 

フシギダネの攻撃はコジョフーをフィールド外まで弾き飛ばした。

このフィールドでは『リングアウト』の判定はないが、それでも十分なダメージだ。

コジョフーは壁に叩きつけられ、目を回したままズルズルと重力に従って落下していった。

 

「コジョフー、戦闘不能、フシギダネの勝ち!!」

 

判定を聞き、タクミは大きく息を吐きだす。

 

「ダネ……ダネ……」

 

肩で息をするフシギダネであるが、その目元にはまだ力が残る。

ただ、その目に宿っている強い力は単純な体力の余裕によるものだけではない。

 

タクミにはわかっていた。フシギダネの荒い息遣いに交じる興奮の色と喜びの感情が痛い程に伝わってきていた。

タクミはチラリと隣のクチートを見る。タクミの予想通り、クチートもまた何かに興奮するように息を詰めていた。

 

過去2度のジム戦ではフシギダネは本来の力を発揮させては貰えなかった。

 

ハクダンジムでは1戦目は氷のフィールドで思うように動けず、2戦目はキバゴのお膳立てがあった。

ショウヨウジムでは“やどりぎのタネ”を封じられ、思うように戦えなかった。

 

もちろん、今までの勝利にフシギダネの力は必要不可欠だった。

 

だが、その中でも『ジムリーダーとの1対1』という状況での勝利はやはり特別なのだ。

ただでさえハンデを背負っているフシギダネにとってこの勝利は何事にも代えがたいものであったのだろう。

 

同じくハンデを背負うクチートがそのフシギダネの背中を熱を持った左目で見つめている。

フシギダネはその視線を感じているだろうか。

 

胸を張って次のバトルを見据えるその背中のタネが今日は一段と大きく見えていた。

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