ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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VSメガルカリオー自分の持ちうる全てをー

メガシンカを経たルカリオを前にヒトモシの炎が揺れていた。

風などない。メガルカリオの燃え盛る魂がヒトモシの魂魄を揺らめかせているのだ。

 

それ程の威圧感。それ程の存在感。

 

今までの相手とは格が違う。

 

そんな相手に受け身で勝てるわけがない。

ならば先手必勝。

 

「ヒトモシ!サイコキネシス!!」

「モッシィィィィ!」

 

ヒトモシの瞳が妖艶な輝きと共に揺らめく。

フィールドを覆い尽くすように放たれたサイコパワーがルカリオを捉えた

 

その瞬間だった。

 

「ルカリオ!」

「バゥァァ!!」

 

メガルカリオが地面を蹴った。

見えたのはそれだけだった。

 

タクミは油断などしていなかった。

瞬きをした覚えもなかった。

全身全霊で、全ての五感をもって、極限の集中状態で挑んでいた。

 

なのに、メガルカリオは既にヒトモシの眼前に移動していた。

 

「モシッ……」

「え………」

 

驚愕を言葉にする間もなくルカリオがヒトモシを蹴り上げた。

ヒトモシが浮き上がり、瞳が裏返る。

 

ズン

 

と、地響きがした。

それはルカリオが強く足を踏み込んだ音だった。震脚と呼ばれる強烈な踏み込み。それとほぼ同時にルカリオの腕の先に青く光る骨状の棍棒が現れる。

 

「“ボーンラッシュ”!!」

 

コルニがワザを指示したのと、ルカリオの打撃音が響いたのはほぼ同時であった。

ルカリオの腕から槍のように突き出た“ボーンラッシュ”がヒトモシの身体に突き刺さる。

その先端から赤黒い“波導”が閃光となって飛び散り、落雷のような音と共にヒトモシが吹き飛んだ。

 

「モッ……」

 

あまりの衝撃にヒトモシの頭の炎が一瞬だけ消える。

意識が飛びかけてる証拠だった。

 

「ヒトモシ!!」

「モッシ!!!」

 

タクミの呼びかけにヒトモシの瞳に光が復活する。

ヒトモシはバランスを崩しかけたが、なんとか受け身を取って着地をする。

だが、ヒトモシが顔をあげた時には既にルカリオが至近距離まで踏み込んできていた。

 

「もう一度!“ボーンラッシュ”!!」

「バウッ!!」

 

ルカリオは両手で青く光る骨状の棍棒を持ってヒトモシに迫る。

ルカリオは“ボーンラッシュ”を棒術のように使い、下から掬い上げるような軌道で振りぬこうとした。

 

“ボーンラッシュ”は【じめんタイプ】のワザだ。

【ほのおタイプ】のヒトモシにこれ以上の直撃はまずい。

 

だからといってこの近距離戦で集中力を必要とする“サイコキネシス”は出が遅すぎる。

 

だったら……

 

「ヒトモシ!“シャドーボール”で受け止めろ!!」

「モッシ」

 

ヒトモシは顔の真正面に“シャドーボール”を浮かばせる。

そこに“ボーンラッシュ”が直撃した。

 

“シャドーボール”が爆発し、黒い稲妻が飛び散った。

 

その衝撃の威力に“ボーンラッシュ”が押し返された。

だが、至近距離での“シャドーボール”の爆発はヒトモシも無事では済まない。

 

「モシ……」

 

ヒトモシの頬に黒い煤が傷のように残る。

“ボーンラッシュ”の直撃を受けるよりかは幾分かマシとはいえ、ダメージは小さくはない。

もちろん、それはコルニもわかっていた。

 

「ルカリオ!畳みかけるよ!!連打連打連打!!」

「バウバウバウゥァアアアアア!!」

 

ルカリオが“ボーンラッシュ”を2分割し、双棍のように構えた。リーチを短くし、その分回転率を上げる気であった。

 

「ヒトモシ!小さくていい!“シャドーボール”で受けろ!!」

「モッシ……」

 

ヒトモシは“シャドーボール”を周囲に浮かせ、盾のように構える。

だが、そんな盾など構わずにメガルカリオは攻撃をしかけてきた。

 

“ボーンラッシュ”を受けて“シャドーボール”が次々とはじけ飛びヒトモシが後退していく。

 

“シャドーボール”の爆発は確実にヒトモシの身体にダメージを残していく。それに対してルカリオは“ボーンラッシュ”のリーチ分の余裕があり、ほとんどダメージはない。

 

このままではジリ貧だ。

 

タクミもそれはわかっているのだが、反撃の糸口がまるでつかめない。

 

「ラッシュの速度が速すぎる……」

 

メガルカリオの連撃は『目にも止まらぬ速度』というものを体現していた。

 

打ち下ろし、突き込み、振り払う。

 

その一つ一つの動きが異様なまでに速い上に、コンビネーションの全てがスムーズに繋がっている。最初の一撃が既に次の攻撃の準備態勢になっており、打ち込んだそばから次の攻撃が迫りくる。予備動作の隙も、攻撃後の隙も、全てがコンマ数秒以下の世界だ。そこに攻撃を差し込むこむ余裕などあるわけがなかった。

 

そうこうしているうちに、遂にメガルカリオの速度がヒトモシを上回った。

 

「モッシ……」

「バウワァァァ!!」

 

メガルカリオの“ボーンラッシュ”が“シャドーボール”の隙間を縫ってヒトモシに直撃したのだ。

ヒトモシが攻撃で怯み、“シャドーボール”が途切れる。その瞬間を見逃すメガルカリオではない。

メガルカリオは再び“ボーンラッシュ”を長柄武器のように接続し、ヒトモシを突き上げた。

 

「モッ……」

 

ヒトモシが中空に浮き上がった瞬間に、メガルカリオが大きく身体を捻った。

 

メガルカリオが大きく踏み込み、足裏が大地を揺らす。強い踏み込みの反作用が地面から跳ね返り、その力を身体を捩じることで一点に凝集していく。メガルカリオは全身の“波導”と共に重力の力を足から腕へ、腕から“ボーンラッシュ”の先端へと注ぎ込んでいく。

 

「“ボーンラッシュ”!!!」

「バウァアアアアアァァアア!!!」

 

全身の駆動を使ったフルパワーの“ボーンラッシュ”。

その先端のトップスピードは音速を超える。

 

だが、踏み込みが大きい。

 

攻撃の直前、そこに一瞬だけ隙が産まれていた。

 

それをタクミはずっと待っていた。

 

「“はじけるほのお”!!」

「モッシ!!」

 

ここまでこらえにこらえていた対ルカリオ戦用のヒトモシの切り札。

 

通常の攻撃ではあのメガルカリオを捉えることはできないことは最初からわかっていた。だからこそ、タクミは相手が大技を狙う隙をずっと待っていたのだ。“はじけるほのお”は【ほのおタイプ】。この一撃が決まればバトルの流れが変わる。

 

ヒトモシが両手を掲げる。頭の炎が赤く吹き上がり、1つの球体となった。

既に攻撃の挙動に入っているメガルカリオではこの攻撃は回避できない。

 

決まる。

 

「モッシィィイィイイイイイ!!」

 

ヒトモシは頭上の火体を投球するようなモーションでメガルカリオに向けて放った。

内部で爆発を繰り返す巨大な火球がメガルカリオを吞み込んだ。

 

直撃だった。

 

“はじけるほのお”は命を焼き尽くさんばかりに燃え上がり、フィールド全体を茜色に染め上げる。

【はがねタイプ】のメガルカリオにはこの攻撃は効果抜群だ。

 

行ける。

 

タクミがそう思った次の瞬間だった。

 

突如、その炎の中からメガルカリオが躍り出た。

 

「え…………」

 

メガルカリオの全身が赤黒く染まりあがっていた。全身を走る黒いラインが赤く変色し、その全身を巡る“波導”が稲光のような燐光を放つ。四肢の金属製の突起は真っ赤な光を放ち、毛並みの先から火の粉が舞う。

 

メガルカリオは確かに炎の中に呑まれていた。

 

呑まれていたはずなのに……

 

「バウァアアアアアァァアア!!!」

 

メガルカリオは一切怯むことなくその炎を振り切った。

 

「モッ…………」

 

攻撃の挙動は変わることなく、大上段に振り上げられた“ボーンラッシュ”は一瞬でヒトモシに振り下ろされた。

 

ヒトモシが地面に叩きつけられる。激しい地鳴りと共に砂ぼこりがあがる。

 

「モッ!!!」

 

その砂ぼこりの中に青い炎が見えた。ヒトモシの意識はまだある。

タクミはすかさず指示を飛ばした。

 

「“おにび”!!」

 

もうダメージを与えることは諦めた。だが、次につなげる為に少しでもメガルカリオの動きを封じる。

 

ヒトモシの指先が動き、土煙の中に複数の青い炎が浮かび上がった。

それらは瞬時に四方に飛び去り、メガルカリオを中心に半球状の包囲網を作り上げた。

例え土煙で視界が悪くとも、ヒトモシのワザの操作技術は衰えない。

 

大振りの攻撃の後隙目掛け、“おにび”がメガルカリオ向けて殺到した。

 

逃げ道はない。

 

だが……

 

「メガルカリオ!“はどうだん”!!」

「バウッ!!」

 

メガルカリオが胸元に“波導”を集め、それをその場で放った。

凝縮された赤黒い“波導”がルカリオの胸元で爆散する。

そこに込められていたエネルギーが暴風のようにフォールド全体を揺らし、その衝撃が“おにび”を消し飛ばした。

 

「うそ……だろ……」

「モッシ……」

 

ヒトモシは既に動けない。

横たわるヒトモシに向け、メガルカリオは足を振り上げた。

 

「“ボーンラッシュ”」

「バウワッ!!!」

 

足先に複数の“ボーンラッシュ”が現れ、鎧のように組み上がる。

メガルカリオはそれを踵落としの要領で振り下ろした。

再び粉塵があがり、ヒトモシの姿がその中に消える。

 

「…………くそ……」

 

判定を待つまでもなかった。

 

既に砂埃の中でヒトモシの青い炎が消えていた。

 

粉塵が収まり、コンコルドがヒトモシの姿を確認し、フラッグが掲げられた。

 

「ヒトモシ、戦闘不能。メガルカリオの勝ち!」

 

タクミはヒトモシをボールに戻し、自分の額にコツンと当てた。

 

「ごめん、ヒトモシ……何もさせてやれなかった」

 

だが、“はじけるほのお”は確実に当たった。

メガルカリオの毛並みは煤に汚れており、ダメージは確実に入っている。メガルカリオは“波導”をより暴力的に進化させていることもあり、防御能力はそれほど高くない。決して無視できるダメージではないはずだ。

 

まだ勝機はある。

 

「頼む、ゴマゾウ!!」

「パォン!!」

 

ゴマゾウのメインウエポンは【いわタイプ】の“ころがる”と【こおりタイプ】の“こおりのつぶて”だ。だが、ゴマゾウにもこの日の為に切り札を用意してきた。

 

それが、タクミが考えうるメガルカリオに対する唯一の勝ち筋であった。

 

対メガルカリオにおいて、キバゴではメガルカリオの得意な中近距離戦闘に対して近距離戦しかできない点で荷が重い。フシギダネでは圧倒的なスピードの攻めに対して足のハンデが大きすぎる。ヒトモシは全体的にワザの初動が遅く、決定打を与えるのは難しいと思っていた。

 

だけど、このゴマゾウなら。

 

こいつなら……

 

「勝つぞ。ゴマゾウ」

「パォッ!!」

 

短く、鋭い返事。

 

タクミは奥歯を食いしばり、頬を歪めて笑ってみせた。

 

「試合開始!!」

「ゴマゾウ!!“こおりのつぶて”!!」

「パォン!!」

 

ゴマゾウはその場で“こおりのつぶて”を瞬時に発射し、すぐさま丸くなって急発進した。

 

「“ボーンラッシュ”で迎え撃つよ!!」

「バゥッ!!」

 

メガルカリオは“ボーンラッシュ”を2分割し、双棍にして“こおりのつぶて”を迎撃する。“こおりのつぶて”は視認できる速度ではないのだが、メガルカリオは当たり前のように打ち落としていく。氷の欠片が瞬時に塵に変わってはじけ飛ぶ。

 

「ゴマゾウ!!もう一度だ!!」

「パォン!!」

 

ゴマゾウはフィールドを走り回って位置を変え、再度“こおりのつぶて”を発射する。

やはりそれも全て迎撃されるが、ここまでは想定内。

 

ゴマゾウはメガルカリオが“こおりのつぶて”を対処している間に再び移動。メガルカリオを中心に円を描くように動き回りながら、もう一度“こおりのつぶて”を打ち込もうと停止した。

 

「ルカリオ!こっちも前に出るよ!!“ボーンラッシュ”!!」

「バウワッ!!」

 

ゴマゾウが足を止めた瞬間だった。

メガルカリオが“ボーンラッシュ”を投擲してきた。

 

「ゴマゾウ!!下がれ!」

「パォッ!」

 

ゴマゾウがバックステップで後ろに飛んだ直後、その場に“ボーンラッシュ”が突き立った。

投げ込まれた“ボーンラッシュ”は十字にクロスした形状になっていて、もし一瞬でもゴマゾウの動きが遅ければ“ボーンラッシュ”がゴマゾウの身体を地面に縫い留めていた。

 

メガルカリオに対して足を止めたらそれだけで終わる。

 

戦慄するタクミに対してコルニは攻め手を緩めない。

 

「ルカリオ!一気に接近!!近距離戦に持ち込む!!」

「バゥゥアアアッ!!」

 

ルカリオが地面を蹴る。そして、次の瞬間にはゴマゾウの正面に移動していた。

先程のヒトモシ戦でも見せた超高速移動だ。

 

だが、“はじけるほのお”で体力を削られている今の状態ではトップスピードでは動けていない。

その動きならばタクミも反応できる。

 

「ゴマゾウ!!“ころがる”だっ!!」

「パォォン!!」

「“はっけい”!!」

「バウワッ!!」

 

メガルカリオが踏み込み、“はっけい”を放つ。

それをゴマゾウは丸まった身体で辛うじて回避した。

“はっけい”の指先が、球体となったゴマゾウの身体を滑り、空を切る。

 

ゴマゾウは一気に加速し、メガルカリオの足に一撃をかました。

 

「ッッッ!!!」

 

相性の都合上、たいしたダメージはない。だが、大事なのはメガルカリオが次の攻撃に移ろうとした瞬間の出鼻を挫いたことにある。

 

その一瞬でゴマゾウは一気に加速した。

 

先程までの“こおりのつぶて”を発射する為に速度を落としていた回転とは違う。

ただ、ひたすらにスピードを追い求め、野山を駆け回り、自分より馬力のあるサイホーン達に果敢に挑みに続けていた頃のフルパワーの加速だ。

 

フィールドに砂ぼこりを巻き上げながら、縦横無尽に駆け回るゴマゾウ。

 

いくら相性が悪かろうと、その最大まで加速した“ころがる”の威力はバカにならない。

 

「ルカリオ!!ゴマゾウを止めるよ!“はどうだん”!!」

「バウワッ!」

「ゴマゾウ!左からくるぞ!!」

「パォォンン!!」

 

ルカリオの両の手から次々と放たれる“はどうだん”。

だが、“はどうだん”はゴマゾウの後方に着弾し、まるでゴマゾウを捉えられなかった。

 

「よしっ!!」

 

タクミが小さくガッツポーズをする。

 

1つ、予想が当たった。

 

“はどうだん”は相手の“波導”を読み、動きを先読みするからこそ外れないとされる。

だが、メガルカリオがいくら相手の動きを読んだところで、ゴマゾウのトップスピードの計算が狂えばその攻撃は当たらないのだ。

 

何せこのゴマゾウはレース上がり。

 

バトルの為に育てられたゴマゾウとはそのスピードは一線を画する。

 

「えっ、今の当たらないの!?ルカリオ!相手が速い!回り込んで!!」

「バウワッ!」

 

コルニはこのままゴマゾウに好きに加速させるのは危険と判断した。既にかなり加速が乗っており、遠距離攻撃の“はどうだん”を当てたところでその勢いはもう止まらないと考えたのだ。だったら、前に回って強引にでも足を止めさせる。

 

メガルカリオは持ち前のスピードでもってゴマゾウの前に立ちふさがる。

 

「“ボーンラッシュ”!!」

「バウッ!!」

 

メガルカリオは足を踏み込むと同時に、長い“ボーンラッシュ”を出現させた。

攻撃の初動とワザの初動を同時に行い、“ボーンラッシュ”完成と同時にゴマゾウに叩き込む算段だ。

 

今度はゴマゾウの加速を計算に入れたドンピシャのタイミング。

 

だが、この速度でも『後出しジャンケン』ができるのがこのゴマゾウなのだ。

 

「ゴマゾウ!ドリフトだっ!!」

「パォッ!!」

 

ゴマゾウが生きてきたのはコンマ1秒以下のスピードの世界。

そこで自分より体格のあるサイホーンとの競り合いに勝ってきた。

そんなゴマゾウにとってはこのスピードは対応範囲内だ。

 

ゴマゾウは“ボーンラッシュ”が触れる直前に、キレのある体重移動で僅かに身体を滑らせる。

 

メガルカリオの目からはゴマゾウの“波導”が突如変化したように見えたであろう。先読みしていたはずの未来が急激に変化し、“ボーンラッシュ”が空を切る。

 

ゴマゾウは再度メガルカリオの足に一撃を加えて離脱する。

 

「っ……やるね……」

「バウッ……」

 

2度も同じ方法で出足を挫かれたメガルカリオの目にフラストレーションが溜まっていた。

熱くなってくれればそれはタクミの思う壺であった。前のめりになってくれればより付け入る隙が増える。

 

だが、ことはそう簡単にいかなかった。

 

「ルカリオ!あのスピードを無暗に追ってもダメ!集中!!」

「…………バウッ!!」

 

メガルカリオがその場に足を据えた。

 

その瞬間、再び場の空気が変わった。

 

荒々しく滾っていたルカリオの“波導”が収束していく。メガ進化の影響で、外に漏れでる程に増幅されていた“波導”が鎮まっていき、全てがメガルカリオの体内へと集まっていく。

衝動と本能を抑え込み、波導と脈動を操り、力の全てを一撃に込める。

 

刃のように研ぎ澄まされた“波導”が身を切るような殺気となって放たれる。

 

タクミは身体に鳥肌が走るのを感じた。

 

コルニはゴマゾウに対して先手を打つことをやめた。

メガルカリオはゴマゾウの“ころがる”を真正面から受け、それを叩き潰すつもりなのだ。

 

「………………」

 

タクミは舌打ちしたいのをグッとこらえた。

 

実はフィールドにはフシギダネが埋めた地雷式の“やどりぎのタネ”が埋まっていた。“波導”を読むメガルカリオにはそんなものお見通しであろうが、ゴマゾウが足を弾いて動かすことで強引に踏ませられる可能性はまだ残っていた。

 

だが、今足を止められたらその可能性はない。

本当はもう少しダメージを重ねたかったが、こうなってはもう他に取る手段はない。

 

「……やるしかない……」

 

そのタクミの小さな呟きが聞こえたのか、ゴマゾウが更なる加速を見せた。

妨害されることなど考えない、全力全開の回転でゴマゾウの身体をトップスピードまで押し上げる。

 

回転が風を裂き、メガルカリオに静止させられた空気に風を送り込む。

 

『静』と『動』がぶつかりあい、フィールドの緊張感が極限まで高まった。

 

「……ゴマゾウ!!“ころがる”だっ!!!」

「パォォオオオオオオ!!」

 

フルスピードまで加速したゴマゾウが標的をメガルカリオに定め、突進していく。

 

「ルカリオ!!構え!!」

「バウッ!!」

 

メガルカリオの左手に“波導”が収束し、赤い光を放つ。

 

ゴマゾウが土煙を上げながら迫る。

ルカリオが大地を蹴る。

 

ゴマゾウが最後の力を振り絞り、ルカリオの胸の中心目掛けて飛び跳ねる。

ルカリオの掌底が風切り音を鳴らしながら振り切られる。

 

ゴマゾウの回転とルカリオの掌底が激突した。

 

轟音が鳴り響いた。

 

衝撃が風となり、フィールドの砂を巻き上げる。

 

ルカリオの掌底がゴマゾウを受け止めていた。

だが、ゴマゾウの回転は止まらない。

 

ルカリオの赤い“波導”がゴマゾウのに押されて散り散りになっていき、ゴマゾウの回転がその掌底を削り取る。摩擦熱でルカリオの毛並みが燃えあがり、ルカリオの腕が震えた。

 

「パォォオオオオオオォォオオオオオオオオ!!!」

「バゥアアアアアアァアアアァァァァァアア!!!」

 

気合の裂帛が相手を押し返さんと放たれる。

 

そして、次の瞬間。

 

 

 

ゴマゾウの回転が止まった。

 

 

 

「バゥ……」

 

メガルカリオが息をつく。

 

 

 

刹那

 

 

 

タクミの指示が飛んだ。

 

「ゴマゾウ!!“しぜんのめぐみ”!!」

「パゥゥアアアアアアアッ!!!」

 

ルカリオが顔をあげる。その時には既にゴマゾウは口の中に隠していた『キーのみ』を鼻先に掲げていた。

 

それは旅のトレーナーなら持っていて当たり前の『きのみ』。どこにでもあり、タクミも以前ダーテングの森でも貰ったこともある。これは昨日ポケモンセンターで買い求めた『きのみ』だが、問題はそこじゃない。

 

“しぜんのめぐみ”というワザは持っている『きのみ』を消費して放つワザだ。

 

このワザは使う『きのみ』により威力とタイプが変化する。

 

『キーのみ』を使ったワザのタイプは

 

 

 

【じめんタイプ】

 

 

 

ゴマゾウの本来のタイプと同じタイプであり、なおかつメガルカリオの弱点。

 

“ころがる”の間は別のワザは挟めない。だが、相手にワザを止められたらその限りではない。

 

だから、タクミは初めから“ころがる”は相手に接近する手段として割り切った。

メガルカリオに接近し、ゴマゾウの回転を止めさせ、そこに真の切り札を叩き込む。

 

「いけぇぇぇぇえええええええ!!!」

「パォォオオオオオオォォオォ!!!」

 

鼻先に掲げた“しぜんのめぐみ”をゴマゾウは至近距離で叩き込んだ。

 

桃色と土色が交じり合った閃光がルカリオの胸元で爆発する。

 

ゴマゾウはその場から後方に飛び、着地する。

 

「パォ……パォ……パォ……」

 

荒い息を繰り返すゴマゾウ。

 

こちらも、全力疾走の“ころがる”を最大威力の“はっけい”で迎撃されたのだ。ダメージは大きい。

 

だが、それ以上に戦果をあげることができた。

 

「ゴマゾウ、よくやった。これで……これでっ!!」

 

タクミは巻きあがる戦塵へと目を向ける。

その中にメガルカリオの立ち姿が浮かんでいた。

 

「倒れろ、倒れろ倒れろ倒れろっ!!!」

 

願望が口をついて出る。祈るように拳を握る。目尻に涙が浮かびそうだった。

 

持ちうる手札は全て切った。

自分の考えうる全てを使い切った。

 

 

 

これで勝てなければ……

 

 

 

「バゥアアアアアアァアアアァァァァァアア!!!」

 

メガルカリオの咆哮が轟く。

 

「えっ…………」

 

メガルカリオが放つ赤い“波導”が戦塵を吹き飛ばす。

砂煙の中からいまだ目に強い光を宿したメガルカリオが現れる。

 

右の手掌は火傷のように擦り切れ、胸の中心の毛並みが乱れ、全身の毛先は焼け焦げたように縮れていた。

 

だが、その四肢の力は健在。全身を流れる黒い模様からは“波導”が溢れ、全身からは再び荒々しいオーラが漏れ出ていた。

 

メガルカリオが地面を踏みしめる。

 

ズン

 

という振動がタクミの腹に響いた。

 

「ルカリオ!“インファイト”!!!」

「バゥアアアアアア!!!」

「ゴマゾウ!逃げろ!“ころがる”だ!!」

「パゥァッ……」

 

ゴマゾウが丸くなろうとする。だが、圧倒的に動きが鈍い。

メガルカリオが眼前に迫り、動き出そうとするゴマゾウを大きく蹴り上げた。

 

「パォッ……」

 

それでも攻撃から身を護ろうと丸くなるゴマゾウ。

 

だが、無抵抗のポケモンなどメガルカリオにとってはパンチングボールに等しい。

 

ゴマゾウに“インファイト”のラッシュが叩き込まれる。

反撃などできるはずもなく、ただただ打ちのめされるゴマゾウ。

 

タクミも、ゴマゾウも、歯を食いしばるしかできない。

 

「フィニッシュ!!」

「バウァア!!!」

 

コルニの掛け声と共に最後の一撃が叩き込まれた。

ゴマゾウが吹き飛び、タクミの脇を抜け、フィールドの壁に叩きつけられる。

 

タクミは俯き、ただ判定を待つ。

 

もうゴマゾウが戦えないのは誰よりもタクミ自身がわかっていた。

 

「ゴマゾウ、戦闘不能。メガルカリオの勝ち!よって勝者、ジムリーダーコルニ!!」

 

メガルカリオが勝利の遠吠えを放つ。

コルニが勝利を喜ぶ歓声をあげる。

ジムの門下生からまばらな拍手があがる。

 

それをタクミは悔し涙に震えながら聞いていた。

 

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