ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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『才能』なんて言葉はいらない

ジムで過ごす日々が3日、4日と続いていく。そして5日目ともなれば初日の筋肉痛は消えており、次第に身体の方も慣れだしてくる。だが、体力というものは1日2日で急激に伸びてくるものでもない。全身の打撲や炎症も1つ治ってはまた1つ新しいものが増える。足裏の肉刺は潰れた翌日には新しい肉刺が同じ場所にできていく。今日も今日とて全身に痛みを抱え、1週遅れにされながら早朝ランニングを走り切り、丸太の前で『たいあたり』を繰り返す。

 

練習場の片隅でひたすらに丸太に『たいあたり』を続けるタクミとポケモン達。

 

タクミはヒトモシの“サイコキネシス”に補助を頼み、その動きをキバゴやクチートが真似し、更にそれに合わせてゴマゾウやフシギダネが自分なりに『たいあたり』を改良していく。彼等の中でタクミを中心に統一感が現れてきていた。『たいあたり』の質も少しずつ上昇しており、音も『破裂音』と呼んでも差し支えない段階まできていた。

 

「…………やめっ!!」

 

いつも通り型の稽古が終わり、『ポケモン組手』が始まる。

だが、タクミはコンコルドから許可を取り『たいあたり』を続行していた。

 

「よし、10セット目!!」

 

コンコルドはその成り行きを遠目に見つめながら、眉間に皺を寄せた。

午前錬の終わりの時間が訪れてもタクミはまだ『たいあたり』を続ける。

 

「……ふぅ……ヒトモシ、もっかい動画見せて」

「モシッ!」

「…………うん……ヒトモシ、もう一回お願い。動かすのは足だけでいいから。上半身は自分でやる」

「モッシ!!」

「よしみんな。もう1セットで終わりだ!出し切るぞ!!」

 

ポケモン達の返事を受け、タクミは再び丸太にぶつかっていく。

ラスト1セットなら止めるわけにもいかず、他の門下生達は引き上げて昼食のメニューへと関心を移していた。

 

その中で、コンコルドだけが、タクミの『たいあたり』を見つめ続けていた。

 

「ふぅむ……」

「おじいちゃん、どうしたの難しい顔して」

「コルニ、今は『師範』と呼べ」

「押忍!師範!……で、どうしたの?」

 

形だけはかしこまったものの、振る舞いは孫娘のまま。

コンコルドは胸の内で『修行が足りんのう』と呟き、午後からみっちりしごいてやることを心に決めた。

 

とはいえ、それを悟られるとコルニは何かにつけて回避しようとする。コンコルドは表情を変えぬまま眉間の皺の原因について話しだした。

 

「タクミじゃよ……」

「え?」

「タクミは……いや……今は良いか」

「えっ?なに?そんな思わせぶりな言い方して」

「気になるなら自分の目で確かめことだ。さっ、昼飯の時間じゃ……」

「えぇっ?なにさ……って、もうタクミの修行終わってるし……」

 

今度はコルニが眉根を寄せた。綺麗な眉の間に深い皺が刻まれたその顔はどことなくコンコルドによく似ており、血縁の力というものを感じさせた。

 

「あれ?コルニさん。どうしたんですか?変な顔になってますよ?」

 

練習場から戻ってきたタクミがそんなことを言った。

コルニはそのタクミの顔を同じ顔で睨みつけ、「なんだろ……」と呟いた。

 

「え?な、なんのことです?」

「いいのいいの。それより、タクミ君は前に格闘技とかスポーツとかやってた?」

「いえ、何も。せいぜい友達とサッカーや野球をしたりするぐらいでしたけど、それが何か?」

「別に……気にしないで」

「お、押忍……」

 

タクミもコルニも喉に骨が刺さったような顔のまま、ジムの中へと戻っていく。

 

昼食を取り、昼寝をした後、本来な午後の自主練の時間であるのだが、今日のタクミにはやることがあった。

 

「ふんふんふ~ん」

 

タクミの今日の仕事はシャワールームの掃除であった。

シャワールームは人数の割りに広々としていた。昔の人数が多かった頃の名残だろう。今となっては全員が同時に入っても余裕がある。シャワーは6機あり、奥にはタイル張りの大浴場もある。昨日の夜は疲れてシャワーだけで済ませてしまったが、今日こそはどっぷりと肩まで温まってやる。タクミは気持ちよく風呂に浸かる未来を想像しながら熱心にデッキブラシを動かした。

 

大人数が使うシャワールームは確かに広いが、ポケモン達と一緒にやればそう大変でもない。タクミはホロキャスターからお気に入りの音楽を流しながら、ヒトモシとフシギダネの力を借りて掃除していく。

 

ちなみに、こちらのシャワールームは男性用であり、女性用の方はもっとこじんまりしているらしい。そちらは『おかみさん』がポケモンと一緒に毎日掃除しているとのこと。

 

「ふぅ、これでよし!」

 

水垢を綺麗に洗い流し、排水溝の髪の毛も捨て、綺麗になったシャワールームを見ながらタクミは満足そうに頷いた。

丁寧にこなしたので少々時間がかかってしまったが、ある意味でいい休憩時間になった。

 

タクミは掃除道具を片付けて、ヒトモシを頭に乗せ、フシギダネを胸元に抱きかかえて大広間に戻っていった。大広間で休憩しているはずのキバゴ達を連れて午後の練習だ。

 

そんな時、ふと広間の中から人の声が聞こえてきた。

ただ、それは『声』というより『叫び』に近いものであった。

 

『アチャー!!アチョー!!キェェィヤァァァア!!』

『コジョォォオオオ!!コジョッ!!コジョォォ!!』

『アチャチャチャチャチャチャチャァァアアア!!!』

「ん?……あ……」

 

大広間に置いてある大画面テレビ。

 

そこに門下生が2人程並んで映画を見ていた。背景からしてポケモン界で撮影された映画だろう。黄色いスウェットを着た男性がヌンチャクを持ち、ルカリオと一緒にド派手なアクションで敵をなぎ倒してシーンであった。

午後は自由時間なのでポケモンの休息もかねて映画を見ているのは何の問題もない。

 

問題があるとすれば、そのテレビの真ん前の位置を陣取り、間抜け顔でかぶりついているタクミのキバゴである。しかもその両脇にはクチートとゴマゾウを従え、一番いい席を占有していた。

 

いくら上下関係が厳しくないからと言って自分のポケモンが先輩たちを押しのけていい席を抑えているのには流石に看過しかねる。かといって、クライマックスシーンに割って入ってキバゴ達をどかすのもどうかと思う。

 

どうしたものだろうか?

 

ただ、音楽の盛り上がり的にみてもおそらくラスト数十分だろう。もうすぐ終わるのだからちょっと見ていこうかと思い、タクミは皆から少し離れた場所の椅子に腰かけた。

 

映画では主人公とルカリオのコンビが悪役とコジョフーのコンビとの最終決戦に挑んでいた。主人公とルカリオが入れ替わり立ち代わり格闘技を繰り出していく様は確かに見ものであった。カンフー映画特有の早回し映像とキレのある動きは良い意味でハッタリが効いていて劇団のサーカスを見ているように心地いい。ルカリオと主人公が“ボーンラッシュ”を受け渡しながら交代で連撃を加えていくシーンは芸術的ですらある。最終的には主人公が悪役をKOして警察に引き渡し、約束をすっぽかされたヒロインとの追いかけっこで終わるという、なんともコミカルな映画であった

 

「ふぅ、やっぱり、ポップ・リーが主役の映画はいいなぁ。アクションシーンの切れが違うよ」

「キバキバ!キバキバァ!!」

「おっ、キバゴもわかるか?」

「キバァ!!キバァ!!」

「その動きは前半の格闘シーンか。確かにあそこはやられ役と主人公の呼吸が絶秒だもんな」

 

いつの間にか先輩達と意気投合しているキバゴである。

熱心に語り合う彼等は放っておくとして、付き合わされたクチートとゴマゾウはどうだろうかというと、こちらもそれなりに楽しんでいるようであった。

クチートは映画というものを始めて見たのか、最後のエンドロールまで見入っており、ゴマゾウはNGシーンを見ながらケラケラと笑っている。

 

「なんていうか、みんなキバゴに趣味趣向が似てきたよね」

「ダネダ」

 

『俺は違うぞ』と言いたげなフシギダネの頭を撫で、タクミは彼等が映画を止めたところで声をかけた。

 

「みんな、トレーニングに行くよ」

「おろ?タクミ君も見てたのか、こっちに来れば良かったのに」

 

ポケモン達だけでなく先輩達も驚いて振り返ったところを見るに、随分と映画に夢中になっていたようだった。

 

「いえ、今来たとこです。ラストシーンだけしか見れてないんですよ」

「そうなのか?しかし、君のところキバゴは随分と映画が好きなんだな」

「あははは、地球界では映画を見るのがこいつの一番の楽しみでしたからね」

「キバァ!!」

 

諸手をあげて同意するキバゴをタクミは手招きする。

 

「そうなのか、ここのHDにはいろんなアクション映画が入ってるからな。自由に観ていいぞ。練習熱心なのもいいが、適度な休息も大事だからな」

「押忍!!『良鍛良休』ですね!」

「そうだ。あっ、タクミ君。ついでだし『たいあたり』がどれぐらいできるようになったか俺達が見てやろうか?」

「いいんですか!?」

 

タクミはここしばらくはカケルとタイミングが合わなかったこともあり、ほぼ一人で稽古を続けていた。

動画があるので然程大きく動きがズレているとは思わないが、そろそろ他の人から指導も欲しいところであった。

 

「ああ、俺達も午後練に行くところだしな」

「そうそう、それに5日目になってもやめる気配のない貴重な後輩だからな。大事にしないと」

「あははは……」

 

5日目になってもまだ逃げだす心配をされているあたり、このジムの門下生がどれ程辞めやすいのかを物語っていた。

 

タクミ達はお茶菓子を片付け、道着を締めなおして外の練習場へと移動していった。

 

「それじゃあ、行きます……」

 

タクミはいつも通りに丸太の前に立つ。

今回は先輩達が見ていることもあり、ヒトモシの補助はなしだ。

タクミはキバゴ達と共に横並びになり、ヒトモシに合図を任せた。

 

その時、ふと通りかかったコンコルドが足を止めた。

 

「ふむ、午後錬か?」

「し、師範!?お疲れ様です」

「えっ!?」

 

タクミが驚いて振り返るとコンコルドはルカリオとバシャーモを連れて立っていた。

 

「師範!?どうしてここに?」

「砂浜でコルニの奴に修行をつけておってな。今その帰りじゃ」

「なるほど……」

 

耳を澄ませば遠くからコルニがポケモン達と一緒に砂浜ダッシュをしているような声が聞こえる。どことなく師範への恨み言のような声も混じっているようだが、それらは波と風の音に呑まれて判然としなかった。

 

「さて、タクミ。修行の成果を見せてもらおうか」

「お、押忍!!」

 

一瞬、タクミの背中に嫌な汗が流れた。

 

コンコルドに見られた上での『たいあたり』。

ここに来て5日間。ひたすらに繰り返してきた練習の成果があがっていなければ、これまでの時間を無駄にしていたことになる。

 

ポケモンリーグ挑戦までの日数を計算すれば、このジムで修行が行える期間は長くて2か月だ。

それを過ぎれば期日までにバッジを8つ集めるのがかなり厳しくなる。

その中での5日間は非常に貴重なのだ。

 

それを無にしないためにタクミは腹をくくる。

 

「……ふぅぅ……はぁぁ……」

 

大きく深呼吸をつき、全身の力を抜く。

緊張は当然ある。だが、ポケモンバトルと一緒だと思えば余計な強張りも取れてくる。

 

タクミは構えを取り、すり足で立ち位置を調整する。

ヒトモシに目配せを送ると、ヒトモシの頭の炎が一際強く燃え上がった。

 

「モッシ!!」

 

合図に合わせ、タクミは地面を蹴りぬいた。

次の瞬間、強烈な破裂音が轟いた。

 

ポケモン達とのも合わせて合計4つの音が一糸乱れぬまま重なり、激しい音となって響き渡る。

タクミはすぐさま距離を取って再び丸太に向き直る。

 

「モッシ!!」

 

ヒトモシの合図と共に再び前に出る。

足先が地面を掴み、足裏が大地を抉る。

そうして産まれた突進力を踏み込みと同時に叩きつける『たいあたり』。

 

たった5日間ではあるが、寸暇を惜しんで鍛え続けたその動きは何も考えずとも正確な姿をなぞることができる。それでも完成にはまだ遠い。体幹がぶれる、筋肉の動きも揃っているわけではない、蹴り足の力も踏み込みの位置も改良の余地はいくらでもある。

 

だが……

 

「ふむ……」

「おぉ……」

「スゲ……」

 

 

タクミの『たいあたり』は経験者から見ても8割方完成していた。

 

「…………思った通り……良い姿勢じゃの」

 

コンコルドが小さな声でつぶやく。

門下生である2人もタクミの『たいあたり』の完成度に息を飲んでいた。

 

未経験者が『たいあたり』を覚えるにあたり、本来であればここに至るまでに最低でも2週間はかかる。

タクミがヒトモシの“サイコキネシス”を補助に使っているのは既に門下生を含めた皆が知っていることであったが、その程度で簡単に上達できるものではない。その証拠に、過去にアサナンを連れたトレーナーが似たようなことをしたが、それでもコンコルドから許しが出るまで10日はかかった。

 

下半身の突進力をエネルギーのロスなく上半身に伝えるというのは簡単なようであまりにも難しい。

 

ヒトモシの合図と共に5回目の『たいあたり』を繰り出したタクミを見ながら先輩達がうめき声に似た感嘆の声を漏らした。

 

「うわ、今のいい動きでしたね……」

「タクミ君、格闘技経験とかないんでしょ?……天才ってやつでしょうかねぇ」

 

だが、その意見をコンコルドはバッサリと切り落とした。

 

「いや、タクミは天才なぞでははない」

「え……」

「『天才』というものが『産まれる前から天が与えた才能』だというのなら、タクミにそんなものはない」

 

コンコルドは今までに幾人もの格闘家とトレーナーを両立している人間に出会ってきた。彼等の中には本物の天才と呼ぶべき人物がいた。だが、タクミにその類の才能がないことは一目見た時からわかっていた。

 

「じゃあ、この成長の速さは一体……」

「それは、あやつの目じゃよ」

「目?」

「うむ」

 

タクミは7回目の『たいあたり』に入る。

足の筋肉を意識し、腰に力を込め、姿勢を動かさぬようにぶつかっていく。

既にコンコルド達の話し声など聞こえていない。見えているのは目の前の丸太のみ。

まさに、集中力の塊であった。

 

「タクミはずっと動画で筋肉の動きを注視しておった。筋肉の動きを観察して研究し、ヒトモシを用いて再現をさせていた」

 

コンコルドがタクミの『たいあたり』の練習風景を覗くと、彼は何度も動画を確認して、その動きの細部まで目を光らせていた。足、腰、腕の大きな筋肉の動きを覚え、ヒトモシに細かく指示を出しては修正を繰り返す。その類稀なる観察眼が練習の質を大幅に上昇させていた。

 

「あ奴は……他人が歩いたり走ったりする身体の動きに対して人一倍敏感なのじゃ。他人の身体を注意深く見る『癖』がその目に染みついておる。」

「『癖』ですか?」

「うむ。その『癖』は確かに『才能』かもしれんが。それは決して天から授けられた贈り物(ギフト)などではない」

 

タクミの10回目の『たいあたり』

 

全てを出し切るつもりで繰り出した一撃は一際大きな音を轟かせた。

 

タクミは息を切らしながら、鋭い目つきでコンコルドを振り返った。

コンコルドはそんなタクミに向け満足そうに頷いた。

 

「タクミ!今より次の修行に進むことを許可する!!」

「押忍!!!ありがとうございます!!」

 

タクミの返事と一緒にポケモン達も頭を下げる。

 

「お前ら、タクミに型を教えてやれ」

「押忍!!」

 

コンコルドがそう言って背を向けた途端、後ろから歓声があがった。

 

「やったぞみんな!!」

「キバキバァ!!」

 

タクミがポケモン達に飛びつかれながらはしゃいでる様子が背中越しに伝わってくる。

 

コンコルドはニヤリと笑い、コルニの様子を見に砂浜へと足を延ばす。

 

「よっし、15本目終わり……みんなお疲れ~」

「バウッ!!」

「くあぁ~……疲れたぁ~……」

 

コルニが大の字になって砂浜に寝転がる。

すると、すぐさまコルニのポケモン達もその横に倒れ込み、瞬く間にコルニはポケモン達に囲まれてしまう。

 

そんな孫娘を見ながら、コンコルドは胸の中で呟く。

 

もし、トレーナーに『天才』なんてものがいるとしたら、それはとても単純なことだ。

それは、ただ『ポケモンに好かれる者』というだけだ。

 

コンコルドは大きく息を吸い込んだ。

 

「こらぁぁっ!!コルニ!!ダッシュを終えた後はすぐにクールダウンに入らんか!!」

「うわっ!!おじいちゃん!!いつの間に……おっす!今やります!!」

「まったく……」

 

コンコルドは鼻息を激しく噴き出し、踵を返してジムへと戻っていった。

 




最新作についてタクミのパートナーにインタビュー その3

・フシギダネさん、新しい御三家の草タイプの後輩ができたわけですが、もうお会いしましたか?

「ニャオハのやつだろ……お調子者で困ってるよ……ったく、何かにつけて絡んできやがって。せわしなく動き回るから面倒見るこっちも忙しくてしゃぁねぇ。この前なんか手品を覚えたとかで披露してたけど、間違って毒素のあるキノコを呑み込んで真っ青になってたぞ……お前に胞子は無毒だろうが……はぁ、気苦労ばっか増えやがる……」

 

溜息が増えるフシギダネさんにお茶をおごる約束をして今回のインタビューは終了
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