ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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遅くなりました。

おそらく察することができるとは思いますが、ハイラル地方へ行ってました。
いえ、それだけなら別になんとかなったはずなのですが、CIV6という電子麻薬を購入したのがまずかった。もうなんか色々そっちのけで寝不足になる日々を過ごしてしまった。

とにもかくにも、頑張って書いていきます。
どうか生暖かい目で見守ってください


ではでは本編へ




人もポケモンも進化しなければならない

フィールドに立った青いドラゴン。“いしあたまポケモン”のタツベイは『試合開始』の合図と共にすぐさま仕掛けた。

 

「タツベイ!!寄るぞ!!」

「タツ……」

 

タツベイが腰を落とす。

 

次の瞬間、強烈な蹴り足が地面の土を巻き上げた。

一直線の強烈な加速。そのスピードはメガルカリオには遠く及ばないが、同じ【ドラゴンタイプ】のキバゴよりも速い。

 

タツベイというポケモンは総じて強靭な足腰を持っているとされている。

空に憧れ、飛び立つことを夢見て走り回り、自然のうちに鍛えられるのだ。跳躍の為の足回りをダッシュ力に転換したタツベイのスピードは決して侮れるものではない。

 

だが、相手はそのスピードの権化。

 

体力を削られた上でなお、メガルカリオの方が圧倒的に速い。

 

「こっちも行くよ!!ルカリオ!“ボーンラッシュ”」

「バウワッ!」

 

メガルカリオが光る棍棒を取り出し、タツベイを迎え撃つ。

 

「タツベイ!!“ずつき”」

「……タッ……ツ!!!」

「ルカリオ!打ち返して!!」

「バウッ!」

 

タツベイがメガルカリオに向けて頭から飛び込んだ。だが、あまりにも直線的な攻撃だ。メガルカリオは的確に“ボーンラッシュ”でそれを迎撃する。

 

「タツ………」

 

タツベイは頭部を“ボーンラッシュ”で殴られ、ダッシュの勢いを殺された。

頑丈な頭部ではそこまでのダメージはないものの、メガルカリオに攻撃が届かない。

 

「タツベイ!何度でもだ!周り込んで“ずつき”だ」

「タツ……」

「いいね!!受けて立つよ!“ボーンラッシュ”!!」

「バウッ!!」

 

タツベイが再び頭部からメガルカリオに突っ込み、メガルカリオがそれを撃ち返す。

その度に激しい打撃音が響き渡り、火花が飛び散る。いくら頭部が頑丈とはいえ、何度も打ち返されればダメージは免れない。それでもなおタツベイはメガルカリオの懐を目指して突き進む。フェイントを入れ、左右に揺さぶり、“ボーンラッシュ”をかいくぐろうと必死に身体をねじ込んでいく。

 

そこに勝機があると言わんばかりだ。

 

タクミの手に汗が滲んだ。

 

タクミはこのジムに来て休憩時間には常にメガルカリオのビデオを観て研究を進めていた。だが、タクミにはわからなかった。龍之介がタツベイに執拗なまでの“ずつき”を繰り返す作戦に勝機があるとはとてもじゃないが思えなかった。

 

だけど、龍之介には見えているのだ。

 

彼のコジョフーやゴーリキーのバトルを観れば、彼が対策を練ってここに来たことは間違いない。龍之介にはタクミが見つけることができなかった勝ち筋を見出しているのだ。

 

だが、このシャラジムのジムリーダーはその目論見通りに事を運ばせはしない。

 

「ルカリオ!タツベイを引き剥がして!!」

「バウッ!!」

 

強烈な一撃が見舞われ、タツベイが吹き飛ばされる。

 

「追撃!“はどうだん”」

「バァァァァゥウゥゥワァァァァァ!!!」

 

メガシンカ前と比べて一回り巨大な“はどうだん”が仰向けに飛ばされたタツベイを直撃した。

 

「タッ……ツ…………」

 

激しい衝撃波と爆風。その中からタツベイがはじき出され、フィールドに叩きつけられた。

度重なる“ボーンラッシュ”と先程の“はどうだん”により既にタツベイは満身創痍だ。

それでもなお、タツベイは歯を食いしばって起き上がった。

 

「タツベイ……やるぞ」

「……タッ……ツ……」

 

相手に背を向けることなく、メガシンカを真正面に見据えて立つタツベイ。

それを見て、コルニが興奮したように声をあげた。

 

「なかなかやるね。いいね。熱くなってきた!!ルカリオ!!こっちから行くよ“ボーンラッシュ”!!」

「バウッ!!」

 

メガルカリオが駆け出す。だが、やはりメガルカリオにも多少なりともダメージはあるようだった。先程と比べてダッシュが遅い。瞬間移動と見間違わんばかりだった突進力は落ち、確実にその動きが視認できる。

 

タツベイはそれに立ち向かおうと腰を深く落とした。

 

そして……

 

タツベイと龍之介の眼がギラリと光った。

 

「………タツベイ!!“かえんほうしゃ”!」

「タァァァツゥゥ!!」

 

一閃

 

フィールドを業火の如き炎が横切った。

 

「バウッ!?」

「しまっ……」

 

直撃だった。

 

攻撃態勢に入っていたメガルカリオでは“ボーンラッシュ”でのガードも間に合わず、その炎に一気に飲み込まれた。フィールド全域に広がる熱気が上昇気流を作り、観客席まで風を吹き上げた。

 

「…………まさかの特殊ワザ」

 

マカナがそう呟く。彼女は強風に煽られても微動だにしていない。

タクミの方は熱風を浴び、思わず後方に飛びのいたところだった。

 

「……くっ!あっつ!!」

「……接近戦は……布石だったみたい」

「だね!実際、僕も意識から抜け落ちた!!」

 

それは心理的隙だった。

ワカシャモという近距離格闘戦の直後に“ずつき”を繰り返すタツベイを出されたら、近距離戦主体の戦い方だと思うのが普通だ。

 

だからこそ、コルニとメガルカリオの反応が遅れ、“かえんほうしゃ”の直撃を受けたのだ。

 

だが、炎一発で倒れる程にはメガルカリオは甘くない。

 

“かえんほうしゃ”の直撃から数秒。炎の中からメガルカリオが飛び上がった。その毛並は毛先が焼け焦げ、頬は燃えカスで汚れている。それでもなお、メガルカリオは瞳を欄々と輝かせて宙を舞った。伸ばした“ボーンラッシュ”で棒高跳びのような挙動で、タツベイの頭上を取る。

 

タツベイはそのメガルカリオの姿を追い、もう一度口を開いた。

それに対し、メガルカリオは“ボーンラッシュ”で防御の姿勢を取る。

 

“ボーンラッシュ”は【じめんタイプ】だ。メガルカリオの技量をもってすれば、“ボーンラッシュ”で【ほのおタイプ】の攻撃を散らすことは容易い。例えメガルカリオが空中で身動きが取れなくとも“かえんほうしゃ”程度なら確実に防ぐ。

 

このまま再び中近距離戦へと持ち込まれれば。満身創痍のタツベイではもう距離を取れない。そうなればコルニの勝利は決定的になる。

 

 

 

 

そう、次弾が“かえんほうしゃ”であれば、の話だが。

 

 

 

 

「……タツベイ……“りゅうせいぐん”」

 

その指示が飛ぶとほぼ同時にタツベイの口腔内が青紫色に光り輝いた。口の中で燃えているのは炎ではい。【ドラゴンタイプ】のエネルギーの塊。

 

「タァァァツゥゥゥゥゥ!!!」

 

タクミもショウヨウジムで一度経験した“りゅうせいぐん”。

最高峰の破壊力を持つ【ドラゴンタイプ】。

特殊ワザの最強格だ。

 

タツベイが放った“りゅうせいぐん”はあの時のジム戦と比較しても遜色のない威力だった。

タツベイの口から放たれた“りゅうせいぐん”は隕石状のエネルギー弾と化して、メガルカリオへと襲い掛かった。

 

「……ッ!!!」

 

1発目の隕石は弾き飛ばした。2発目は“ボーンラッシュ”で辛うじて打ち返した。だが、3発目が腹部に命中した瞬間に形勢が決定した。体勢を崩したメガルカリオの身体に次々と“りゅうせいぐん”が突き刺さり、メガルカリオが宙へと打ち上げられる。

 

「バウッ………」

「ルカリオ!!」

「タツベイ!!とどめだ!“かえんほうしゃ”!!」

「タァツゥゥ!!」

 

再び放たれた放たれた“かえんほうしゃ”が更にメガルカリオを頭上へと打ち上げた。

メガルカリオは数秒に渡る滞空時間を経て地面へと叩きつけられた。

 

「ルカリオ!!」

 

コルニの呼び声が響く。

 

一瞬の静寂。

 

そして、虹色の光と共にメガルカリオのメガシンカが解除された。

 

「メガルカリオ戦闘不能!!タツベイの勝ち!!よって勝者、チャレンジャーリュウノスケ!!」

 

観客席から拍手が起こる。

龍之介に勝利の声はない。

ただ、彼は無言でタツベイをボールに戻し、小さく息を吐きだしたのだった。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

 

ジム戦を終え、龍之介にはこれ以上この場に留まる理由はない。

彼は受け取ったバッジをすぐに懐に仕舞いこみ、立ち去るつもりであった。

 

だが、そう簡単にはいかなかった。

 

「おい!聞いてるのか!?認めないぞ!なんで俺が!?」

 

砂の道を前にして龍之介はマカナ相手に声を荒げていた。

そのマカナは既に麦わら帽子をかぶり、旅立ちの支度を済ませていた。

 

龍之介の次に目指すジムがマカナと同じ【ノーマルタイプ】のジム。

それならばと、マカナが龍之介の旅路に同行を申し出たのが始まりだった。

 

「……私と一緒なら……道案内できる……お得」

「そんなもの地図があればどうとでもなる!!次のジムまでお前と一緒に行くなんてまっぴらだ!!」

「……じゃあ……勝手についていく……」

「ふざけるな!!なんで俺がお前と!?俺は仲良しこよしで旅を楽しんでる余裕はないんだ!」

「……私も別に……龍之介に……楽しいお喋りは期待してない……無理だろうし」

「ぐっ……」

「……でも……バッジ3つのトレーナーと毎日バトルできるのは大きい……相手が龍之介でも我慢できる……それに……私の知るメガガルーラの情報……欲しくないの?」

「…………………」

 

龍之介から反論の言葉は出てこない。

ただ、喉の奥に詰まった百万語を噛み潰すような不穏な歯ぎしりだけが聞こえてきていた。

 

相変わらず人を自分のペースに乗せるのが上手いな。

 

と、タクミは他人事のように思いながら苦笑いを浮かべていた。

 

龍之介が言い渋る間に、マカナはジムを振り返り、旅立ちの挨拶をした。

 

「……皆さま……一晩お世話になりました」

 

マカナは見送りにきた門下生や『おかみさん』達に頭を下げた。

コンコルドはそんなマカナに向けて柔らかくほほ笑んでいた。

 

「うむ。次は挑戦者としてくるがよい」

「……はい……メガガルーラの後にでも……」

「君の戦い方はコルニにとっても良い勉強になる。歓迎しよう」

「……恐悦至極です」

 

そして、マカナはタクミに抱かれたクチートの頭をワシャワシャと撫でた。

 

「……またね……」

「クチ!」

 

『次はバトルしよう』

 

マカナがそう言いたそうにしていることをタクミは察する。

そして、おそらくクチートもそれを察した。

だが、クチートはもう項垂れることはしなかった。

 

「クチ!!」

 

クチートは握りこぶしを作り大きく頷いた。

 

「…………うん」

 

マカナはもう一度クチートの頭をクシャリと撫でた。

 

「…………よし……龍之介……行くよ」

「お前を待ってるんだ!!」

 

龍之介は言った直後にすぐに踵を返して、砂の道へと向かっていった。本気でマカナの同伴が嫌ならば待たずにさっさと出発してしまえばいいのに。こうして彼女を待っていたのだから、龍之介も律儀というか、真面目というか。

 

「……じゃあ……タクミ……またね」

「うん、また」

「次も勝つ」

「うっせ。これで1勝1敗だ」

 

タクミはそう言って鼻を鳴らした。

マカナはそんなタクミを鼻で笑い、揺れるような足取りで龍之介の後を追っていった。

 

本土へと戻っていく2人の背中。

2人分の足跡が砂地に刻まれ、2人は次の町へと向かっていく。

先を行く2人を前に、自分はここに留まったまま。

 

「アキもこういう気持ちだったのかな」

 

タクミの手に力が篭りそうになる。

その瞬間、タクミはすぐさま足を踏み出し、真正面に正拳突きを叩き込んだ。

自分の中の迷いを拳に乗せて殴り飛ばす。

 

タクミは静かに息を吐き、そのまま基本の『型』の動きを始めた。

隣のクチートもタクミの感情を察したのか、その場でタクミの動きに同調する。

 

打ち込み、突き上げ、蹴り上げ、振り下ろす。

 

強く踏み込む。足先が砂埃を舞い上げた。

全身の突進『たいあたり』の力を足先で踏みとどめ、その威力を臍下でもう一度溜め込む。その力を背中から肩、腕、拳へと乗せて叩き込んだ。

 

空気を打つ乾いた強い音がした。

 

タクミは大きく深呼吸をした。

 

「すぅー……ふぅー………」

 

気持ちを落ち着けるための深い呼吸。

足を両肩の広さに開き、意識を集中する。

全身の意識を臍下に一度集め、そして再び広げていくように指先の力を抜いていく。

身体の脱力が凝り固まった感情を解きほぐす。

 

この残心までこなしての『型』だった。

 

胸の内の余計な感情を鎮めたタクミは微笑を浮かべてクチートを振り返った。

 

龍之介のジム戦はタクミのジム戦とそう大きく違いはなかった。

 

『最初の2体をできるだけ最小限の犠牲で倒し、メガルカリオに全力を注ぐ』

『相手の意識を別の方向に逸らし、隠し玉の一撃を叩き込む』

 

違いはただ一つ。

ポケモンの練度。

 

「……クチート……また少し『組手』しようか?」

「クチ」

 

タクミはいつものようにメガルカリオの動きを再現し、クチートへと相対していく。

脳裏には先程見たばかりのメガルカリオの動きが染み付いている。ヒトモシの補助がなくともタクミの一撃一撃は普段のものよりも一段と鋭い。

 

タクミはクチートとの『組手』を終え、そのままモンスターボールを放り投げてキバゴやフシギダネとも『組手』を行っていく。

 

今日の『組手』は誰もが熱がこもっていた。

 

キバゴの一発が重い。フシギダネのムチ捌きのキレが良い。クチートも動きが随分と積極的だ。

攻防の中で触れ合う皮膚から火傷するほどの熱が伝わってくる。何度も『組手』を繰り返し、タクミのゆったりとした動きは次第に加速していく。キバゴやフシギダネもそのスピードに合わせるように速度が乗っていく。次第に過激になっていく『組手』の中でタクミの拳がキバゴを捉え、フシギダネを蹴り抜く。それと同じようにタクミもキバゴやフシギダネに手痛い攻撃を差し込まれる。

 

打ち身と擦り傷だらけになりながら、滝のような汗を流し、それでもタクミは『組手』を繰り返す。

ゴマゾウは熱に乗せられるように砂浜でランニングへと行ったきり戻ってこない。ヒトモシの頭の炎は皆の気合いを燃料にしているかのように煌々と燃え上がって周囲を照らしていた。

 

日が暮れた後もヒトモシの炎に照らしてもらいながらひたすらに時間を積み上げる。足裏の肉刺が潰れようと、腕の肉が腫れあがろうと、タクミは気にしない。というか気にならなかった。脳の奥から噴き出たアドレナリンが痛みを忘れさせていた。

 

夢中になって『組手』を続け、最後にキバゴのアッパーカットに対してカウンターを叩き込んだ。

 

「キバッ………」

「しゃぁっ!!……ハァ、ハァ、ハァ……ハァ……」

 

キバゴとタクミはその場に仰向けに倒れ込んだ。

 

フシギダネは少し離れた場所で腹這いになって休んでる。

ヒトモシは度重なる"サイコキネシス"と頭の炎で疲弊して溶けた蠟燭のようになっていた。

ゴマゾウはいつの間にか戻ってきて荒い息でひっくり返っている。

クチートはそのゴマゾウのお腹に顎を乗せ、背中を預けていた。

 

誰しもが全てを使い果たしたかのように倒れていた。

 

晩御飯の時間など既に過ぎている。ジムの方からまだ明かりはついてるから消灯時間にはなっていないだろう。

 

だが、もう時間などどうでも良かった。

自分の心臓の音とポケモン達の呼吸を聞いている今の時間がとても気持ち良かった。

 

「……はぁ……ほんとに……」

 

タクミは自分の手を空に向けて伸ばす。

星空が輝く空は馬鹿げているほどに澄んでいた。

 

そんな時、ふとホロキャスターの着信音がした。

辺りを見渡せば、給水ボトルの横にタオルと共に置かれた自分のホロキャスターが友人からの着信を告げていた。

 

タクミはヨロヨロと起き上がり、ホロキャスターを手にとって石段に腰掛けた。

 

「よっ、ミネジュン」

「タクミタクミタクミ!!聞いてくれよ!!勝ったぜ勝った勝った勝ったぁっ!!!」

 

思わずホロキャスターを遠ざけてしまうほどの大声量。

何の話かを詳しく聞くまでもない。

 

これで、ミネジュンも難関と言われる3つ目のバッジを手に入れたのだ。ミネジュンは隠しきれない興奮のままにバトルの内容を事細かに伝えてくれるのを聞きながら、タクミは汗で冷えた道着を脱ぎ捨てた。

 

タクミは話を半分程度聞き流しながらも時折相槌を挟んで聞き役に徹した。

 

そのうち、キバゴ達がフシギダネの指示のもとジムへと撤収していく。本当はクールダウンしなければいけないのだが、フシギダネに任せておけばその辺も大丈夫だろう。

 

タクミはすっかりリーダー役が板についたフシギダネにアイコンタクトを送り、そのままミネジュンと話し込んだ。

 

しばらく話を聞き続けて一区切りついたら、今度はミネジュンの質問ターンだ。

ミネジュンはタクミの学ぶ『型』に強い興味を持った。

 

まぁ、男なら誰でも好きだ。

 

「すっげー!じゃあ、タクミはもう拳法家なのか!?カンフー使えるのか!?」

「あれってカンフーじゃなくて、本当の呼び方は功夫《クンフー》らしいよ」

「えっ!?そうなの?」

「うん、練習とか鍛錬とか訓練の蓄積のことなんだって。だから、今の僕は『功夫を積んでる』って感じ」

「へぇ~っ!!でも、ヤバい!タクミと喧嘩したらもうかなりヤバい!?」

「喧嘩は……まぁ、確かに」

 

喧嘩の為に教わったものじゃないので、あまり気乗りはしないのだが少なくとも相手より先に拳を正中線に叩き込める自信はついてしまった。

 

「でも、それって本当なら【かくとうタイプ】に活かす為のトレーニングなんだよな?他のポケモンに活かせるのか?」

「まぁ、キバゴの攻撃力が上がったのは確かだよ」

「うへぇ、ただでさえキバゴの攻撃きっついのに、まだ攻撃力上がるのかよ」

「次は会うときを楽しみにしといてよ」

「なぁに『当たらなければどうということはない』ってやつよ。俺のスピードについてこれねぇさ」

 

確かに、先のミネジュンのジム戦の話を聞く限りまたもやスピードが上がっているようだった。

 

「っていうかさ、キバゴ以外のポケモンの役に立つのか?」

「まぁ、さっきも言った通り、メインは『対メガルカリオ』の動きの研究だからね。それと、『組手』で防御技術を培って粘り強く戦うことで、レベルアップしている手応えはある」

「へぇ……でも、勿体なくね?せっかく『型』を覚えたのに使えないなんてさ」

「まぁ……フシギダネは"つるのムチ"で少し恩恵があるけど」

 

とはいえ、フシギダネ、ヒトモシ、ゴマゾウはあまりにも身体の構造が違う。『型』を使った攻撃はなかなかに難しい。

クチートはいいのだが、正直に言えばクチートは手足を使った攻撃はあまり使わない

タクミとしては少し勿体ないとも思っているが、ほとんど精神修行と割り切っていた。

 

「でもさ、この先はどうなんよ?」

「先……ね……」

 

フシギダネが進化して成長すれば主力ワザは"つるのムチ"ではなくなる。

キバゴも進化してオノノクスになれば、手足を使った打撃は使わずに顎を用いた攻撃に変わる。

 

今の『型』を使った攻撃は使わなくなる

 

ここでの修行をもっと有効に使いたい気持ちはある。

だが、なかなかに難しいというのが現実だった。

 

「だってさ、『格闘技を使うポケモン』って絶対に強いぜ!!せっかくなんだからなんなないのか?技一個でいいからさ!」

「技か」

 

ポケモンの『ワザ』ではなく、格闘技の『技』

 

「そういうのないか聞いてみろよ!もしかしたら役に立つかもしれねぇぜ!!」

「そうだね、師範にちょっと話してみるよ」

「そうそう!何事も行動が大事だぞ!!」

「へぇへぇ、肝に銘じときますよ」

 

タクミはその後、少しばかり当たり障りのない話をして通話を切った。道着を肩に担ぎ、ジムへと戻っていく。時計を見れば消灯時間まではまだ少し余裕があった。

 

自分では徹底して特訓したつもりだったが、思ったほど追い込んでいたわけではなかったようだった。こういうのが一人で鍛えるということの難しさであった。

 

タクミはシャワーを浴びて、水を飲みに食堂へと上がる。

 

食堂にはいつものようにトレーニングを終えた先輩方がたむろしていた。ビデオ機材から取り出したHDが繋がっているところを見ると今日のジム戦の研究会でもしていたようだった。とはいえ、研究の時間は既に終わってテレビ画面は既にアクション映画になっていた。

 

先輩方は何度も見た映画なのか、目線も耳も半分程度しか注目していない。彼等の意識はもっぱら手元の携帯端末にあった。その中でテレビを熱心に見ているのはやはりタクミのポケモン達。キバゴ達は画面前の一番良い空間を5匹で陣取っていた。

最近では最早見慣れた光景だった。

 

「おう、タクミ。冷蔵庫の中に『おかみさん』がお前の分の晩飯用意してくれてるぞ」

「おぃっす、あざまぁす」

 

2週間過ごしたことでタクミの先輩に対する態度も随分と気の抜けたものになっていた。

 

タクミはキッチンの大型冷蔵庫の中を覗き込む。食材が所狭しと詰め込まれ、その間を縫うように1人分の食事がラップに包まれて置いてあった。

タクミはそれを取り出して、食堂に運ぶ。せっかくなのでタクミも映画が見える席を陣取った。

 

流れていたのは地球界で撮影された映画だった。日本でも有名なアクションスターが放つカンフー映画。この俳優が作る映画はあまり人死がないので、子供から大人まで楽しめるような作品だった。コミカルかつスピーディなアクションが次々と繰り出され、その度にキバゴの声援やクチートが息を呑む音が聞こえてきた。

 

「いただきます」

 

タクミは手を合わせて、一人で黙々とフォークを進めていく。

アクション映画特有の打撃音をBGMにしながらも考えることはやはり先程のミネジュンとの会話だった

 

オノノクスに進化した時、攻撃の手段は手足から顎に変わる。

そうなった時にも使える「技」があればいいのだが、格闘技というものは頭部を正中から動かさないのが基本なのだ。

 

頭が動けば体幹が揺れる。体幹が揺れれば力が逃げる。力強い打撃を放つには頭はできるだけ同じ軸にあるべきなのだ。頭を振って攻撃するオノノクスとはあまりにも相性が悪い。

 

「頭を揺らす格闘技なんて聞いたことないしな………」

 

タクミはそう独り言《ご》ちる。

晩御飯を食べ終え、食器を洗って食堂へと戻ってくると映画もいよいよクライマックスのようだった。

 

『ふははっ、『川は時に船を運び、時に船を沈める』か。お前にそんな力はないっ!!』

 

悪役がそう言い放ち、奮起した主人公がラストバトルに挑んでいく。

主人公が身体のリミッターを外し、驚異的な身体能力で次々と打撃を繰り出していく。

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

ゾクリ、と

 

肌に粟がたった。

 

 

 

 

 

「…………………あった……」

 

 

 

 

タクミがそうつぶやく。それが聞こえたのか、キバゴが画面から目を放した。

タクミとキバゴの目が合う。タクミはキバゴが自分と同じことを考えていることを悟った。

 

タクミはすぐさまコンコルドに直談判に向かった。コンコルドは普段はマスタータワーの一室で寝泊まりしているらしく、タクミはジムを飛び出し、月明かりに照らされたマスタータワーを駆け上った。消灯時間ギリギリであったが、コンコルドは快くタクミに応じてくれた。

 

「はぁっ、はぁっ、師範!すみません、こんな遅くに」

「ふっ、構わんよ。タクミが思いついたら即行動する人間だということは良く知っている」

「きょ、恐縮です。それで1つ、教えて欲しいことがあるんです!!」

「うむ、言ってみよ」

「押忍!!実は…………」

 

そして、タクミは自分の『思いつき』を話した。

それを聞き、コンコルドは一瞬だけ唇の端を緩めたが、すぐさま眉間の皺を一際深いものにした。

 

「…………うむ……結論から言うと……可能じゃ」

「本当ですか!?」

「ああ……しかし、生半可なことじゃないぞ」

「覚悟はできてます」

「…………今後、君のバトルが大きく変わる決断だ。バトルスタイルが歪めば致命的になりかねない。ものになるのにも時間もかかる。それでも、やるか?」

「……はい……」

「……地方旅を諦めることになってもか?」

「はい」

 

即答だった。

 

夜闇に浮かび上がるタクミの横顔。今のタクミの視線の先にジムバッジは見えていなかった。ましてや、『地方旅』でのポケモンリーグ出場のことすら度外視していた。

 

なぜなら、タクミが真に目指している場所は『チャンピオン』ただ1つ。

その為ならば例え1年を棒に振ってでもここで新たな力を手に入れるつもりだ。

 

その覚悟を見て、コンコルドは今度こそ口角を釣り上げてニヤリと笑った。

 

「よかろう!しかし、わかっていると思うが。これまで通りとはいかんぞ」

「押忍っっ!!!!」

 

タクミの声がマスタータワーに響き渡る。

 

 

翌日。

 

朝のトレーニングをこなしたタクミは昼食を終え、昼寝もせずにすぐさまマスタータワーへと向かう。そこから夕食まで一度も戻ってくることなく、夕食の後も消灯時間ギリギリまでマスタータワーに引き篭もる。

 

そんな日が、1日、2日と続き、1週間になり、2週間になる。

 

タクミのジムで過ごす時間が刻々と増えていく。

 

それでもタクミはコルニに挑むこともせずに修行へと明け暮れ続けた。

 

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