ポケットモンスター 夢のカケラを追いかけて   作:からんBit

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Side school 学友は仲間でライバル その2

いざ初めての冒険へ。

 

だが、ことはそう簡単ではなかった。

 

0泊3日なら『冒険』というよりは『旅行』のようなものだ。

準備そのものは短期入院の準備とそう変わりはなく、森の奥に入るつもりもないので重装備も必要ない

鞄に最低限の着替えと捕獲用のモンスターボールときずぐすりなどの治療具を詰め込めばそれで充分だ。

 

だから、問題はそこではなかった。

 

問題となったのはアキの両親だった。

 

「野生のポケモンに直接襲われたらどうするの!?」

「車椅子が横倒しになったり、動かせなくなったりすることだってあるんだぞ!」

「まだ歩くリハビリもできてないのに、そんな危ないことしないでちょうだい!」

「行きたい気持ちはわかる。わかるから、行くなとは言わない。誰か大人のトレーナーに付き添いをお願いしよう」

 

 

反論の許されない2時間にもわたるお説教。

 

久しぶりだった。

 

両親の気持ちはわかる。心配なのも当たり前だし、過保護とは思わない。実際に『野生』という場において私の身体は危険が高い。

 

ただ、私は教師やレンジャーといった大人達と一緒に行くのは気が進まなかった

 

 

 

 

私は足が動かない。だから危ない。

 

 

 

 

そんなことはわかっている。頭ではわかっている。だが、心はそうはいかないのだ。

 

家の中で他の子達が遊ぶ声を聴きながら何度走り回る夢を見たことだろうか。

テレビの中に映る広大な景色を前に何度自分の足を殴りつけただろうか。

何度この足を恨んだか、何度この足を嘆いたか。

 

この足のせいで数え切れない程に涙を流してきた。

 

それでも、ようやくここまで来たのだ。車椅子という限定的な環境ではあるが、自分の意思のまま、自由に行動できるところまで来たのだ。

 

これでやっと私は私の『夢』が見えるところまで来たのだ。

 

私の『夢』

 

町を出歩いて、学校に通って、ポケモンバトルをして……そして……『旅』をして、ポケモンリーグに挑戦して、タクミと肩を並べて、バトルをする。

 

それが私の『夢』だった。

 

『ポケモンリーグに出る』という目的はある。それも『夢』の一部だ。

だが、私にとってはその過程の全てが『夢』なのだ。

 

一時は絶対に届かないと思っていた『夢』なのだ。

 

だから、今回の『旅』は胸が躍った。タクミ達の『地方旅』には程遠いけど、これは間違いなく私にとっての『旅』なのだ。野生のポケモンと出会い、自分のポケモンを鍛えるという『夢』の一部だ。

 

だからこそ、私は私の『旅』を大切にしたかった。

子供達だけで線路の上を歩いて冒険に行くような、そんな『旅』がしたかった。

 

 

 

 

 

それが私の我儘だ。

 

 

 

 

 

そして、私に『我儘』を言う資格はない。

 

 

 

 

わかっていたことだった。

 

そうでなくても両親には散々迷惑をかけてきたのだ。

私は色々と注意事項や約束事を大量に聞きながら(大半は私が今まで学んできた内容の焼きまわしだったが)、タクミならなんと言うだろうかと考えていた。

 

『危ないからダメだ』と否定するだろうか。

『僕が同行するならいいけど』と戻ってきてくれるだろうか

『いいじゃないか、楽しんできなよ』と手放しで喜んでくれるだろうか。

 

そこまで考えて、私はため息を吐いた。

 

きっとタクミは難しい顔をしながら、『わかった。気を付けて』と言うだろう。

不安も心配も全部押し殺して、私の決断を尊重してくれる。

 

それが無責任と言う人もいるかもしれない。

私が欲しい言葉をかけているだけだと思われるかもしれない。

 

だけど、タクミはそういう人なのだ。

 

最後の最後には私の決断を信じて後押ししてくれる。

そういう気遣いばっかりする人なのだ。

 

その気遣いにずっと甘えてきた身には、こうした両親のお説教をはなかなかにきつい罰であった。

 

 

結局、大人のトレーナーが同行することを条件に両親は許可をしてくれた。だが、試験が近づいていることもあり、『旅』は今週末しかタイミングがない。そんな突然の『旅』に同行してくれるトレーナーを見つけるのはなかなか至難の業になりそうだった。

 

 

 

と、思っていたのだが……

 

 

 

「それでは皆さん!乗船しましょう!」

 

青い空の下、川岸で穏やかな微風を浴び、白い船を目の前に、私達の『旅』の水先案内人がとびっきりの笑顔で待っていた。

 

柔らかなパーマのかかかった金髪。

大きな丸メガネ。

青いツナギと巨大なリュックサックがトレードマークのトレーナー。

 

ミアレジム、ジムリーダーのシトロンさんがそこにいた。

 

アキが病院で遠隔で授業を受けていた時から電子機器の調整で良くお世話になった人であり、この町でアキのことを良く知る1人でもあった。

 

誰も文句のつけようのない人選であった。

 

彼の前に整列した私達。シトロンさんはそんな私達を大きく見渡した。

その直後、私は勢いよく手をあげた。

 

「シトロンさん!質問です!!」

「はい、アキさん。なんでしょう」

 

シトロンさんはニコニコとした顔のまま、アキを指差した。

 

「今日はありがとうございます。それで、ユリーカちゃんは来ないんですか?」

「はい、今日はユリーカはお留守番です。お父さんの仕事の手伝いでコボクタウンに一緒に行っています」

 

続いて、ミーナが手を上げた

 

「はい、シトロン先生!」

「はい、ミーナさん、なんでしょう」

「来てくれてありがとうございます。でも、ジムは良かったんですか?」

 

ミーナがそう言うとシトロンは困ったように頬をかいた。

 

「あー…………実は今、ジムはお休みしているんですよ。ちょっとしたトラブルで……」

「え?そうなんです?でも、プリズムタワーはいつも通りでしたけど」

 

ミアレジムのあるプリズムタワーは町の中心にある大きな電波塔だ。

ミアレシティの有名なランドマークであり、カロス地方の名所の一つでもある。

その塔は昨日も今日も輝かしい光を放っていて、特に問題があるようには見受けられなかった。

 

「いえ、電波塔としての役割はお父さんが別回路で動かしているので問題ないんです。問題は、ジム戦の方でして……あ、いえ、この話はいいんです。またにしましょう」

「はい、シトロン先生!」

「はい、ナタリーさん、なんでしょう」

「アキは今回電動車椅子使ってますけど。これってシトロンさんなら改造できます?」

「できますけど……やりません。変に手を加えて、事故が起きたら大変ですから。その分、今の車椅子で可能な範囲でポケモンゲットを目指せるよう僕がフォローします」

「はい……シトロンさん……」

「はい、トマ君、なんでしょう」

「……ジム戦してください」

「それは、また日を改めて予定を立てましょう。今回は『旅』に集中します。他に質問はありませんか?」

 

手はあがらなかった。

 

「それでは、出発しましょう!」

 

シトロンの音頭に合わせ、アキとミーナとナタリーの腕が高く上がった。

トマだけは眼鏡をクイッと動かしただけだったので、ナタリーに小突かれたが。

 

「おい、トマ。ノリ悪いぞ」

「……それを僕に期待してますか?」

「してねぇよ。してねぇけど、旅の間にお前のノリが悪けりゃこうしてアタシが小突き回す」

「やめてください」

 

そう言いながらもトマはナタリーとじゃれつきながら船へと乗り込んでいった。

アキも電動車椅子のレバーを倒して、乗船する。アキが動きだすと、シトロンは自然とその後ろに立って車椅子のフォローをしてくれた。アキはそんなシトロンに頭を下げた

 

「ありがとうございます」

「いえいえ、これぐらい」

「いえ、そうではなくて……今回の『旅』の引率を引き受けてくださって……」

「おぉっと!待ってくださいアキさん!」

 

シトロンはそう言って大げさな仕草でメガネを光らせた。

 

「僕はあくまでも皆さんの『旅』の同行者です。『保護者』でも『引率者』でもありません」

「…………え?」

 

それを言われ、アキは目をパチクリとさせた。

 

「僕も少しフィールドワークには行きたいと思っていましたから。今回のお話はまさに『渡りに船』でした。なので僕も『旅』の一員です。それに、僕と皆さんはそれほど歳も離れてませんし、皆さんがよろしければ『旅』の仲間と思っていただければ僕も嬉しいんですが……」

「はい……はい!ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします……ですので、アキさんから前の皆さんに『シトロン先生』はやめてくれるよう言ってくれませんか……どうにもこそばゆくて」

 

シトロンはそう言って頬を染め、身もだえる仕草をした。

アキはクスクスと笑いながら、「後で言っておきます」と伝えた。

 

「……あの、シトロンさん」

「はい、なんでしょう?」

「……その……ありがとうございます」

 

3度目の礼。

 

その意図するところを察し、シトロンは今度こそ「いえいえ、どういたしまして」と返した。

 

「僕もわかりますから」

「え?」

「子供だけで『旅』をしたい、という気持ち……僕も……よくわかります」

 

シトロンはそう言って少しだけ遠くに目を向けた。

それは、何かを懐かしむような、遠くに行った友人を想うような、そんな瞳だった。

 

「『旅』は良いですからね……」

 

含蓄のこもったそんな一言が零れ落ちる。

シトロンの瞳は水面の揺れる光を映し、輝いていた。

 

「アキさん。この『旅』いいものにしましょう」

「はい!!」

 

そんな時、一番乗りで乗船したミーナが声をあげた。

 

「アキ!シトロン先生!甲板に行ってみましょうよ!!」

「うん!!でも、荷物置いてからにしようよ!」

「ミーナさん、『先生』はやめてください~……」

 

そうして始まった旅は(つつが)なく進んだ。

 

だが、その全てがアキにとっては初めての経験だった。

 

クルーズ船の甲板で浴びる風も、眼下を流れていく川の飛沫も、どこからか飛んできた青い花びらも、その全てが新鮮だった。

 

「あぁ……気持ちいい……」

 

アキにとって『世界』というものは病院と自宅しかなかった。

大きな手術の為にそこに『ポケモン界の病院』が増えた。

『ミアレシティ』が増え、『プラターヌ研究所』が増え、『ポケモンスクール』が増えた。

 

そして、今日アキは『旅』を自分の『世界』の中に加えたのだ。

 

これと同じ空の下をタクミも、ミネジュンも、マカナも歩いてきた。

同じ場所ではないけれど、同じことをしている。

 

アキはようやく友人達に肩を並べることができたように感じたのだ。

 

その後は、そのまま流れる景色を眺めたり、青空の下で勉強会を開いたり、シトロンを質問攻めにしたりと楽しい時間を過ごした。そうこうしているうちに日が暮れ、夕飯を取り、アキ達は4人部屋へと戻ってきていた。

 

今回の船旅は客が少なかったようで部屋は空きが多く、アキ達が抑えた4人部屋は3人で使うことができた。ただ、トマとシトロンは個室ではなく大部屋で雑魚寝をするとのことだった。

トマが言うには『他人と同室なんて絶対に無理。だったらまだ割り切って大部屋の方がマシ』とのことだった。

 

「いやぁー食べた食べた……」

 

ビュッフェ形式の船上レストランで腹を膨らましたミーナがベッドに倒れ込んだ。

 

「ミーナすごいね。船酔いとか怖くないんだ」

「ぜーんぜん平気だよ。カロスの船はあんまり揺れないからそうそう船酔いしないんだから。というか、アキ全然食べなかったけど大丈夫なの?」

「いや、結構食べたよ。もうお腹いっぱい」

 

アキはそう言って自分のお腹を撫でる。

肉も脂肪も薄い腹周りのせいで、少しばかり指を押し込めば膨れた胃の感覚が指先に触れた。

それ程までにアキの身体は薄い。

 

そんなアキにナタリーが眉をひそめた。

 

「アキはもうちょと食べた方がいいんじゃないのか?」

「そうかな……そうかも」

 

だが、車椅子生活のせいで身体のエネルギー消費が極端に少ないのだ。

なんなら場合によっては食事は朝夕だけで十分だと思えることもある。

むしろ今日は食べ過ぎたぐらいだったのだが、それでも一般的な女子からしても小食らしい。

 

「んっと……アキはシャワーどうする?」

「この旅の間はやめとく。タオル濡らしてきてくれる?」

「了解ッと、ベッド移るよね。手貸そうか?」

「ありがと」

 

アキは身体を支えてもらいながら片足で立ち、ベッドの端に腰を下ろした。

何気ない動きであるが、『片足で立つ』という行為ができるようになったのはつい最近の話だった。

 

長い年月使ってこなかった足の筋肉がようやく『立つ』という当たり前の機能を取り戻しつつある。ここまで来るのも大変だった。リハビリをいくらこなしても、遅々として成果は得られない日々の中でようやく得られた進化。

 

この『片足立ち』を披露した時の両親の喜びようは輪をかけて大きかった。一時は『二度と立てなくなる』と言われていたのだ。両親からすれば奇跡の一端のように見えてだろう。

 

それでも、義足を使って『歩く』という段階までは回復していない。

 

まだまだ先は長いのだった。

 

アキはお湯で湿らせたタオルを受け取り、2人がシャワーを浴びに行くのを見送った。

 

アキはベッドに腰かけ、左足に巻いた包帯をゆっくりと外していく。包帯を外していくと、その下から足を保護するカバーが現れた。半透明の足のカバーを外す。

 

「……んー……やっぱりちょっと蒸れるね」

 

白い肌にミミズ腫れのように走る手術痕。しっとりと湿った肌をタオルで拭い、アキは太腿を拭いていく。

 

細い腰から伸びる骨と皮だけの足。その足は『元々、膝があった場所』の10㎝程上の部位に大きな傷が走っていた。大きなリング状の傷。そこが、アキが手術をして足を切断した場所だった。

 

その傷を境に『足』が変わる。

 

肉付きも、質感も、太さも全てが変わる。

 

傷よりも下の部位。

 

アキが足を切断した場所から、『足首』が生えていた。

 

それは間違いなく本物の『足首』だった。アキ自身の『左足首』だ。『踵』も、『土踏まず』も、『足の指』も、全てそのままの『足首』。しかも、普通のつき方ではない。アキの足首は180度反転していた。『踵』が前側、『足の指』が背中側になって繋げられた足。

 

それは一見すると酷く歪なものに見えた。

 

アキはその足をなんの躊躇いもなく、タオルで拭いていく。

 

繋げられた『足首』は血が通っているようだったが、動く気配はない。筋肉はついているが、神経は繋がっていない。

 

これは決して珍しいものではなかった。

 

 

アキの病気の根源は『膝』だった。そこから病気が進行して広がりを見せていたが、薬や放射線で病気を抑え込み、『膝』だけに押し戻すことができた。

だから、切り落とす必要があったのは『膝』だけだ。そのため、アキが行った手術は『膝』の部分だけを切り落とし、『足首』をそのまま『太腿』に繋げる手術だった。

 

もちろん、足の大部分を切断しているため、短くなった左足でそのまま歩くことはできない。

 

なので、この『足首』の使い方は別にある。

これは『膝』の代わりなのだ。『足首』を逆につけることで『踵』を『膝』の代替品とする手法だった。膝が『ある』のと『ない』のとでは義足の種類が大幅に変わり、歩く機能の回復が段違いに速い。

 

『歩く』という未来がグッと近づくのだ。

 

それは、『医療の勝利』というよりも、『アキの勝利』だった。

 

長い幼少期の間に辛い治療に耐え続け、病気を『膝』に押し戻した。

痛みに泣き続けた日も、吐き気で何も食べれなくなった日も、本当に何もかも捨ててしまいたくなった日も、決して無駄にはならなかったのだ。

 

逆さまに繋がったこの『足首』は間違いなく、歩き出す為の『足』だった。

 

 

だが、何も知らない人に見せると驚かれるので普段はこうしてわからないようにカバーと包帯で隠してはいる。ただ、ここから先はそうもいかないだろう。ミーナもナタリーも夜更かしする気満々なようだったし、その間またカバーをつけるのは少々煩わしい。

 

「…………隠すことじゃないけど……あんまり見てて気持ちいものではないし……タオルで覆っておこうか……」

 

自分自身でも見た目に慣れるのに時間がかかったのだから、2人には刺激が強すぎるかもしれない。

 

「……あ……そういえば、タクミにも見せたことないか……ちょっと写真とって送ってみようかな……」

 

アキはホロキャスターのカメラ機能を使って足全体が映るように自撮りしてみる。

映った写真は足全体は撮れていたものの、前髪が変なかかり方をしていて心霊写真のようになっていた。

 

「……う……消そ消そ」

 

こんな写真を送ったら、ホラーが苦手なタクミの精神に悪い。

少なくとも、ジム戦に集中してるタイミングで送るものではない。

 

「ふぃー……さっぱりした」

「ただいまー」

 

そんな時、2人が帰ってくる。

 

「あ、おかえり」

「おう…………アキ…………え……」

「ん?………あ……」

 

2人の視線を追い、アキは自分の左足が何も隠されることなく光の下にあることに気が付いた。

ミーナもナタリーもアキの足を見て、完全に固まっていた。

 

やっぱり、初めて見る人には刺激が強かったようだった。

 

「…………その……とりあえず、説明させて」

「う、うん」

「わかった……」

 

この日、アキは友人2人に自分のことを少しばかり話した。

病気のこと、闘病生活のこと、手術のこと

かいつまんだ内容ではあったが、2人は真剣に聞いてくれた。

 

 

一通り話を終えた頃にはもう随分と夜が更けてしまっていた。

 

「そっか……大変だったんだね……」

 

ミーナがホットミルクを片手にしんみりとした様子で呟いた。

 

「うん……でも、今はもう元気いっぱいだから!!」

 

アキはそう言って両腕を掲げてマッスルポーズ(フロントダブルバイセップス)を取る。

もちろん、魅せる筋肉も脂肪もついていないのだが、笑顔だけは本職のボディビルダーにも負けないものであった。

 

「ぐすっ……ぐすっ……」

「もう、ナタリー……泣かなくてもいいじゃん」

「だってよ……そんなことがあったなんてアタシ知らなくて……」

「やめてってば~……もう、別に泣いて欲しくて話したわけじゃないんだから~……」

「ごめん……わかってる……けどよ……」

 

アキはポンポンとナタリーの背を叩く。ナタリーは目を真っ赤に腫らしながら、アキに向かって握り拳を向けた。

 

「アキ……頑張ろうな……絶対、一緒にポケモンリーグ出場しような!」

「もちろん。でも、それならナタリーはまずもうちょっと勉強しないとね」

「うん……アタシも頑張る……頑張る」

「…………も~……泣き止んでよ……」

 

アキは苦笑いしながら、ふと思ったことがあった。

 

 

 

そういえば、『頑張る』って言葉、平気になったな

 

 

 

昔はその言葉はアキにとって禁句だった。

 

アキには耐えることしかできなかった。あらゆることを耐え続け、我慢し続け、頑張り続けていたアキにこれ以上『頑張れ』という励ましはただの苦痛でしかなかった。

 

でも、いつからかアキは『頑張れる』ようになっていた。

頑張って、成果が得られるようになったからだろうか。

 

いや、違うか……

 

 

『頑張れ!頑張れアキ!頑張って、一緒に歩こう』

『アキは僕のライバルだろ。絶対にリーグでバトルしような!』

『アキ、頑張れ!!』

 

 

きっと、あの日。

タクミとポケモン界で再会したあの日。

手術に不安になっていた自分の背を押してタクミが『頑張れ』と言ってくれたあの日に、きっとこの言葉は禁句ではなくなった。

 

そんなことを思い、アキは柔らかく笑った。

 

そんな時だった。

 

ミーナが突然しみじみとした顔で言い放った。

 

「しかしまぁ、そんな辛い時期を支えてくれたタクミのことを好きになるのは仕方ないか」

「ふぇっ!!?」

 

一瞬でアキの頬が真っ赤に染まった。

 

「……タクミ?誰だ?」

「あぁ、そっか。ナタリーは会ったことなかったっけ。今のアキの過去話には1人欠けてる人がいて……タクミっていう今『地方旅』しているトレーナーで、アキの幼馴染で、アキが好きな男子で……」

「わぁーーっ!!わぁーーっ!!わぁーーっ!!」

 

突然、恋バナに発展した話題を打ち消そうとアキが声を張り上げる。

 

だが、ナタリーは既に興味津々だった。

彼女の涙は引っ込み、顔には既に好奇心が張り付いている。

もちろん、ミーナも同じだ。

 

「おやおや~ちょっとしたカマかけのつもりだったんだけど、やっぱその反応ってことは~……」

「違う!!違うから!!」

「おいっ、アキ!!なんだよ水臭い!!そのタクミの話も聞かせろよ!!いつから知り合いなんだ?どれぐらい仲良いいんだ?写真あるか!?」

「待って!!ちょっと待って!!タクミの写真見せるのは良いけどこの流れでは出したくない!!」

 

 

女子が3人寄れば(かしま)しい。

 

それはどの世界でも共通のようだった。

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