救世主っぽい個性を手に入れたぞ   作:螺鈿

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自分で選択出来ている物事なんて殆どないんだぞ

 それは雄英祭二回戦のことだった。まるで鬼が哭く様な風の中、男は入ってきた。男の名は砂藤力道。その風を哭かせているかの如き肉体を晒し、リングに降り立つ。

 

 同時に舞台に上がり、向かい合ったのは尾白猿夫。彼が持つ雰囲気がそうさせるのか、彼の周囲の風は鬼さえ哭き止むかのように凪いで見えた。

 

「証明してみせよう。力こそパワーだということを」

 

 砂藤は上着を脱ぐと、その言葉を裏付ける肉体を直に見せつける。

 

「武を舐めるなよ、砂藤」

 

 砂藤の見るからに剛健な肉体に対して、一見頼りなさげに見える尾白。しかし薄着から浮き出るその肉体美は、砂藤を前にしてもまるで不安を感じさせず、見る者の心を凪いでいく。

 

『力と武。永遠のテーマ。男は言った。戦いに、不純物は必要ない!』

 

 張り付くような緊張感を更に高めるべく声が響いた。

 

『頂の住人たりえる絶対強者か! 強きを堕とす具現者か! 青春の瞬きが此処にある!!』

 

 二人が構える。片方は余りにも愚直な、しかしむせ返る程の圧力を持った構え。対するは一点の曇りもない、しかし底が見えぬほどの深さを感じる構え。

 

 二人の緊張が頂点に達した所で、画面の音声に続いて見えざる声が響いた。応える様にぴょこぴょことよく通る声と角を添えて。

 

「砂藤 力道! 推参(推して参る)!!」

「一眼二足三胆四力……制する!!」

 

 ―――二つのスマホのディスプレイにはそれぞれの画が映っている。片方は雄英祭の公式ホームページで配信されている男二人の映像。もう片方のスマホには、男たちの言動をなぞっている少女たちを録画している画面。

 

 

 

「はい、カット。出来たよー」

「ありがとう、じゃあサイトにあげよっか!」

 

『やめろぉおおおおお!!』

 

 はしゃぐ芦戸と葉隠に絶叫する尾白と砂藤。哀れだ……

 

 

 

 葉隠さんと芦戸さんがハイライトしてるシーンは雄英祭の1場面。なんか変なスイッチ入った二人がやっちゃったシーンでもある。もちろんこの場面も全国放送されている。そして今大会で最も話題になっている。

 

 というのも実はこのシーン。小さなキッズの間で大流行しているらしい。男の子の心を絶妙にくすぐったのだろう。実際今日も通学路でこのやり取りをやってるキッズを見た。

 それ以外にも女子高生が真似してみた動画が流行ったりと何かと話題を集めている。既に2人には取材の話も来ているらしい。全く羨ましくないが。

 

 尾白くんと砂藤くんは今も手で顔を覆って机に突っ伏している。オレも一歩間違えばこうなっていたかと思うと背筋が凍る。帰りに何か奢ってあげよう。

 

「緑谷が悪い」

「ボク!?」

「初戦であんな戦いするから……」

「そうだそうだ!」

「ボ、僕なんかより全然カッコいいじゃないか! い、今から取材何てウラヤマシイナー!!」

「心にもないことを……」

「そうだねー。多分このポーズで写真お願いされるんだろうねー。羨ましいなぁー」

「う、うわぁあああ!!」

 

 再び動画を再生する芦戸さん。やめてくれ…… 動画とかいうどうあがいても客観視させてくるものはやめてくれ。あぁ、砂藤くんが発狂して頭を打ち付け始めた。彼はもうダメかもわからんね。

 

 漢・切島が尾白を励ましている。分かるよ。会場の雰囲気とマイク先生の実況で頭がやられたんだよね。男は皆君たちの味方だよ。

 

「まぁでもカッコ良かったよ! 惜しかったねぇ。優勝したらなんでも一つ言うこと聞いてあげたのに」

「からかわないでよ葉隠さん……」

 

 キャッキャしてんなぁ。特に尾白、アイツだけなんか世界観の違うノリやってやがる。具体的に言うとゲッサン的な。

 

 しかし今思えば俺ら1年の戦い何て可愛いもんだったわ。3年なんてアレだ、もう半分殺し合いだったもん。完全に世界観違ったもん。なんでも雄英の頂点たる生徒会長はあの戦いで決まるらしい。どうりで手足の1、2本気にしない位のノリと気迫だったわけだよ。いやぁ恐ろしいところに来てしまったものだなあ。

 

 砂藤くんのヘッドバットをBGMに今日も騒がしい教室で思いを馳せているとドアが開く。

 

「おはよう」

 

 担任の相澤先生が入って来た瞬間、皆一斉に席に着いてダンマリだ。訓練されてるなぁ。

 

「……さて、今日のヒーロー学は特別だ。研修に先立って、お前らのヒーロー名の考案を行う」

 

 頭から血を流す砂藤くんに何の動揺も見せないあたり、流石だと思う。周りの連中もテンションが上がって総立ちだ。しかし砂藤くん、血がまき散るから君は大人しく座ってなさい。

 

 

 

 砂藤くんを抑えつけているといつのまにか説明が終わっていた。なんでも研修があってそこからの指名があったらしい。

 

「っかー! 白黒ついたなぁ!!」

「やっぱ轟と爆豪に集まるよねぇ」

「てか尾白と砂藤も凄くね?」

「それはほら、今話題だし」

「複雑だなぁ……」

 

 1位2位は勿論、砂藤くんや尾白くんとも文字通り桁が違うものの、何とオレにも指名が入っていた。最終トーナメント1回戦負けというなんとも目立たない結果なので素直に嬉しい。

 

「意外と少ないな、スミス」

 

 触手が後ろから話しかけてきた。もう慣れたもんだが普通に話しかけてきてもいいのよ?

 

「私は来ないと思っていた」

「俺もだ。まぁお互い一回戦負けだしな。それに尾白と砂藤がおもし……票を集めているし」

 

 尾白に砂藤に、ただでさえ扱いが難しい格闘系がパイを食いあってる。珍しいケースだって緑谷くんが呟いていた。なるほどなぁ、ドンマイ。

 

「あー……例年はもうちょいバラけるんだが、見ての通り偏っている。理由はわざわざ言う気はないんだが。……尾白、砂藤」

『はい!』

「お前らのお陰で普段なら来ないところからも指名が来ている。話題性ありきとはいえ、あちらさんも期待しているってことだ。雄英としても今後も付き合いを願いたい。何処を選ぶかは自由だが、くれぐれも失礼のないようにな」

『はい!』

「お前らもだぞ。んじゃ後はミッドナイト先生に相談してくれ。特にそこの二人はメディア関係含めてな」

 

 考えタイムということでゲンドウポーズ。まぁネオを目指すオレとしてはそれ以外にないから思考はポイ。他のこと考えよ。

 

 尾白と砂藤はヒーロー名考えるの放棄してミッドナイト先生に相談してる。注目浴びすぎて怖かったんだろうなぁ。あ、泣き出した。そしてミッドナイト先生の豊満な胸に抱えられた。峰田君も泣いた、血涙で。

 

「子供なんて直ぐに飽きるわ。けど折角だから顔を売れるだけ売っておくのも手よ?」

 

 とは先生の談。そりゃそうだ。段々ノリ気になってる砂藤くんのこれからが不憫である。彼がその気になる頃にはキッズはヒエヒエかもね。

 

 

 

 そんなこんなで制限時間。発表タイム。

 

「デク」

「セロファン」

「テンタコル」

「ウラビティ」

 

 サクサクいくなぁ。気になる二人は?

 

「武術ヒーロー。テイルマンで」

「甘やかヒーロー。シュガーインパクトで」

「砂藤、お前それでいいのか? 今書き換えたんじゃ……」

「シュガーマンにしようと思ったけど被ったから」

「オレが変えようか? 拘りないし」

「いいよいいよ、オレが変えるよ」

「いやいや遠慮しなくても……」

 

 何か見えない友情が生まれてるな。これが決闘後の男の友情という奴か。どちらかというと同類相憐れむな気がするが。

 

「三済くんは何にするの?」

 

 ミッドナイト先生に促されてボードを裏返す。書かれているのは勿論コレ。

 

『ネオ?』

 

 沈黙。え、なぜ?

 

「いや、悪くはないのだけれど。なるべくならその人や個性を連想させるモノの方がいいわよ?」

 

 連想できんじゃん。いかにも救世主っぽいじゃん。

 

「お前、ネットでエージェント・スミスで通ってんぞ。そっちの方がいんじゃね?」

 

 なんですと?

 

「……なぜだ」

「そりゃプレゼントマイクがエージェントって言って、緑谷がスミスって言ったからだろ」

 

 緑谷ァ、屋上に行こうか。久々にキレちまったぜ。爽やかしようぜぇ。

 

「三済君がスミスって呼べって言ったんじゃん!?」

 

 ガタンと机を立って威圧感をMAXにすると慌てた緑谷くんがキョドる。そう言われるとそうだったわ。ゆっくりと震える肩で席に戻る。

 

「悪いこと言わないからスミスにしといたら? 悪くないわよ」

「NO!」

「じゃ、じゃあ間をとってネオスミスとか」

「……NO!!」

 

 一瞬迷った。

 

「デクくんだってあだ名じゃない。そんなに嫌?」

「ここで折れたらいけない気がするので」

「じゃあ一旦保留で。他の人から決めてきましょう」

 

 

 

 

 

 結局、名前を普通に使う轟くんや飯田くんが出た時点で、ほら見ろよ的な視線に負けて『スミス』にしました。いや、エージェントを取り除けただけオレの勝ちではないか? それにホラ、これは仮ネームだし! スミス勝利! 大勝利!!

 

「ドンマイだな。帰りになにか奢ろうか?」

 

 この後めちゃくちゃカラオケしました。

 

 

 




尾白 VS 砂藤。決まり手は砂藤の S・S・S(スペシャル・シュガー・スープレックス)。 

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