救世主っぽい個性を手に入れたぞ   作:螺鈿

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新人ってのは結果じゃないんだぞ?

 久留里 周(クルリ マワリ)。傑物高校の3年生。倍率の高いギャングオルカ事務所に選ばれ、インターンを通して卒業後も所属をスカウトされてる優秀な生徒。今はインターンたちの取り纏め役を行っている。雰囲気も実力者のそれに相応しい。キリリっとした目がいいですね。クルクルしたショートボブの髪も愛らしい。以上が現在の情報です、スミスより。

 

「マワリ先輩、緊張してますね」

「アイツ内弁慶だから。初対面だとあんなもんだな」

「しかもあの新人、顔が怖いですからね」

「下手なヴィランより怖いな」

「えぇ、1年でアレだと思うと正直恐ろしいと思う部分もありますね」

「いいか、茶化した方がいいとか思うなよ。本人は傷つくんだからな」

「え? なんの話ですか?」

「……あと10年すれば分かる」

 

 様々な機能を持つコスチューム。例えば自分なら多機能のスーツにサングラス、拳銃、通信の傍受や集音・防音の機能を持ったプラグなどだ。それらのアイテムは戦闘において多大な情報源。一見でそれらから当たりをつけ、行動を決めなければならない。個性全盛時代の戦闘においてそのスキルは必須の要素である。

 

 対峙した相手を観察する。服自体は特別な機能のなさそうな武闘派の軽装だ。腰には無数の鉄環のついたベルト。手に持つ武器はトンファー、キックなどの近接戦を警戒しなければならない。靴は何やら仕込みの在りそうな大型のモノ。ファッションなのかもしれないが、中が見えないモノには警戒するのが定石だ。

 

 雄英祭で早めに落ちたのが功を奏した。互いに個性の詳細は把握していない。しかしこちらが増強型ということは知っているだろう。相手も直ぐには攻めて来ず、警戒している。

 

 周りの人間も緊張した様子だ。自分なりの分析をし、行動のシミュレーションを計る絶好の機会。皆食い入る様に目を凝らしていた。この熱意と思考能力の高さが名門たる所以なのだろう。

 

 互いに分析を終えた。それを感じ、握った拳に力が入る。

 

「クルクルクルリっと……行くぞ、私」

 

 手慣れた様子でトンファーを回すと、彼女に死角を取られた。滑る様に一瞬で動く、しかも無音に近い。反射的に構えた腕に衝撃。想像以上の威力で反撃は出来そうにない。

 

「初見で防ぐって。ヤダなぁ、もう!」

 

 動けない自分との距離をいつの間にか空け、腰に付けた鉄環をトンファーで通すとトンファーごと回し始めた。音からして尋常ではない速度だ。アレは飛輪の一種か、ヤバイと思った時には複数の回転したリングが飛んでくる。

 

 バレットタイムの世界で飛んでくるリングを躱す。が、幾つかの輪は軌道を変えて上下左右、様々な方向から襲い掛かってきた。それらをいつもの動きで全て躱す。しかし最初に避けた輪がフリスビーのように背後から再びやって来る。躱せるか……

 

「うわぁ、自信なくすなぁ……」

 

 上手く躱せず掠ってしまった。大したダメージではないが、ちょっと驚きだ。自分の個性を正面から破られたのは初めてかもしれない。

 

 いかに弾丸をも捉えきる個性だといっても、対応能力の限界はある。複数の攻撃を死角から、しかも最後まで気付かせない一撃もちゃんと用意した連続攻撃。気付くのが遅かったり近すぎたらムリなものはムリ。ダッジディスされてしまう。

 

 流石に経験値の違いを感じる。このまま後手に回るのはよくないかもしれない。

 

 懐から拳銃を出す。デザートイーグル、最強の拳銃で有名な銃。そのデカさは知らない人でも威圧感を与える。それを躊躇いなく撃つ。

 威力を抑えたゴム弾とはいえ、 当たれば一撃で悶絶は必須。丸一日は動けないであろうぐらいの威力だ。今は弱装弾にしてるけどね。

 

「おっと、怖いなぁもう!」

 

 あっさりと射線を切ってくる先輩。普通の人なら銃を見た瞬間は硬直するもんだが、彼女は逆に銃を見た瞬間動き出していた。

 驚きはしない。ここの訓練風景を見てたけど、恐ろしいまでに実践的だった。つまり銃の相手はお手のモノってことですか。

 

 何発か撃つが全て独特の動きで躱される。段々と分かってきた。恐らくあの靴はローラースケートの様なもので、靴自体に消音機能が付いているのだ。

 

「かなり良い腕してるね。けどね!」

 

 片腕を伸ばした正確な射撃体勢。そこからの精密射撃を躱し、一気に近づいて伸ばした腕の内側に入ってくる。言うのは簡単だが並みの度胸と腕じゃない。ついでに可愛さも。

 

 銃の間合いを殺した瞬間、トンファーが襲い掛かる。その技量はかなり高く、昔道場にいた先生より若い分動きが速い。

 こうなると銃は持ってるだけ邪魔なので手放す。そしてその腕で躱しきれない攻撃を防ぐ。

 

 あ、痛い。これマジ痛い。今なら素手でトンファー防いで痛がってたジャッキーの気持ちが分かる。

 

「銃と近接戦が噛み合ってない。それぞれは一流なのにもったいなぁ、もう!」

 

 実はオレの個性だが、銃なんかの直線的で予測に余裕があるものに関しては有効だけど、選択肢が無数で即断を求められる近接戦に関してはあんまり意味がない。ネオもそうだったし、仕様みたいなもんなんだろう。だからこそ格闘術を重視したんだしね。

 

「ここからどうする!? 新人くん!」

 

 猛攻から抜け出せない状況に意を決すると、攻撃の一つを選びトンファーを掴み取る。

 

「え? 痛くないの?」

 

 驚くマワリ先輩。そらもうめっちゃ痛い、スミス涙目。でも堪えて攻撃する。

 

 渾身の右ストレートが届く瞬間、視界が180度回転して空振る。え、なんで?

 

「私の個性、『回転』。触れたモノを回転させる。ちなみに靴に仕込んだローラーの回転が移動術のネタね」

 

 体が回転し、宙に浮いている。回る視界の中で先輩がトリニティご愛用のキックの体勢に入っているのが見えた。

 

「全力でいくから、食いしばってね?」

 

 食いしばりますとも、マドモアゼル。

  

 先輩の渾身のトンファーキックを喰らい、吹き飛ばされる俺。エージェントの如く壁にめり込んで止まった。

 

「や、やった! 勝った!!」

 

 クルクル回る先輩の姿が可愛い。なのでそのまま壁の中にいると誰かに掴まれて放られる。ドスンと着地して立ち上がると目の前に先輩の顔。首をゴキリしてスーツを整える。嬉し恥しで挙動不審しちゃった。

 

「ピンピンしてるぞ、鍛錬不足だなマワリ」

 

 放り投げたのはボスだった。いや、効きましたよ。めっちゃ効きました。このボディですら数秒動けなくなるくらいに。

 

「んもう……折れそうだ、私の心」

 

 先輩が引きつった顔をしていた。いや、そんなことないです。特に最後のは今までで一番綺麗に入れられた攻撃です。ついでに先輩もキレイです。

 

「ひぇぇ」

 

 目に涙を浮かべる先輩。そんな先輩も素敵ですと想いを込めて、構えをとった瞬間、オレと先輩の間に誰かが割り込んできた。何奴!?

 

「この新人くんには更に先のステップで丁度いいんじゃないですかね。ってことでオレに交代で」

 

 現れたのは頭にギアをつけ、上半身を晒したコスチュームの男。ふむ、中々良い腹直筋をしてますね。

 

 ボスを見ると「別にいんじゃね?」的な顔をしていた。あ、なら続行ですか。

 

「で、でもヨーくん私より弱いんじゃ……」

「いやそういうのは言わんといてくださいよマワリ先輩」

 

 ヨーくんと呼ばれた人のテンションが萎えてしまった。ざまぁ。そして俺もあだ名で呼ばれたいです。

 

「よろしく、新人くん。雄英祭見てたよ。ヴィランとも戦ったんだって? 大変だね。でもお互いヒーロー目指してここで頑張ろうな!」

 

 爽やかに手を差しだしてくるイケメン。こんなに友好的に話しかけられたら誰だって好印象になってしまう。ざまぁなんて言ってごめんなさい、オレはなんて醜い人間なんだ。あなたこそ真のイケメンだ。

 

 握手、振動、轟沈。WHY?

 

「ごめんね? ここからは不意打ちだまし討ち、複数での奇襲、なんでもありだから」

 

 なるほどなー。勉強になりますわぁ。

 

 がくりと崩れ落ちる体。これは多分オレのボディでもどうしようもないですね。

 

「俺は真堂 揺、個性は『揺らす』。体に触ればこの通り、脳を直接揺らせるのさ。明日からよろしくな!」

 

 はい、よろしくお願いします。個性戦の妙と初見殺しの貴重な体験を貰って、職場体験の初日は終わった。

 

 

 




真堂がヒロアカで一番お気に入りかもしれない。

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