救世主っぽい個性を手に入れたぞ   作:螺鈿

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*ギャングオルカ事務所の職場体験風景
半分番外編みたいな趣味回になりました。




社会には敵ばかりじゃないんだぞ

 本格的に始まった職場体験。今日はボスについてパトロールだ。太陽に照らされるボスのスーツは今日も厳めしい。

 

「ヒーローとはシステムだ」

 

 街中を歩いていくボス。大通りには人が溢れているがそれらをまるでないかのように進んでいく。アレ、実は高等技術なんだよね。ボスに付いていこうとするオレ達新人の殆どは人の波に止められてしまう。

 

「そしてシステムには(バグ)がいる」

「外に出れば何が見える。ビジネスマン、教師、主婦、大工、学生。それらは全て我々が救おうとしている人々だ」

 

 そんなオレ達を把握しているのかいないのか、ボスのありがたい講義が進められていく。

 

「彼らはシステムの一部で、だが時に我々に牙を剥く。それがシステムの構造だからだ」

 

 大股で進むボス。しかし周囲を警戒し、パトロールを微塵も怠っていないのが分かる。俺もボスに倣いつつ必死で付いていく。

 

「いいか、殆どの者は未だ真実を直視する覚悟が出来ていない」

 

 大通りを抜け、噴水のある広場に入る。といっても道が交差する場所で、人の数は増える一方だ。

 

「即ち、この平和は薄氷の上に成り立つ仮初の世界だということだ」

 

 噴水の前でボスが立ち止まり、遅れていた新人たちを待つ。

 

「それでも我々が守るのはシステムではなく、人間だということを忘れるな」

 

 皆が追いつき、一息入れる。すると人波の中でも一際目を引くドレスの女性が目に入った。この雑踏の中でも一際輝いている美しい女性。そしてそのバストは実際豊満であった。サングラスで視線を隠しつつ、目を奪われる。

 

「どうした。ドレスの女でもいたか?」

 

 いつの間にか振り返っていたボス。コワイ!

 

「見ろ」

 

 促す様に言った言葉につられて振り返る。するとそこに女はおらず、いるのは銃を構えたいかついスーツの男。素早く回避行動に移るが、後ろにいた男だけではない。周囲のスーツ姿の人間全てが銃を向けていた。頭の中で最善を探すが、これはもう間に合わないか……

 

 

 

 

「もういい。帰っていいぞ」

『イエス、ボス』

 

 撃たれるのを覚悟した瞬間、周りの人間が一斉に解散していった。その内の一人が近寄ってくる。

 

「はい、コレ!」

 

 マワリ先輩だった。そして渡された紙には『ドッキリ! ヴィランだらけのパトロール!!』と書かれている。あとスーツ姿もいいですね。

 

「皆えっちなんだから、もう!」

 

 先輩の言葉に慌てる新人達。例外はいなかった。悲しいことである。真堂先輩は必死に弁明しているが、アレは仕方がないと思う。

 

 マワリ先輩が帰って、少しづつ人が戻ってきた所でボスが話し始めた。これだけをするために広場貸し切ったのか……

 

「ヴィランだったら死んでたな」

「ヴィランだったら?」

「そうだ。今回は訓練の内だがな」

 

 ボスの言葉で考えるオレ達。しかしですね、アレはちょっと卑怯なんじゃないかと。男ならだれだって……

 

「彼らもシステムの範疇。つまり民間人も警戒の対象ということですか?」

「それもあるが、本質は違う」

 

 真堂先輩に答えたボスが噴水の縁に腰を下ろす。水面で跳ねた水が当たってボスも気持ちよさそうである。

 

「……ヴィランとて人間だ。言いたいことが分かるか?」

「……誰もがヴィランになりえると?」

「ヴィランとヒーローは表裏一体。そして民間人も誰もがヒーローたりえ、そしてヴィランになり得る」

 

 そういうことでしたか。やっべ、口に出さんでよかった。寡黙キャラの強み。

 

「それはつまり、真に安全な場などこの世界にはないということだ」

 

 ボスが大きくため息を吐く。昔の動乱期から最前線で戦い続けた人の言葉は重く、オレ達は何も言葉を返せなかった。

 

「それでも誰かが戦わねばならない。そうしなければ、この脆いシステムすら崩れるからだ」

 

 ボスの眼は何かを思い出すようで、誇りと力に満ち溢れ、そして寂しそうであった。

 

「今まで多くの者が命を落とした。そうして人々の命を守り、今の社会を作った。お前たちもその道を歩むことになる」

「我々も人々の平和を守る盾になるのですね」

「そうではない」

 

 感銘を受け、溢れ出た一人の言葉を否定したボスは立ち上がってオレ達を見渡す。

 

「盾になるまでもなく、手に持つ銃を撃たせずに下ろさせるヒーロー。お前ら一人一人を平和の象徴にするのがオレのやるべきことだ」

 

 ボ、ボス…!!!

 

「うぅ、これが本物のヒーロー!」

「ボス、オレ一生ついていきます!」

「俺ってやつは、こんな人の下につけるなんて!」

「帰ったらギャングオルカのフィギュア買おう」

 

 フィギュアは6分の1スケールのがある。事務所で直接買うと3割引きだ、限定カラーもある。オレも買おう。

 

「じゃ、これから戻って訓練だ」

『サー・イエッサー!』

「今日は吐くまでやれるな?」

『サー・イエッサー!!』

「明日からも吐くまでやれるな?」

『サー・イエッサー!!!』

「よぉし! ぶっ倒れるまで指導してやるぞ!!」

 

 感極まったオレ達は叫ぶ。ボスの前で列兵して叫ぶ!

 

『社長殿!社長!サカマタ!サカマタ殿!ギャングオルカ殿!』

『社長殿!社長!サカマタ!サカマタ殿!ギャングオルカ殿!』

 

「流石社長、子供の相手はお手の物ですね。汚い」

「男がチョロすぎるのが悪いんじゃないかな」

 

 こっそり見ていたマワリ先輩方に気付きつつも、涙とこの胸の高まりが止められない。

 

 この日、オレ達は皆吐いた。

 

 

 

 

 

====

 

 

 今日は戦闘訓練。それも銃に特化した訓練だ。そして皆でドンパチ中。

 

「貴様! そんな腕で良くヴィランと戦えると思ったな!」

「で、でも銃なんて個性あれば使わないし……」

「銃を使えん奴が銃に対抗できるのか!? 指導ー!!」

 

 ボスの指導で何人かは宙を舞っているが問題ない。しかし銃まで使わせてもらえるとは、流石は大手事務所。今なら有名で人気の意味が分かる。

 

 どのような個性であれ、銃に対抗するには銃に精通しなければならない。学生時代から銃を使っての対処法を練れるのは強みになる。この経験を通して皆大きく成長するだろう。オレも部隊行動は初めて習うので勉強になる。しかしなぁ……

 

「お前はそれなりに動けるから、ここからは別枠な。じゃ、続きやるか」

「はい」

 

 俺だけ別の訓練ルームである。ルームというか事務所の隣の建物を使って戦闘訓練している。どんだけ金持ってるんだ、やっぱすげーよランカーヒーローは。

 

「はい、じゃあ状況開始」

 

 無線でスタートの言葉を告げられるとオレは屋内を駆けだす。状況は1対多。敵は無個性だが銃を持ったテロリスト、という名の先輩方。オレはコスチュームの装備と個性で対応だ。

 

「うお! 速ッ!?」

 

 角を曲がって出会い頭に会った先輩を格闘で静かに仕留める。ツーマンセルで動いていたのでもう一人の方も迅速に制圧した。こういう屋内では長物の利点はある程度殺されるし、格闘が得意なオレの力も活きる。しかし……

 

「いたぞ、D4地点」

「了解、射殺します」

 

 ほれ来た狙撃。SWATっぽい恰好をした先輩が次々と撃ち込んでくる。ていうかホントに個性使ってないんですか? 狙いが精確すぎるんですがねぇ。

 いや、ホント先輩方が個性と関係なく強すぎてヤバイ。この練度と連携、これがスパルタ特訓の成果か。なんだこの事務所。

 

「そこだ、追い詰めろ」

「チャーリー分隊、右から回れ」

 

 淡々と追い詰められていく恐怖。こんな形でマトリックスの侵入者側の気持ちを味わいたくなかった。

 

 仕方なく窓から飛び、コの字になっている建物の向かいに飛び移る。でも嫌な予感しかしない。立て、立つのよスミス。立ちなさい。

 

 周囲を警戒しつつ進むとガンケースもといアイテムボックスが見えた。アレはお遊び要素みたいなもんで、オレと敵の両方が使えるものだ。急いで中を確かめると軽機関銃が二丁。ウキウキで持つと、オレのプラグが人の足音を捕捉する。

 

 銃を抱えて窓からこっそり出ようとカーテンを開けると、そこには補強された壁。

 

「Oh,No……」

 

 嵌められたことに気付き「Oh,No」と連呼しながら急いで銃の準備をする。足音が直ぐ近くまで近づき、そしてドアが勢いよく開けられた。

 

「AAAAAaaaa!!!!」

 

 両手でマシンガンを連射する。飛んでくる弾も避ける避ける。が、抵抗むなしく蜂の巣にされた。容赦ねぇ。

 

 

 

 

 

「いやぁ、良い訓練になるわぁ」

「優秀な学生っていいですよね」

「最高の練習台だ」

 

 休憩、反省、痛みで涙目。

 

 多対1で速攻、奇襲をかけて潰された。卑怯などとはいうまい。これこそが自分が求めたことなのだから。

 

「高すぎる対応力。それを超えられた経験がないんだろう? 超えさせてやるよ。プルスウルトラってなぁ」

 

 とは先輩方の言。おかげで自分の課題が出るやら出るやら。

 

 格闘と射撃がチグハグだってことの他にも、遠距離攻撃への対応もその場しのぎでしかない。個性に甘えてきたツケが回ってきた。

 

 分かってる。心の何処かで思ってたんだ。いつか銃弾を止められるって。だから格闘だけ頑張ればいいんだって。でも止められなかった。頑張ったけどオレに出来たのはエージェント回避だけだったんだ。

 

 いやまぁぶっちゃけ分かってたのねん。アレはオレの頭の中の出来事で、あの世界は妄想って分かってたのねん。でもホラ、憧れちゃったものは仕方ない。でもでもヴィランは待ってくれないし、どうしたもんかなぁ。

 

 いい加減現実に向き合わなければならない。自己のアップデートを図らなければこの環境には適応できないのだ。

 ウンウンと唸っていると後ろから肩を叩かれた。ハイ! サボっていません! ハンズアップ!!

 

「お久しぶりです、三済様」

 

 あれまぁ、あなたはソムリエ先輩ではないですか。相変わらずイケメンですね。

 

「なぜここに?」

「ここの銃、私が持ってきましたから」

「世話になっている」

「お気になさらず。銃の調子はいかかで?」

「最高だな。だが問題があるのは顧客の方でね」

「そんなことございません。子供にしてはマナーがいい」

 

 いつもの会話をすると隣に座るソムリエ先輩。相変わらず会話が釣られてしまう。もうコレ諦めよ。

 

「それよりどうですか? 素晴らしい事務所でしょう?」

「あぁ、本当に」

「随分絞られているそうで。推薦した私の鼻も高いですよ」

「……本当か?」

「えぇ、ここが一番あなたに必要なものがあると思いましたから」

 

 マジかー。ただでさえ上がらない頭が更に上がらなくなった。はい、ぺこり。

 

「それで、どうですか?」

「……あまり良くはないな」

「でしょうね。それが分かってなによりです」

 

 カラカラと笑う先輩。どうも今の自分の問題含めてお見通しみたいだ。

 

「ふむ。ヒーロー活動はともかく、戦闘だけならお力になれるかもしれません。どうです、私の指導を受けてみませんか?」

 

 先輩の指導? どんなものでしょうか。

 

「指導とは?」

「こう見えても近接戦には自信があります。特に銃を使った近代特殊格闘術はマスタークラスです」

 

 はえー、すっごい。それオレにも出来る?

 

「現存する武術を基にしていますので、三済様なら習得もしやすいかと」

「ではまず見せてくれたまえ」

「勿論。早速始めましょう、サカマタ様の許可は既にとってありますので」

 

 両袖から拳銃を二丁取り出した。セレクターが付いているってことはフルオートも出来るのだろう。銃床はスパイク付きのもの。どうみても一品モノです。やる気満々じゃあないですか。ていうか掌の上ってやつですかコレ?

 

「ではとりあえず、吐くまでやりましょうか」

「イエッサ」

 

 

 

 

 30分後、オレはスミスにボロボロにされたモーフィアス並みにボロボロにされた。あ、ここで言うスミスはオレじゃなくって映像の方のね。そもそもオレスミスじゃないし。いや確かにスミスだけどそれはあだ名でオレはスミスと言う名のヒーローで決してスミスなわけではない。疲労でこれもう何言ってんのかわかんねぇな。

 

「まだまだ、終わりではありませんよ」

 

 ニコニコしながら倒れ伏すオレに容赦なく撃ち付けてくるソムリエ先輩。この人の訓練に休憩という言葉はない。ゴロゴロと回避する。しきれてないけど。

 

「この戦闘術は第三次大戦以降の膨大な戦闘データを基にエクリブリウムというヒーローが作り上げたものです。習得の困難さ故に知名度はありませんが、会得した際の戦闘力向上率はまさしく飛躍的なものですよ」

 

 先輩の攻撃が次々とヒットする。分かっているのに躱せない。外れると分かっているのに撃つことを強制される。まるで詰将棋のように状況が悪くなっていく。

 

「基礎を覚えるだけで攻撃が120%、防御面は63%向上します」

 

 格闘術ですら完全に上回られている。こっちの攻撃はする前に回避され、あちらの攻撃は避ける前に当たることが確定している。なんだこのクソゲー。

 

「実は私は彼の直弟子の一人でして。警察や軍の方々に教導することも踏まえて国にスカウトされたのですよ」

 

 不利になるはずの接近戦なのに、まるでそうあるのが当たり前かのように銃と一体になって動く先輩に歯が立たない。銃と格闘。身体能力だけなら明らかに俺の方が上の筈なのに、この二つの扱いの差でこうも違いが出るのか。

 

 決定的な一撃を入れられ、先輩のカッコいいポーズと共に力尽きた。

 

「しかし何故だか受けが悪いんですよね。三済様にご助言などがあれば是非承りたいとも思っているのですよ」

 

 多分、問題は指導方法なんじゃあないですかねぇ。そんな言葉を言う気力もねぇけど。

 

「さて、銃と近接戦を一体化した戦闘術。お楽しみ頂けましたか? まぁ正直に申し上げますと、三済様の様に銃以上の力と個性を持つ方が完全に習得するのは不合理なのですが、基礎位までなら覚えても損はないかと」

 

 コンクリート砕くパンチも正確無比な射撃も当たらなきゃ意味が無い!これは渡りに船である。頭を擦り付けてでもお願いしたい。もう地面についてるけど。

 

「……素晴らしい技だ。是非ともお願いしたい」

「そうですかそうですか。それでは研修期間中に基礎の基礎までは叩きこんでおきたいところですね。これから研修が終わる頃に顔を出すので、時間をとっておいて下さい」

「……いいのか?」

「勿論ですとも。久々にモノに出来そうな人がいて、私少々興奮しております」

「……それはよかった」

 

 もう吐いてもいいですかね。……そうですか、まだですか。

 

 先輩から教官にクラスアップした先輩に襟を掴まれて引き摺られていく。その様はまるで地獄からやってきたルシファーが、連れていこうとしている悪魔祓いを地獄の門へと自ら引き摺っているかのようだった。

 

「マスター! 来てたんなら言って下さいよ、もう!」

 

 目を向ける気力もないが、この愛らしい声は多分マワリ先輩だな。知り合いだったので?

 

「いつも銃の訓練の時には来てるでしょうに」

「それでも言ってください。お手伝いしたいんです」

「ふむ。では明日から研修後に来ますので、場所だけ抑えててもらっていいですか?」

「はい! ていうか明日から毎日? 本当ですか!?」

「本当です。見て欲しいならついでに貴方も見てあげますよ。しばらく手合わせしてなかったですからね」

「やった! よろしくお願いしまーす!」

 

 頭の上で飛び交う会話。後から聞いた話だと、マワリ先輩は昔教官に弟子入りしたらしい。何でもその頃はクソナードのドンケツだったが、教官の指導に死にもの狂いでついていった結果、超倍率のギャングオルカ事務所に受かったとのこと。

 

 俺の滅多に動くことない巧みなお口により聞き出した情報によると、実はボスの事務所が訓練する際に教官が自ら来るのはマワリ先輩の様子を見に来る目的もあるらしい。

 

「手のかかる子でしたし、気になってしまって。指導後も会った時に嫌な顔をされない数少ない子でもありますしね。まぁもう少し師匠離れしてほしくもありますが」

 

 そういう先輩の顔は初めて見るモノで、見てる方が恥ずかしくなるような顔だった。

 

 えぇ話や。そしてこれ勝ち目ねぇな。スミスはこの日、泣きながら吐きました。

 

 

 

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