やってきたるは高級住宅地の中でも一際大きい西洋風な建物『キャッスル・ヴァニア』。まるでレジャー施設と思える程敷地が広い。庭にプールにバー、屋内にまたプールにバー、あとクラブにバーとかもあるんだって。すげぇ。以上、スミスより。
オレ達はここでプロの依頼をこなすんだ。自信? ありますよ。なんたってオレはあの名状しがたい鬼畜のソムリエ教官の教え子だからね。
研修期間中、先輩から様々な戦闘術を教わってきた。あのスタイリッシュで、流れるようなオサレアクション。それを学んだ結果、どうなったのか? 結果はキレッキレなエージェントの動きになりました。
……なぜこうなった。いや、理屈は分かる。かなり合理的、理論的に教えられたから理屈は分かる。でもこうなるとは思わなんだ。
「三済様の個性なら、私の動きすら余分です。貴方の身体能力なら最短、最速で敵の予測を上回れる。多少ゴリ押しでも構わないでしょう」
というソムリエ先輩の方針故だ。どうやらオレにあのカッコいいアクションは不要らしい。相手の動きを予測し、無骨に淡々と敵を制圧しろってさ。
俺仕様に考案してもらった戦術を叩きこんでもらった結果、隙あらば取り入れていたマトリックスクンフースタイルも改良されてエージェントスタイル完全体になった。
オレは何度も物申したかった。オレもあのカッコいい動きがやりたかった。ネオに近づきたかった。しかし……
「私はヒーローではないので申し辛いのですが、戦闘に格好良さ等必要ですか?」
必要だよ! ……とは言えねぇ。俺の為に時間を割いてもらってる分なんも言えねぇ。しかもしかも、やる度に強くなっていくのが実感できるので反論の余地はなかった。
こうして俺は特訓を終えた結果、より実践的に、より合理的な動きをするスミスになった。地味だが以前とは比べ物にならないアップデートが実行されたのだ。つまり2作目以降のエージェ……もう考えるのはやめておこう。
なぜこうなる。まるで俺の人生は性質の悪い機械仕けの様だ。誰が言ったのかは知らんが運命とは地獄の機械とはよく言ったものである。いや運命とは選択するものだ。受け入れちゃダメ、絶対。
しかしまぁ強くなったのは事実だ。今ならアレだ、撃たれてもこめかみ位の距離でもない限り対処出来る。具体的に言うとボンネットと運転手席位の距離なら余裕でイける。
思い出したくないが、先輩とどの距離まで避けられるか試したから間違いない。
サングラスの奥で遠い目をしていると叩かれる。とっとと入れって? はい、すみません、直ぐ入ります、すみません。
今日はパーティーがあり、招待客はその入り口である大きな門を次々と通っていく。オレ達もその門を……無視して隣の小さな扉に入る。
「凄いな」
「資料通りの個性か」
予め伝えられた要人側のボディーガードの個性だ。扉間とかいう『ドアとドアを繋ぐ個性』の持ち主らしい。扉を開くと庭ではなく、大部屋が広がっていた。
マワリ先輩を先頭にオレ達は堂々と進んでいく。あちら側の要請もあり、今日の我々は全員が礼服である。先を歩く先輩たちが睨みを利かすと道中の人間たちは避けていった。これもうどっちがヴィランかわかんねぇな。
「お待ちしておりました。ギャングオルカ事務所の方々ですね」
「はい」
「確認がとれましたので、どうぞこちらへ」
周りでは私的に雇われたボディーガードたちが武器の持ち込みチェックを受けている。勿論オレ達ヒーローはノーチェックよ。公の場で武器と装備を持てるのはヒーローの特権だね。
「行きましょう」
ボーイに誘導され、控室へと進んでいく。視線を感じ振り返るとそこにはあの白いドレッドヘアの双子がいた。ニヤニヤと笑みを浮かべているのを無視し、歩いていく。
部屋へと辿り着き、案内人が去って行くのを確認するとマワリ先輩が皆を集めた。
「じゃあ最終確認を行おうか」
『イエス、リーダー』
静かな部屋にオレ達の声が響き渡った。
=====
今回の依頼はこうである。ある要人がパーティを開くが、ヴィランがその時を狙って襲撃をかけるという噂を聞いたので警護をお願いしたいとのことだ。
コレが文面通りならばボスの事務所が動くまでもない。事務所での紛糾したミーティングを思い出す。
「よく覚えておけ。この手の向こう側から依頼してくるパターンは、大抵は内部抗争のリークだ」
実はこの要人、真っ黒に近いグレーの人物だ。表側は流通業だが実際は裏組織の流通ルート担当で3次系団体の長。その彼が依頼者であり、情報源だ。
「納得出来ません! ヒーローが良い様に使われるだけです!」
「無論、見返りがある。最近幅を利かせている増強型ドラッグ。そこの情報だ」
「それだって、対抗組織を潰させたいだけです」
「この内部抗争は我々に話が来た時点で筋書きが決まっている。要人側の組員が反乱組織を片付け、その食べ残しを我々に引き渡す。これで両方WinWinだな」
「ボス! まさかそんな馬鹿なこと!」
「するわけないだろう。この話をネタに反乱グループの幹部の一人を寝返らせる。違法取引の資料を引き換えに保護するのを条件にしてな」
「な、なるほど」
「わかったか? ニュービー」
ボスの言葉に喰ってかかっていた一人が落ち着く。しかし、何というか、これから自分たちも踏み入ることになる裏社会を垣間見たことで言葉がない。隣の真堂先輩も同じようだ。
「どうせ隠せない規模のクーデターならいっそヒーローに後片付けをオネガイってか。それに権力の誇示にもなるし一石二鳥だな」
「クソ! 腹が立つぜ。どこまで舐めてやがる」
「全部まとめて叩き潰せないんですか?!」
「今はそういう時代じゃない。ドンパチに介入したところで、辿られるようなヘマをする奴じゃない。この手の組織だった連中を叩くには段取りってもんがある」
「悔しいですね、ボス……」
「あぁ、だから昨日反乱グループは殲滅してきた」
……ん?
「へ?」
「ということで実際に動くのは公安と連携するオレ達だ。偽の襲撃と見せかけて出てきた連中をボコる」
「いや、ボス……昨日オレ達なんも聞いてないんですが」
「動ける奴だけで動いた。スピードが命だからな、こういうのは」
「えぇ……」
「ていうかどうせ辿れないって言いましたよね」
「辿れなくても戦力は潰せる。例え遠回りになったとしても、ヒーローたるもの『ゴミはゴミ箱に』だ」
……段取りとはなんだったのか。唖然とするオレ達にボスをが喝を入れた。
「チャンスがあれば直ぐに食らいつけ! 殲滅しろ! 見敵必殺! 忘れるな!!」
『サ、サーイエッサー!』
「ヴィランの連中は、オレ達が力をつける度に賢くなり、野心を蓄える。よく覚えておけ、ヴィランってのは何時の時代もヒーローより頭がいい」
『サーイエッサー!!』
「そんなヴィランに対抗するには力を見せつけることだ! 奴等をタマなしにしてやる位ビビらせてやれ!」
『サーイエッサー!!!』
やっぱ怖いわこの人。前々から思ってたけど絶対抑止力論者だわ。能率的で良いと思います。
「公安と連携してるとはいえ、交戦しても表には出ないんですよね。この手のって」
「あー、やだやだ。こういう黒いお仕事」
流石はヒーローの先輩だ。オレもあんな会話したい。
「今回の目的は対象の確保。必ずしも戦闘は優先しなくていいんだろ?」
「2重にヴィランを守ってやるハメになるとは」
「3重、4重よりマシだ。前にもあったろう」
「あぁ、アレは酷かったですね」
フゥー! かっけぇ!! クールな会話にキラキラしたオレ達新人組の視線を受け、更にクール度を上げる先輩たち……を見て呆れるマワリ先輩他数人。
「お前らは留守番だ。じゃ、後は任せたぞ」
「イエス、ボス。配置の振り分けをする。各分隊のリーダーは今から指名する。各リーダーは定時報告を忘れないように」
ドンパチが確定した戦場に放り込まれるかと思ったらオレ達に任された仕事は会場の警備。来る筈もない偽の襲撃を守る警備か、まぁそんなもんですよね新人は。
「あっても避難誘導だけとはいえ、あっちは大丈夫ですかね?」
「誘き出す訳だからあっちが戦場になることはまずない。お守りもマワリを置いていくし問題ないと思うがな」
「ですね」
出発の前に何か言うことがあるのか、ボスがマワリ先輩を呼びつけていた。
「おい、マワリ。聞いているのか?」
「ヨーくん、私ヒーロー名スピニングガールだから」
「わかりましたマワリ先輩」
「……スピニングガール」
「あ、マワリ先輩。ボスが呼んでますよ」
「ボスゥ~!! ヨーくんがイジメる! あとスミスくんの顔が怖い!」
「……やっぱお前も残ってくれるか?」
「イエッサ」
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「もう! ちゃんと聞いてる? 万一の時は私の指揮下で動いてもらうからね!」
「わかっていますよ、マワリ先輩」
「んもぉー! 指導だ指導!」
いつも以上に饒舌な真堂先輩。いつも通りに見えて、やっぱり先輩でも緊張してるんだろうか。自分を落ち着かせようとしているのが目に見える。
しかし身内の仲とはいえからかいすぎたのか、拳骨を落とされて頭を抱えている。痛いだろうなぁ。あの人アレでソムリエ教官の弟子だし。
オレ達職場体験組はマワリ先輩と一緒にパーティの控え会場を警護する。本来のメイン会場とは異なり、メイン客以外や少し喧騒から外れたい人用の会場だ。控えとはいってもケータリングはしっかり用意されているし、楽器の生演奏もされている。
「ボスが此処を指定したのは、ちゃんと意味があるんだよ」
「というと?」
「もっと周りを観察して、誰がいる?」
「……各組織の構成員ですね」
「そう。得ることは沢山あるから、学んでいってね」
『イエッサ』
見渡せばここには裏組織の構成員やそのボディーガードたち。一般客も多く、表向きはクリーンな連中だが、ここは実質裏社会の会同みたいになっている。そうか、ここはそういう場所なのか。
「あっちのはヴィランの資料で見た事があります。豚蔵、元ヴィラン組織の構成員」
「向こうにも蛙走、節腕、他の有名所も何人か。まるでヴィラン予備軍の見本市だ」
中には前科者や腕利きと呼ばれる人間たちもいた。彼等もここでは武器を持たず、パーティを楽しんでいる。
つまり、そういうことなのだ。今の平和は象徴たるオールマイトのお陰で彼らが動けずにいるから。平和の中に潜む彼等は虎視眈々とその隙を窺っている。
今ならボスの言っていることが分かる。この平和は本当に紙一重なのだ。所謂動乱期と呼ばれる暗黒時代から、オールマイト達先人は血を流してここまで持ってきてくれた。ここから先は、オレ達次第なのだと思わされる。
隣を見ると真堂先輩も汗を流していた。気付いてしまえば、この混沌の中の平和に身を委ねることなど出来はしないのだろう。
気持ちを落ち着かせたく、ネクタイを緩めた。ふと目を向けるとケータリングのティラミスが目に入る。ここはパティシエを呼んでいるらしく、見るからに美味しそうな出来栄えだ。
「駄目。敵地での食事は口に入れない」
伸ばした手をマワリ先輩に叩かれた。思わず悲しげな顔と目をしてしまう。さらば、ティラミス。
偽の襲撃から要人を守る警備。実に新人向きな楽な現場。そんな初仕事をオレ達は汗を滲ませて進めていくのだった。
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「ブツと金だけ回してりゃいいものを。二股かけてカマこく野郎がこういう目になる」
「世の中、分相応ってもんがありんすよ。活かせる機会はないでしょうが」
煌びやかな城。その中でも特に輝かしく飾られた部屋の中で、男たちが立っていた。男たちは二人を除いて、地面を染める赤色の不浄から身を守る様に特徴的なマスクを着けていた。
「これでいいだろう。約束通り会わせてくれ」
布巾で手を拭いて、白手袋を嵌めている男。その男に対峙するのは白く染めた服と髪が特徴的な双子だった。マスクをつけてない二人でもある。
二人は言葉を聞くと顔を見合わせ、肩を竦めた。その様子に苛立ったのは手袋の男の側近だった。
「おい! 舐めてんのか!! テメェら三下じゃ話になんねぇっつってんだよ!!」
言葉を荒げる男を涼やかに躱す双子。ニタニタと笑みを崩さない姿に前に出ようとするが、手袋の男に遮られた。
「やめろ。敬意を払え。彼らが出てきている事が、俺等が軽んじられていない証拠だ」
「……失礼しました」
「すまない。話の続きだ。貴方方のボスを裏切っていたゴミは処理した。約束通り彼に会わせてくれ」
言葉は丁寧だが、先程の男とは比べ物にならない圧力がその場に漂う。白服の男たちはそれを鼻で笑うと懐からタブレットを取り出して机に立てる。
白服が控える様に立つと、画面が照らされる。明らかに高級そうなスーツと独特なネクタイの結び方をした男が映され、気怠げに話しかけてきた。
「どうも。初めまして。調子はどうだ? パーティは楽しんでいるか?」
その男を見た瞬間、マスクの男たちに緊張が走った。一歩前に出ていた手袋の男が頭を下げる。
「お会いできて光栄です。パーティに誘って頂いたことには感謝しております。これから楽しい思いをするつもりですよ」
「ホストとして聞いただけだ。興味はない」
画面の男は傍目からでも分かるように蔑みながら片手でオリーブをつまんでいた。その態度に後ろに控えていた連中が殺気立つも、再び頭を下げた指導者の姿に何も言えなくなった。
「お忙しいところ、誠に申し訳御座いません」
「そうだとも。美しい妻を待たせていてね。女性を待たせられるのは力を持った男の特権ではあるが、それが夫婦となると厄介事の種に変わる。取引というのはその点分かりやすくていい。オブジェクトの様にシンプルな関係だ。早く終わらせてくれ」
「有難う御座います。手短に終わらせますので……」
深々と頭を下げるリーダーに続いて首を垂れるマスク達。明らかに納得がいっていない様子に双子の男たちの笑みは更に深まるようだった。
手袋の男は顔を上げると目線を所々に散らばる血溜まりに配らせながら言った。
「貴方の信頼を裏切っていた彼のルートと施設を使わせてほしいのです」
「品物は?」
「クスリです。増強剤と
その言葉に、ピクリと画面の男は反応した。
「消失剤、消失剤か」
「我々が実現しました。効果は…」
「何分だ? それとも何時間?」
「……1日程です」
「それなりなようだ。似たようなのは昔から出ているが、効果の効き目とコストの問題で出回る程じゃない」
「コレをご覧ください」
部下が持ってきていたPCを開き、画面を見せていく。それに幾度か眉をしかめ、時に頷きながらフランス語の様な独り言が流れていく。
「……いいだろう。彼のクスリのルートと施設を使うといい。中々プレゼンが上手いじゃないか、職を変えた方がいいぞ。若い野心家は起業するものだ」
「裏社会の情報を司る貴方に言われるなんて、恐縮ですよ」
画面越しの言葉に明らかに緩むマスクの集団たち。彼等としても、納得が行く結果が手に入ったのだろう。
マスクを着ける中でもクロノスタシスと呼ばれる男、玄野は心の中で特に安堵の息をついていた。キレ易い同僚を抑える役目も面倒だが、決して態度には出さなくてもこの中で誰が一番面倒な性格をしているか、彼は理解していた。
目的は達成できた。モノは持っていても、それを乗せる流通ルートを持たない弱小の自分たちが、最大手の組織のソレを使わせてもらえるのだ。それも目の前で進む交渉も上手くいっているようで、シノギの分配も悪い条件ではない。
闇のルートというものは非常に複雑で、クスリの製造などは時にリスクに見合わない結果になることもある。そんな中、歴史だけはあっても実質新参の弱小組織が得られる待遇としては破格のものだった。
目の前のモニターの傍に控える男たちを見る。ニヤついた同じ顔の二人は、その顔に反して油断なくこちらを警戒している。自分も幾らか命のやりとりはしてきたつもりだが、彼らはそういった比ではない。明らかにソレを専門としたプロフェッショナルだ。目の前の人物の右腕という噂は嘘ではないようだ。
だからこそ疑問に思う。そんな彼等が来ていることで自分達がそれなりの評価を受けていると判断した自分のボスは流石だが、なぜ彼らは弱小組織たる自分達を気にかけるのか。それが警戒からであったのならば、大手とはいえ単なる下部組織に甘んじるつもりのない自分たちの野心を見抜かれていることになる。
「これで終わりだな。じゃあな、さようなら、ごぎけんよう」
「お待ちを」
話がまとまり、通信を切ろうとした相手を止める。自らのボスのその行為にクロノスタシスは汗が吹き出てきた。
案の定不機嫌になった男は眉を顰めてしまった。
「なんだ」
「もう一つ、お話が」
「早く言え」
「それでは……クスリ以外のルートも使わせて頂きたいのです。我々死穢八斎會に彼が使っていた全てのルートの管理を任せて頂きたい」
「……ほう」
想定していなかった話に愕然としてしまう。自分たちが始末した人間は腐っても組織の流通ルートの一部を仕切る幹部。その全てを欲するなど明らかに度が過ぎた要求だ。何よりこの手の野心を見せつけるのは余りに早計過ぎる。狡猾な彼がそれを分かっていないはずもないのに。
明らかに変わった場の様子に全員が身を固めた。一触即発。この空気を仕事柄彼等はよく理解していたが、自分たちの進退がかかった場の経験は数える程しかなかった。
「清貧さを美徳とする人間よりは余程好感が持てる。しかし許容量を超えれば必ずバグというものが起こる。私はまだ君を計りかねているぞ?」
「消失弾を更に推し進めた『個性破壊弾』のサンプルと、その実験データをご用意出来ます」
懐から1発の弾丸を取り出した。箱と布に過剰に包装され、鈍く光っているソレに視線が集まる。
極秘中の極秘である自分たちの切り札を明かしたことに、側近たちは更に冷や汗を流す。ここに来て必死に秘匿していた情報を大胆に明かした若頭の意図を察した玄野は思わず唸った。
(一部では組織で意図的な噂を漏らす程度であった。どこまでが賭けだったのかは分からないでありやすが、今日の会談が成立した事を含め全てが若頭の計算か。大したものだよ、廻)
モニター越しの反応を見ると、指を組んで何やら考えている様子だった。あくまで玄野達側からの主観だが、双方の利益とこちらの誠意を乗せて考えればギリギリ天秤に乗せられなくはない。少しの間思案すると、組んでいた指を離した。
「組織とはプログラムのようなものだ」
モニター越しに向き直った男の眼は、こちらを見ているようで、全く別の何かを測っているようであった。軽薄なフランス被れの皮を脱ぎ捨てた先に見える本性に、手袋の男を含め全員が体を強張らせる。
「そしてその中にいる人間はコードの1行1行だ。それらが組み合わさり、システムになる。少し詩的だが、私の持論だよ」
僅かではあるが、重心をずらした双子に気付いたものは懐に手を伸ばす。
「君たちは社会というシステムから外れた漂流者だ。ゴミと呼んでもいい。システムは常に更新され、いつでもどこでもゴミは生まれて溜まっていく。しかしそれらを捨ておくのは心苦しいので、効率的に運用しようと気づく人間がいる。そうしていくことで気付けばあたらしいプログラムの
言葉通り詩を謳うように言葉を並べていく。極まった緊張感の中、手袋の男とモニターの男、彼等二人だけが平然と喋り、聞き入っていた。
「気付けば誰も全てを理解することのできないブラックボックス。蜂の巣状に、フラクタルに、メッシュに仕上がる訳だ。そして我々はその中を泳ぐ魚だ。しかしその中でもルールがある。力持つ者と持たない者では扱えるルールは違う。そこから落ちたコードの例外処理はどうなるか、わざわざ説明するまでもないだろう?」
「どうすれば?」
「権限が欲しければ示したまえ」
「今までの
「君の得意なプレゼンだよ。その銃弾の力を見せて欲しい。幸いここにはお誂え向きのゲストをそこの
「……ヒーロー相手に明かすには不都合しかありませんが」
「彼等は二手に分かれている。ここにいるのはゲームに相応しい程度の駒たちだ」
「ゲームですか……」
「そうだゲームだ。パーティにはつきものだろう。楽しみたまえ」
ここに来ているのはヒーローの中でも屈指の武闘派であるギャングオルカ事務所。例え一部とはいえ、自分たちにとっては戦力的にも侮れる相手ではなく、何よりも情報が漏れた際のリスクが大きすぎる。
突きつけられた条件に怒りよりもたじろぐ面々を無視して、小さな声で呟かれた声を玄野は聞いた。
「ゲーム…ゲームだと……病人め」
顔を上げた先にいたのは自らがよく知る、燃え滾る野心と狂気。それを知って尚支えると誓った彼がいた。
「承知しました。きっとご期待に沿えるプレゼンをしてみせます」
「そうか。最近の若者は皆優秀で嬉しいよ。若者の台頭は喜ばしいことだ。ここにいる
「えぇ、ありがとうございます」
言うや否や、振り返って扉へと向かう手袋の男。それに続いてマスクの男たちも去って行く。残ったのは、モニターに映る男と白い双子のクツクツと笑う声だけだった。
予想以上に長くなった職場体験編。やりたいことやったので次で終わったらいいな。