「いやー今年の入試も荒れたねぇ」
「まぁいいんじゃない? 合格枠は予定だし、辞退者だっているんだから多少増減しても」
「どうせ減るしねぇ」
「何だよ」
「いや何でも」
入学者を選定する会議も一通り終わり、ワイワイと雄英高校の教員たちは雑談にふけっていた。
「ところでお前ら気になったヤツいる? 俺は勿論あのBOYさ」
「あー0Pふっ飛ばしたやつね。確かに初心っぽくていいわね」
「ああいう派手なのを抜いても今年は地力がありそうなのも多くて、鍛えがいがありそうだな」
「あんたはどう? 気に入ったやついた?」
雑談から離れたところに一人、マフラーのようなもので身を包んだ蓑虫を強引に引き寄せると、彼は口を開いた。
「まぁ雄英だけあってどいつも個性は強力だな。それだけだが」
「Uhnnnnn! 辛口だな君は!」
「だが既にある程度出来上がっているのもいただろう?」
体格のよい教員がモニターをいじるとそこには幾人かの生徒が映し出される。そのどれもが合理的に動き、仮想敵を数多く屠っていく。その中の一人に蓑虫は目を止めた。
「まぁこいつ位だろう。やや機械的すぎる気もするが」
「あら、アンタが褒めるなんて珍しい」
「俺は結果を出す人間は評価する。合理的にな」
モニターの中の黒いスーツを着た受験生は凄まじいペースで敵を倒していく。身体能力を増幅する類の個性なのか、繰り出される拳はコンクリートや鉄の機械の体を砕き、その動きは傍目から見ても酷く合理的で、いっそ彼の方が機械なのではないかと思わせるほどだ。
「あぁ、確かにコイツはいい! 俺も自分のとこの生徒になったら徹底的に叩きこんでやりたいところだ」
「あら、共感してるのブラドキング?」
「体術をやり込んでるやつにはちょっとはな。贔屓はしないつもりだが」
「いやそっちじゃなくて……」
「俺はまだフサフサの30だ!」
「……落ち着けよブラド」
「黙れ! 何の対策もしてないくせにもじゃもじゃのお前に言われたくない!!」
「誰も頭の話なんて……」
「そうだよ、君もまだまだだろう。というかわたしのほうが……」
「気を抜いたらすぐに来る、そういう年齢なんですよ! オールマイトはもういい年なんだからいいじゃないですか! ていうかその歳にしてはしっかりしてる方じゃないですか!」
紛糾する会議にため息をもらし、蓑虫はまた一人輪から外れた。
「彼とブラドくんを一緒のクラスにするのはやめた方がいいねぇ」
小さなネズミが蓑虫に囁きかける。となれば、彼の担任が誰になるのかは決まったようなものだ。それを悟り、一つ溜め息を吐く。
目の前のモニターには以前彼の風景。巨大敵が出てきて逃げ惑う者が多い中、彼は他の有望株と同じく最前線に残り、効率的に競争相手が減った敵を狩っていた。
最前線に残るにはリスクが伴う。巨大敵が崩し落とした建物の破片がフィールドに降り注ぐ中、彼は残像が伴う程の動きで破片を躱し、ポイントを積み上げていった。
やがて試験が終わりを告げ、引き千切り手に持っていた仮想敵の頭を落とした。そして偶然かそうでないのか、見上げた先にあるモニター越しに目が合う。
その目は、何の感情も映していない癖に、酷く人間的な欲に塗れた目をしていた。
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今日から雄英高校生である。そんな気持ちでルンルンと校内を歩いているが未だに目的の教室に着かない。広すぎんだろこの高校。
初日ということもあり、かなり余裕をもって家を出てきたのに遅刻とか馬鹿にならない。ルンルン気分が焦りに変わる。標識もあるし、迷ってはない筈なんだけどなぁ。
「ちょっといいかしら?」
振り向くとキュートなカエルっぽい女の子。これがボーイミーツガールか。言われてみればどことなくトリ〇ティっぽい気もしなくもない。
「なにかね?」
内心キョドりながらも極めて紳士的に対応する。高校生になったらネオの如くアダルティで大人な青春を過ごすのだ。その為には童貞めいた香りをまき散らす訳にはいかない。
「私、新入生なの。指定された教室に向かっているのだけど一向に着かないから不安で確かめたくって……。先輩なら知っているかと」
「奇遇だな、私も新入生だ」
俺の言葉に驚くトリニティ(仮)。少し大人な雰囲気を出しすぎてしまったか?
「そうだったの。全くそうは見えなかったから」
「……いや、構わんよ」
「あ、ごめんなさい。私思ったことは口に出ちゃって」
「気にしない、それより早く教室に行こう。私も思っていたが、ここは広すぎるからな」
「……そうね」
中学生の頃から老け顔と呼ばれているのでこの手の事は慣れている。隣を歩くトリニティ(仮)はちらちらと俺の顔より少し上を見ながら「言ってはいけないこともあるのよ梅雨、耐えなさい」等と言っている。人に気が遣える凄くいい子だ、多少相手の見た目を間違って判断したからといって俺は全く気にしないのだが。
「そういえば名乗っていなかったな。私は三済 角人。1-Aだ」
「私は蛙吹 梅雨。同じクラスだったのね、私のことは梅雨ちゃんて呼んで」
「そうか、Ms.梅雨。私のことはスミスと呼んでくれ」
ちなみにスミスは中学からのあだ名だ。
「梅雨ちゃん」
「…………」
「梅雨ちゃんてよんでね?」
黙々と歩みを進める。童貞たるこの俺に女の子をちゃん呼びとは無理を仰る。救世主たるネオだってパーセフォニーにグイグイ来られたらちょっと引いてたし、しゃあない。
それにしても、梅雨ちゃんはなにか罪悪感を感じるかの様に目を伏せている。俺はイギリス人の血が入っているのに加え、鍛えてるのもあってエライガタイが良い。そのせいか初対面の人間にはやたら威圧感を与えてしまうから気を付けろと友人のジョーンズやブラウンにはよく言われていた。しかし気を付けろと言ったって何が出来る訳でもなく、とりあえず無意味に笑ってみると、ちらほらといた他の学生たちが海を割ったかの様に道を空けた。
「着いたな」
「でっかい扉ね」
ついに目的の1-A教室に辿り着く。最初はドキドキを楽しんでいたが、会話を持たせるスキルなどないので途中からははよ着いてくれと思っていたよ。
ドア越しにも喧騒が聞こえてくる中、ガラガラと扉を開けると―――
「机に足をかけるな!」
「テメーどこ中だゴラァ!」
ここは本当にエリート校たる英雄なのだろうか。僅か1日で学級崩壊しているじゃあないか、もうやだスミス怖い。
「……ハッ! 教師の方がいらっしゃったぞ、皆席につけ!」
「よく見ろメガネ、こいつも制服着てんだろうが」
なぜかクラス全体に静寂が訪れる。オレか、俺のせいなのか?
「こ、これは済まない。動揺した。余りにそうは見えなかったから……」
「しょうがねぇよ、俺だって一瞬そう思ったわ。つーかお前急に出てくんなや、あぁ?!」
眼鏡くんが落ち着きを取り戻すと同時にヤンキーに絡まれる。中学ではこういう感じの人がいなかったから対応に困る。中学じゃあ俺が通るとなぜか皆目を逸らしたし。
「あぁ三済 角人だ。よろしく」
「私は蛙吹 梅雨よ」
とりあえず挨拶をすると固まった皆も動き出して取り囲んでくる。主に話しかけられてるのはオレではないが。
「蛙吹さん、大丈夫?」
「怖くなかった?」
いつの間にかオレと梅雨ちゃんは離されている。悲しい、やはり彼女はトリニティではなかったのか。
「芦戸 三奈だよ、ヨロシクね」
近くにいた子の一人が挨拶をしてくる。そうか、彼女がトリニティだったのか。
この短い間でインパクトの強いイベントが重なりすぎてどうも頭がパンクしてしまった。しばらく自分の机でゲンドウポーズで固まっていると、いつの間にか教壇に寝袋に包まった見知らぬ不審者がいた。
「はい、静かになるまで……意外とかかんなかったな、合理的じゃあないか」
なぜだか好感触な意見を述べてくる蓑虫はどうやら担任らしい。体育服を渡されると入学式もなしに個性把握テストをやるようだ。
黙々と着替えているとメガネとヤンキー君がまた会話している。意外と仲良いな君たち。
「……アイツの方が先生ぽかったな」
「それは言ってはいけない」
ちなみにその後のテストという名の体力測定は普通に好成績だった。