サイケデリックな音楽な鳴り響く空間。多彩な光が降り注ぐダンスホール。黒い男スミスと仲間二人が空から降り立つと、群衆から何人かの男が群がってくる。
それを弾き返すかのように撃ち抜き、また時には比喩ではなく本当に弾いて放りながらスミス一行は前進する。
「出すぎるなよスミス!」
そんなイケメンボイスも客の歓声や悲鳴、音楽と共になり流される。
ひたすらに自分たちの得物を振るい、襲って来る暴力を更なる暴力で塗りつぶす。これこそ正にギャングオルカ流。彼の指導を受けた者の中には、手にした力を然るべき時に振るうことに躊躇う人間などいないのだ。なにがソフトパワーだ、そんなもんクソと同じだ。
ガタイの良いスミスが先頭を行く。途中何人かが襲って来るが、銃を胸元に引き、斜めに構えながら進んでいくスミスが即座に反応した。新たに教わった戦闘法で周囲の人間を巻き込まぬよう、時には相手に銃口を押し付けて発砲して無力化していく。
撃たれた相手がヤバイ? でぇじょうぶだ。気合が入ってなきゃヴィランってのはやれねぇ。そんな感じで相手を信用して引き金を引く。
当初は催し物だと思っていた客も、異常事態に気付いて逃げ出し始める。その群れは徐々に大きくなり、やがてはスミス達もその波に飲み込まれる。
まさしく狂乱怒涛。まさしく驚動天地。全ては計算通りだ。こういっときゃなんとかなる。
目の前のヴィランと多分ヴィランっぽい奴をちぎっては投げ、ちぎっては投げる三人組。どうしてこうなったのか。その理由はスミスの頭がハイになる(揶揄ではない)少し前にあった。
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スミス警備中。
特に何事もなく時間は過ぎ、ボスたちの交戦も味方側に負傷者も出ず、あっさり終わったと連絡があった。相手のヴィランに同情しつつ安堵の息をつく。
「9割方任務が終わったようなものだけど、最後まで気は抜かないでね」
そういうマワリ先輩だったが、明らかに今までより雰囲気が柔らかくなる。それからは雑談も許され、警戒は続けつつも他愛のない話に花を咲かせる。ティラミスは……だめですよね、はい。
「マワリ先輩って彼氏とかいるんですか?」
「は!? え、えぇ……い、いないよ。今はほら、忙しいしね」
「そうなんですかー。マワリ先輩って美人だし、オレ達後輩から見てもモテそうなのに。な、スミス」
「イェア」
いいぞーパイセン。よく聞いてくれた。
「それじゃあ気になる人とかっているんですか? いないんだったら大事ですよ」
「え、なんで?」
「そりゃあ先輩を狙ってる人は大勢いますからね」
「それはないっしょー。わたし告白とかされたことないし。ヨーくんも言ってくれるなぁ」
「嘘じゃないですよ。それならオレ達がしてあげましょうか? な、スミス」
「イェア」
こっそりガッツポしながら茶化すヨー君。しかしね、コナン君ばりに真実を見つけてしまった俺にはワンチャンあるとは思えんのよね。
いや、でもいい女にはライバルがいて当然だしな。ネオばりのラブロマンスを目指すなら、オレもグイグイいかんとな。そんな勇気はないんですが。
そして一時。学生らしい雑談に笑いあう。お互いがヒーローとしての仮面をずらして素顔を覗かせる。その半分だけ覗かせた顔が、真に俺を受け入れて認めてくれたのだと感じて嬉しく思う。
そんな感慨に浸っていると、急に目の前の二人がヒーローの仮面を被り直す。
なぜDC映画は路線変更したのか等というしょうもない話を続けつつ、マワリ先輩が目配せした。
会話を続けながら周囲を見渡す。一見何も変わらない様に見えるが、あることに気付いた。
各組織のボディーガードが消えている。演奏も止み、徐々に通常の客も誘導されるように掃けていった。これは一体……
「嘘でしょ、本気なの……」
小さく漏れた言葉が耳に入る。しかし先程までとは比べ物にならない緊張感にその意図を問いただすことも出来ない。
先程まで食事を運んでいた白服のボーイたちが集まってくる。注視するまでもなく、その懐は皆膨らんでいた。
彼らはどうもオレ達の案内はしてくれないようで、一定の距離のところで止まった。恐ろしいまでの静寂。ここまで来れば嫌でも分かる。懐の銃に手を伸ばし、いつでも抜けるようにする。
誰がしたのかは分からないが、一つの呼吸音が聞こえた。
その瞬間、銃を引き抜いて射撃する。混じりっけなしの銃声が響き、銃を抜いたボーイを射撃した。ゴム弾なので死なないだろうが、これはデザートイーグル。一発で動けなくなる代物だ。
続けて2人、3人と。一発も外しはしない。一応ギリギリまで相手の意思を確認したつもりだが、コイツら全員迷うことなく殺しにきてやがる。
次々と仕留めていくが7発撃って弾切れを起こす。絶大な威力のデザートイーグルだが、現代の銃でたった7発しか装填できないのは本当にどうかと思う。今時そこいらのチンピラヴィランですらグロック持ち歩いてんだぞ。
ソムリエさんには悪いけどさ、7発とかリボルバーに毛が生えたようなもんじゃん。毛が生える……あれ、なんかオレに似合ってる気がしないでもないような。
7発しかないから沢山いる敵を普通に倒し切れてないんだけど、全く心配はしてない。
弾切れに気付いた敵がこちらに銃を向けるが、後ろから2発の銃声が響いた。見事なダブルタップで敵を倒したのはマワリ先輩。真堂先輩が組み伏せた一人にも容赦なく止めを撃って気絶させている。
ソムリエ教官の弟子なだけあり、彼女も銃の扱いは優れている。見ればもう片方の手でトンファーから飛輪を放ち、周囲の敵を一掃していた。
早撃ち合戦を制し、ひとまずの安全を確認するとすぐさま指示が飛ぶ。
「ボスに連絡を」
「……繋がりません」
「スミスくんのは?」
「一帯に妨害電波が」
「他の皆に合流する。通信は続けて」
会場から出ようとすると、一番大きな通路から足音が連なって聞こえてくる。
「着いてきて」
マワリ先輩が駆けだす。それを追いかけながら、真堂先輩が話しかけてきた。
「随分と遅いオープンセレモニーだな」
「ウェルカムドリンクは鉛玉で」
ここぞとばかりに二人で頷き、グータッチ。前を行く先輩から溜め息が聞こえた。
久々に書きました。リハビリを兼ねて。