救世主っぽい個性を手に入れたぞ   作:螺鈿

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完璧という言葉ほど信用出来ないものはないんだぞ

 スミス、廊下を爆走中。

 

 護る側の人間に襲われる。今までヒーローと表面上ではあるが上手くやり、徹底的に表に出て来なかったというのに。そんな人間がこんな大胆な行動に出る意味が分からない。

 

 分からないが真堂先輩と目が合ったのでそれらしいことを口にしようとした瞬間、マワリ先輩が睨んできた。途端、キリっとする真堂先輩。コノヤロウ。

 

 

 後ろの追手の足音は近くも遠くもなってない。このままなら逃げ切れる。この先の扉を開ければ下への階段が見える筈。そう思って勢いよく開け、駆けだすとそこには……

 

 

「ん?」

「これは……」

 

 立ち止まり、盛大に舌打ちするマワリ先輩。そこは別のホールだった。道を間違ったなんてレベルじゃない。事前視察で場所。別の階どころかさっきまでいたホールから離れた別館だ。

 

「やられたかな」

 

 この、本来ならあり得ない別の場所をドアを使って繋ぐ個性。ここに来るときにオレ達が体験した個性だ。

 

「こっちもダメですね」

 

 窓を開けて確かめる真堂先輩。ちらりと見えた光景は、窓の先から何故か下に広がる廊下。まるでトリックハウスを見ているようである。

 

 自分たちが来たドアから足音が迫る。逃げようにもここから見えるもう一つのドアからも足音が聞こえてくるのだから全くどうしようもない。

 

 どちらかの通路にこちらから出るか、ここで迎え撃つか。リーダーであるマワリ先輩の判断を待つ。彼女が口を開く瞬間、アナウンスが流れた。

 

 

 

『今日はパーティなだけあってよく客人が廊下をうろついている』

 

 冷たい、聞いたことの無い声。

 

『歓迎しろ』

 

 隠し切れない悪意。

 

『くれぐれも楽しませることを忘れないように』

 

 アナウンスが途切れた瞬間、前後から「彼ら」がやってきた。

 

 その手には鉈やナイフ、斧などの凶器と、それを扱うに足る狂気を備えて。

 

 沈黙。一定の距離を保って、室内に緊張が満ちる。獲物を前にした獣のように息を整える。

 

 それらを前にしてオレは最早癖になった動作をする。スーツを整えながら首をならした。

 真堂先輩は頭を振り、黒のサングラスを着けなおす。

 

 そしてマワリ先輩はトンファーを回し、可愛らしい声で呟いた。

 

「……クルクルクルリ」

 

 

 

 それを合図に雄叫びを上げながらヴィランたちが突っ込んできた。3人で背中を預け合いながら、負けじと全員で声を上げて迎え撃つ。

 

 勢いそのままで振り下ろされる鉈を躱し、蹴りを入れる。そのまま足で追撃しようとしたが、切り替えて横に払う。足が隣に迫っていた別の敵の鉈を弾き飛ばした。更にその後ろから迫る二人の凶器を躱しながら急所に拳を何回か叩きこむ。

 

 雪崩の様に次から次へとくる敵の攻撃。武器を持っている以上当たるわけにもいかず、受けや躱しにミスは許されない。敵を減らそうにも、他方から来る敵に一人一人止めを入れる様なタイミングはなく、有効打を少しづつ叩きこむのがやっとだ。

 

 言葉にもならない獣の声。目の前の相手を殺すことだけを考えた人間はこうまで人を捨てられるのか。殺気というよりも狂気に憑りつかれた目の前の人間に畏怖を覚えるが、体は勝手に反応してその殺意を迎え撃つ。

 

 前後左右、一人だけではなく、二人、時には3人同時に迎撃。時たま来る飛び道具や投げてくる鉈をはたき落とし、じわじわと相手を削っていく。

 

 一対多。ボスの事務所で訓練してなかったならまず間違いなく対応できずに死んでいた。泥臭く、恰好など気にせず、しかし冷静にこの波に抗う。それを教えてくれた、先輩達に感謝するばかりである。

 

 敵はオレに武器を弾かれてもそれを取りにいくことをしない。獣は獣なりにこの波を途切れさせたらいけないと知っているのだ。

 

 オレの個性も近接戦では活きることはない。躱し切れず何発かもらうが、その度に倍返しと言わんばかりの豪打をくれてやる。

 

 止めをさせているのが殆どいないとはいえ、オレの一撃も生ぬるいものじゃない。コンクリートを砕き、鉄棒を凹ませる一撃をもらっても彼等は立ち上がって襲って来る。それがアドレナリンのせいなのかヤクでぶっ飛んでるのかは知らないが、とにかく精神が磨り減っていく。なにせこっちは少しでも乱れたらそこから一気に攻め込まれる。そうなったら取り返しがつかないだけでなく、オレの守っている陣形の一角が崩れて後ろの二人も死ぬことになる。

 

 隙を見つけてスライドキックで敵を突き放す。その際に視界に入った先輩たちの姿。正直、後ろを見ることに恐怖を覚えていた。三人の陣形が崩れることじゃなく、先輩たちが傷つく姿、死ぬ姿を見ることに恐怖していた。

 

 

 結論から言おう。心配なかった。

 

 真堂先輩は「ハッハー!!」と引き攣った笑いで自分を鼓舞しながら敵と戦っていた。両腕の無敵手甲で真堂の拳ならぬ振動拳(最初聞いた時は失笑した)を叩きこみつつ、時折来る銃撃にはガーベルコマンドーで対抗していた。どうやら一角を相手取る分なら心配なさそうだ。

 

 マワリ先輩はなんかそらもう緑の運命のツ〇イーばりに戦ってた。恐ろしい、これがプロヒーローを控えている者の実力なのか。

 

 となるとぶっちゃけこの中でヤバイのは俺かもしれない。敵さんもそれが分かっているのか、心なしこちらに集中しているような気がしないでもない。

 

 

 徐々に敵の包囲網が崩れ、ゴールが見えてきた。脱出を図るべく視線を逸らした瞬間、物凄い勢いで迫ってくる球体。殆ど直感で個性を発動して避ける。

 

 耳障りな音と共に砕ける床。大理石で出来た床に大きな罅。それを生み出したのは、深々と突き刺さった野球ボールだった。

 

「……ボール。取ってくれるか?」

 

 そこにいたのは、野球バットを担ぐ年若い男の姿。これまでの有象無象とは違う。明らかに実力者の雰囲気。

 

『ホームランボーイ』

 

 事前に与えられた資料に合った。最近ヒットマンとして名を上げている男だった。

 

「くぅッ!!」

 

 マワリ先輩の声。視界の端に入ったのは体から血を垂らす先輩の姿。さっきまで無双ゲーしていた彼女とは思えない姿だった。そしてその先にいるサングラスをかけ、両手に金槌を持った女。

 

『ハンマーレディ』

 

 ホームランボーイの妹であり、彼女もまた名のあるヒットマンである。

 

 

 ホームランボーイはオレに、ハンマーレディはマワリ先輩から目を逸らさない。他の連中は役割を心得たのか、それぞれの相手を任せて真堂先輩にまとまって襲いかかる。

 

 ごくりと息を飲んだ瞬間。ホームランボーイが取り出した硬球をバットで打ってきた。

 まるで野球のノック。ふざけた攻撃だが先程の一撃を見ている故に汗を散らしながら全力で避ける。

 

 高速で動く体の横を過ぎるボール。その風圧だけでどれほどの威力か分かってしまう。ボールの硬質化? バットを使ったエネルギーの操作? どんな個性なのかは知らないが、とんでもない殺傷能力なのは間違いない。

 

 ある意味で、彼の相手が俺でよかった。この攻撃を躱すのは他の二人では肝が冷えることだろう。

 

 

 ホームランボーイは攻撃を躱されたことに舌打ちするとボールを3つ取り出した。嫌な予感と共に、金属バット特有の甲高い打撃音を軽快に鳴らす。

 

 サングラスをクイっとしてそれらを待ち構える。スローになった世界。ボールの軌道から体を逸らす。名のある殺し屋だけあって素晴らしい技だが、この高速分身に飛び道具は通用しない。そう思った瞬間だった。

 

 ――――――ボールが、曲がった!?

 

 変化球の様に軌跡が変わっていく。それに動揺しつつ、体の動き方を変える。一つ、二つ。体の悲鳴を聞きつつも死にもの狂いで動く。しかし気付くのが遅かった。一つだけ躱し切れないボールがあった。

 

 俺のミス、というより直前までボールの変化を気付かせないような敵の技術を素直に称賛するべきなのだろう。オレはこれからくる痛みに覚悟を決めた。

 

 

 鈍い音が響く。体の芯まで響くような嫌な音だ。体を支えられず、地面に蹲る。

 

 ホームランボーイは会心の当たりを確信した打者のようにゆっくりと近づいてきた。

 

 俺の前で立ち止まると、打席に入ったようにバットを動かして構えた。俺の脳天に振り下ろすつもりなのだろう。先輩たちは目の前の相手に必死で余裕がない。誰にも邪魔されず、このまま彼の思う通りオレは頭をかち割られる。そんな未来を幻視した。

 

 バットが振り下ろされる。オレは下を向いているのでそれを感じるだけ。バットが近づいてくる。頭に届く。その瞬間……

 

 

 ガキン、とバットが地面を叩いた。

 

 

 頭を横に動かして辛うじて躱したことに驚くホームランボーイ。慌ててもう一度叩き下ろすが跳ね起きの動作で躱し、そのまま立ち上がる。

 至近距離で目線が合い、ホームランボーイが凶悪な笑みを浮かべる。

 

「2死満塁ってところか?」 

 

 直後、繰り出されるバットのスイング。互いの息を感じるほどの近接戦。バットを始めとして蹴りや頭突きも含む猛攻が始まった。

 

 ホームランボーイは必死でバットを振り回す。が、ある時は躱され、ある時は出だしを抑えられて掠らせることも出来ない。

 

 決してホームランボーイの格闘技能が低いわけではない。しかし武器も含めた格闘に関しては幼少より色々と馬鹿げた鍛え方をしていたスミスに及ぶべくもなかった。

 純粋な格闘戦になった時点で、勝敗は決してしまったのである。

 

 

 大振りになった所にカウンター一閃。隙をついてホームランボーイを沈めた。

 

「ゲームセットだ」

 

 油断なく確実に倒したことを確認して一息つく。

 

 強敵だった。ボスに先輩、ソムリエさんたちの特訓でタフになっていなかったら間違いなく殺されていた。

 

 ボールを受けたあの瞬間、避けるのを諦めて完全に受けの体勢に入った。

 タフさと言っても種類は色々ある。オレが先輩たちから指導……もといリンチを受ける中でそれを学んだ。

 

 痛みに体を慣れさせ、その上で気合で耐える方法。ダメージを受け流す技術の他に、ひたすら気持ちで耐える根性。攻撃のインパクトの際に体を適応させる技法と共に、強い心で攻撃を受け入れるメンタル。

 仲間と共に、数多のバケツに戻した夜を越えてオレはやったのだ。泣けてくる。サイファーなら耐えられなかった。スミスだからこの逆境に耐えられた。今ならそう思えなくもない。スミスボディ万歳。

 

 

 

 一連の攻防でスーツのボタンが取れてしまった。乱れた服装と呼吸を整えてふと振り向くとマワリ先輩もハンマー女をKOしてた。勝利の雄叫びを上げる先輩の顔はとても見てはならない形相だった。なのでスミスは見ないことにしました。かしこ。

 




 某作のハンマーガールとベースボール・バットマン。ああいうキャラ大好きです。
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