救世主っぽい個性を手に入れたぞ   作:螺鈿

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自分が目指しているポジションが先取りされてることもあるんだぞ

 ついに我らエージェント、じゃない救世主側の番がきたぞ! オレと障子君が攻撃側で、防衛側が尻尾生えてる尾白と見えない葉隠である。相手側の分析? 今ので出尽くしたわ。

 

「いくか」

「ああ」

 

 会話すくねぇな。まぁ集中モードに入ってるっぽいしな。そういや俺の能力は集中すると感覚が強化されるとか言ったけど、実際はよく分からんのよね。肉体も常人以上だし、意識しなくても結果的に最適な動きを体が勝手に行うこともある。どう考えても筋トレの効果以上に体がアップグレード(強化)されることもあるし。結論すると、なんかそれっぽい動きが出来てしまうということで。

 

 レンガ調で出来た古い建物の中を、障子君が耳などの感覚器官を触手から生やして索敵を行いながらズンズンと進んでいく。初見はグロイと思ったけど、慣れるとなんだか愛嬌も感じられる。印象って大切だよね。建物は敵が潜んでいそうないかにもな古っぽく作られて、そこら中に穴が開いている。死角も多いし、潜む場所は多そうだ。

 

「ここで途切れてるな」

 

 障子君が触手で止まれと促す。あたりを見回すと成程といった場所だ。

 

「挟撃するならこの地点ということか」

「そう思わせての足止めかもな」

「どちらも想定の範囲内だが」

 

 大部屋同士を繋ぐ長い通路。奥の階段を使うにはここを使うしかない。図面で二人で警戒していた通りの場所だ。セオリーではあるが、それ故に対応次第で幾らでも局面が変わる場でもある。

 

「どうする?」

「予定していた通りに」

 

 障子君に聞かれて無意味にキリッと答えると、障子君はこっそりと触手である場所を指し示す。俺はそこに手を伸ばし……

 

「キャッ! なんでぇ!?」

 

 壁をぶち抜いて奥にいた葉隠を掴む。壁と壁の間に構えてこちらの動きを逐一相棒に報告していたのだろう。こと諜報に関してはこれ以上ない個性だが、こちらの障子君も索敵に関しては中々のものだ。

 

 俺はコンクリの壁をまるで段ボールかの様に腕を突っ込んで壊しつつ、葉隠をがっしりと捕まえて引きずり出した。元々は大体の位置を攻撃して炙り出す予定だったんだけどまさかのドンピシャだった。嬉しいけど、なんかエージェントっぽくてやだな、この行動。

 

「やぁ、会いたかったよ」

 

 葉隠がもがくが強靭なこの肉体相手だと無意味だ。しかし凄い個性である、こうして目の前にいても本当に透明で何も見えない、掴んでいる感触や声以外、葉隠を全く認識出来ない。

 

「さっさと捕まえよう」

 

 障子君が捕獲テープを出すとがっしりとホールドした両腕から更にもがく感触が伝わってくる。

 

 しかし柔らかいな、これが女の子か。初めて感じる感触に胸を高鳴らせていると、オレはとんでもないことに気付いた。

 

(あれ? 葉隠って服は透明化出来ないんだよな。なら目の前のコレは……)

 

 あ、あかん。これはあかん。まるで幼子が冒涜的な啓蒙を得たかのような真実に目覚めると、オレの体は石化を喰らった不死人のように動かなくなってしまった。以前読んだ同人誌的な展開が頭をよぎり、邪念を払う為に頭の中で「ネオはそんなことしない」と必死で唱える。

 

 オレの様子に違和感を覚えたのか、障子君が呼びかけようとするが、その瞬間分かりにくい表情を変えて触手が叫び出す。

 

「スミス!」

 

 次の瞬間体に物凄い衝撃が来て吹き飛ばされる。通路から大部屋に戻され、宙に浮かんでいる時間が終わると床を捲りながら大の字で滑っていく。大した威力だ。顔を向けるとそこには尻尾を振り切った尾白。

 

「一旦退こう。葉隠さん」

「OK、尾白くん」

 

 ここで葉隠を見失ってはまた振出である。追わせんとする尾白と対峙する障子くんを俺は呼び止めた。

 

「私が相手しよう、君は追いたまえ」

 

 両腕を地面に叩きつけ、その反動で映像が巻き戻されるかのように立ち上がったオレ。高級品であるサングラスを傷つけないために懐にしまいながら言う。

 

 只ならぬ俺の雰囲気に、障子君は頷いて葉隠を追って行った。尾白は先程の一撃を喰らって平然としているオレに驚きつつ、障子くんを行かせんとする。

 

「いいのかね? 集中したまえ、君の目的に」

 

 なんか適当なこといって尾白の気を引かなきゃ。

 

「役割を果たしたまえ。それが出来ないモノは、消去される」

 

 障子くんを無視して俺に集中する尾白。俺に頷きつつ障子君は葉隠を追って階段に向かう。なんかそれっぽい雰囲気だけど、ぶっちゃけ葉隠見つけるとかオレには出来ないから放り投げただけなんだけどな。

 

 尾白と対峙する。見た目から分かっていたけどこいつも武術やってるんだな。相手も歩き方からそれを察知していたのか、尾白はにやりと笑って構えをとった。……なんかネオっぽいやん。

 

 空手っぽい武術が入り混じった構えをする尾白は、奇しくもモーフィアスと訓練してたネオっぽい構えをしていた。胴着姿も相俟ってますますネオっぽい。インパクトの強い黒に捉われ、こういう路線をすっかり失念していたオレは悔しさで拳をギリギリと握りしめた。せめてもの反抗に、ここはモーフィアスのあの構えで対抗する。オレはモーフィアスも好きなのだ。

 

 

 

 救世主たるべく必死に努力してきたのにこんな形でネオポイントを掻っ攫われるとは、コイツは今の内に叩きつぶさなければならない。オレは確固たる決意をしたのであった。

 


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