救世主っぽい個性を手に入れたぞ   作:螺鈿

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それをな、人は八つ当たりというんだぞ

 

 その堂に入った構えにお互いに一通り「出来る!」とか感じて楽しんだ後、尾白は跳ねる様に懐に飛び込んできた。

 

 次々と繰り出される拳。それを捌く、捌く、捌く。武術というのは肉体を使う以上、どんなものにも共通する型やリズムというものがある。双方が武術に通じているのなら、今の様にアクション映画の様な攻防を行える訳だ。

 

 殴打のリズムが一定のとこに来たところで一旦距離を取る。今のはウォーミングアップと同時に相手の力量をお互い探っていたのだ。その結果は尾白の笑み。慢心ではなく、全力を出しても大丈夫という確信を持てたことによる、漢の笑みだ。

 

 尾白は構えを変え、ステップを刻み始める。型を攻撃にシフトしたのだろう。空いた右手でちょんちょんと鼻をイジる。所謂ブルーなスリーのアレだ。男ならやりたくなるよな、分かる。それに対し俺は例の手をクイクイっとして挑発する。これも浪漫よね。

 

 尾白から再び攻め始める。今度は威力の高い蹴りも織り交ぜて、こちらの体勢を崩しにかかってくる。その速度は速く、ちゃんと力を乗せており、防御してもこちらを固まらせる威力を持っている。それに型通りではなく意表を突くような動きも加えている当たり、ちゃんと実戦であることを考慮している。

 

 俺は連撃の途中の蹴りを苦し紛れに掴み取り、スクリューの如く相手を回しながら放り投げる。

 

「Good!」

 

 投げた尾白が地面に伏し、攻防が途切れた所で話しかける。

 

「慣れも早い、パワーもスピードも十分、機転も利く。しかし、問題はテクニックではない」

 

 これが言いたかった、でも本当に言いたかっただけなんだ。それっぽいこと言ったけど、これ多分尾白の方が武術的には上かも分からんぞ。先程のセリフも相俟って何か格上の雰囲気醸し出しちゃうけど、予想外である。まさか肉体的にはかなり上位だと確信できる俺に喰らいつく程の武闘家だとは! どないすんべコレ!

 

 尾白は何度か頷くと、再び攻めてきた。あかん、守ってばかりじゃやられる、オレもモーフィアスっぽく構えてないで攻めなくては!

 

 カンフー的な動きで相手の攻撃を捌き、撃つ。相手が蹴りを撃ってきたら蹴りを、拳なら拳を、基礎的な肉体能力に優れているのはオレらしく、なんとか対応できる。

 

 戦局を変えにきた尾白のハイキックを受け止め、太極拳の運歩と呼ばれる歩法で相手を崩し、掌打で吹き飛ばす。

 

 転がった尾白はスタイリッシュに足を回して立ち上がり、後ろ回し蹴りを仕掛けてくる。隙を見た所に俺が3つの変則中段蹴り、これは防がれる。何度か軽い攻撃を喰らうがタフネスを生かして前に出て、攻撃が出始める前の腕を絡めとって投げる。前のめりに崩れた尾白を見てオレはティンと来た。

 

 今だ! モーフィアスジャンプ、アンド膝蹴り!

 

「これは当たれないな!」

 

 この技、具体的に言うと相手が崩れた所で高く宙に浮かび上がり膝を相手に叩き落とすのだが、俺は失念していた。この技はカッコよくて印象に残りやすいが一度も敵に当たったことがないのだ。案の定結果は膝が地面に叩きつけられるだけに終わり、再び尾白にスタイリッシュに逃げられる。

 

「……強い。こんなに強かったのか三済」

 

 モーフィアスに拘るあまり、折角の決め所を失った。これだからあのハゲはダメなんだよ。尾白ももう大振りはしてこないかも、これはあかんかも分からんね。

 

 仕方ないので警戒して攻めて来なくなった尾白にモーフィアスステップで近寄りつつ、今度はこちらから攻める。

 

 今までのクンフーに加えて今度はフルコン系の打撃や肘も加えていく。うん、ぶっちゃけオレ打撃でゴリ押した方が強いんだよね。防御も普通の相手なら受け流す必要がある程強い攻撃はないしね、このボディだと。でもそれだとまるでエージェント的な動きになるからやらない。クンフー中心の動きで攻め続ける。

 

「クッ! 多彩だな!!」

 

 既存の武術では見られない動きや攻撃、つまりマトリックスのジュージツめいたクンフーに押し切られ、何度も転がされる尾白。その度に闘志で立ち上がってくるが、流石に流れを変えたいのか、近くにある柱を駆け昇って宙から変則的な動きと攻撃を仕掛けようとする。あーこの展開はアレですわ。

 

 落ちてきたところに蹴り一発。尾白は吹き飛んだ。

 

 柱がへし折られる程の衝撃に尾白はダウンする。本来なら直ぐに拘束テープを巻くところだが、折角なのでちょっとロールプレイしてみよ。

 

「なぜやられたと思う?」

「う、動きが速すぎる」

 

 起きてたんかーい! 完璧に入った攻撃に意識のある尾白にめっちゃ驚いてしまうが、それは顔に出さず(多分)話を続ける。

 

「私の方が速く、強いとして、その事がこの結果に関係あると思うのかね?」

 

 オレの言葉に聞き入る尾白。な、なんか言わなきゃ。そんな雰囲気だぞこれ。

 

「それが関係あるのか? この世界で、君の動きと意志に」

 

 先程の動揺もあってか、オレの頭のテンパリ具合が止まらない。

 

「……君の敵はそこにいるか?」

 

 もう何言ってるかわかんねぇや、自分で言っといてなんだけど。

 

 電波野郎、やべぇヤツ、何言ってんだこの老け顔と思われない内に背を向け、距離をとる。

 

「もう一度」

 

 はよ、はよかかってきて。ヨロヨロと立ち上がってきた尾白。しかし構えはしっかりしている。

 

 なんか申し訳ないし気恥ずかしい。はよ終わらしたろ。

 

 失敗したロールプレイを誤魔化すように猛攻を仕掛ける。いい加減障子くんのとこに向かわなければ、もう結構な時間が経ってる気がする。

 

 しかしギリギリのところで攻撃を全部防がれる。あれ、こいつ反応上がってね?

 

 防ぎそこねた攻撃に尾白が怯む。受けたのは軽い攻撃だった為直ぐに体勢を立て直す。

 

「どうした、もっと速い筈だぞ」

 

 やっべ、ロールプレイはやめたのにやっちった。いいや、この際最後までやったろ。

 

「頭で考えるな、知るんだ」

 

 考えるな、感じろの精神ですね。これは分かります。

 

 構える尾白に再び攻める、攻める。あ、やっぱりこいつ反応上がってるわ、全然攻撃通らん。どないしょコレ。

 

「打つんじゃない、撃つんだ!」

 

 謎の上から目線、必死なのはこちらである。

 

 ドンドン速くなる尾白の動きに全力全開で対応する。その速さは拳に残像が出ている辺り、オレもいつの間にか個性を発動していたことを知る。

 

 くっそ、本気出したる。ここからは本気ジュージツや! まぁ今までも本気だったんですけど。

 

 そんなことを考えながら必死に攻防していると尾白がガス欠に陥ったのか、息を荒くして勝手に崩れ落ちた。あ、危ねぇ。最後ら辺とかヤバかったわマジで。

 

「心の扉を開けるのは、君自身だ」

 

 涼しい顔で必死に勝ち台詞を言う。多分物凄いドヤ顔になっているが実際は色んな汗がダラダラである。

 

 さて、ここから障子君の応援に行こうか、それとも核の確保に向かうか迷っていると終わりのアナウンスが流れた。……あれ、これもしかして制限時間か? まさか俺らの負け? 

 

 始まる前に障子くんに「勝利の栄光を君に」してしまった以上、どのツラ下げて会えばいいのかと思ったが、勝ったのはこちらだった。障子くんが葉隠を捕まえたらしい。

 

 やっぱすげぇわ、触手は。

 

 

 

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「すごかったぜ! あんな動き現実で初めて見たよ!」

「尾白も三済も、マジモンの達人だったんだね!!」

 

 戻ったら皆に取り囲まれた。どうやらオレと尾白の戦いが受けたらしい。ロールプレイしたかいがあった。スミス泣きそう、達成感で。

 

「た、達人なんてもんじゃないよ。それに三済は俺に合わせてくれただけだよ」

「んん、どゆこと?」

「俺の武術スタイルに合わせてくれたんだ。だからこそあんな演武みたいな動きになった訳だし、実質おれに稽古つけてくれたようなもんだよ」

「へー、そうだったんだ」

「意外といい奴なのか、三済って」

 

 皆の視線がこちらに集中する。それは慣れたもんだが、今度はなんか好意的というか興味を感じるような視線だ。これが人徳という奴か、尾白っていい奴そうな雰囲気凄いもんな。なんか悪い事した気がする。

 

「尾白も途中からは個性を使わず、純粋な技術で戦っていた。本気なら結果は逆だったかもしれない」

「そんなことないさ。最初に格の違いを感じたから、武術だけで戦うように誘導したんだ。要は三済に甘えたんだよ。ありがとう、三済」

「……」

「それじゃあ三済さんはわざわざ分かってああいう戦いに付き合ったのですか? なぜそんな不合理なことを……」

「それが漢ってもんだよな! くーッ、熱いなぁ!!」

 

 純粋に俺に感謝を述べてくる尾白に罪悪感が半端ないことになっている。というか尾白は謙遜するが実際そんなことはないと思う。割と最初ら辺から焦ってたんですけどマジで。

 

「さぁさぁ! 講評の時間だ、みんな!」

 

 オールマイトの声で皆雑談を止めて集まる。

 

「今回のMVPは誰か分かるかな?」

 

 その質問にオレと尾白に多くの視線が集まる。まぁアレだけ派手にやったしな、サングラスをかけてドヤ顔しとこ。

 

「障子さんですわ、次点で葉隠さん」

「大正解!」

 

 サングラスしててよかった。ドヤ顔を幾分か隠せる。

 

「えー、なんでー?」

「なんでもなにも、あれだけ遊んでたら後の二人は論外でしょう。確かに凄かったし為にもなりましたが、演習としては最低です」

「ていうか、途中から核の事忘れてたろ。二人とも」

「あぁ、うん。まぁね」

「…………」

 

 その後に八百万さんに細かい点を含めて解説された。オールマイトが「また全部言われた……」って言ってたのでその通りなんだろう。高校で初めての友達が出来て浮かれすぎてたようだ、反省せねばなるまい。

 

「しかしだ。皆見ての通り、戦闘において格闘技術っていうのは何処までいっても有効だ。相手に接触しなければならない個性も、喰らってはいけない個性も、戦いにはあるからね」

 

 最後にオールマイトが講評に付け加えた。皆それに頷いているので、僕は趣味でやってましたなんて言えない。

 

「逆に、近接戦に優れていれば個性なしでもあれだけ戦えるってことだ。君たちも、敵も。雄英では格闘技術の授業もあるし、基礎も教えるけど、各人それを磨くのを怠らないように。こればっかりは、皆の努力がモノを言う世界だからね」

 

 緑谷とかいった生徒がそれに大きな衝撃を受けたかの様な顔をしてブツブツ喋ってる。怖いんですが。オールマイトも「教師らしい事言えた」ってボソっと呟いてガッツポしてる。よく分からんが尾白の件もあるし、オレも今以上にクンフーを高めなきゃなぁ……

 

 

 

 授業が終わってオールマイトが一瞬で消え、オレも帰ろうとすると呼び止められる。この声は尾白か?

 

「三済、今日はありがとうな」

「君に感謝されるようなことは……」

「馬鹿言うなよ。三済の言ってくれたこと、為になった。忘れないよ」

 

 なんかすごい爽やかに言ってくる。あの言葉に何を感じたんだろう、オレが教えて欲しいわ。

 

「あと、良かったらこれからも手合わせしないか? 武術をメインでやってる奴って少ないからさ」

「……それは私も助かる」

「そうか、じゃあよろしくな!」

 

 差しだされた手を握り、固い握手をする。新たな友達が出来たことは嬉しいが、ちょっと考えさせられた。この手の熱さに、彼は本気でヒーローを目指しているんだなって。彼や、真剣に授業に臨むクラスの皆に比べて、オレはどうなんだろう。そりゃ俺だって真面目に授業は受けてるけど、根本的な所でオレはネオになりたいってだけで本気でヒーローを考えたことはあっただろうか。

 

「……スミスだ」

「?」

「スミスと呼んでくれ」

 

 ずっとネオになりたいだけだったけど、高め合える友人と一緒なら、本気でヒーローを考えて、目指したいと思えた。どんなヒーローかは分からないけれど、とりあえずは負けたくないと思う。うん、頑張ろう。皆に負けないように。

 

 

 

 

 

 そして決めたことが一つ。それは卒業までに目的を持つこと。ヒーローであることに対する、ネオになりたい以上の目的。だって、目的なしに存在することは耐えられない。そうだろう?


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