先日の戦闘訓練でなんか一気にクラスに馴染めた気がする。なんたってお昼に一人で食べることが殆どなくなったからな! 筋トレ話で盛り上がっていたら、砂藤くんとか切島くんとか沢山話が出来る友人が増えた。もうね、泣いちゃうね、スミスは。
それに加わるようにちょくちょく色んな人とも話すようになった。偶に一緒に筋トレにいったりもしてる。でも一番仲が良いのはやっぱり障子くんだね、サングラスもあげたし。しかしこれはアレだね、スミスも放課後ジムとフィットネスショップ以外に誘われる時が近いかもしれん。こう見えてもリップシンクが特技でね、ウケ狙いの一発ネタならお手のもんよ。ブラウン君とジョーンズ君が無表情で拍手してくれたから自信はある。
そういや尾白くんだけど、あれ以来ちょくちょく手合わせだったり一緒にクンフーしている。彼のカラテはスゴイワザマエでね、実際オレも勉強させられてます。あと彼もお昼に一緒にお弁当食べて下さる人だけれど、なぜかいつも葉隠さんもついてくる。本当、もうなんていうか……
あとこないだ申請していたゴム銃の所持が審査されるらしい。サポート科担任のパワーローダー先生に指示された場所へと向かう。どうやら銃火器に関してはちょっと扱いが変わるみたいだ。卒業生で国の火器管理をしているソムリエという人がいるらしく、その人が定期的に来るのに合わせなきゃいけないらしい。ゴム弾とはいえ、火器を扱うにはそれなりの手続きが必要なのだ。
学生達の発明品がごった返してる仕事場を抜けると目的地が見えてきた。ひっそりと、しかし厳重な扉を開けるとそこには洒落たカウンターと落ち着いた感じのお兄さんがいた。
「ようこそ。何か御用でしょうか」
「依頼していた者だ。三済という」
「あぁ、三済様ですか。ご要望の品は?」
「
俺の言葉に微笑みながら頷くと、カウンター奥にある棚をスライドさせる。そこからはこの狭いカウンターからは想像できない銃の山。こいつぁ男なら「おら、わくわくすっぞ」しちゃうね。
「それでは、どう致しますか?」
「テイスティングを」
「喜んで」
俺の言葉に嬉しそうに頷いて壁にかけてある銃を2丁取り出す。
「イタリアンはお好きで?」
「勿論」
「では前菜から」
差しだされたのは拳銃のベレッタ92FS。ネオが二丁拳銃していた銃である。男の子だからね、銃について色々調べちゃうことってあるよね。ベレッタは米軍でも採用されてる素晴らしい銃である。ネオもカッコよく撃ってたよね、当たんなかったけど。
「ベレッタ。どのような局面でも信頼できる、実績ある銃です」
「Good。……終わりか?」
「いえいえ、MP5K。ロングマガジン。ストックを外し、レーザーポインターと光学照準器付き。口を加工しているのでリリースも早い。注文を頂ければ取り出しを迅速に扱えるよう手を加えます、いかなる動きにも対応出来るように」
動作確認しながら渡してくる。これも二つ渡してくるあたり、このソムリエ、恐ろしく分かっている。ちなみにMP5とは拳銃弾を使用する短機関銃で、非常に命中精度が高いことで有名だ。各国の特殊部隊でも使われていて日本でも警察の一部で使われてたりする。Kというのはそれの更に小型版ということで、どのくらいかと言うと両手持ちも軽く出来るぐらいの小ささだ。ネオが警備員不意打ちしたりモーフィアスが全く当たらない乱射をしていたあの銃である。
自宅でトイガンで練習していたのが功を奏したのか、オレも淀みない手つきで受け取ることが出来た。サングラスを光らせつつ更に促してみよう。
「魚料理も欲しい。激しいヤツを」
「それならばよいのが。チェコの銃はご存じで?」
「いや」
「とても高い精度を誇っています。少しクラシックになりますが、扱い次第では刺激的にもなります」
更に二つ小型の銃を取り出してくる。今度は先程のMP5Kよりも小型の銃。ストックを外してそれに反動を軽減するマズルブレーキをつけて渡してくる。
「少々手を加えておりますが……スコーピオン。9mm、リデューサーはご要望に合わせて。グリップを広めに握りやすく、重心をいじることで更に照準がし易くなっております」
この銃は知ってる。あんまりにも小型で隠しやすく、使いやすいから暗殺とかに使われてたんだよね。ちょっとダーティなイメージもあるけどオレは好きだよ。ネオも使ってたし。手を加えたって言ってるけど、流石にサイズの違う薬莢は排莢しないよね?
「素晴らしい。しかしこれでもヒーローを目指していてね。デザートはユーモアが欲しい」
「ユーモアですか……」
少し迷ったように目を流し、その先にある銃を二つ取り出す。もうね、惚れちゃうねこの人。
「IMI マイクロウージー。余計な物は外しましょう、お気に召すまでどうぞご堪能下さいませ」
今までで最も小さい銃だ。なんならフルサイズの拳銃より小さいかもしれん。この銃、こんな小ささでも物凄い早さで連射出来ることで有名だ。勿論そんな銃に精度を求めることなど筋違いで、とりあえずばら撒くといった時に使う。実際映画でもネオはこの銃二つ撃ちまくって一人しか倒せなかったしね。
「ご満足いただけましたか?」
「完璧な仕事だ」
「恐悦至極でございます」
しかしなんでこの人こんなにピンポイントにネオっぽい銃渡してくるんだろ。心でも読む個性なのか?
「全て同じ口径にしておりますので、取り回しもしやすいかと」
あ、そういう配慮だったのね。そりゃ偶然だよね、偶然。……なんかこの人相手にすると全部見透かされてそうで怖いんだよなぁ。これが人生経験の差か。俺の方が老け顔だけど。
そして今更ながら、なんでOBに対してオレこんな態度とってるんだろう。でもなんか雰囲気的にこの人がそうさせるんだよね、オレの意思じゃなくこの人に誘導させられてる気がする。やっぱこえーわこの人。パワーローダー先生も自慢の教え子で、国の火器管理させるだけあって戦闘力も相応だから決して機嫌を損ねないようにって言ってたし。……なんか震えてきたんだけど。
「どうぞ、試射場の方へ」
奥の部屋に連れていかれるとそこは試射場を兼ねた広い空間。先生にも教えられていたが、ここで試験も兼ねた試射をするらしい。そりゃ誰でも銃を持てる訳ないよね。個性と相性の良い者だけが厳しい審査を経てようやく許可されるのだ、生半可な結果じゃ落選だろうな。
「あなたには期待をしております。どうぞ」
微笑みを携えながら先程選んだ銃を差しだしてくる。ここに来る途中話したが、ソムリエさんは最近の銃を使うヒーローに対して少し悲しく思っているらしい。今の火器を使うヒーローは見た目も子供向けのおもちゃみたいな派手なものにしていて、扱いもまるでコミックの様だと。
銃なんてものは基本的に威圧と非日常の恐怖を与えるだけだし、個性の兼ね合いがあるのも分かるのでむしろこれでいいのだと理解は出来る。しかし漢の浪漫としては、銃を銃のまま使って欲しいと思っているらしい。それが人を傷つけるだけではなく、ヒーローとして人を助ける為に使われて欲しいと。
ソムリエさんの気持ちは分かる。オレもネオに憧れる男だ。この個性が溢れた社会、以前の様なガンアクション作品なんてものは完全に廃れてしまっている。出番は個性の踏み台の演出ぐらい。マトリックスが脳内再生できるオレも、ガンアクション作品がレトロ映画扱いされていることに悲しみを覚えたものだ。
ソムリエさんの期待を裏切らない為に深く、深く集中する。やがて肉体が意識から離れ、意志の下に従えるようになったとき、オレは手に取った銃の引き金を引く。バレットタイムになった世界で、銃弾がスローモーションでその軌跡を描きながら人型の的に吸い込まれていく。心臓、喉、目、額。それぞれに全くブレが見られない、機械でもこれ以上は出来ないという程のワンホールショット。これがオレの個性と銃の相性だ。ソムリエさんの期待に応えられただろうか。
「これは……」
オレが撃った的を見て驚くソムリエさん。
「三済様、素晴らしい。期待以上です」
ソムリエさんの言葉に満面の笑みで返す。実は密かに白い歯をチャームポイントとして自認してるんだ。一回子供の前で笑ったら泣かれたけど。
「しかし、三済様……申し上げにくいのですが」
「なんだ?」
「急所を狙うのはどうかと」
「あっ……」
とりあえず試験は通りました。
スミスの満面の笑みは預言者取り込んだ時のアレ