救世主っぽい個性を手に入れたぞ   作:螺鈿

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独断ってのは大抵失敗するんだぞ

 そんなこんなでやってきたるはUSJ。テーマパークではない、災害救助訓練だ。

 

 相澤先生曰く今日はコスは好きにしていいとのことで今日も今日とてオレはネオだ。断じてスーツ姿ではない。多分皆これがオレの支給コスだと思っている。いい風潮である。

 

 そしてこないだソムリエさんから頂いた銃の数々を服とマントに仕込んでいる。救助訓練に必要か? と悩んだが、結局持っていくことにした。だってさ、ホラ、いつ何処で災害があるかなんてわかんないじゃん。敵との交戦の結果、救助が必要になるかもしれないし、武器を持っているという前提で動いた方がいいと思うの。ということをUSJに向かうバスの中で障子くんに話した結果……

 

 『マジかこいつ』って顔してた。マントの中見せたら絶句してた。いや、触手がだけど。

 

「とりあえずこれ位持っとけ」

 

 って言われて救急キット貰った。あ、はい。完全に忘れてました。オレ何しに来たんやろ、素直に災害救助の準備してくりゃよかった……

 

 そんなこんなんで騒がしいバスの中、オレは一人コソコソと隅っこに縮こまるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「動くな! アレは敵だ!!」

 

 相澤先生が叫ぶと同時、敵の襲撃が始まった。ガクブルの俺は先生の言うとおりに微塵も動かなかったのだが、気付いたらなんか所々火事が起きてる廃ビル街にいた。なんぞこれ。

 

 周囲を見渡しても人がいない。ようやく遠くに人を見つけたと思ったら、思い切り首を引かれて建物の陰に引っ張られた。ぐぇ。

 

(スミス、こっちだ隠れろ!)

 

 小声で話しかけてきたのはこの先青春度が上がり続けることが予想される尾白くんだ。今日もバスで隣に葉隠さん置いてたよね。

 

(敵の襲撃だ、周到に準備していたんだ。幸い俺たちはまだ見つかってない。なんとかしてやり過ごそう)

 

 尾白くんは焦りつつもオレに励ますように言う。自分を奮い立たせる意味もあるのだろう、震える声を必死に抑えてオレに伝えてくる。見れば分かる。彼もオレと同じように震えている。悪意を持って襲って来る敵と敵対するなど、人生で初めてに他ならない。それでも前を向こうとする彼にオレは情けなくなってしまう。

 

 人は余裕を全て奪われた時に本性が出る。オレは、この状況で未だに怯えから立ち上がれない。彼がいなければ動くことも出来なかっただろう。そうか、オレはやっぱり救世主なんて器じゃなかったのか……

 

 

 

 

 

 尾白が辺りを見渡しながら移動を促してくる。勇気を出して立ち上がり、尾白についていこうとすると、ガシャンと音をたてて懐からUziが落ちた。ガンベルトの締めが甘かったのかな? 無言、沈黙、そして絶望。

 

「そこか! 手ぇあげろガキ共」

 

 あっという間に周囲を偵察していた敵に囲まれてしまった。大人しく手をあげるしかないオレと尾白。ご、ごめん。もう本当これしか言えないわ。せめて死ぬ前にちゃんと謝りたい。

 

 取り囲んだ敵の幾人かは銃を持っている。他の連中は遠距離攻撃が出来る個性なのか、それぞれの武器になる腕や器官を向けながら脅してくる。

こえーよぉ。映画なんかでは銃を向けられても主人公たちは平然としてるけど、実際向けられたらこんなに怖いのか。

 

「お前、足元にあるモノこっちに寄越せ。他にもなんか持ってるんじゃねぇだろうなぁ」

 

 なんで撃ってこないんだろうと思っていたらさっき落とした銃を警戒してたのね。分かる。フィクションじゃない銃って怖いよな。そりゃ怖いよね、ヴィランだって。

 

 しかし震えるオレは碌に動くことが出来ず、それにイラついたヴィランが威嚇射撃をしてきた。それにビクつきながらオレがマントを広げて中身を見せる。銃、銃、銃! なぜか災害救助訓練に大量の銃を持ち込むヤベェ奴。オレの中で恐怖を羞恥心が上回った時、その場の全員が固まった。

 

「Holy shit!?」

 

 銃を向けていたヴィランが叫んだ瞬間、弾かれたようにオレの体が動き出す。呆然とするヴィランに掌底一発。受け身も取れず吹き飛んでいく。

 

 や、やってしまった! あのセリフを言うから条件反射でやってしまった。もう後戻り出来へん、どないしたらええんや! いやヤるしかないんですけれども!!

 

 オレは今まで何度も見てきた映像通りに、MP5Kを流れるように両手に取り出し連射する。ちょっとアクセントを加えてクルリと一回転すると、周囲の連中をまとめて薙ぎ倒せた。ゴム弾だから死んでないよ。

 

「スミス! 一人残ってる!」

 

 撃ち漏らした一人が逃げ出そうとしている。よろけながらも大声を出して。コレは逃したらあかんね。

 

「お、応援を! 応援を……ぎゃあああああ!!」

 

 MP5Kを投げ捨て、足元に落ちてたUziを拾って全弾まき散らす。勿論個性を使っているので全弾当たった。ありゃ死ぬほどいてぇだろうな。

 

 Uziの弾倉を替えて懐にしまい、今度はベレッタを両手に取り出す。尾白が深呼吸をしながら隣に立ってくる。うん、あれだけ騒いだらそりゃ見つかるよね。ドタドタと先程の比ではない大勢の人間が集まる音を耳にしながら、オレと尾白は心の準備を整える。

 

しかしアレだね。開き直ってしまえばなんとやら……いややっぱこえーわ。カッコつけとこ、じゃないとやってられんし。

 

 

 

 

 

 やってきたのは先程の偵察組より「ぶっ殺してやらぁ」な覚悟完了してそうな連中。そら不意打ちされて怒らんはずないよね。全員銃やら何らかの遠距離攻撃の個性を構えて俺たちに向けてきている。地形との相性の問題かもしれんけど、なんでこんな特化した連中をここに寄越してんだよ、バカなの? 死ぬわ、オレ達が。

 

「Freeze!!!」

 

 ヴィランの叫びに尾白と同時に顔を見合わせた後、左右に別れて動き始める。オレと尾白に狙いが分散されたが、それでも凄い量の弾幕が壁や地面を削っていく。尾白は素早い動きで掠らせもせずに、とりあえず近くの掩蔽物まで辿り着いた。オレはベレッタを乱射しながら弾幕を防げるところまで行く。あわよくばヴィランが引いてくれれば思ったが、向こうはこちらが撃つ以上に撃ってくる。

 

 あ、これムリ、ムリムリムリ。こちとら拳銃だぞ、連射型とか散弾型の個性と撃ちあえる訳ねーだろうが! 今ならあのロビーシーンでのネオの気持ちも分かる。こいつはアカンわ。そんな気持ちだったのね。地面を華麗に転がって避難する。

 

 避難した先の瓦礫がドンドン敵の射撃で削れていく。瓦礫に比例して物凄い勢いでオレのメンタルも削られていくが、今更引くに引けん。ベレッタを手放してスコーピオンを取り出し、両手に構える。これなら撃ち合いにも負けんでしょ。

 

「ちっ、お前ら周りこんでブチ殺せ」

 

 僅かの間隠れていると、一瞬弾幕が止む。敵も動き出したみたいだ。さて、やりますか。

 

 視界の端で尾白がスタイリッシュに壁を蹴って宙をクルクル舞っているのを捉えながら、物陰から飛び出してスコーピオンを乱射する。

 

 敵も丁度飛び出してきたところで、お互い身を隠すものがない状態。それに一瞬怯んだのが運の尽き、スコーピオンをスライドさせるように連射し続け、目前の敵をまとめて始末する。スコーピオンからは大量の空薬莢が排莢されるが、ライフルのそれではない。現実だからね、マジカルガンじゃないから。

 

「撃てぇ、撃ち殺せぇ!」

 

 飛び出して大量の敵を始末したのはいいが、オレもピンチになった。ネオみたいに走りながら側転、敵の銃奪ったろとか一瞬思ったけど無理。一瞬でも足止めたらハチの巣にされるわ!

 

 スコーピオンをポイっとして持てる全ての力で逃げようとするが、ここでまさかの両足固定。え、ナニコレ?

 

「今だ! やっちまえ!!」

 

 見ると某忍者漫画の土遁の如く手を地面に突き刺してるヴィランが一人。そして固まった土に足を取られるオレ。い、いやあああああ! こんなのマトリックスじゃないぃい!!

 

 何らかの個性で両足を固められたオレに向かって放たれる弾丸。避けられるはずもない状況。しかしね、オレの個性をもってすればこの程度見てから回避余裕よ。

 

「な、なんだありゃあ!」

「すげぇ! けどキメェ!!」

 

 屋上でのエージェントの如く上半身を動かして弾を回避するオレ。多分傍目からは物凄い速度で上半身だけ動かしてるように見えるんだろうな。とりあえず余裕で回避したことで心にも余裕が芽生える。あ、こんなことならネオっぽくイナバウアーすりゃよかったわ。

 

「仕方ねぇ、至近距離から連射しろ!」

 

 そんなくだらないことを考えていたらヴィランが寄ってきた。こ、これはアレか!? 「Dodge this」か、「Dodge this」されるのか!? 不用意にエージェントをやってしまったが為にぃいいい! だ、誰かたすけてぇえええ!!

 

 心の中でヒーローに助けを叫んでいると、急に足元を固定していた土が崩れ、動けるようになる。土遁をしていたヴィランに目線を向けると失神していた。尾白が助けてくれたらしい。

 

 お、尾白ぉおおおおおおお!!! ありがとう、ホントにありがとう! そりゃモテルわお前、凄いよ、オレにとってのトリニティはお前だよおおお。

 

 

 

 

 コンクリやら土の破片と粉塵舞い散る中、尾白への最大限の感謝の気持ちを心の中で述べるとオレは一旦柱の陰に隠れた。尾白は向こうで戦っているがもうすぐ終わりそうだ。こちらも残るはあと二人。しかしサイクルの早い連射型の個性の為、近寄りがたい。それならばどうするか。オレは最後に残ったUziを取り出す。最後はカッコよく、ネオっぽく決めるぜ。

 

 両手にUziを持って飛び出す。これが正真正銘最後の銃である。Uziの早すぎる連射サイクルに二人の敵を物陰に張り付けにして、その間に近寄る。そう、この銃はこうやって使うのだ。

 途中我慢できずに飛び出した敵を蜂の巣にしつつ、残った一人へとじりじりと近寄っていく。しかし目前になったところで弾切れを起こしてしまう。それに気づいた敵は今だと言わんばかりに飛び出してくる。

 

 でも残念。ここまで近寄ったらナイフの方が……じゃないオレの拳や蹴りの方が速いよ。オレのネオらしさ、見せてやるぜ! と思った瞬間、ふわりと感じる尻尾の感触。

 

「ふぅ、これで終わりか。案外やれるもんだな。スミスは大丈夫か?」

 

 尻尾を使い、相手に駆け上がって蹴り一発。どう考えてもネオです。イイトコロ貰われました。はい、有難うございました。

 

 戦いでボロボロになり、ガラリと崩れる壁の音を聞きながら、心の中で感謝だの嫉妬だの謝罪だのよく分からん感情を籠めて叫ぶ。……お、尾白ぉおおおおおおおおおおお!!!!!

 

 




BGMはロビーシーンのアレか、それともエージェントの曲か、どっちだ

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