ウォースパイトのイギリスご飯   作:あーふぁ

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優しい味のビーフティー

 ウォースパイトのおいしくて元気が出るお昼を食べたあと、夕食から俺は艦娘たちとコミュニケーションを深めることにした。

 そのために艦娘たちと一緒に食事をしようと食堂へと行く。

 滅多に入ることのない食堂に俺が来たときは、最初は驚きと沈黙の時間があったものの、俺が食事を持ってテーブルに着いた時には艦娘たちが隣に座ってきて声をかけてくれたのは嬉しかった。

 話をしてみると一緒に食事をしてみたかったとか、仕事以外での話をしたかった。一緒にお酒を飲みたいと好意的な意見で、提督がいると食事がまずくなるという悪い感想がなくて安心する。

 まったくもってウォースパイトに感謝だ。遠くのテーブルから暖かい目で見てくる彼女の言葉がなかったら、艦娘たちと仕事以外の関係で仲良くなるのはまだ先になっていたかもしれない。

 食堂での夕食は親しく会話をすることがなかったために艦娘たちと時々ぎこちないこともあったが、ほとんどは楽しく会話をして夕食を終えることができた。

 次の日もいい感じで話ができていたが俺があまり話題を持ってなくて、仕事に不満はないかといった面談のようなことになってしまうのが悲しく思う。

 それでも今までわからなかった不満や喜びを理解し、あらたに仕事が増えた。

 それは遊び道具が欲しい、軍事以外の本が読みたい、色々なお菓子を食べてお酒が飲みたいと言った欲求だ。

 仕事が増えるのは嬉しくないことだが、今回はとてもやりがいのある仕事だ。部下の艦娘たちのためにできた、新しい仕事だから。

 戦闘という多大なるストレスにさらされる彼女たちにとって、その要求は考えるべき提案だ。

 俺は軍に予算を要求すべく、必要性とそれを実行した場合の予測結果などを考えることに苦労する。

 急ぎではないものの、艦娘たちの普段の苦労に報いたいと思って結局は急ぎの仕事に自分自身でしてしまった。

 そして以前よりも余裕があるとはいえ、忙しい日々が戻ってきた。

 仕事だけに集中せず、艦娘たちとコミュニケーションを取ることを忘れないようにしながら。

 昨日の夕食後は、前線から精神不安定でやってきた部下の中で最も付き合いが長い雲龍の部屋に呼ばれては雑談をしつつ一緒にワイン1瓶を飲み干した。

 そうした忙しくも充実している日々が短い間で続き、今日は張り詰めていた気が疲れていた。

 机に向かう元気も出ず、朝からソファーに座っては自分以外誰もいない部屋で静かに小説を読んでいた。

 今のような自分だけの静かな時間もたまにはいいなと思うものの、艦娘たちと賑やかに話すのは楽しかった。特にウォースパイトと一緒に食事をした時間は小さな幸せを感じたものだ。近くにいて、自分の苦労をねぎらってくれる人がいるということは。

 またそういうことがあればいいなと、読書に集中できていない昼の少し前の時間の時だった。

 聞き覚えのある規則ただしいノックの音が聞こえ、入っていいと返事をする。

 扉を開けて部屋へと入ってくるのは、3日前に艦娘5人を連れて合同訓練へと出かけていたウォースパイトだった。

 

「ただいま戻りました」

「おう、お疲れ」

 

 片手を軽くあげ、帰ってきたことを歓迎するとウォースパイトは俺の前までやってくると事務的に訓練が終わったと報告をしてくれた。

 そのあとは静かに目を合わせて見つめてきたと思ったら、小さなため息をつかれる。

 

「私がいないあいだに不健康そうな顔へと逆戻りしたのね」

「艦娘たちと話をしていたら、あいつらが過ごしやすくなるようにしてやりたかったんだ。それで仕事が増えたのは仕方ない」

「それは急いでやるほどじゃないでしょう? 前にも言ったとおり、あなたが倒れたらどうするのよ」

「気をつけるよ。ただ、昨日の夜は雲龍から部屋に来てと呼ばれたんだ。それでワインを飲みながら話をしていたら睡眠時間が足りなくなってな」

「原因がわかっているなら、少しはだらだらとしてもいいのに。……それで雲龍って、あの白くてモコモコした子よね?」

 

 雲龍と名前を呼んだ時、一瞬だけ不機嫌そうな表情になるが見間違いだろう。誰にでも平等に接しているウォースパイトなのだから。

 それよりもモコモコのことだ。それはあの膝まで伸びる、白くて少しぼさぼさとしている長い髪のことを言っているんだろうか。

 髪のことをそんな表現で聞くのは初めてで、少し考えたあとにそれに違いないと判断する。

 

「ああ。白いモコモコの子だ」

「その子とふたりきりでお酒を飲んだのよね」

 

 俺が返事をすると、ウォースパイトは口元に手をあてて冷蔵庫のほうを見ては何かを深く考えているようだ。

 その考え事が終わるまで、静かに待つこと10秒ほど。

 ウォースパイトは1度深く頷いたあと、冷蔵庫を見てから俺を見つめてくる。

 

「私がまた元気が出るLunchを作ってあげるわ」

「いいのか?」

「ええ、私に任せなさい!」

「それは楽しみだ」

 

 俺の言葉を聞いたウォースパイトは嬉しそうな笑みを浮かべると、ふんわりとスカートをひるがえしては部屋から出ていった。

 材料を持って戻ってくるまでのあいだ、少しだけお腹が減ったのを我慢しながら俺は小説を読んでいく。

 書類の文字とは違って、小説というのは難しいことを考えることは少ないから文字を読んでいくだけで楽しくなる。

 帰ってくるのを待ちながら小説を読み進め、気がつくと読み終わっていた。たぶん30分以上は時間が経ったのに部屋には俺1人しかいない。

 戻ってくるまでまた別な本でも読むかと腰をあげかけた時、扉をノックの音がしたと同時に扉が開いて、いつもの服の上にエプロンを身に着けたウォースパイトが部屋へと入ってきた。

 少し息を切らし、自慢げに笑みを浮かべて手に持っていたのは小さな赤味の肉の塊と、コルクが締まっているワインの空瓶だった。他には何枚かの白色の布を持っている。

 肉以外のそれらは何に使うのか疑問に思っていると、ウォースパイトは肉を持って俺の前までやってきては目の前に突きつけてくる。

 

「質のいい牛のランプ肉を手に入れることができたわ。それに雲龍からは綺麗な空き瓶ももらえたのよ。だから予定と違う料理だけど、元気になれるものを作れるわ」

「お前が嬉しいのならよかったよ。多少遅くなってもまだ昼の時間には間に合うな」

 

 安心してそう言って小説をテーブルへの上へと置くが、ウォースパイトは俺が置いた小説を手に取って俺の手へと握らせる。

 何をしたいか不思議に思ったが、引きつった笑みを浮かべているのを見て前回と同じように昼飯には間に合わないと理解する。

 うまいものが食えるのなら、別に構わないかと苦笑する。

 

「遅い昼飯になるか」

「いえ、その、あれなのよ。私はAdmiralに意地悪したいわけじゃないのよ?」

 

 俺が握らされた小説を受け取ると、目をそらしたまま1歩離れた。

 その様子は遅れる以外にも何かをあると言っているようなものだ。

 

「なぁ、ウォースパイト」

「……なにかしら?」

「昼飯はいつできる予定だ?」

「えっと、いますぐ始めて明日の昼ね。それとビーフティーっていうお茶にMenuが変わったわ」

「肉を使うお茶?」

「昔からそう言われているのだから、誰がなんと言おうとお茶なのよ」

 

 初めて聞くお茶に自分の耳を疑う。言葉に出して聞くと聞き間違いではないようだ。しかし、肉を使うのになぜかお茶になるというイギリス料理の謎。

 そして明日まで時間がかかるらしい。いったいどれほど手間がかかるものなんだ?

 黙ったまま静かに疑いの目で見つめていると、ウォースパイトは一瞬だけ俺へと目を合わせてくるが、すぐに目をそらしてはさらに2歩あとずさった。

 その様子はもしかしたら、俺のために料理を作りたくないんじゃないかと思ってしまう。

 

「わかった。時間はかかってもいい。だが、俺に飯を作りたくないのなら―――」

「それはないわ! 私はあなたに元気になってもらいたいだけなのよ!」

 

 俺の言葉をさえぎり、焦って声を張り上げてきたことに驚いてしまう。けれど、その言葉の優しさが俺を嬉しくさせる。

 何も言えないでいると、ウォースパイトは顔をほんのりと赤くしては素早くキッチンへと行って持っている材料を置いていく。

 そうしてから、俺に背を向けたまま作業に入っていく。

 俺は読み終わっている小説をソファーの上へ置くと、立ち上がってウォースパイトの隣へと行く。

 

 やっていた作業は包丁でランプ肉の塊を薄く削いでいたところだった。

「これはすぐ終わるから楽しくないと思うわ」

「包丁を使っているだけで俺には興味深いさ」

「そういうのなら見ていてもいいけれど。……本当にすぐ終わるわよ?」

 

 ちょっと不満げに言う言葉に対し、俺は頷いて作業の続きを見続ける。

 ウォースパイトは削いだ肉から余計な筋や油を取り除いていくと肉を小さく切ってから、持ってきたワインの空瓶に肉を詰めていく。

 見ていて理解がさっぱりできない。いったいどんな物を作るんだろうか期待する。

 自分の知らないものを作っていく過程が見えるのはとても興味深い。

 小さく切った肉を瓶に詰め終えると塩を少し入れ、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して水をいっぱいに入れていく。そうして水がいっぱいになるとコルクの栓をしっかりと締め、キッチンの棚からタコ糸を取り出す。

 長めにタコ糸を取り出したのを包丁で切ると、持ってきた厚手の布を瓶に巻き付けて糸で縛る。

 

「なんで巻き付けているんだ?」

「これ? これは巻くことによって瓶の中の温度が安定するのよ」

 

 言っていることはわからなくもないが、別に布がなくても火が安定して出るガスコンロなら問題ないと思ってしまうのは俺の料理経験が浅いからだろうか。

 

「前回のもそうだが、これは今どきのレシピなのか?」

「んー……違うんじゃないかしら。私の料理は全部おばあちゃんから教わったから、昔の作り方だと思うわね」

 

 それを聞いて納得する。昔はガスコンロではなく、火が不安定なかまどで料理をしていたから布を巻く必要があったかもしれない。

 たぶん今の時代なら、もっと効率がいい方法があるとは思う。でもそれを言うことはしない。

 学んだ料理方法でないとウォースパイト自身が納得しないだろうし、覚えている味と変わってしまうかもしれないからだ。

 俺はそういう方法もあるんだなと理解し、作業の続きを見ていく。

 ウォースパイトは大きなスープ鍋をキッチンの引き出しから取り出し、ガスコンロの上に置く。その置いたスープ鍋に肉を詰めたワイン瓶を入れようとしたが、何かに気づいたように手が止まって困った表情を浮かべる。

 

「どうした?」

「ちょっと問題が起きて。木片を持ってくるのを忘れたのよ」

 

 料理とは縁遠い言葉を聞き、それがどう関連性があるか悩んでしまう。

 これが薪を使う竈やオーブンならわかるが、このコンロはガスだ。いったいどこに使う要素があるというのか。

 実は俺が間違っていて、料理ではない物を作っているかとも思ってしまった。

 

「何に使うんだ」

「鍋の底に敷いて、瓶に直接熱が伝わらなくして割れないようにするクッション材よ」

「それは薄い木の板きれが何枚かあればいいのか?」

「鍋に入るぐらいの大きさで1枚あれば充分だわ」

 

 薄い木の板。ここの敷地の隅っこに、輸送の時に使う木材のパレットが置かれていたはずだ。そこから削って取ってくることにしよう。

 

「時間は少しかかるけど、取ってくるよ。ここの敷地に置いてあるから」

「いいえ、Admiralにそんなことはさせられないわ。私のミスだもの」

「待っているだけじゃ落ち着かないんだ」

「でも……」

「じゃあ、一緒に行こうか。それなら納得してくれるだろ?」

 

 自分のミスを責め、寂しげな顔のウォースパイトを置いて俺は部屋を出ていこうとする。その時になって決心がついたのか、脱いだエプロンをテーブルの上に置くと慌てて俺の後をついてくる。

 建物の外はまぶしい太陽と気持ちいい風が吹いていた。

 その外の空気で爽やかな気分になった俺は、ウォースパイトを連れて無人の工廠に行った俺は道具を探す。バール2つと鉈、それと釘抜きを持ってパレットが置いてあるところへと行く。

 敷地内の隅っこに乱雑に積まれたパレットの小さな山は、処分するのを後回しにしたまま放置したままだ。そのパレットはところどころ壊れ、状態が悪くなっているのもある。

 その中からできるだけ綺麗な物を探して解体しようとパレットの周囲をぐるりとまわっていると、視界の端に雲龍の姿が見えた。

 雲龍は普段の制服姿で、いつも通りのぼぅっとした顔つきで俺たちのところまでやってくると不思議そうに俺の持つ道具を見てくる。解体しようとするパレット、俺、ウォースパイトの順番を見ては何かに納得したらしく俺に向かって手を伸ばす。

 考えていることがはっいりとわからないが、もしかしたら手伝ってくれるのかもしれないと思ってバールを差し出す。

 俺の予想が当たったらしく、それをすぐに受け取ってパレットの前に行き、俺のことを見つめて指示を待っているかのように立っていた。

 それを見て、俺は状態がいいのを見つけて雲龍の前へ置くと、雲龍はすぐに解体作業に入っていく。

 バールを使ったことがあるのか、解体するときのバールの使い方が上手なことに感心をしていると、その横でウォースパイトが初めて使うらしいバールで不器用ながらも解体を始めていた。

 悪戦苦闘しながら頑張る姿はかわいく思えるが、そのまま何も教えずに見ているだけなのはよくない。

 苦笑しながら俺はウォースパイトに持ち方から教えたあと、バールでの作業は2人に任せて釘抜きをすることにした。

 2人から離れて外された木の板に埋まっている釘を外そうとしたが、俺の両脇にはいつのまにかやってきた2人の駆逐艦の子たちがいた。

 その子たちは目をキラキラと輝かせながら『自分もやりたい』という意思を込めて見上げてくる。それに対して、経験したことのないものは娯楽になるんだよなと苦笑しながら釘抜きのやりかたを教える。

 結局は5人がかりで汗をかきながらパレットの解体作業をし、必要以上の解体をしてしまった。その中で状態のいいのをウォースパイトの指示により鉈で削り、いい形のものを取ってもらう。

 こういうふうに艦娘たちと一緒に戦闘訓練や座学以外で一緒に何かをするのは初めてのことで楽しいと思った。

 そんな時間を過ごして料理に必要である木片を手に入れたら、俺はウォースパイトと一緒に執務室へと戻る。

 雲龍と駆逐の子たちは解体作業が気に入ったらしく、俺たちがいなくなってからも作業の担当を変えては続けていた。

 執務室に入ると、ウォースパイトはすぐにハンカチを服の中から取り出して顔の汗を拭いてくれる。

 

「なんだ、急に」

「他の子たちの前ではできなかったので。Admiralが私に汗を拭かれている姿を見てしまうと、威厳が減ってしまうかもしれなくて」

 

 嬉しそうに俺の汗を拭くウォースパイトに言われて、その言葉に納得する。

 確かに秘書でもなく、恋人でもない相手に汗を拭かれるという姿を見られたら情けなく思えるだろう。

 ……そもそも、自分で拭けば何も問題はないのだが。でも嬉しそうな様子を見て断れる気にもならず、されるがままになった。

 そうして俺の汗を拭き終わってハンカチをしまうウォースパイトは、手に握っている木片を持ってキッチンへと行き、鍋の底に木片を敷いていく。

 俺もキッチンへと行き、鍋に入った瓶がすっかりと隠れるまで水道の蛇口から水を入れていくのを見る。

 水が大量に入った重い鍋なのに、軽々とコンロの上に置く姿を見ると艦娘は力が強いなと実感してしまう。

 ウォースパイトはコンロに弱火で火をつけると俺へと振り向き、料理が終わったとばかりに満足げな表情になった。

 

「で、これはどれぐらい火をかけてればいいんだ」

 

 そう時間を聞いた途端、ウォースパイトは少し時間を置いたあとに気まずそうに言った。

 

「24hoursぐらいね」

 

 一瞬、聞き間違えたかと思ったが確かに24時間と言った。そんなに長い時間をかけて煮込み続けるらしい。最初に明日までかかると言ってはいたが、他の作業があると思っていたばかりに驚いてしまう。

 そんなにも長い時間がかかるのなら中止させようとも思った。この部屋にはずっと俺がいるわけではなく、夜になればいなくなる。

 料理をするのをやめようと言おうとして口を開くが、ウォースパイトの好意を無駄にしたくもない。

 今日1日ぐらいは部屋で寝泊まりすることを決めた。

 

「じゃあ今日の夜は俺が泊まり込むか。火をつけっぱなしでいなくなるのは危ないからな」

「いえ、私がやる。私の料理だもの。Admiralに余計な苦労をさせたくないわ」

 

 そのまっすぐな瞳は、何を言おうと意見を変えないという強い意志を感じる。

 俺としても艦娘たちにはあまり疲れてもらいたくないと思っているが、今日に限っては折れることにしよう。

 こんなにも頑張る姿があるのなら。

 

「じゃあ任せようか。後で俺の部屋から予備の布団を持ってくるよ」

「それは綺麗なの? それともAdmiralの匂いがするのかしら」

「しっかりと洗っている。客人用だからな。俺の匂いはしないから、安心して寝れるはずだ」

 

 俺は安心するように笑みを浮かべるも、ウォースパイトは嬉しいような悲しいような、なんとも言葉にしづらい不思議な表情になってしまう。

 乙女心は実に難しい。男相手なら、とりあえず殴り合いしとけば仲良くなるぐらいにはわかりやすいのに。

 女性の機嫌を取るのは、どういう手段を取ればいいかわからない。

 頭を悩ますことが増えたものの、料理がひと段落するとお腹が減っているのを実感する。パレット解体という運動をしたから特に。

 だから俺はキッチンの棚からヤカンとカップ麺を2つを取り出す。

 

「昼飯はこれでいいか?」

「それがCup Noodlesというもの? 私、そういう健康に悪そうなものを食べて見たかったの!」

 

 カップ麺未経験らしく、喜んで俺の手からカップ麺を1つ受け取るとそれを持ってウキウキとした様子でソファーへと座る。

 俺はヤカンを鍋の隣に置き、火にかけて沸騰したのをウォースパイトのカップ麺にお湯を入れようとしたが、自分で入れたいと言うので慎重にヤカンを手渡した。

 お湯を入れるだけだというのに楽しそうに入れていく。ふたを開けたカップ麺にお湯を入れたあとは閉めることもせずに、じっと見つめはじめたので俺は声をかけてヤカンを受け取ってからラーメンのふたを閉める。

 その時に無言で不機嫌な様子でにらんできたが、ふたを閉めないとラーメンがまずくなると説明するとおとなしくなる。

 俺は自分のにお湯を入れ、ヤカンをキッチンに戻すとウォースパイトと並んでカップ麺ができあがるのを待った。

 一緒にカップ麺をソファーで並んで食べ終えたあとは、ウォースパイトは合同訓練やパレット解体で疲れたらしく眠そうな目になっている。

 

「寝てもいいぞ」

「いいの?」

「ああ、構わない」

「そうさせてもらおうかしら」

 

 俺がソファーから立ち上がると、ウォースパイトは体を横にして寝る態勢になる。

 俺が執務机に戻って椅子に座った時にはもう静かな寝息を立てて寝ていた。

 その安らいだ寝顔はつい見惚れてしまいそうになる。美人であり、優雅な雰囲気の彼女の寝顔は飽きることなく見続けれそうだ。

 寝顔を時々見ては艦娘のために自分で増やした仕事をしつつ、時々鍋にかけられた火の様子を見ながら夕方まで机に向かっていた。

 途中、雲龍と駆逐の子たちがパレットを全部解体し終えたと報告をしに来たときは、一瞬にしてウォースパイトは起き上がっては身だしなみを整えた状態になっていたのに驚いた。

 あまりの早業ぶりに、さすがはウォースパイト、という自分でもよくわからない感想を持ったほどに。

 夕食は交互に食堂へ行って食事を済ませ、そのあとは俺が敷地内にある自分の部屋から予備の布団を持ってきた。

 だが執務室の床は、木の板張りなために布団を敷くのは汚れてしまう。なので、別な部屋から2畳分の畳を持ってきてはその上に布団を敷く。

 洋室な部屋に畳を置いて布団を敷いた光景は違和感があるものの、これで寝床は確保ができた。

 自分の仕事ぶりに満足していると、視線を感じて振り向くとソファーで寝ていたウォースパイトと目が合った。

 ウォースパイトはゆっくりと起き上がって布団へ近づくと、興味深そうに見つめたあとに俺に対して輝くような目による無言の訴えで『布団に飛び込んでもいいかしら!?』と感じたので、どうぞ、と手の平を布団のほうへと向けた。

 するとすぐにウォースパイトは布団に膝をつき、上半身から力を抜いて倒れていく。

 いつも使っているベッドとの感触の違いが楽しいのか、小さな感動のうめき声をあげて足をバタバタと動かした。

 普段の落ち着き具合と、今の子供っぽさのギャップが見ていて微笑ましくなる。

 子供っぽいウォースパイトも普段とは違った良さがあっていいな、と思いながら俺のことを気にせず喜んでもらおうと執務机に戻る。

 けれど、かわいい姿を見ていると仕事に集中できない。

 このまま視界に入れていると俺の頬がゆるみきってダメになってしまいそうだから、机の上へと突っ伏して見ないようにする。

 

「Admiral? どうしたの、急にそんなことして」

「いや、これからの仕事の予定をどうしようかと頭の中で考えていたんだ」

「熱心ね。……でもダメよ? 仕事のしすぎは体に悪いんだから。効率的に働くためにも休むことは大事だから」

 

 心配してもらえる声に対し、俺は片手をあげて返事をする。そうして長い時間をかけて精神が落ち着いた後に顔を上げると、ウォースパイトは布団の上で正座をして読書をしていた。

 椅子がなくても礼儀正しく日本の座り方ができるんだなと感心していると、俺の視線に気がついたらしく小説から顔をあげた。

 

「集中しているのに邪魔すると悪いと思ったから、勝手に借りていたの。ごめんなさいね」

「他に読みたい本があるなら本棚から好きなのを持っていっていいぞ」

「これがいいの。Admiralが読んでいた本がどんな内容なのか気になっていたから」

 

 俺が読んでいた本を、読まれるということはなんだか恥ずかしくも思う。自分の好みが知られてしまうような気がして。

 ちょっとだけ落ち着かないまま、夜まで仕事をした。

 夕食は昼と同じように交互に行ったが、せっかく一緒にいるのに別々なのは寂しい気もする。

 次があったら弁当を買ってきて一緒に食べようと決めた。

 執務室に戻ってから仕事をしつつ、読書をしたりして時刻は午後9時。

 もう帰る時間になり、机の引き出しに鍵をかけると自宅に帰るために立ち上がる。

 キッチンのほうを見ると、ガスコンロの火は順調に鍋の中身を煮込み続けていた。これほど時間のかかる料理、いったいどういう味がするか明日が楽しみだ。

 火が問題なく点いていることを確認すると、布団の上で読書を続けているウォースパイトに近づいて声をかける。

 

「ウォースパイト」

「はい、自宅に戻りますか?」

「ああ。あとは任せていいか?」

「ええ、このWarspiteにすべて任せてください。Sweet dreams(いい夢を)

「また明日な」

 

 自信たっぷりに言われたことで、一晩安心して部屋を任せることができる。

 俺は手を振るウォースパイトに手を振り返しながら執務室を出て、自分の部屋へと帰った。

 

 ◇

 

 家に帰ってから1晩が過ぎ、朝食を食堂で食べ終えた俺は朝の8時過ぎに執務室の前へとやってきた。

 いつもなら遠慮なく部屋に入るところだが、今はウォースパイトがいる。自分の居場所とはいえ、ノックもないのは失礼だと思って4度ノックをするが反応はない。

 そっとドアノブを回してドアを開けると、ウォースパイトが俺に背を向けて窓の前に立って外を眺めていた。

 部屋に入っても気づかない様子を心配し、足音を立てて近づいていくと気づいたウォースパイトが振り向く。

 俺が隣に来た時に、いつも以上にゆったりとした反応で俺への挨拶をしてくる。

 

「Good morning, admiral。外は綺麗な青空が広がっていますね」

「おはよう。今日も過ごしやすい日になりそうだ」

 

 朝の挨拶をしてくるウォースパイトの顔は少し眠たげで、俺の返事を聞いてもどこかぼーっとした感じだ。

 

「何も問題はなかったか?」

「ええ、何も。今は静かな時間を過ごしていました」

「火の番、ありがとう。部屋に戻って寝ていいぞ?」

「いえ、戻って寝たら昼に起きてこれる自身がありませんから。少し早いですがビーフティーを作ります。もう20時間も経ったので味も充分に出ているはずです」

 

 そう言って眠気のためか、若干ふらつく足でキッチンに向かってコンロの火を止める。

 肉のお茶がどうやってできていくかが気になり、俺も後ろをついてはすぐそばで作業を見ることにする。

 ウォースパイトは鍋から煮詰められた瓶を取り出すと、巻いていた厚手の布を外していく。

 次にコルクのふたを取って自分で匂いを嗅いでは小さな笑みを浮かべると、俺の方へと瓶を差し出してくる。

 俺も同じように匂いを嗅ぐ。それは肉の甘い香りがした。肉の匂いを嗅ぐのは焼いたときの匂いしか知らなく、初めての感覚だった。

 肉からそんな香りがすることに目を丸くして驚いていると、ウォースパイトはいたずらが成功した子供のように小さく声を出してかわいらしく笑う。

 

「体によさそうでしょう?」

「まさしく自然って感じがする」

「味もそのとおりなのよ」

 

 そう言ってウォースパイトはキッチンの引き出しを開け、大きなボウルを取り出すと置いてあった綿の布をかぶせる。

 その布を押さえるように俺に言うと、ワイン瓶を傾けて中にある薄い茶色の半透明な液体を流していく。布には肉のアクや出汁を取った肉がごろごろと出てくる。

 充分に時間をかけたからか、肉の色はすっかりと色が抜けて白っぽくなっていた。豚しゃぶを食べるときの白っぽい肉色に近いかもしれない。

 瓶の中身を全部出した頃には、部屋の中は肉の甘い香りでいっぱいになった。ちょっとお腹が減る匂いだが、イギリスではこれがスープじゃなくお茶扱いなことに納得ができない。

 

「その布をぎゅっと絞ってください」

 

 瓶の中身を出し終わったウォースパイトはそう言い、俺は言われたとおりに布を絞っていく。するとどうだ。肉や布に含まれた水分が出てきて、なんだかおもしろい。

 力強く絞って水分が出なくなったところで、小さなビニール袋を持ちながら手を差し出してきたウォースパイトに渡すと、絞り終わった肉をビニール袋に入れてゴミ箱へと捨てた。

 

「……食べないのか?」

「え? だって、こんな味の抜けたものはおいしくないのよ。栄養もないし、捨てるのが普通じゃないのかしら」

 

 もったいない。

 それを捨てるなんてもったいない! 味をタレでつければ、まだ食べられるのに。栄養はないかもしれないが、腹は膨れるはずだ。

 俺のもったいないという気持ちが伝わってしまい、ウォースパイトはとても困惑している。

 

「いや、問題ない。続けてくれ」

 

 俺の言葉にウォースパイトは動き出し、マグカップをふたつ用意するとボウルの中身を均等に入れていく。ボウルに残ったものはラップをかけて冷蔵庫へとしまう。

 

「Admiral、ソファーで待っていてください」

「わかった」

 

 マグカップにこぼれたビーフティーを拭いていくウォースパイトを見ながら、ソファーの端へと座る。

 楽しみにしつつ待っているとマグカップふたつを持ってきたウォースパイトはテーブルの上に置き、前に食事した時のように俺から少し距離を開けて座った。

 

「どうぞ飲んでください」

「いただきます」

 

 マグカップを手に持ち、ちょっとだけ口に含む。

 感じたのはさきほどと同じ甘い香り。そして肉の味が濃い、化学調味料が一切ない自然な優しい味だった。

 素材と塩だけなのに味に深みがある。それほどおいしくはないけど、肉の栄養分がすっかりと溶け込んでいるから体調が悪い時や食欲がない時にはいいかもしれない。

 飲んでみてわかったが、具がないこれはスープと思えずに『ティー』と呼びたくなるのもわかる気がする。

 俺とウォースパイトは静かな部屋で、ゆっくりとビーフティーを飲んでいく。

 この健康になれそうな味で飲みやすくて栄養があるビーフティーを、俺が病気で倒れたときにはまた作ってもらおうかなと思う。

 

「ありがとうな」

「えっと、どうかしました?」

「仕事でないのに、わざわざ作ってもらったからな。お礼になにか欲しいものはあるか?」

「私が作りたくて作ったのですから、欲しいものなんてありません。感謝の言葉だけで充分です」

 

 優しく微笑んでくれ、もしかしてウォースパイトは女性として見てもいい女なんじゃないかと思う。

 こうやって話をすると、仕事だけの付き合いではわからないことがわかっていく。

 初めて会ったときは、笑みを浮かべながら誰に対しても仲良くしていた。

 けれど、最初の食事から話をするようになってからはそれ以上に仲良くできている。

 ウォースパイトがキッカケで少しずつ良い方向に変わっていけそうな気がする。

 俺の健康も、艦娘たちとの関係も。




ヴィクトリア朝時代のレシピを再現したものを参考。
料理小説の難しさを知った。
誤字報告、ありがとうございます。
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