霊術院での生活も三年目半ばを迎えた頃、一年から六年全ての院生が浮き足立っていたが、霊術院の事を何も知らず、知らされず放り込まれた私はその理由を今日まで理解出来なかった。
同学年の立ち話が聞こえた。
「早く会いたいなぁ、護廷の隊長!!」
「緊急召集なきゃ手解きしてくれるんだって!!」
「しかも認められたら、その場で入隊らしいぜ!!」
「僕が聞いた話では三人も来て下さるとか!!」
どうりで騒がしいわけだ。
護廷十三隊へ入る為の学舎に憧れの隊長達が来る。
しかも鍛練してくれるばかりか、その場での入隊もあるかも知れないと聞けば私のような異端以外は胸を踊らせるのも頷ける。
そんな中、私はというと廊下の端を早歩きしながら鍛練所に向かう院生とは逆方向を目指した。
隊長にも立場と職務があるため当日ギリギリまでどの隊長が来るかは分からないらしい。
もし、二番隊の隊長が来たら・・・
姉上と顔を合わせた時、私は・・・
心がモヤモヤし、ジクジクて痛む・・・
いつの間にか騒がしかった校舎からすっかり院生の気配が消えていた。
後、少しで裏庭に着く。
そこを曲がれば直ぐだ。
着いたら深呼吸でもして落ち着こう。
心が乱れて居たせいか廊下を曲がった先に人が居るなんて気づかなかった。
ぶつかって初めて人が居た事に気づいた。
「も、申し訳ありません!!」
「構わぬ。」
静かな声だ。
心乱したせいで感知し逃すなんて・・・こんな事では死神なんて夢のまた夢だ。
二度とそんな失態はしないと霊圧を上げて空間認識を高める。
「・・・あれ?」
認識出来ない・・
流魂街に住む霊厚持たない人も認識出来たのに何で・・何でこの人から霊圧感じないの?
「儂の霊厚を感知出来ぬのがそんなに不思議か?」
「・・・はい・・・」
「儂が知るなかでも一、二を争う感知力じゃが、まだまだ甘い・・霊圧と霊子の扱いに長けた者にとって己のそれを消す事は容易い。」
「!?・・・無礼を承知で試させて下さい!」
「良かろう」
私は霊圧と霊子を使い広範囲を探知する。
それを相手の居る場所に限定して放つ。
「見えました!!」
「中々筋は良いようじゃ」
今、出来る全力を相手一人に向けてやっと探知できた。
探知して直ぐに頭に浮かんだのは静かな水面だった。
波一つ、凪一つ無い静かな水面
しかし、底が見えぬほど深い湖・・・いや先も見えない
それは湖と言うよりは海。
「も、もしかしなくても今日いらっしゃると言う隊長様でしょうか?」
「うむ」
「申し訳ありませんでした!! 私のような若輩の弱輩が、ぶつかるだけでなく霊圧をぶつけ、お許し頂いたとはいえ隊長様を探るような真似をしてしまい誠に申し訳ありません!」
「気にするでない・・・
「お許し下さりありがとうございます!!!」
「気にするなと言うた。 して童、その目はどうした・・外傷が無いのを見ると人為的な物であろう。」
「こ、これは・・・」
「院生の生活と院内の環境を知るのも隊長の務めじゃ」
声から怒りや哀れみは感じない。
自身が感じている威圧感はわざとではなく、隊長という立場と責任、相手と自分の力量差からくるものだろう。
なにより今まで家の者に向けられてきたモノを目の前の人からは感じない。
「実は・・」
隊長さんの計らいで裏庭へと移動し、休憩用に設置された椅子に座り、私は家名や受けてきた鍛練の内容はぼかしながら自身について話した。
隊長さんも家名などを隠す私に察したのか、私が話したくないことは追及してこなかった。
情報を漏らさぬ訓練も受けてきた・・筈なのに隊長さんには何故か話してしまった。
それは先程の探知で感じた隊長さんの魂?矜持?上手くは言えないけど信頼できる何かを私が感じたからだと思う。
話が終わるとしばらく黙る隊長さん。
同情されるだろうか?
蔑まれるだろうか?
どちらもして欲しくはない・・・
嫌と言うほどされたソレを私はもう欲しくはない。
「ぺいっ!!」
「えっ・・・いったぁぁぁ!!!!」
ほんの一瞬隊長さんの霊厚が膨れ上がったかと思えば次の瞬間に拳骨された!!
「身命を賭す、家の誇り、死神の矜持、どれもこれも主のような半人前にもならん小童が語るなど百・・いや、千年早いわたわけが!!」
「!?!?」
何故私は怒られてるのだろうか?
閉鎖された空間で育ち、未知の世界に怯え、視界封じた私には理解出来なかった。
だから再び探知を隊長さんに絞る。
先程まで静かだった海は消え、轟々と燃える大地を感じた。
「その程度の悩みなんぞ多少の家柄に生まれた者は当たり前のように持っておる!」
「誇りのあり方は人それぞれじゃ! 誰もが背負う責任と抱く誇りについて苦悩しておるわ!」
「立ち止まったところで何も変わらず、変えられん!
故に皆、己を磨き、見つめ、改めを繰り返して進む。
それは己の中の誇りを、正義を貫く為にじゃ。
そしてソレは言うは易く行うは難し・・儂から見れば小童はまだまだ赤子に変わらん。
今のうちからグジグジ悩む位なら、悩むのが苦しいなら、悩む暇が無くなる位に鍛練に励めっ!」
「さすれば小童が童になる頃にはおのずつと答えが出るやもしれんぞ?」
隊長さんの激は私の中にスッと入ってきた。
それは私を僻むでも、妬むでも、蔑みでもなく、私の向こうに誰かを見た言葉でも無かったからだろう。
こうして私自身を見てちゃんと叱る人は初めてだ。
「はい! ご教授ありがとうございます!!」
「小童のような素直さは貴重じゃ・・・数人ほどにその素直さを分けてやりたいものじゃ」
隊長さんは苦労が多いらしい。
これほどの方が一隊長、ならば総隊長はどれ程の方なのだろう!
「隊長殿!」
「なんじゃ」
「私に鍛練をつけてくださいませんか!!」
「儂がか?」
「はい!」
「しょーがないのぉ」
隊長格にマンツーマンで師事してもらえるなんて!
「ありがとうございます!!」
この時の私は周囲と違い護廷について何も知らなかったのだ。
だから今話し、師事を仰いだ相手が総隊長だなんて微塵も思わなかったのだ。
やっぱり、山じぃの戦闘はカッケェェ!!