相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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2話から10話までが短編連作として書いたものです。


短編の続き: 相川さんには秘密などなかった。
基地強襲


 ウェールズ北西部アングルシー島。

 英国次世代ISの展示場は島唯一の空港内にあった。隣接する空軍基地の格納庫を利用しており、練習機が置いてあった場所には一般開示用の見学コースが設けてあった。

 英国空軍(RAF)はISが一世風靡する傍らで女性志願率低下に苦しんでおり、航空機とISのお披露目を兼ねることでイメージアップを図ろうとしたのだ。

 英国製次世代ISは二機展示してあった。ひとつはサイレント・ゼフィルス、もうひとつはブルー・ティアーズと呼ばれている。どちらも完熟訓練中の機体である。サイレント・ゼフィルスは英国空軍への配備が、ブルー・ティアーズは試験装備のテストベッドとして搭乗者ごとIS学園に移送されることが決まっていた。

 一般公開最終日、陽が傾き、格納庫内の人影はまばらだ。セシリア・オルコットはブルー・ティアーズの前に佇み、主のいない機体を見上げた。

 

「また飛べますわ」

 

 目蓋を閉じ、ブルー・ティアーズと対話しているような気分に浸った。お転婆なサイレント・ゼフィルスとは違い、この子(ブルー・ティアーズ)はとても素直だ。装甲に手を触れると、硬質な感触が肌になじむ。完熟訓練の行程は八割まで完了し、セシリアの技術は癖を熟知するまで達していた。長く触れ合い心を通わせるにつれ、セシリアは愛情と変わらぬ気持ちさえ抱いていた。

 

「ティアーズ?」

 

 ブルー・ティアーズの装甲に何かが当たって跳ね転がる音がした。

 

「どうしました?」

 

 天井が激しく凹み、照明が明滅する。格納庫に何かが落下したらしい。

 異常を察したセシリアはその場に身をかがめ、振動が収まるのを待った。一瞬静寂に包まれたかに思えたが、天井の一カ所に亀裂が生じ、破滅的な金属音が鳴り響いた。

 埃が舞い上がり、何かが屋根を突き破った。もうもうと煙が舞い上がるなか、二つの瞳とおぼしき丸い赤色の光が出現した。

 

「異常事態発生!」

 

 残っていた入場客を避難させるよう指示が飛ぶ。

 赤色の光が動き出し、煙から現れたのは、全長四メートルほどの巨躯。黒塗りの装甲には筋肉を象ったかのような灰色の曲線が描かれており、その胴体は人間一人がすっぽり収まりそうな太さだ。足先まで伸びた腕部が特徴的であり、二本の腕は胴体並みに太かった。

 警備兵は巨躯を認めるや即座に応戦行動をとった。

 銃撃を仕掛け、敵とおぼしき物体の行き足を止めようとした。

 だが、効いている様子はない。巨躯は素知らぬ足取りで展示物との距離を縮めていく。銃撃を続ける兵士に向けて腕を突き出すと、盛り上がった腕部から赤い光を投射した。腕を横に広げ、サイレント・ゼフィルスの保護ケースを手斧で破壊しようとしていた女性兵士にも向けた。

 直後、女性兵士が耳を押さえて表情を歪める。

 

「アアアアアッ!!」

 

 激しく叫びながらその場でのたうちまわった。落とした手斧が伏せるセシリアのそばに滑り転がる。

 手斧をつかみ、匍匐してブルー・ティアーズの背後に回った。

 

「ティアーズ」

 

 ブルー・ティアーズに呼びかけ、緊急接続を試みる。不安な面持ち。「早く、早く」

 胸が脈打つ。ブルー・ティアーズが応じた。何度体験しても不思議な感覚。骸がセシリアを包み込み、格納庫のなかに閃光が迸った。

 巨躯の攻撃はない。銃撃する兵士に向けて腕を突き出し、変わらず赤い光線を投射している。跳弾が兵士を襲い、赤い血が床を汚す。

 セシリアの予想に反して攻撃を向けてこなかった。それどころか動き出したISを見て、巨躯が怯んだように後ずさった。

 赤い光線を浴びた者はもれなく耳を押さえている。何らかの非殺傷兵器か。裏付けるようにブルー・ティアーズの聴覚保護機能が稼働していた。

 

(何か武器は)

 

 セシリアは視野内のリストから使える装備を探した。拡張領域(バススロット)には接近戦用ブレード(インターセプター)と無線誘導ビットを搭載している。主要装備である特殊レーザーライフル(スターライトmkⅢ)やミサイルビットは展示飛行の予定がないため最初から除外してあった。

 

(こんなに狭いところじゃビットは使えないじゃない……)

 

 インターセプター、と口にして接近戦用ブレードを呼び出す。落ちていた手斧も拾い上げた。

 兵士を無力化した巨躯はセシリアの前をすり抜け、隣のサイレント・ゼフィルスへ向かう。そばにはサイレント・ゼフィルスの搭乗資格を有すであろう女性兵士が失神している。

 セシリアは広域回線へおまじないを唱えながら、巨躯に向かって近接ショートブレード(インターセプター)を構えてにじり寄る。

 

バレー空軍基地(RAF Valley)司令部。わたくしはセシリア・オルコット。現在、未確認のISと……」

 

 セシリアは力強く言葉を放つ。「未確認のISと交戦中」

 応答はなく、耳障りな雑音だけが聞こえてくる。巨躯は展示してあったサイレント・ゼフィルスに手を伸ばしたが、保護ケースに阻まれた。

 赤い瞳が点滅し、両手の拳を構えて振りかぶった。何度もケースを殴りつけ、強引にケースを破壊してISを引きずり出した。

 三度深呼吸してからISを乱暴に抱え込もうとする巨躯を見据えた。

 セシリアに競技以外でISと戦った経験はない。お互いの顔がわかるほどの近さで戦うのは不得意だ。包丁すら未だに使いこなせないほど不器用なのだ。

 

(3、2、1……)

 

 セシリアは心の中で数を数えた。助走して手斧を投擲する。勢いを殺すことなく、巨躯に向かって急発進した。

 巨躯は顔を向けることなく投擲物を払い落とす。首を右へ左へと振ったが、先ほどまでいたはずのブルー・ティアーズの姿がない。が、セシリアは横合いから、死角から突進、巨躯を突き飛ばした。

 馬乗りになって人間でいう頸椎に当たる部分に接近戦用ブレード(インターセプター)を突き立てる。飛び散る火花。どこまで有効かわからなかったが、時間さえ稼げばアングルシー空港側の警備に当たっていたメイルシュトローム・マークⅢが駆けつけてくるはずだ。

 振りかぶった腕をつかまれ、無造作に放り投げられた。

 

「キャアアアアァァァ」

 

 慣性制御で姿勢を整えたが、巨躯が大きく跳躍した。天井の配線を引きずり出し、鞭のようにしならせてブルー・ティアーズの足首にまきつける。

 セシリアは無線誘導ビットを放出。巻き付いた配線をレーザーで焼き切った。スラスターを逆噴射して円状に飛び、配線をつかんで巨躯を引きずり倒そうとしたが、操縦に集中した隙をつかれ、接近を許した。

 

(このっ……なんて力ですかっ!!)

 

 大腿部を握りしめられ、引きちぎられそうになる。「ティアーズ!!」ビットからレーザー照射。だが、装甲が焼かれてもなお力を込めてくる。握力で装甲が陥没する。シールドバリアのエネルギー残量が激減し、人体の集中防御へ切り替わる。

 

(いけませんっ!)

 

 セシリアは脚部を引きちぎられそうになっている。とっさに除装して地面に落下する。着地時に転がって衝撃を殺した。顔を挙げたとき、ブルー・ティアーズは損傷し、脚部が破断して無残な姿に変わり果てていた。

 巨躯は壊したブルー・ティアーズを放りなげ、悠々とサイレント・ゼフィルスを抱えあげた。

 ようやく駆けつけたメイルシュトローム・マークⅢがBK-27単砲身機関砲(リヴォルバーカノン)から弾丸を放った。巨躯が体を傾け、角度をつけることで弾丸を弾き飛ばす。

 互いに一定の距離を保ち続ける。その均衡は上空からの狙撃によって崩されてしまった。一二〇ミリタングステン徹甲弾。

 サイレント・ゼフィルスが奪われ、セシリアは英国空軍の軍人に保護されたが、肝心のIS反応を失探してしまった。

 

 事後。

 サイレント・ゼフィルス強奪を表立たせたくなかった英国は、セシリアの自己判断を不問にし、彼女には別の機体をあてがい、IS学園へと送り込んだ。

 




相川さんが出てくるのはこの次。だけどいつ書けるのやら。
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